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多くの冤罪を生んだ「揺さぶられっ子症候群」とは何だったのか?医療・司法・報道を再検証するドキュメンタリー『揺さぶられる正義』

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多くの冤罪を生んだ「揺さぶられっ子症候群」とは何だったのか?医療・司法・報道を再検証するドキュメンタリー『揺さぶられる正義』

元弁護士で報道記者の上田大輔氏が監督した映画『揺さぶられる正義』が、9月20日(土)より全国順次公開となる。

本作は、乳児虐待の疑いで逮捕された保護者たちが無罪を勝ち取るまでの過程を記録し、報道や司法のあり方を問い直すドキュメンタリー作品。逮捕時に大きく報じられた事件の「その後」に焦点を当てることで、冤罪被害者たちの声を広く届け、社会が見落としてきた重要な視点を客観的に指摘する。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

「揺さぶられっ子症候群」とは何か

乳幼児の脳損傷を“激しい揺さぶり”によるものとする「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome/通称:SBS)」は、1970年代に米国で提唱された医学的仮説に端を発する。日本では1990年代後半から徐々に医療現場に紹介され、2000年代後半には厚生労働省の虐待対応マニュアルなどに診断基準として導入された。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

この診断基準は「硬膜下血腫」「眼底出血」「脳浮腫」の“3徴候”が揃えば、外傷がなくとも虐待の可能性が高いとするもので、2010年代には児童相談所や警察、検察の捜査判断にも影響を与えたとされている。しかし、映画『揺さぶられる正義』でSBS検証プロジェクトの共同代表で弁護士の秋田真志氏が「“なんでもSBS症候群”に陥っているのでは」と語るように、一部の医師たちの間では“とにかく揺さぶり”というバイアスが強化されていった。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

曖昧な診断基準が生んだ数々の冤罪~医学界と法曹界の再検証

そうした診断基準に基づき、乳児の容態の急変後に保護者が逮捕・起訴される事例が全国で相次いだ。ところが、裁判では「病気や事故の可能性が排除されていない」として無罪判決が続出。映画でも紹介される事例としては、写真家・赤阪友昭氏の長男(生後2ヶ月)が搬送された病院でSBSと診断、赤阪氏が傷害罪で逮捕・起訴されるも、のちに先天性疾患が判明し無罪判決が下されている。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

このような事例を受け、医学界からは「3徴候のみで虐待と断定するのは不適切」とする見解が多数寄せられ、2024年には「子ども虐待対応の手引き」から該当基準が削除。法曹界でも、弁護士や研究者によるSBS検証プロジェクトが冤罪の可能性を指摘し続けてきた。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

家族の分断と報道の責任~正義を問い直す契機として

逮捕された家族たちは長期勾留され、子どもと引き離される事態が複数発生。一部の家族は数年間にわたり分離され、精神的・社会的な損失を被った。また、TVや新聞などメディアの報道姿勢にも大きな問題があり、「さも家族の発言かのように書かれる」「逮捕時は大きく報じるのに無罪判決は十分に報じられない」という指摘がされている。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

小児科医の間で、虐待の可能性を見過ごせないと強調する者や、逆に現場で培われた知見を無視して欧米の基準をただ受け入れることを批判する者がいることは、映画タイトルにもある“正義”の行方を(其々のエゴが含まれるにしても)示すものだろう。しかし、特定の国家や政権、権力に対しては忖度や自粛を積極発動させながら、市井の人々に対しては捏造まがいの攻撃(口撃)も良しとするメディアの“報道”姿勢に大義はなく、不誠実を通り越してもはやグロテスクだ。また、無理筋な有罪を主張し続ける検察の姿も、昨今の“人質司法”が生んだ冤罪事件と重なる。

『揺さぶられる正義』© カンテレ

SBSという診断名が社会に与えた影響は、医学・法制度・報道の領域にまたがり、今なお検証が続いている。かつて私たちがSBS疑惑の報道をどう受け止めたのかを自ら顧みると同時に、この映画がSBS問題の認知を広げ、また司法やメディアに無条件で倣うのではなく”(属性や性別、国籍を問わず)隣人の声に真摯に耳を傾けること”の重要性を問い直す機会にしたい。

『揺さぶられる正義』は9月20日(土)より[東京]ポレポレ東中野、[大阪]第七藝術劇場、[京都]京都シネマ、[兵庫]元町映画館にて公開、ほか全国順次公開

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