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目で見るだけが“見える”なのか?|『見えるを支援する活動』を考える

Sports

「目で見える」ことだけが“見える”なのか?

「見えるをデザインする」ブランド『WAVE』を展開する株式会社パレンテとSports for Socialでは、インタビューや合同イベントなどを通して“見える”について考えてきました。

今回は業界大手のジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社(以下、J&J)と株式会社シード(以下、シード)の2社を加え、各社の『見えるを支援する』活動について、対談を行いました。

各社の捉える“見える”、そこから見出される「見ようとする」ことの価値とは?
(全2回の#1/#2はこちら)

登壇者紹介

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ JAPAN COMMUNITY IMPACT チェア 森村 純 氏
株式会社シード 代表取締役社長 浦壁 昌広 氏
株式会社パレンテ 代表取締役社長 吉田 忠史 氏

ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ JAPAN COMMUNITY IMPACT チェア 森村 純 氏

J&J 森村)ジョンソン・エンド・ジョンソンは135年以上の歴史があり、人々の健康を支援するための取り組みを続けています。その一環として、Global Health Equity(世界中のすべての人々の健康)を目指す社会貢献活動において4つの優先領域をグローバルで提示しています。そのうちのひとつがビジョン、いわゆる眼科領域であり、様々な活動を世界各国で行ってきました。日本においては、Japan Community Impact(以下、JCI)という社会貢献活動を統括する組織があり、私は現在チェアを務めています。当社が展開する眼科領域の事業は、使い捨てコンタクトレンズや、眼内レンズなどの眼科医療機器の輸入・販売を中心に行っています。人生100年時代と言われる今、その事業を通じて、私どものビジョンである「目の健康寿命*の延伸に寄与する」ことを目指し、あらゆる世代の「目の健康」に寄り添うパートナーして、「見える」を支援しています。

* 目の健康寿命:「自分の目が健康であると自覚している期間の平均」とジョンソン・エンド・ジョンソンが定義。2023年の同社調査では、目の健康寿命は60.8歳と、平均寿命より20年以上短い結果となった

株式会社シード 代表取締役社長 浦壁 昌広 氏

シード 浦壁)実家が義眼製作業を営んでいたシードの創業者は、大学病院で義眼について学ぶ中、「アメリカでは透明なプラスチックのようなものを目に入れて、メガネの代わりにするらしい」と話を聞き、コンタクトレンズの研究に勤しみ、家業は弟に渡して1957年に自身でコンタクトレンズメーカーとしてビジネスをスタートさせました。創業以降、専業メーカーとして67年目になります。

株式会社パレンテ 代表取締役社長 吉田 忠史 氏

パレンテ 吉田)弊社は、会社の歴史としては来年50周年を迎えますが、コンタクトの販売は約20年の歴史になります。「レンズアップル」というコンタクトの店舗・通販での販売を続けてきています。スマートフォンの普及とともにインターネット販売が伸び、弊社も通信販売に大きく舵を切って現在に至ります。

“見える”が人生を豊かにする『WAVE』の見えるへのアプローチ

ーーパレンテさんでは、『WAVE』という自社ブランドもスタートさせていますよね。

吉田)『WAVE』は、コンタクトレンズの自社ブランドという意味だけでなく、“見える”というものに関して一つのアイデンティティを持ったブランドです。
コンタクトでも眼鏡でも、視力補正をしたときに「モヤっとしていた見え方や人生が“クリアに”、“色鮮やかに”見える」ことが人生を豊かにすると思っています。「見える!嬉しい!」という感動をもっと身近にするために、『WAVE』というブランドを通してサービスやプロダクトの自社での開発を行っています。

「サングラスやアイマスクなど、コンタクトレンズや眼鏡をつけて外や家の中で過ごす人が、見るために1日を楽しめるような商品を開発しています。(吉田)」

ーー3社とも“見える”に対するアプローチを共通して行いながら、その方法は異なります。シードの浦壁さんは、『WAVE』の“見える”の考え方についてどう思われますか?

浦壁)インターネット通販業界において、値段の安さなどを基準にするのではなく、「意味や価値」のフィルターを通して提供しているという印象があります。
コンタクトレンズの通販業界でトップを走りながら、健康や安全などの意識を高く持ちプラスαの価値作りをされているのは、本当に素晴らしいなと感じます。

見るだけではなく、視力以外の“診る”や“観る”も

ーー視力以外の“見える”という言葉について、各社はどのように取り組まれていますか?コンタクトレンズ販売以外の面での活動について教えてください。

森村)私がチェアを務めるJCIは、2006年よりスポンサーをするキッザニア東京に視覚障がいのある子どもたちとそのご家族をご招待しているほか、日本障がい者サッカー連盟さんの協力を得て、そういった子どもたちにスポーツの楽しさを伝える活動を行っています。また、視覚障がいの方々が抱える困難を、健常者にサッカーを通じて体感いただくプログラムを寄贈しています。その他、事業に直結した活動としては、近視の進行抑制を目指した子どもの外遊びを推進するプロジェクトに賛同したり、視覚健康財団の「ドナーファミリーの集い」の支援、また、東北大学との協働のための研究助成なども行っています。

ーー研究はジョンソン・エンド・ジョンソンさんの大きな強みですね。シードさんはいかがでしょうか?

浦壁)「みる」という言葉には、“見る”だけでなく、“診る”ことや“観る”ことの意味もあります。シードでは、“みる”に関わる領域を事業の範囲と捉えており、近年では「スマートコンタクトレンズ」の研究開発に力を入れています。また、健常者の“見る”だけではない領域として、盲導犬の活動にも支援をしており、学生の皆さんや当社の社員にも体感してもらう体験会を行っています。盲導犬の活動については、体験会以外にもさまざまな取り組みを通して息長くご支援させてもらっており、当社の株主優待でも選択制にはなりますが寄付を選択することができ、個人株主の方にも認知をしていただけるようにしています。

ーー私のイメージしていた「目で見る」行為だけでなく、視覚障がいのある方が盲導犬を通して「見る」ことなど、コンタクト会社さんからの発信はインパクトが大きいと感じます。

株式会社シードが支援する盲導犬歩行体験の様子

ーーパレンテさんは、知的障がい者スポーツ協会(ANiSA)の支援をしています。

吉田)東京2020に向けて、弊社のプロモーションとしてもスポーツの方向性を模索しているタイミングで、ANiSAさんから声掛けしていただいたことがきっかけです。
コンタクトレンズは、スポーツを本格的にやっている子が中学生になるタイミングでつけ始めることが多く、そうしたところへのアプローチを考えていました。しかし、企業理念である「すべての人に選択する価値を」から考えると、多様な価値観との共生をどうスポーツで実現していくかを考えると、当社として知的障がい者スポーツへのご支援をすることに価値があるのではないかと考えました。

その後、千葉での大会で社員何名かとボランティアに行かせていただいた際に、実際に知的障がいのある方と触れ合うことで“見える”ものがありました。目が悪い方が多かったり、コンタクトレンズは使いにくかったりという実際の会話からの実感は、私たちが今後サービス提供をしていく上でのアイデアの種になります。

ーー「見えていなかったものが見える」ということが今回の大きなキーワードにもなってくるかと思います。こうしたインクルーシブな活動から得られるものはどのようなものがありますか?

森村)患者さんや障がいのある方と関わることでそこからの気づきを多く得られる点です。JCIの活動を通して社員もさまざまなことに気づきますが、私自身も先日、ロービジョン・フットサルでのボランティアを通じて、素晴らしい選手の方との貴重な出会いと気づきを得ることができました。

ジョンソン・エンド・ジョンソン 森村チェア ロービジョン・フットサルでのボランティアにて

ーー触れ合うことでいろいろな気づきが生まれ、さらにそれを活かした活動に繋がっているところは素晴らしいですね。

吉田)単純にこちらからGive(与える)のではなくて、多くのことをもらっていますよね。

森村)全盲の障がいのある子どもたちをキッザニア東京へご招待した際、保護者の方から、「こういうところになかなか連れて行けなかったのですごく嬉しかった」という言葉をいただきました。こちらもすごく嬉しい気持ちになりますよね。

浦壁)当社では、出前授業として年間150件ほどの小学校や中学校などの教育機関へ訪問を行い、「目の大切さ」をテーマにした出前授業を行っています。学んでいただくだけでなく、コンタクトレンズの廃材から万華鏡を作るような楽しい工作も行っています。そこに参加する社員も、本当にいい経験をさせていただいています。

株式会社シードの出前授業の様子

浦壁)最近では、小学校の低学年から眼鏡をかけている子も増えてきました。スマートフォンやタブレットなどを注視する時間が増えた影響もあるのでしょうが、若い頃の目の健康は本当に大事です。
社の出前授業も、きっかけは「子どもたちに楽しんでもらいたい」という想いですが、実際の現場にいくことで世の中の実態を掴める機会にもなっていると感じます。

“見える”を考え、進めていく

ーー見えるについて、改めてお考えを聞かせてください。

吉田)“見える”ことは、私にとっては生まれてから当たり前だったことで、見えないことを想像することはなかなかありませんでした。ですが、五感の中でもとくに人生を豊かにするとされる「視覚」は大事にしたいものですし、ARやVRなどのテクノロジーによる“見える”の進化も感じています。そうした人生を豊かにしていくために媒介するものは、スポーツかもしれないし社会貢献かもしれません。私たちの立ち位置としては、それをもっと手軽に楽しくするために、メーカーさんたちとの掛け算をしたり世の中に伝えていくことに力を入れていきたいです。

森村)ジョンソン・エンド・ジョンソンは、「Our Credo(我が信条)」を80年以上 経営の羅針盤としており、その中で謳っている4つの責任のひとつが「地域社会への責任」です。地域社会にどういう貢献ができるのか?を常に考えています。
人々の「目の健康寿命を延ばしウェルビーイングを実現する」ことを目指すためには、健常者だけを対象に考えるのではなく、視覚に障がいのある方も含めて私たちがメーカーとしてどのようなソリューションを提供できるのか、Credoカンパニーとして向き合っていく必要があります。1回きりの活動ではなく、愚直に継続的に取り組んでいこうと思います。

浦壁)見えるという観点でいくと、近視が進みすぎている方や、遠視や乱視など問題としてはさまざまなことがあります。複雑に絡み合うこともあるこうした目の問題の解決策として、眼鏡ではなくコンタクトレンズの方が適していることがあります。世の中の通信技術の発達などと合わせ、「スマートコンタクトレンズ」のようなものも実用化や更なる進化ができる可能性があります。業界として、“見える”のちょっとした不自由が自由に向けて進んでいくように、これからも取り組んでいきたいですね。

ーーありがとうございました!

業界大手の各社が集まった“見える”を考える対談。後編では一般社団法人日本障がい者サッカー連盟の北澤豪会長を加え、「スポーツにおける“見える”」をより深くお話していきます。

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