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箱根登山電車・モニ1のルーツは「魚菜電車」だった! 小田急箱根「のりものフェスタ」で歴史や魅力を知る(神奈川県箱根町)【コラム】

鉄道チャンネル

〝天下の険(けん)の力持ち〟・モニ1。運転台は屋根が平らでボックスのように見えます。箱根登山電車の運転台はカーブ区間も左右の見通しがきくよう中央に置かれます(筆者撮影)

鉄道ファンも十人十色。鉄道に深入りするほど知りたくなるのがレア車両で、代表選手はJR東海が先ごろ2025年1月の走行終了を発表した「ドクターイエロー(正式名は『新幹線電気軌道総合試験車』、JR西日本の所有するT5編成の引退はまだ先です)」かも。そんなレア車愛好家に、人気上昇中なのが箱根登山電車の「モニ1」です。

車両記号は「ニ(荷物車)」ながら、正体は「事業用車」。線路工事などの資材を現場に運ぶのが主な役目です。そんなモニ1を知るチャンスが、小田急箱根が2024年9月29日に強羅駅周辺で開いた「おだきゅうはこね のりものフェスタ」。催しの一つに、「モニ見学ツアー」が企画されました。

本コラム前半はモニ1が荷物車を名乗る理由、後半は楽しさ満点のフェスタ会場をご報告します。

(企業としての箱根登山鉄道は2024年4月、「小田急箱根」に再編されました。本コラムは、鉄道名に一般的な「箱根登山電車」を使用します。内容の一部は「箱根登山鉄道のあゆみ」〈箱根登山鉄道・1978年刊)を参考にしました)

最急こう配80パーミル

モニ1を知るには、箱根登山電車の歴史を知る必要があります。

明治のはじめ、小田原で起きたのが「箱根への交通を便利に」の声。1888年に地元有志が「小田原馬車鉄道」を設立。東海道線国府津から今の箱根湯本付近まで、2頭立ての馬車が地元の人たちや湯治客を運びました。

開業から10年たたない1896年、会社は小田原電気鉄道に改称。4年後の1900年に国府津~湯本間で電車運転を始めます。

大正年間の1919年に、路線を強羅まで延伸。最急こう配は1000メートルで80メートル上る80パーミル。群馬、長野県境の信越線碓氷峠の66.6パーミルをしのぎます。

食材を運んだ「魚菜電車」

小田原電気鉄道の開業時、旅客輸送に活躍したのはチキ1形電車。ほぼ同時に貨物電車も導入されました。1921年に2両登場したのがユ1形。全長7.6メートルの小型車で、宮ノ下や小涌谷の旅館に食材を運びました。

このころ自然発生したのが、「魚菜電車」のネーミング。道路が未整備だった当時、鉄道は地域に欠かせない物流手段でした。

⼩⽥原電気鉄道の電動貨⾞には、2両のム1形もありました。ここで思い浮かぶのは、「なぜ貨物電⾞の記号が『ユ』や『ム』なのか?」の素朴な疑問(一般に鉄道で「ユ」といえば郵便車)。種明かしをすれば、小田原電気鉄道の「ユ」は有がい⾞(屋根のある貨⾞)の頭文字、「ム」は無がい⾞です。

2両のユ1形のうちユ2は1952年に廃車。ユ1は保線用に役目を変え、1976年まで現役でした。

以上がモニ1のプレヒストリー。今は観光輸送ほぼ一択ですが、かつての箱根登山電車は旅館の食材を運んでいたという話に、筆者は親しみを覚えました。

デビュー42年目に駆動方式を刷新

ここでモニ1を詳しくご紹介。デビューは1975年で、2025年に50周年を迎えます。全長14.66メートル、幅2.59メートル、高さ3.85メートルで、登山鉄道の旅客車とほぼ同サイズ。単行(1両)で走行できます。

車体は吹き抜けで、天井に4基のクレーンが装備されます。空車重量は32.9トン、レール、マクラギ、バラストなど最大10トンの資材を運べます。屋根上には、パンタグラフや抵抗器が載ります。

モニ1の車内。天井にはクレーンのレール。クレーンにはカバーが掛けられています(筆者撮影)

メーカーは東横車輛工業(現在の東急テクノシステムの前身)。車体は新製、台車は旅客用モハ114から転用、モーターは京浜急行電鉄のTDK553-Aと記録に残ります。

当初の駆動方式は吊り掛け式でしたが、1997年に台車、2017年に台車と電装品をそれぞれ交換。新製から42年を経過して、カルダン式に生まれ変わりました。

車体カラーはグレーでしたが、2009年にオレンジ色に塗り替え。運転時間帯は主に夜間で、通常は強羅駅構内に留置されます。

車体に描かれるキャラクターは車両にちなんで「モーニーちゃん」。箱根の山に住むイノシシで、ヘルメットをかぶっています(筆者撮影)
モニ1の運転台。半世紀前の車両とあって機器類やメーターはシンブルです(筆者撮影)

「ファンの心に届くイベントを」

鉄道の事業用車あるあるの話ですが、小田急箱根はモニ1の人気に気付きませんでした。ファンを本格的に意識したのは2022年4月。「貨物電車モニ1形・車両基地見学会」を企画したところ、募集40人は瞬速で満員御礼。2024年9月までに5回の見学会を開催し、人気は衰えません。

のりものフェスタのモニ1見学会は人数限定の先着順でしたが、募集開始間もなくいっぱいに。会場で気付いたのは、アレグラ号(3000形)の運転台乗車体験や車内放送体験との違い。多くが子連れファミリーのアレグラ号に対し、モニ1はベテランらしい鉄道ファンが列をつくりました。

モニ1と同じ強羅駅ホームでのアグレラ号体験。運転台の子どもをお母さんがバチリ(筆者撮影)
「うまく走れるかな?」。子どもたちの笑顔がこぼれるATカート乗車体験(筆者撮影)

先頭は、地元神奈川県在住の40歳代ファン。「やっばり珍しい車両だと、気になりますね。箱根登山電車は多彩な車両が現役なので、これからもファンの心に届くイベントを企画していただければと思います」

前日には「花火フェスティバル」も

ラストは、のりものフェスタを振り返り。毎秋恒例の催しで、2023年の入生田車両基地から2024年は強羅駅に会場を移しました。

主なメニューはモニ見学ツアーとアレグラ号の乗車体験に加え、動力付き軌道自転車のATカート試乗会、クイズラリー、鉄道の制服着用しての写真撮影など。

箱根登山電車以外では、同グループの箱根海賊船が1964年のフランス船「セント・フィリップ号」就航から60周年。フェスタ前日の2024年9月28日には、「箱根芦ノ湖オータム花火フェスティバル」が開催されました。

湖上に咲いた3000発の大輪。外国人乗船客も多かった「オータム花火フェスティバル」(写真:小田急箱根)

小田急箱根と、芦ノ湖・芦ノ湯地区観光連絡協議会の共催で、花火クルーズの乗船客は湖上を染める大輪に酔いしれました。

小田急箱根の新着情報では、箱根登山バスが2024年10月1日から、箱根湯本駅から宿泊施設への荷物配送サービスで利用可能施設を拡大しています。

昨今の円安や訪日旅行ブームで、箱根を訪れる外国人は増え続けます。大自然に包まれた山中を快走する箱根登山電車は、新幹線とは違う日本の鉄道の魅力を世界に発信し続けているように思えました。

記事:上里夏生

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