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「部屋と人。#104 品田吉輝」

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「部屋と人。#104 品田吉輝」

部屋とは、そこで暮らす人の暮らしぶりや趣味嗜好、人柄までもが現れる唯一無二の場所。似ている部屋はあっても、おそらくこの世に全く同じ部屋はひとつも存在しません。「この人ってどんな人なんだろう、どんなものが好きなんだろう」。その答えがきっと部屋にはあります。Thingsの新シリーズ『部屋と人。』では、私たちと同じ新潟に暮らす人たちの、こだわりの詰まった「自分の部屋」をご紹介します。

第4回は、パーティやクラブイベントでDJとして活躍している「SHEEENA!」こと、品田吉輝さんのお部屋です。「すごい数のレコードとCDを持っている人がいる」という紹介を受け、取材をお願いすることになりました。さっそくご自宅にお邪魔して噂の部屋を見せてもらうと、想像以上の数のレコードとCDが棚に収納されていました。どんな経緯でこの部屋を作ることになったんでしょうか。まずは気になる所有枚数から聞いてきました。

企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu

――すごい数のレコードとCDですね(笑)。どのくらいあるんですか?

「それぞれ10000枚はあったと思うので、合わせて20000枚くらいですかね。でも僕よりも沢山持っている人たちを知っているから多いという感覚はあまりないんですよ(笑)」

――普段はレコードやCDで音楽を聴くことが多いと思うんですけど、サブスクを使うこともあるんですか?

「全然使いますよ。どこでも聴けるから便利だし、知らない音楽を知るきっかけにもなりますしね。ただ、僕は自分の好きなものを形として所有していたいと思うタイプなのでCDやレコードを買っています。レコードは管理が大変で、削って音を出しているぶん二度と同じ音は流れないんですけど、持っているのといないのとでは曲に対する思い入れや愛着も違ってきますよね」

――普段はDJをしているとお聞きしましたが、はじめたきっかけは?

「19歳のとき、大学の先輩たちに影響を受けてはじめました。いま思い返してみれば、当時はただ身内が盛り上がっている場所でしかなかったですね。でも、その場の雰囲気がすごくカッコよく思えたんです。いまは長岡にいる先輩たちと協同しながら音楽の素晴らしさを伝えていけるような活動をしています」

――では部屋について教えてください。どんな経緯でここを作ることになったんでしょうか?

「子供ができたタイミングでこの家を建てようということになったんですが、同時に、DJを続けるかどうか悩んだんですよ。好きなことを続ける難しさを知っていましたし、なにより家庭の時間を大切にしていきたいと思ったんです。だからここを建てるときは、『どこかにレコードとCDを保管できるスペースが作れたらいいな』くらいの気持ちでいたんですね。そしたら妻が『せっかくなら8畳くらい使って、DJブースのある部屋を作りなよ』と言ってくれたんです」

――そのひと言があったからこそ、いまこの部屋があるんですね。作るにあたって気をつけたこととかあったりしましたか?

「この部屋の作りはほとんど妻が考えてくれたんですよ。妻はもともとフジロックとか、他の音楽イベントとかの裏方で仕事をしていた人だったので、環境を整えていくうえで必要なものや、考えなきゃいけないことに詳しかったんです。この部屋の壁は防音になっていますし、床も底が抜けないようにある程度の荷重にも耐えられるような作りになっています。妻の理解があったからこそ、今日までDJを続けることができたと思います」

――ちなみに、普段この部屋はどんなふうに使っているんですか?

「パーティやイベントに向けた準備はここで行っていますし、家族でご飯を食べるときにも使っていますよ。はじめはすぐ隣にあるリビングで朝食や夕飯をすませていたんです。でもTVがあるとみんなそっちに集中しちゃうんですよ。ある日『せっかくならこっちでご飯を食べてみよう』ということになって、試しにレコードを流してみたんです。そしたら思った以上に会話が弾んで、楽しい食事をすることができました。それ以来ここで食べるようになりましたね」

――部屋のなかにあるこだわりのものについても教えてください。

「まずはDJブースですね。これはクラブにあるものと遜色がないように高さから横幅まで特注で作ってもらいました。機材一つひとつが重かったり、レコードは振動に弱かったりもするので木自体重いものを使って作ってもらいました。このブースは可動式にもなっていて、好きなところに移動させることもできるんです。壁一面にある棚も特注したものなんです。市販の棚だと重さに耐えかねてすぐに壊れてしまうので、こっちも丈夫な作りにしてもらいました。」

――やっぱりCDやレコードを並べる順番にもこだわりがあるんですか?

「一応パンク、ハードコア、ロカビリー、HIPHOPというふうにジャンル分けしてあったり、場所によってはA~Zの順に並べてあったりもします。こうやっていろんな曲を聴いたり集めたりするようになったのは、以前勤めていた仕事先での経験が大きいですね。その頃はお客さんの要望に合わせて曲を勧めることも多かったので、メジャーなものからマイナーなものまで幅広く聴くようにしていました。そのおかげもあって、いまも食わず嫌いせずいろんな音楽に触れることができています」

――選ぶのが難しいと思うんですけど、特に思い入れのある1枚があれば教えてください。

「The Clashの『The Cost Of Living』のEPですかね。これは大好きな曲が収録された1枚であり、尊敬してやまない大貫憲章という音楽評論家の方と僕をつなげてくれた思い入れのある1枚でもあります。僕がまだ20歳くらいのとき、パンクロックにハマって、The Clashというバンドに出会いました。聴いてみたらカッコいいんですけど、なにを歌っているのかよく分からなくて(笑)。だから日本盤に付いている解説書を読んで理解を深めていたんですね。その執筆を担当されていたのが大貫さんでした。大貫さんはSEX PISTOLSやQUEEN、他にもいろんなアーティストの解説書を書かれていた方で、どれも内容が面白くて夢中になって読んでいましたね」

――大貫さんの文章に出会ったことで、それまでと違った観点から音楽に触れたわけですね。

「そうなんですよ。それで『大貫さんに会ってみたい』という気持ちが高ぶった僕は、大貫さんがDJをしている新宿のクラブイベントに通うようになりました。何度かお会いしているうちに名前を呼んでもらえるようになって、新潟でイベントを開いたときには一緒にDJをやってもらったこともありました。実は僕の『SHEEENA!』というDJネームを付けてくれたのも大貫さんなんですよ。イベント後に酔った勢いでお願いしてみたら、その日に流していたRAMONESの『SHEENA IS A PUNK ROCKER』と、SHEENA & THE ROKKETS、そして僕のあだ名だった『シナ』をかけ合わせた名前を考えてくれて。『あのバンドみたいに長いこと続けて、みんなをビックリさせるんだよ』という意味を込めて『E』をもうひとつと、『!』を付けてもらいました」

――憧れの人がまさかの名付け親に(笑)。きっと品田さんの音楽に対するピュアな気持ちが伝わったんですね。ところで、この部屋ができてからDJとしてなにか心境の変化とかはありましたか?

「モチベーションが全然違いますね。ただレコードを流すだけじゃなくて、現場と同じような設備が揃っている環境ってそうそうないと思うんですよ。実践的なものに触れることで、日常の過ごし方とかDJとしての心構えとか、前以上に音楽に向き合えていると思います。」

――コロナ禍はDJをやっている品田さんにとっても大変な時期だったと思います。この部屋があってよかったなと感じたことがもしあったら教えてください。

「コロナ禍は2年以上自粛を求められた期間だったじゃないですか。その影響で僕が知っているだけでもかなりの数の人がDJを辞めてしまいましたし、活動を再開したけどブランクが空きすぎて上手くパフォーマンスできないという人たちも沢山いました。でも僕はこの部屋のおかげで、毎日ライブ配信をしたり、SNSを通じて知り合った人たちとコミュニケーションを取ったりしながら準備を進めることができました。コロナが明けてから人前ではじめてDJをしたときは、先輩から『全然できるじゃん。やっぱあの期間にもずっと続けていたからだよ』というふうに言ってもらえたのは嬉しかったですね」

――今後この部屋をどんなふうにしていきたいですか?

「DJとしてブラッシュアップし続けられるような部屋作りをしていきたいですね。僕ね、『自分の好きなものを人に伝えられる人』って強いと思うんですよ。でもそのためには、時代に沿った生き方や考え方も持っていないと伝えることはできないと思うんです。僕はDJとしてこれからも音楽の素晴らしさを伝えていきたいので、現状維持なんてせず、常に自分を更新し続けられるような場所にしていきたいです」

僕自身、「読んだ文章が心に刺さって書き手に会いに行った」経験をしたことがありますし、ファンになって何年も情報を追いかけている人もいます。ただのいちファンであった自分が憧れの人と接点を持てたとき、震えるような緊張とともに一歩前進できたような嬉しさが胸にこみ上げてきたのをいまもよく覚えています。音楽についていえば、曲を聴いたとき、ずっと昔の風景や一緒にいた人たちの表情、会話を思い出せるような「思い入れのある音楽」がたくさんあります。そういうものを、これからも大事にしていきたいと思います。僕も品田さんのように、自身を更新し続けながら、日常的に音楽や文章などに触れられる場所を探し続けていきたいです。(byキタザワリョウ)

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