リュックと添い寝ごはん、ケプラ、クジラ夜の街、ミーマイナーが渋谷で激突――インフルエンサー・選曲日和が初開催『響遊録-キョウユウロク-』レポート
響遊録-キョウユウロク-
2025.5.4(SUN)東京・Veats Shibuya
2025年5月4日(日・祝)、東京・Veats Shibuyaにて『響遊録-キョウユウロク-』が開催された。『響遊録-キョウユウロク-』は、TikTokやInstagramを中心に活動する楽曲紹介系インフルエンサー・選曲日和が「スマホ越しに出会った音楽を、ライブの空気の中で体感してほしい」という思いからスタートさせたイベント。SNSを主軸に存在感を放っている選曲日和らしく全編スマートフォンでの動画撮影が可能となっており、ライブハウスで受け取ったトキメキを、インターネットの海へと放ち、分かち合うことによって、場所を問わず遊ぶことができる企画となっている。記念すべき初開催となったこの日は、クジラ夜の街とケプラ、リュックと添い寝ごはん、オープニングアクトにミーマイナーを迎えた4組が出演した。
■ミーマイナー
美咲(Vo,Gt)が“渋谷、かかってこいや!”と発破をかけてライブをスタートした途端、ミーマイナーは加速度的にバンドとしてのタフネスを獲得しているのだと分からされた。フロントマンの役割かくあるべし、とでも言うように伸び伸びと飛翔していく美咲の歌声やドライブがかったギターリフ、晴れやかなメロディーに影を加える哀愁をはらんだコーラスワーク。開幕にセレクトされた「オンリーロンリータウン」も“選曲日和さんに見つけてもらった曲です”とドロップした「ワンルームナイト」も、強度を増したアンサンブルによって、後ろ髪を引かれながらどうにか過去と決別しようとする大きな背中を浮き彫りにしていく。
1人、また1人と合奏に加わる中で放たれた新曲「あくまで生活」は、そんなバンドの成長が伺えるナンバーだった。オクターブを往復するさすけ(Ba)と四つ打ちのビートがダンサブルな手触りを創出する一方、シンガロングを差し込んだブロックが訴えかけたのは、1人の声を増幅するための音楽ではなく、この4人がミーマイナーであること。それゆえに、真上から白い光が注いだクライマックスでポツリと歌う美咲の姿は、まばらな街灯だけが照らす夜道を想起させ、濃い孤独を香らせる。1人ぼっちを知っているから、ミーマイナーが鳴らすバンドへの憧れと喜びはまばゆい。
■クジラ夜の街
“日常のちょっとした場所に幻想は転がっているものです。皆さんの目でそれを切り取って拾い集めることで、人生は少しだけカラフルに変わっていくんじゃないかなと思います。その手助けをすることができたら光栄です”。こんな台詞も飛び出した2番手・クジラ夜の街は、1ページ目の「オロカモノ美学」からファンタジーに照射したグレーの日々を駆け抜くエネルギーを届けていった。劇画調のタッチで忘れたくとも忘れられない恋模様をしたためる「ラフマジック」、どん底から這い上がり、声高らかに生きることを宣言する「夕霊」、変わっていったバンドと変わらない主人公を対比しながら、過去に取り残されてしまった焦燥を掬い取る「ホットドッグ・プラネッタ」。生活に点在する不格好でグロテスクな感情が、クジラ夜の街の物語でシュガーコーティングされて、そっと胸の中にしまわれていく。本を開いた時、その言葉が、そのキャラクターが生き続けていくように、彼らの音楽は現実を拡張し、リアルを受容するためのおまじないとして機能しているのだ。
点滅する青と白のライティングが雲を突き抜け、夜空を泳ぐ挿絵を思わせた「夜間飛行少年」やケプラ「春が過ぎたら」のカバーを経て、最終章に添えられたのは「Saisei」。最後の最後、カチッと鳴ったプレイヤーのボタン音は、何度でもこんな夜をリピートしようという4人からのメッセ―ジであるはず。と同時に、プレイリストや楽曲紹介からこの場に至ったリスナーたちが、彼らの音楽に出会った瞬間ともオーバーラップしていた。
■ケプラ
転換中、スクリーンへと投影されたアーティストインタビューの中で、宮崎一晴(クジラ夜の街・Vo,Gt)はケプラの印象について“これまでと違った音楽にも挑戦しようとしている気がする”といった旨を語っていた。このコメントが指示するように、あるいはけんた(Gt)が22歳の誕生日を迎えたばかりだったことからも伺える通り、3番走者・ケプラは、まさしく節目の時にあると言えよう。そして、その節目とは少年から青年へ、子どもから大人への過渡期とも大きく重なっている。「記念日」や「これからのこと」など、たおやかな楽曲でキックオフしたのち、投下された「16」はそんなケプラの変化をありありと反射していた。《今の僕と別人のような気がして》《あぁそうだ僕らの秘密の場所も 今は大きなお家が建ってるらしいよ》と過去と現在を比べ、喪失したものと手に入れたものを浮上させていく一曲。青春の真っ只中からは離れつつある4人が幼少期や少年時代と会話することで生み出されるノスタルジーは、瑞々しさ以上に根を張るようなたくましさを前景化させていく。
一回り以上に大きくなったバンドの風姿を提示したからこそ、クジラ夜の街「平成」のカバーから「キセキ」を連ねたフィナーレは美しかった。平凡な毎日の愛しさを確かめ合った先で、アコースティックギターに乗せて歌われた《ずっとずっと友達でいてね》の一行。ささやかで切実な祈りが、河川敷の夕暮れを彷彿とさせるオレンジのライトに包まれて、柔らかく会場に充満していた。
■リュックと添い寝ごはん
トリを務めるリュックと添い寝ごはんは「満漢全席」から「生活」「Be My Baby」を束ねて出発進行。いずれの楽曲にも散りばめられた音楽への愛が、時に中華風なサウンドメイキングで、折にオーディエンスとのコールアンドレスポンスを通じて、次から次へと弾けていく。それは続いて送られた「サニー」も同様で、《晴れているかな 僕らの未来は明るいかな》と明日に光が差し込むことを信じながら歩を進めていく様子は、リュックと添い寝ごはんのアティチュードをそのまま体現していると言えよう。決して希望に満ちていると断言するのではなく、あくまでも平熱のまま、頬を撫でる春風や遠くから聞こえてくる鼻歌を愛でること。4人のこんな朗らかさは、松本ユウ(Vo,Gt)の歌声やフレンドリーな空気からも明らかだ。
“音楽との触れ合い方ってさまざまあるなと思っていて。音楽をやる側、聴く側、イベントを開いて音楽を作っている人がいて、全部全部音楽の下にあると思うんです。こういう輪を広げていきたいと心の底から思うイベントでした”と披露した「青春日記」で後半戦へ突入すれば、ラストは「Thank you for the Music」でフィニッシュ。4組すべて、そして選曲日和がこのイベントに託した音楽の輪の拡張を祈る特大の音楽賛歌が、ひとつのテーマソングとして高らかに鳴り響いていた。
アンコールではスペシャルコラボステージとして各バンドのボーカル3人を招き入れ、「天国街道」をプレイ。クライマックスでは出演者全員がステージで踊り明かし、これ以上ないほどの大団円を迎えた。
こうして初開催の幕を下ろした『響遊録-キョウユウロク-』。次世代と形容されてきたバンドたちが一堂に会した同企画は、次のシーンを彼らが形成していくことを確信させるだけではなく、今まさに熱狂の渦の中心に4バンドがいることの証明でもあった。『響遊録-キョウユウロク-』のチャームとは、こうしてイベントを終えた後、動画を通じて何度でもこの日に立ち返れること。1本の動画から忘れられない一夜へ。ヘッドフォンからライブハウスへ。選曲日和と『響遊録-キョウユウロク-』の行く末に注目だ。
取材・文=横堀つばさ 撮影=カワセルイ @ruirui111946