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【ボッチャ必殺技 スギムライジング】パリ・パラリンピックで期待の杉村英孝選手に聞いた競技の魅力とは…

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静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ボッチャの必殺技 スギムライジング」。先生役は静岡新聞運動部の寺田拓馬専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年5月2日放送)

(寺田)パリ・パラリンピックの開幕まで4カ月を切りました。「花の都」で初開催される障害者スポーツの祭典に向け、代表選考が最終段階を迎えています。

(山田)大会まであっという間ですね。

(寺田)2021年東京パラは静岡県勢が金メダル6個を獲得しました。日本全体で金メダルは13個だったので、県勢が半分近くを占めました。

まさに静岡はパラスポーツ王国。今回はパリ大会でも期待が掛かるボッチャの話です。特に東京パラで金メダルを獲得した杉村英孝選手の話をしたいと思います。

(山田)よろしくお願いします。

火ノ玉ジャパンの頭脳

(寺田)杉村選手は現在42歳でボッチャ歴は23年。パラリンピック出場はパリで4度目となる第一人者です。車椅子に乗って左手でボールを投げる技巧派のサウスポーです。

杉村選手は伊東市出身。先天性の脳性まひで両手足に障害があるんですね。小学生の頃は静岡医療福祉センター児童部(現静岡済生会療育センター令和)で同じような障害がある子どもたちと寝食をともにしながら、リハビリに励みました。

当時から手先が器用だったそうで、指に障害があってもミニ四駆やプラモデルをきれいに組み立てることができたそうです。手先の繊細な感覚が正確なショットにつながっているようです。

ボッチャ日本代表チームは「火ノ玉ジャパン」と呼ばれていて、戦術眼に優れた杉村選手は「火ノ玉ジャパンの頭脳」と評され、東京大会まで3大会連続で主将を務めています。

(山田)僕も本人にお話を聞いたことがあります。インタビューする前はクールな方なのかなと思ったら、すごい気さくな方でした。

(寺田)本当にジェントルマンで、格好いいですよね。

ボッチャは「地上のカーリング」

(寺田)ボッチャは重度脳性まひ者や四肢重度機能障害者向けに欧州で考案されました。赤い球と青い球を6球ずつ投げ、白いジャックボール(目標球)に近い方が点を得ます。

球を手で投げられない選手は、介助者のサポートを受けながら「ランプ」と呼ばれる滑り台みたいな投球補助具を使ったり、ボールを蹴ったりすることもできるんです。パラリンピックでは1984年大会から実施されています。

といっても、見たことがない人にはイメージしにくいですよね。ボッチャと似たスポーツって何か、山田さんは思い浮かびますか?

(山田)白い球に自分の球をいかに近づけるか。だから、カーリングとか?

(寺田)素晴らしい。正解です。ボッチャは「地上のカーリング」という別名もあるんです。

カーリングとの違いは?

では、ボッチャとカーリングは「地上」と「氷上」のほかに、どこが違うか。ポイントを3点挙げたいと思います。何か思いつきますか?

(山田)まずボッチャは的が動く。

(寺田)正解。ボッチャは的となる白いジャックボールを先攻の選手が自由に投げる。カーリングは的が固定ですが、ボッチャはコートのエリア内ならば、近くでも遠くでも、右でも左でも。自分の得意な距離や位置、相手の苦手な距離や位置を考えて、的となるジャックボールを投げるんです。

二つ目。ボッチャはジャックボール(的)から遠い選手(チーム)が次のボールを投げる。カーリングは交互に投げますが、ボッチャは的から遠い方が投げ続けます。各エンド6球投げたら終わり。

三つ目。ボッチャはマイボールを使う。カーリングは会場にあるストーンを使いますが、ボッチャは選手個々がマイボールを持っていきます。大きさと重さは決まっているんですが、多彩な技を持った杉村選手は数種類のボールを使い分けています。

アプローチ、ヒット、プッシュの基本技

(寺田)ボッチャの基本技は三つあります。まずはアプローチ。自分の球を優しく投げてジャックボール(的)に近づける。東京大会では杉村選手の投球で解説者の「ビッタビタ」って表現が反響を呼びましたよね。1ミリの精度を競うんです。

ほかにはヒット。敵のボールをジャックボールから遠ざけるため、強い球ではじき飛ばす技。

さらにプッシュ。自分のボールに向かってボールを投げ、ジャックボールに近づける技があります。

選手たちはこうした技を使い分けるため、試合で使う赤と青6つずつのボールの素材や硬さを変えているんです。素材には天然皮革、フェルト、人工皮革があって、中身も規定の範囲内で詰めたり抜いたりしています。

(山田)この場面は滑るボール、この場面はビタ止めするボールとかですね。

杉村選手に逆風?

(寺田)ところが…!パリ大会に向け杉村選手に大きな逆風が吹きました。東京大会の後、ボールの規定が変わり、公認球の使用が義務づけられたんです。

杉村選手には10年以上使い続けてきた、自分だけのオリジナルボールがあったんですが、これが使えなくなっちゃいました。

公認球にも素材の違うボールは用意されているようなんですが、自分のボールとしてなじませないと試合では使えない。握力が弱い杉村選手は「最初はボールがカッチカチで、握って投げることも難しかった」って振り返っていました。ただ、2年半掛けて「今は戦えるボールたちがそろった」と言っています。

(山田)格好いいですね。

2021年流行語大賞でトップテン入り

(寺田)杉村選手には必殺技があります。2021年の流行語大賞でトップテン入りした「スギムライジング」という言葉をご存知ですか?

ジャックボールの周囲にボールを密集させた上で、その上に投げた球を乗せてジャックボールに近づけるスゴ技なんです。

相手に先に多くの球を投げさせて自分の持ち球を残し、やわらかいボールを密集させる。そして、ボールとボールの間を狙って投げ、密集の上に乗せる。

大量得点が狙える、まさにとどめを刺す必殺技なんです。これを東京大会で決めて世界の頂点に立ってるんですね。

(山田)あの技をパリで見たい!

自分で決断、選択するスポーツ

(寺田)最後にもう一つ。ボッチャがカーリングと違うところは、周りは一切アドバイスや指示をしてはいけないこと。選手が自分で選択し、決断して試合を進めるんです。

杉村選手に「ボッチャの魅力は何ですか」と聞いたら、「自分は生活上は重度障害者で周囲のサポートを受けている。制限もあり、我慢しないといけないこともある。でもボッチャは誰の手も借りずにすべて自分で選択と決定ができる。自分を表現できる」と言うんです。

(山田)なるほど。杉村選手にとっては表現の場なんですね。

(寺田)杉村選手は「いつでも、どこでも、誰でもできるのがボッチャ。年齢も、性別も、障害の有無も、国籍も関係なく楽しめる。ボッチャをツールに、社会とのつながりができるんです」と。

東京大会後、共生社会やパラスポーツへの理解は広がっていると感じますが、またパリ大会をきっかけに機運が盛り上がってほしいですね。県内でも大会や体験会はあります。プレーヤーとして楽しんでいただけたら。

(山田)会社のレクリエーションでやっているという話も聞こえてきますよね。ボッチャなら、このスタジオの床でもできる。今度、3時のドリルメンバーでやりましょう。今日の勉強はこれでおしまい!

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