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【インタビュー】第2回日本城郭文化特別賞:島充さん(模型作家)

城びと

【インタビュー】第2回日本城郭文化特別賞:島充さん(模型作家)

城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する「日本城郭協会大賞」。第2回日本城郭文化特別賞に選定されたのは模型作家の島充さんです。受賞に際して城びと編集部で取材したインタビューをご紹介します!

<島充(しまみつる)さん>

表彰式にて。右が島充氏。左は日本城郭協会理事の加藤理文先生

模型作家。氏が製作した城郭模型は、復元模型・破損状況模型・再建工事中模型など多岐にわたります。復元模型の制作にあたって、古写真や古絵図などの各種資料を渉猟し、それをもとにして綿密な復元考察を行っています。その研究成果物である城郭復元模型は、それまでの復元研究で見落とされてきた点や誤って復元された点が完璧に修正されたものになっています。また、模型の製作技術は全国一と高く評価され、城郭のもつ荘厳さや華麗さにおいて実物を目の当たりにしているがごとくに詳細かつ写実的に再現していて、芸術作品としての価値をも示すものです。城郭復元模型の価値を学術的かつ芸術的水準に高めた点において、高く評価されて「日本城郭文化特別賞」を受賞。

ー島さんとお城との出会いはいつ頃でしょうか。

 小学生の頃見た松本城天守です。素晴らしかった。あの感動は今でも忘れません。しかしその後、現在目にしている全国のお城が、あくまで「城跡」であって、かつては全く違う姿をしていたことを知ります。「城跡はあくまで城『跡』であって城じゃない、城そのものを見たい!」という強い想いが沸き起こりました。そこで縄張り図を見ながら、往時の姿を想像して鳥瞰図に描いたりしていました。

ー縄張り図を見ながら鳥瞰図に! そこからどのようなきっかけで城郭の模型を制作されるようになったのでしょうか?

 もともと子供の頃〝ホビー〟のジャンルの模型、つまり市販のプラモデルであったり、ペーパークラフトであったり、木製の模型であったり、そういう既製品に親しんでいました。「実際の空間に造形として存在する」という模型の魅力が私には大きかったんですね。

 そんな中で、かつてのお城の姿を伝える資料、とくに城郭古写真に心を奪われ、写真の中の空間を実際に再現して見てみたい思いに駆り立てられた時、それを実現できる可能性を感じたのが小さい頃に親しんだ模型だったんです。

私は、当時の人が見たままの城を、今、目の前で見たいんです。それをするのに一番適しているのは模型だと思います。

ー古写真を模型で再現していく際、どのように作っていかれるのでしょうか?

 古写真の画面の中にある空間を実際にもう一度3次元空間に戻していくのですが、その時、とにかく写真を観察します。瓦の列を数えるのはもちろん、部材の数を数えたり、全体の比率から寸法を割り出したり、また、当時の絵図などの情報も合わせて、それを現在の遺構の上に再構築していくんですね。


ー瓦や部材の数を古写真で数え、絵図などの情報も合わせて再構築。聞いているだけで、とても緻密で複雑な工程だと感じます。

 実際に立体に戻してみると、すんなり一つの立体に戻らないことがあるんですね。写真通りに納まっていかないことがあります。実測図が記録できていなかったり、間違っていたりすることもある。模型を作ると「分からないことがはっきりする」んです。


ーその場合、どうなさるのですか?

 そうなると製作はストップしてしまうのですが、ほかに史料を探したり、もう一度写真を見直したりします。先入観や決めつけで画面を見ていないか、とにかく自分の目を疑ってかかります。

 そうすると、はじめ写真を見ていた時には見えなかったことが見えてくる。気づいていなかったことがはっきり見えてくるということを何度も経験しました。そういう時はゾクっとした感覚があります。


「ゾクっとした」! たとえばどのお城の時にそんな感覚が?

 例えば「熊本城本丸模型(縮尺1/150)」での数寄屋丸五階櫓から長櫓にかけての軒の傾斜であったり、小広間三階櫓の二重目の屋根の納まりであったり、限られたアングルの写真しかなくても、全体像を完結させる鍵を見つけた時の興奮は今でも覚えています。

 写真が未発見だったものを見つけることもあります。これまで一枚の古写真も確認されていなかった福知山城天守を写した写真を発見、入手して模型化したことは強く記憶に残っています。

ーお城や資料の量によって異なると思いますが、だいたい一つのお城を作るのにどれくらいの時間がかかりますか?

 よく聞かれる質問ですが、実際に部材を切って組み立てて、彩色して、という時間は1/150五重天守で1日8時間取り組んで2ヶ月ほどです。しかし、その工作を始めるまでに作るものの全体像をはっきりさせておかねばなりませんので、その作業にかなりの時間を要します。構想から数年してやっと作り始めることができたり、製作を始めたあとに課題が出て止まってしまったり、図面を一から引き直したり、と思い通りに進まないことが多くありますので、本当に自分が作りたいものが完成するまでの時間というのは、「最終的にかかった時間」として終わってみなければ分かりません。

 たとえば福山城天守の復元検討模型は、2018年に構想を始めて、内骨格の組み立てを始めたのが2021年6月、その後再検討のための中断があり、完成したのは2022年6月と足掛け4年以上かかりました。もちろん、この間に他の作品も多く同時並行で進めていましたが。

ー「お城の模型はここをこういう風に見るとさらにおもしろい!」といったお勧めの見方、楽しみ方を教えていただけますか?

 一般的には模型はその作りの精巧さを見たり、俯瞰することで全体を把握できたり、かつての姿を視点を変えながら模式的に理解できたりということがあると思いますが、私の模型は完成までのアプローチも見た目の仕上げも従来のお城の模型とは異なります。作っている過程で明らかになってきたことに面白いことがたくさんあったりするのですが…。

 私の模型では、完成した模型は必ず自然光の下で人の目線で撮影した写真にしています。その写真から、今は見ることの出来ない光景を追体験してもらったり、多様なアプローチで多くの視点から鑑賞してもらって、そして実際の、現実のお城の見え方や感じ方がもし変わることがあるならば、こんなに嬉しいことはありません。

ー今後、挑戦してみたいことを教えてください。

 古写真に残されていて、現在見ることができない建物は作りたいと思っています。例えば萩城天守、米子城天守、高松城天守や大坂城の三重櫓群、福岡城の武具櫓であったり、岡山城の太鼓櫓と内下馬門、大納戸櫓や、仙台城の大手門なども取り組んでみたいですね。地元の柳川城天守も念頭には置いています。手ごわいものもあり、完成は未知数ですが。

 それと、これまで完成させたものをもう一度検証してさらに精度をはっきりさせたいもの、これは熊本城、岡山城、福山城、広島城の天守です。これらは自分が生きているうちに改めて丁寧にやって、残しておきたい仕事です。

ー城びと読者へのメッセージをお願いします。

 失われた建物は、たとえどんなに忠実に復元して建てたとしても、オリジナルは絶対に帰ってきませんよね。しかし模型という虚構の世界であれば、オリジナルが生きていた時の感触を今に再現できるかもしれない、その思いでこれまでつくってきましたが、本当に満足できたものはまだまだ作れていません。

 自分の中にあるイメージとできたものにまだ乖離がある。それはもう技術の未熟さを痛感するのですが、私に見えているものと皆さんに見えるものが少しでも一致するようにこれからも試行錯誤を繰り返していきたいと思いますので、次は何がどんな色と形で出てくるのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


ーありがとうございました!

(お話を伺って)

「虚構ではあるけれど、模型で時間を飛び越えられるんです」という言葉をインタビューのはじめのほうで伺ったとき、自分が思っている「模型」と、島さんのおっしゃる「模型」とはまったく別物のようだぞ、という予感がしましたが、本当にまったく違いました。当時のお城を現代にそのまま持ってくるべく発揮される島さんの再現の正確性へのこだわりのすごさに圧倒されつつ、往時の光景を今見たい、往時の人が感じただろう感動や驚き、誇りを今の人に伝えたいという想いに集約されるところに、緻密で鬼のような細やかさの土台に豊かなロマンを持つ方であることが伺えました。念のため書き添えますが、掲載している画像のお城はすべて模型なんですよ、信じられますか!?

日本城郭協会大賞とは

公益財団法人移行10周年を記念し、日本城郭協会が2022年に開始した城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する事業です。小和田哲男理事長を審査員長とする審査会にて「日本城郭協会大賞」を選定します。ほかにも、城郭城址の維持・整備を自主的に行うボランティア団体等を賞する「日本城郭文化振興賞」、城郭文化の普及に寄与した個人・団体を賞する「日本城郭文化特別賞」、さらに2023年から城郭管理者として特筆すべき成果を挙げた自治体等を「調査・整備・活用賞」として別枠で顕彰します。

執筆/城びと編集部 取材協力・画像提供/島充さん

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