『ROCKIN' QUARTET 第7章』菅原卓郎& NAOTO QUARTET、ツアーファイナル東京公演のオフィシャルレポート到着
※以下のテキストでは演奏曲に触れていますので、配信で初めて視聴予定の方はご注意ください。
ロックバンドのボーカリストを招き、そのレパートリーをヴァイオリニスト・NAOTO率いる弦楽四重奏が再現するライブシリーズ、ROCKIN' QUARTETの第7章となるツアーが行われた。7人目のボーカリストとして白羽の矢が建てられたのは菅原卓郎。9mm Parabellum Bulletのフロントマンである。
9mm Parabellum Bulletといえば、メタルからの影響の濃い圧倒的に高速で手数が多いサウンドに、哀愁を帯びメロディアスな歌メロが合わさるという無二の音楽性を持つバンド。これまでも弦楽のイメージを根底から覆すようなアプローチで驚かせてきたROCKIN' QUARTETとはいえ、ラウドでファストな原曲の迫力や疾走感といった魅力を損なうことなくアレンジ・演奏することはさすがに困難を極めたようで、今回はリハの段階から“過去最高難易度”であることが公言されていた。これまで何度も驚かせてくれたROCKIN' QUARTETの“過去最高(最難)”とは、一体どのようなライブとなるんだろうか。その本番、横浜・大阪を経て行われた東京でのファイナル、1stステージを観に行った。
1曲目はまずカルテットの面々のみでNAOTOの楽曲「TWIN DRAGON」を演奏。ミドル~ローを図太く聴かせた音やハードロックを思わせるリフなどあらゆる要素が、弦楽に抱きがちであるお上品なイメージをいきなり粉砕する。インストナンバーではあるもののしっかり歌メロに相当するパートが存在しているのも特徴的で、サビでは少し切なげながら雄大な景色が描かれていく。2曲目のイントロが始まると2階席後方から菅原が登場。にこやかな表情を浮かべながらステージへ上がりスッと手を拡げる様子はなんとも悠然としているが、背後に目を向ければひたすらに16ビートが刻まれるストイックな演奏が続いているというコントラストがなんだか不思議だ。曲は「The Revolutionary」。場内から起こったクラップがスリリングな疾走感を一層引き立て、それを受けた菅原が朗々と歌う。世界を変えるのさ──。まさに革命的な一手から菅原のROCKIN' QUARTETは始まった。
続いては代表曲の一つ、「Black Market Blues」。跳ねたニュアンスや畳み掛けるような勢いはそのままに、ギターが弦楽に置き換わることで、この曲がどこかタンゴなどを思わせる雰囲気を持っていることに気づく。正確なピッチと、中低音から高音部までほとんど強度や響きが変わらず揺るがない菅原のボーカルは圧巻で、合いの手として変則的なクラップをばっちり決める観客たちもさすがである。手短な挨拶を挟んだ後の初期曲「Psychopolis」は、前のめりな断続的シンコペーションでぐいぐい推進していくロック色の強い曲。楽曲自体の新たな表情に気づかせてくれるのも、ストリングスのイメージとかけ離れたタイプの曲がしっくりハマる驚きも、どちらも味わえるこのシリーズの面白みは実に深い。
「3都市あっという間ですけど……テンポも速い」(NAOTO)
「だからですかね?」(菅原)
この日が最終公演となることを惜しみつつ、人同士もしっかりグルーヴしてきた様子が窺えるMCに続いては、これまたすさまじい疾走感を有する「新しい光」が来た。トリッキーなキメはばっちり揃えつつ、超高速の刻みを全員で担うカルテットの鬼気迫る演奏に、菅原の歌うメロディがさらなる輝きを付与していく。一旦ボルテージを抑え気味に、スツールに腰掛けながら歌われたのは「次の駅まで」。クールなポストロック的ニュアンスも持った曲だが、カルテットによる演奏によってもたらされるしっとりとしたグルーヴ感が合わさることでどこか新鮮な響きを獲得していた。
9mmの曲は速いし難しい、やっと慣れてきたけれど、なんだかアスリートの取り組み方になってきている。そんなぼやき混じりのトークや、第5章のボーカリスト・TOSHI-LOWとのエピソードの暴露(?)を挟んだところで、シリーズ恒例となっているカバー曲コーナーへ。今回選ばれたのは、盟友であり菅原をこのシリーズ第7章のボーカリストに推薦したのだという、第6章のボーカリスト・内澤崇仁擁するandropの「RainMan」だ。そして出だしの1フレーズを歌ったところで突然階段にスポットライトが当たり、ここで内澤本人がサプライズ登場。互いに視線を合わせながら和やかに、そして曲名とは裏腹に晴れやかなニュアンスで歌声を合わせる2人。<僕らは違うのに同じなんだよな>──相性抜群のハーモニーに誰もが酔いしれた。
ピアノが加わっての後半戦ではまず、季節的にもぴったりな「夏が続くから」を披露。ビルボードではお馴染みのオリジナルカクテルの名称にも選ばれたこの曲はヘヴィで重厚ながら、ピアノが入ることで清涼感もプラスされていた。「ここからまたカルテットが50m走を10本連続みたいな感じですけど……」と前置いてからラストスパート開始。「ハートに火をつけて」、さらに「Scarlet Shoes」と約10年前のアルバム『Dawning』収録のナンバーを連発する。ムード歌謡的なニュアンスも持つ前者も、スウィング感が特徴的な後者も、聴いた感触と比べて実際の速度がとにかく速く、実はこの日のセットリスト内でもBPM1位と2位である。ひたすら性急にスリリングに放たれる渾身のラストスパートに、場内は大盛り上がり。歌い終えた菅原も満足げに「フゥー!」と声を上げる。
悠久を感じさせるゆったりとした歌い出しからはじまった本編ラストは「カモメ」。ジャジーなピアノの音色とNAOTOが指板を淡々とタップして生み出すビートに乗せ、じっくりと歌い上げていく菅原の歌は、途中で背後のカーテンが開き現れた夕刻の空にとてもよく似合っていた。アンコールで軽やかで明るい響きとともに歌われたのは「Brand New Day」で、この日披露した中で一番新しい曲。そういえば全体的に初期から中期の曲が多かった。表現者であるからには、もっと最近の曲を増やしたくなってもおかしくないところだが、菅原の場合は観客たちの耳に長年馴染んできた曲をセレクトすることで、カルテットアレンジによる変化と不変をより楽しんでもらいたかったのだろう。それは結果的に思い切り功を奏していたように思う。
こうしてROCKIN’ QUARTET7人目のボーカリストのツアーは幕を下ろした。ただし、お楽しみはまだ終わらない。不定期に開催されるスペシャル公演や、フェスへの出演という形で歴代のボーカリストが何度も再登場し、コラボなども見せてくれるのがこのシリーズの醍醐味。盟友・内澤だけでなく、それ以前のボーカリストも親交のある菅原だけに、またROCKIN’ QUARTETのステージで彼に出会える日もそう遠くないはず。その歌声と超絶技巧アレンジに再会できる日を、そして未知なる8人目のボーカリストが選ばれる日を心待ちにしている。
文=風間大洋
撮影=AZUSA TAKADA