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個展『黎創』開催を記念して風李たゆ先生×えびも先生の初対談が実現! お互いの作風やキャラデザへの考え方や「絵描きあるある」を語り合う【対談インタビュー前編】

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

『VS AMBIVALENZ』『ParadoxLive』(VISTY)のキャラクターデザインなどで知られるイラストレーター・風李たゆ先生。風李先生の初個展『黎創』が2025年11月22日(土)~11月26日(水)の期間中、渋谷・神南にあるStudioSolaにて開催決定!

アニメイトタイムズでは、気になる個展の様子をはじめ、イラストレーターという職業について多くの方に知っていただくためのインタビューを実施。このたび『カリスマ』『HIGH CARD』のキャラクターデザインを手掛けるイラストレーター・えびも先生と風李先生の対談が実現しました!

前編では、お互いの作風に対する印象やインスピレーションの源、さらに「絵描きあるある」まで様々な話題をたっぷりお届け。第一線で活躍するイラストレーターのお二人はどのように“表現”と向き合っているのでしょうか。

【写真】個展『黎創』開催記念 イラストレーター・風李たゆ×えびも対談インタビュー【前編】

「ラブコールです(笑)」

──今回の対談にあたり、風李先生がえびも先生をご指名されたとお伺いしています。

風李たゆ先生(以下、風李):好きなイラストレーターさんの中で、自分とコンテンツの系統や活動時期が似ていて、気になる方だなとずっと思っていました。

『カリスマ』を手掛けられる少し前から、オリジナルのイラストや二次創作のファンアートを拝見させていただいていました。そのときから「すごい画力の方だな」と思っていて。その後、どんどん他のコンテンツでもお見かけするようになったのですが、SNSでの同業の方との絡みだったりこういったインタビュー等でお話しされてる機会をまだあまりお見かけしたことがなかったので、そのミステリアスさや画力の高さから、いつかお話しできたらいいなと、ずっと気になっていたんです。

なので、今回この機会に「対談できるなら、えびも先生がいい!」って指名させていただきました(笑)。

えびも先生(以下、えびも):嬉しい! 真横でこんなこと言われるとドキドキしちゃう(笑)。

風李:ラブコールです(笑)。その分、緊張しています。

──(笑)。まずはじめに、お互いの作風において魅力を感じるポイントを教えてください。

風李:えびも先生の絵は本当に、一度見たら忘れられないインパクトがあります。ずっとお伝えしたいと思っていたのは、あの奇抜なポージングを成立させられるデッサン力の凄さです。

人体の描写や衣服のシワ、縫製。先生のフェチが伝わってきますし、見たことのないポーズやファッションを見せてくださるところに注目しています。「次はどんなポーズの絵を見せてくれるんだろう」って。

風李:「こういうポーズは、どうやって思いついたんだろう?」と想像を馳せたくなるんですよね。先生の考えや日常的に好んでいらっしゃるものについて、つい考えてしまうような奥行きを感じています。

──ちなみに、えびも先生のイラストにおけるポージングは、どのように制作されているのでしょうか。

えびも:例えば、この『カリスマ』のポーズはすべて自撮りが元になっていますね。大体ポーズを描く時は、ほぼほぼ自撮りしています(笑)。

風李:わ! そうなんですか!

えびも:ジャケットを着ているキャラを描くときは似たようなジャケットを着たり、どうしても質感の似ている服がなかったら買ってきたりして、何ポーズか写真を撮影するんです。写真を参考にしながら「あ、これを絵にしたら映えそうだな」と。

実はこのことはあまり公言していなくて。言ってしまうと、絵を見た方が私がこのポーズをしているという連想をしてしまって嫌かなと思って……。

風李:そのポーズの写真をきちんと観察した上で描かれているんですね! すごい……! これ初出しの情報じゃないですか?

えびも:そうですね、あまりはっきりは明言していないような気がします。

風李:たしかにスーツの描写が、とってもリアルだなと思っていました。

えびも:あれも自撮りですね。遠隔でボタンを押せるやつでスマホをセットして撮っています。なので、私のスマホにはおかしな写真がいっぱい入っているんです(笑)。

スーツなどはシワが独特なので、実物を着て写真を撮った方が手っ取り早く絵のクオリティも上がるんですよね。そのようなことを考えると、最終的に自撮りをした方が楽なんです。

風李:あと、えびも先生は手が早そうだないう印象もあります。手がけられているコンテンツの描き下ろしも、ご自身でアップされるいわば落書き的なものも、上がってくるのが早いなと思っていて。

えびも:描きたいって思った時は、結構ダーっと描くことが多いかもしれないですね。

風李:「描きたくない」って思うこともありますか?

えびも:ないですね……。ただ、ここ数年はほぼ仕事の絵しか描いていないこともあって、自分の絵を描きたいと思えるキャパシティが足りていない感じはあります(笑)。

風李:担当されているコンテンツの中で「こういうイラストを描いてみたいな」という気持ちをアウトプットされている感じですか?

えびも:そうですね。許可されていれば、コンテンツのキャラクターを落書きしたりはしますね。特に『HIGH CARD』ではありえないぐらい自由にさせてもらっています。

風李:ポージングについてもう少し深堀りしてお伺いしたいのですが、コンテンツキャラクターのポーズはご自分で「こういうポーズをさせたらいいんじゃないか」と提案をする形なんですか?

えびも:「絶対にこのポーズにしてください」という依頼は少なくて、「こういう雰囲気で、楽しげな感じ」とか「ちょっと変わったダンスをしている感じ」とか、構図のベースをいただいてから制作に入ることが多いんです。そこから自分なりに「こんな感じでどうですか?」と提案することが多いですね。

依頼してくださる企業さんも、私がポーズを描くことが好きだと理解してくださっているので、「一旦任せてみよう」という空気を感じます(笑)。ただ、様々なご都合があると思うので、もちろんイメージと合わなければ修正をします。

風李:「このポージングはさすがに行き過ぎかも」って言われたことはありますか?

えびも:結構あるような気がします。ポーズに限定はありませんが「これはちょっとおもろすぎる」とか(笑)。でも、そうやってご指摘いただいたら直せばいいので、思いついたものはとりあえず、描いて損はないのかなと。

風李:採用されなかったイラストも見てみたいです!

──ほかに、えびも先生のイラストでお気に入りのポイントはありますか?

風李:ファッションですね。先生ご自身の造詣が深いのかなと思っていて。

えびも:ファッションに関しては、前職がアパレル店員だったこともあり、単純に服が好きなんです。あと、二次元キャラが二次元キャラっぽい服を着ているのが好きなんです!

それで言うと、ファッションに関しても「やりすぎです」って言われたことがある気がしますね(笑)。

──(笑)。

えびも:現実で流行っているトレンドをそのまま描くというよりは、ちょっとひと手間加えたくなるんですよね。これを嫌う人も多いかもしれませんが、私は結構“いらんこと”をしたくなるタイプです。面白くないよりは面白い方が好きかな。

風李:絵に表れてます!

えびも:子どものころ『ONE PIECE』にハマっていたのですが、『ONE PIECE』はキャラ造形も含めてファッションが独特じゃないですか。そんな物語に触れて育った土壌があるのか、独特な世界観が好きなんです。もちろん仕事なので、無理やり我を突き通すことはないですが、もし可能なら見せたいなと(笑)。

風李:お洋服がどう作られているかとか、今の流行などもきちんとチェックされている中で、リアルな服をベースにして、絵だからこそ誇張すべきところは誇張されているんですね。見たことのないモチーフや色使いや、独特な見せ方をされるので、見ている方も面白いです。

えびも:面白いとおっしゃっていただけて良かったです(笑)。

「大好き、ほっぺ!」

──えびも先生から見た風李先生の作風についても教えてください。

えびも:(風李先生を)知ったきっかけは『VS AMBIVALENZ(ビバレン)』の絵でした。率直に、絵が好きですね。

可愛い顔立ちに加えて塗りのパキッと感があるけど、柔らかい線のしなやかなところもある。先生の描くバランスが好きなんです。目を引くキャッチーさがありながらも、盛りすぎない。綿密に全体を濃く描き込むのではなく、洗練された情報量みたいなものを感じて、見ていて気持ちいいですね。

風李:ありがとうございます! 照れちゃいます。

えびも:空気感もいいですよね。涼しくて少しひんやりしてるんですけど、肌が温かそうな感じ。肌がふんわりしているところがとても良くて、涼しいんですけど冷たすぎない。温度が結構、一番感じるかもしれないです。

(『ビバレン』ジャケットイラストを見ながら)言語化が苦手なので難しいのですが……カラフルだけどギトギトはしていなくて、バランス感覚がいいなぁ。気持ちいいです。私は「気持ちいい」って感じる絵がめっちゃ好きですね。

風李:温度感までコメントいただいたのは初めてです。私もえびも先生の新しい絵を見るたびに「気持ちいい〜!」って思います!

えびも:あはは(笑)。

風李:服のかっこよさやポージングの面白さがバチッとハマっていて、「これが正解だ」という説得力の気持ちよさがあります。

──今のえびも先生のお話を受けて、風李先生はどのように感じましたか?

風李:温度感という観点でお話しすると、実態は「肉感」の意識なのかなと思います。特に『ビバレン』に関しては「本当に実在している彼ら」を「撮影している」というイメージで描かせていただいているので、肉感や筋肉、身体の細さや太さ……あとは10代の男の子らしい、まだほっぺが少しだけ柔らかそうな感触など。多くの方に愛されるような愛らしさもある肉感を意識しています。

えびも:大好き、ほっぺ!

風李:(笑)。

えびも:突っついちゃいけないんだけど、突っつきたくなりますよね(笑)。そんな気持ちにさせられる柔らかさがいいんです。

風李:私はえびも先生が描く足の筋肉が好きです(笑)。スーツを着ているときの筋肉が張ってパツっとなっているラインが素敵で! 

えびも:好きだから細かく描いているんですけど、わかる方には伝わるんだなって。フェチは隠そうと思っていても、どうしても出ちゃいますね。

風李:伝わってきます(笑)。

──風李先生は先ほど「本当に実在している彼ら」を「撮影している」とおっしゃっていましたが、こちらについて詳しくお聞かせください。

風李:お仕事に関して言えば、まずその子がどういう性格なのかを考えます。そして「こういう撮影をしますよ」と設定して、衣装やヘアメイクを整えて立たせた時に「この子はどういうことを感じながら動くんだろう」と想像を膨らませていて。

私がいつも「自由にしていいよ」と言うといいますか。彼ら自身がしたい顔の角度やポーズや、各々が「自分ならこう見せたい」と思う表情があると思うんですよ。自分が一番かっこいい瞬間を自由に表現してもらっている。その想像を膨らませて動いてもらい、それを切り取った“一瞬”を描いています。

──アニメーション的にキャラクターたちが頭の中でずっと動いているイメージなのですね。

風李:そうですね!アニメや映画の撮影のような意識で、CDのジャケットだったりキービジュアルなど大事な”キメ絵”では、モデルさんをしてもらっているイメージです。
モデルと言うと、衣装についてのディレクションなども普段はアートディレクターが示す方向性の元に相談して決めているんですけど、近年は結構任せていただく場面が多くなりました。
例えばこのイラストは自分が0から衣装決めをしたもので、ちょっとハイブランドの広告のような撮影を意識しました。

えびも:スタイリングされている感じがとても伝わってきます。めっちゃいい〜! かっこいい! 良い絵だ。

風李:ありがとうございます! 気に入っている絵です!

仕事の息抜きに「落書き」をするのはイラストレーターあるある

──お話の中でお二人が「落書き」という表現をされていたのが印象的でした。どのくらいのお時間で描かれているのでしょうか?

風李:どのくらいのイラストを「落書き」と言おうかなと……。結構悩みどころかもしれません。

えびも:迷いますよね……!

私の場合は落書きと言っても、服を着替えて自撮りまでしてポーズを考えてしまいます。だから自然と、数時間かけちゃうようになりました。昔はもっと思いつきでサクサクっと描いていたのですが、仕上がりが簡単なものだったとしても自撮りをした方が断然クオリティが上がることに気がついて。

どうせ描くなら良いものを描いた方がいい、私もクオリティの高いものが見たい、と思うようになってから時間をかけるようになりましたね。

風李:「どうしたら面白くなるか」というポイントを膨らませて描かれている流れといいますか。

えびも:そうですね。「今回の面白ポイント」みたいなものを、落書きの時も作りたくなってしまうようになりました(笑)。

風李:最初にポーズを撮って、“実”を最初に用意しておく。そこから手段として「どれだけ面白くできるか」を考えていかれていらっしゃるのかなと。それがきっと描く早さにも繋がっているんですね。

えびも:準備に時間はかかりますが、資料がある分、描き始めたらちゃちゃっと描いているのかもしれないですね。

──風李先生にとっての「落書き」とは、どのようなイラストでしょうか。

風李:「落書き」は「落書き」でも、私の中で「落書き」として成立するラインがあるんです。ここまで描けば自分が納得して「落書きです」と言えるなという、人に見せても良いラインといいますか。

えびも:わかります……! とてもじゃないけど見せられない落書きもたくさんあって、データがいっぱい眠っていますよ。

風李:私もです!(笑) やはり誰かにお見せするとなると納得できるクオリティにしたくなっちゃうので、普通の落書きでも1枚に2時間くらいかかることもあります。気持ち的には楽な気持ちで描いているんですけどね。

えびも:クオリティの差というよりも、気持ちの違いなのかなと思います。何の用でもないものが落書きみたいな。息抜きですね。

──どんなときに描かれるのでしょうか?

風李:私は仕事の途中ですね。

えびも:私も仕事の合間に描くのが好きです。3時間仕事したから1時間落書きしよう、みたいな(笑)。描くという意味では同じ作業をしているのですが、そこでリセットする感覚です。

仕事でも塗りの作業に疲れたらラフを描く別の仕事をすることもあります。ちょっとずつ切り替えないと続けられないタイプなんです。塗りの仕事をしている時に、合間で線の落書きをするなど、飽きがこないようにしていますね。

風李:集中力にコントラストをつけている感覚でしょうか?

えびも:そうですね。本当に同じ作業を続けるのが苦手なので……。

──逆にいうと、様々なお仕事を同時進行させるのが得意だったり?

えびも:たしかに何個かは同時にやっていることが多いですね。1枚の絵を完成させるまで、普通は「線画が終わってから色塗り」という流れで進めるイメージがあるかもしれませんが、線画の途中で色を塗ったりして、気分によって部分的に進めます。

例えば「下半身の線画は気分じゃない」という日には「上半身の顔周りだけ線画が終わっているから、先に色を塗ろう」と、仕事の絵でもそのような酷い進め方をしています(苦笑)。

風李:いやいや、自分を飽きさせないコツですよね。私は線画を描いている時間が苦しくて……なので、そのやり方はめっちゃ良いですね!

線画をずっと描くのではなく、途中で「色を付ける」という行為を挟むことで、完成に近づいている部分をちょっとずつ見ることができるし……。

えびも:全体の線はサーっと描き終わっていたとしても、アクセサリーのような細かいパーツ金属や機械っぽさのあるパーツだったりすると、めんどくさいんですよ……(笑)。嫌いなわけではないのですが、疲れている気持ちの時は描けないから「別日にしよう!」と。

風李:お話を聞いていて、えびも先生は制作の進め方も面白いなと思いました。

──風李先生はどのように制作を進められているのでしょうか?

風李:疲労や集中を考えて描くというよりは、描いている最中に「あれも描きたい」「これも描きたい」が浮かんできて、頭の中が整理できなくなって、目の前のことに集中できなくなっちゃうんです。

なので、キリのいいところまでお仕事の絵を描いて、その後、頭を整頓するために他の落書きをする、という流れですかね。思いついちゃったものを一旦アウトプットしておいて、気が済むまで落書きしたら仕事に戻ります(笑)。

えびも:めっちゃ時間がない時って、思いついたものを発散できますか?

風李:できないです!(笑) そんな時は思い浮かんだものをメモをしたり、棒人間みたいなラフだけでも描いてそっとしておきます。だけど時間を置きすぎると逆に興味が薄れてしまうこともあるんですよね。

えびも:私もそのタイプです。パッと思いついた時に描きたいものをリストにするんですけど、絵描きあるあるかもしれないですね。

風李:ですね! 時間を置きすぎると興味がなくなってしまう、とわかってきているので、ある程度描きたいと思ったものはなるべく形にすることを心がけるようになりました。

風李先生&えびも先生の創作におけるテーマとは?

──描きたいもののアイデア、インスピレーションはどこから得ているのですか?

風李:たまにふっとアイデアが降りてくる時もありますが……基本的には普段から色んなアイドルやアーティストの方のパフォーマンスやファッションを眺めたり、SNSで流れてくる時勢なども含めた様々なトピックやトレンドをチェックしていて、日頃からインスピレーションをいただいています。

えびも:私は、ここ数年は人間を見ていますね。

例えば、人と会ってご飯を食べている時などに相手が何気なく取っているポーズや、暇な時に自分がしているだらっとしたポーズを自覚して「……人ってこういうポーズするよな」と。

「頬杖を付く」という動作ひとつとっても、案外綺麗なポーズじゃないことが多いんですよ。気づいた時にメモをして、合いそうなキャラにそのポーズをさせると生きている感じが出て面白い絵になるかなと。

風李:わかります! 私は電車に乗った時に人がつり革をどう持つかを見てしまったり、足の組み方や立ち方の違いを見たりしています。あとは頭身のバランスなども見ることが多いですね。本当に様々な体格の方がいらっしゃるなと。

えびも:以前、大柄な男性と小柄な女性が並んで座っていることがあったのですが、ふと足元を見て「靴のサイズ、そんなに違う!?」と驚いたことがありました。

風李:服装から「この人はこういう背景を持っているのかな」と想像することもありますね。人間観察といいますか。

ポージングで言うと、お洋服屋さんのマネキンが取るポーズによって服のシワや質感が全然違うので「この服の素材はこういうポーズをした時に、こういうシワになるんだ」とふと納得することがあります。

えびも:(頷いて)たしかに、素材はよーく観察しますね。光沢のある素材だと光の反射で「ここが光って、ここが影になる」という発見があって。絵を描く上では、みんなが意識していないところまで見て描かないと、そのこだわりが気づかれないことがあるんです。成立しない質感といいますか。そこまで気づいていただこうとは思っていないけれど、その細かい描写があったほうが絶対に説得力がありますよね。

風李:えびも先生の絵を観察すると「この服、ここも光るんだ!」という発見があるんです!

えびも:この『HIGH CARD』のシリーズの絵はだいぶ遊びました(笑)。ベルベット生地の服を着せたり、私が作画担当をしたコミカライズ作品の原稿を、出版社に許可をいただいて服に貼り付けたり。

風李:こういう遊び心はファンの方にとってもアツいですよね! 「あのシーンのコマだ!」ってなるから。

えびも:このコミック柄にするというアイデア自体は、どこかのブランドのコレクションを見て、こういうのがあったので面白いなと思って参考にさせていただきました。

柄って一見、模様として簡単に描きがちなんですけど、実際は「何でその模様が成り立っているのか」という素材感まで表現しないと成立しないんです。

風李:コラージュに見えてしまったりもするんですよね。

えびも:だから、すごく大変なんです。やりすぎるとただ貼り付けたように見えてしまう。なので、均等に描き込むのではなく、目立たせたい部分だけしっかり描き込んで、そうじゃないところはあえて抜く。そんなバランスを意識しています。

風李:いや〜! ここの襟のパイピングを見てください! 絵にするとパイピングは一見ただのラインに見えてしまいがちですが、えびも先生の描くパイピングは影と光の部分までしっかり描かれていて立体的に見えます…本当に細かいところまで「どういう立体感なのか」を考えて再現されている労力が凄まじいです。

えびも:大変でした(笑)。テーマはなんとなく揃えつつ、衣装をバラバラにするのが好きなんですよね。

──クリエイターによって異なる「テーマ」について、お二人は創作においてどのように考えているのでしょうか?

風李:自分が創作をする上でテーマにしていることは「自分のルーツや内側から出てきたものに応える」です。近年はこれを徹底しています。

それは今、個展の絵を描いていることとも関係していて。自分の父方・母方がどのような家柄や家系だったのかについて、400年前まで遡って調べたりしました。

えびも:遡れるものなんですね……!

風李:代々お世話になっている菩提寺があって辿ることができました! 自分の元々の家に昔はどういう人たちがいたんだろうと調査をしました。

あと、私は昔から和風な絵を描くのが好きで、幼い頃から潜在的に「刀って、和服ってかっこいいな」と思っていたんです。日本人であれば、時代劇で刀や着物を見る機会が多いですし、一度はそんな感覚を持たれる方もいらっしゃるんじゃないかな。

好きなものを深めるという意味でも、アマチュアではありますが演劇を約9年ほどやっていたんです。その時も和物の舞台が好きで立つことが多かったので、自分で着物の着付けを覚えたり、舞台用の竹光や居合練習刀を購入したり、殺陣も最初は独学で覚えたりして……(笑)。

──殺陣まで!

風李:そのような経験を通して「日本人ならではの文化」に対する愛着や憧れが、自分には深くあるんだなと気づいたんです。自分が生まれた国の文化、自分の家のルーツに深く関わってみるといいますか。『自分のこれまでを振り返って絵を描く』ということを今は大きなテーマにしています。

えびも:すごい! 考えもしなかった!

風李:数年前までは自分のルーツに関係のないものを描いてみようと思うこともあって。「可愛いな」「好きだな」と感じたものを何でも描いていました。

私が絵を描き始めた2歳頃から、ずっとその感覚でイラストを続けていたのですが、最近になって「自分の中から出てくるものって何だろう?」と意識するようになったんです。

──えびも先生はいかがでしょうか?

えびも:いや〜……なんかこの後にテーマを言うのはハードルが……(笑)。

風李:いやいや!(笑)

えびも:私は「この人はこれが好きなんだろうな」と、すぐわかるような絵でしょうか。「服が好き」「人の動きを描きたい」「ここがフェチだ」という自分のストレートな好みがたくさんあるので「シンプルにわかりやすい絵を描こう」が私のテーマなんだと思います。

奥行きのある考察型の絵に憧れはありますが、自分にできるスタイルではないのかなとずっと感じています。だから自分の直感的に思う「好き」をストレートに出す。そういう絵は描いていて飽きないですし、飽きたら変えればいいと思います。

ただ、これまでずっとその「好き」を描いていても飽きないということは、やっぱりこれがやりたいことなんでしょうね。

──先ほど、足の筋肉のお話が出た時に私も肉体美を感じる絵だなと思いました。

えびも:人間に生まれたからか、人間のボディが好きなんですよね。

ほかにも身体に対するフェチは数えきれないほどあるんですよ。だからずっとフェチを描き続けていても描き終わることがないから、飽きるまで描こうって。

風李:飽きないですよね、「人間」。

えびも:飽きないですね! 「人間」。

構造が複雑ですもんね。手ひとつとっても、5本も生えていて関節もあって、握る順番は自然に小指側から力が入る……そんな細かい所作や動きの自然さを観察するのが面白いんです。逆に、あえてそれに逆らった描写を入れると違和感が生まれるから、見る人の目を引くことができるかな?って考えるのも面白くて。

風李:えびも先生は脱力が描けるのも凄いですよね……!

えびも:自然な絵を描く時と、違和感をあえて出した絵を描く時とで、描写を使い分けています。不安定さや違和感は上手く使うと「色気」や「魅力」に繋がると思います。

まだ気づいていないことがたくさんあるはずなので、今後も「人間」というテーマを深く掘り下げていきたいですね。

▼【後編】では個展についての対談をお届け!

【取材・文:笹本千尋 編集:西澤駿太郎】

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