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「具体」からパリ、パリから世界へ ― 東京オペラシティ アートギャラリー「松谷武判」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

日本を代表する現代美術作家、松谷武判(1937-)。希少作品や異色の作品、未発表のスケッチブックなど、松谷の制作の裏側に迫る国内初となる過去最大規の展覧会「松谷武判 Takesada Matsutani」が、東京オペラシティ アートギャラリーではじまりました。


東京オペラシティ アートギャラリー「松谷武判 Takesada Matsutani」会場


会場は、6つの章で構成。展示室には解説パネルや作品のキャプションはありませんが、ここでは会場の経路に沿って作品を紹介していきます。

14歳の頃に結核にかかった松谷は、22歳までの8年にわたる闘病の間に日本画を学びます。最初の展示室では、1963年に戦後日本の前衛芸術を牽引した「具体美術協会」の会員になる20代前半の頃の作品が並んでいます。


第1章 形成期から「具体」へ


松谷が「具体」の会員となったのは、1963年。当時の新素材だったビニール系接着剤(ボンド)を使ったレリーフ状の作品をまとめて発表し、具体の第2世代として名を馳せます。松谷は、ボンドをとおして官能的で有機的な造形を制作していきます。

目には見えない「力」を表現として成立させることは、松谷の出発点であり、形を変えながらも生涯にわたり探究していくテーマになります。


第2章 「具体」第2世代の俊英として


(左から)《白い円》1966円 宮城県美術館蔵 / 《作品 66-2》1966年 宮城県美術館蔵


1966年にパリへ渡り、世界中の作家が集うスタンリー・ウィリアム・ヘイターの版画工房「アトリエ17」に入門。松谷はそこで、当時の現代アートの最前線だった版画の制作を開始します。

版画という平面の中でいかに「イメージ」を把握し、空間と時間をはらんだ表現にするのかを探求しながら、幾何学的であると同時に有機的なフォルム、繊細な色彩を特徴とする表現へと移行していきます。


第3章 パリ時代初期:版画とハードエッジ


第3章 パリ時代初期:版画とハードエッジ


1970年代後半になると、身近な素材として紙と鉛筆を用いた制作を開始。黒のストロークで画面を塗り込め、生命的な時間を胚胎させる表現を確立し、ボンドと鉛筆の黒を重ねた作品で新境地を拓いていきます。第4章では、これまであまり紹介されることのなかった希少作品が並んでいます。


第4章 制作行為の始源へ


会場内で目を引く幅10メートルに及ぶドローイングは、ホワイトスピリット(揮発性油)で黒鉛を流す表現が導入された1982年の作品です。

1990年代には、建築空間の中にインスタレーションを取り込んだ作品も多くなり、それと同時にパフォーマンスでも独自の個性を発揮。さらに、ボンドによる有機的な造形も改めて制作します。


(奥)《流れ-6》1982年 東京都現代美術館蔵 / (手前)《黒円》2005年 作家蔵


第5章 黒の世界


近年の松谷の制作は、これまで以上に自由で大らか、大胆にして繊細なものへと進んでいきます。ひとつの手法や表現にとらわれず、日々出会ったものや感覚に触発されながら、まるで「日記」のように制作を行う松谷。2017年にはヴェネツィア・ビエンナーレ、2019年にはパリ、ポンピドゥー・センターでの回顧展など改めて国際的な評価も高めています。


《丸い丘》2023年 作家蔵


会場の最後には、スケッチブックや製作の日誌、ドローイングが紹介されています。それぞれの時期ごとに松谷の表現に対する関心事を見ることができます。


「松谷武判 Takesada Matsutani」会場 ドローイング作品


87歳になった現在でもパリを拠点に精力的に活動を続けている松谷。展覧会開催の前日に行われた報道内覧会では、パフォーマンスも実施されました。

200点近くもの作品で松谷の作品を回顧できる展覧会。会期は、12月7日までです。


パフォーマンスを行う松谷武判


[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2024年10月2日 ]

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