【藤沢 ショップレポ】片瀬魚店 平安丸 - 始まりは移動販売から。片瀬に灯った新しい魚の拠点
いつものように片瀬市民図書館に本を借りに行ったある日、図書館の入っている片瀬市民センターと八百屋さん「はとりや」の間に、新しいお店ができていることに気がつきました。
自転車を引き返して近づいてみると「魚」の一文字が。
海辺の街ながら、意外に魚を買う場所の少なかった片瀬地区に、個人経営のお魚屋さん「片瀬魚店(うおだな) 平安丸」がやってきました。
「片瀬魚店 平安丸」は、もともと片瀬山や片瀬海岸を巡る移動販売から始まったお店です。
店主の石川さんにお話を伺うと、ご自身も片瀬山の出身で、地域にはお年寄りが多く、買い物が大変な様子をずっと身近に感じてきたといいます。なかなか買い物に行けない人に美味しいお魚を届けたい、そんな思いから始めた移動販売を経て、2025年11月18日、ついに片瀬の地に店舗としてオープンしました。
鮮度と味の良さは「神経〆」だから
さっそく中へ入ってみると、目の前のショーケースにはお魚がずらり。刺身のサクや切り身はどれもきれいで色がよく、ひと目見ただけでその新鮮さが分かります。
見ていると今夜の献立がふっと浮かんでくるようです。種類も多く、買う予定ではなかったものにも目移りしてしまいます。
よく値札についている「神経〆」について石川さんに伺いました。
「簡単にいうと、魚の神経を取ってしまう処理の仕方です。脳の神経だけしめて心臓は動いている状態にすると、心臓がポンプ代わりになって血や悪い物質が抜けていくんです。手間はかかりますが、こうすることで鮮度も味も良くなるんですよ」
以前、こちらで購入した鯛のサクのドリップシートも全く汚れていませんでした。その理由は「神経〆」によるものだったのかと、深く納得する思いでした。
お魚は神奈川県の三崎で仕入れているそうです。今日並んでいた「オジサン」や「ブダイ」は、だからこそ食べられる神奈川県の地魚。スーパーではお目にかかれないような、珍しいお魚との出会いにも心躍ります。
ショーケースの下の段には揚げ物が並びます。一番人気は「あじごぼう天」(180円/税込)だそうです。大人気のこの揚げ物シリーズ、15時の時点で半分以上が売り切れていました。
隣のショーケースには、丸魚の三崎産のちだい(550円/税込)、島根県の宍道湖しじみ(380円/税込)、買い付けた大きな鱈から取ったという生白子(780円/税込)、皮むきされた塩かずの子(1,280円/税込)が並びます。ラインナップに年末の近さを感じます。
取材をしている間も、夕飯の買い物のお客さんがひっきりなしに出入りしていました。お会計の時に交わされる地域の会話や、お客さんへのさりげない魚の食べ方のアドバイスに、個人商店の良さがぎゅっと詰まっているようでした。
家にあったらうれしい冷凍魚も
ショーケースの隣には、漬物や魚介の瓶詰めの並ぶ冷蔵庫、かに爪コロッケや干物などの入った冷凍庫があります。産地は北から南までさまざま。「家の冷凍庫にあったらちょっとうれしいもの」が地方から取り寄せられています。
ショーケース上の黒板を見ると、平安丸オリジナルの漬け魚切り身もあるようです。氷見天然ぶりとメダイは、西京漬・粕漬・赤みそ漬の3種類から漬け方を選ぶことができます。
漬け魚は、ショーケースの向こうの冷凍庫から出していただけます。−60度で保存しているため、自宅の冷凍庫に移しても3ヶ月くらい日持ちするそうです。
冷蔵庫で1日解凍すれば、あとは焼くだけで食べられる漬け魚は、忙しい方や高齢者の方の生活にぴったり。片瀬地域に住んでいる人の生活スタイルをよく考えているなあと思いました。
店内では、犬猫用の「お魚ジャーキー」(550円/税込)も販売されていました。こちらは食品ロスを減らす取り組みとして、売れ残ったお魚を乾燥させたのが始まりだそうです。
乾燥させただけなので、人間が食べてももちろんOK。石川さんのお子さんもこのジャーキーを食べているとか。
祖父の船の名を受け継いで
最後に「平安丸」の名前の由来について伺いました。
「『平安丸』は新潟に住む祖父の船の名前です。船を引き継ぐ人がいなかったから、せめて名前だけでも引き継ごうと思ってお店の名前にしました」
“おじいちゃんっ子”だったと語る石川さん。「平安丸」の旗の隣に並ぶ振り子時計も、お祖父さんの家にあった時計を思い出して掛けたのだそうです。
来年は移動販売を再開したい、と石川さんはいいます。店舗を構えて終わりではなく、本当に不便している人にお魚を届けたいのだな、となんだか聞いていて胸が熱くなりました。
購入品
購入したものをご紹介します。たらこ(580円/税込)、島根県の宍道湖しじみ(380円/税込)、富士はんぺん(300円/税込)、あじごぼう天(180円/税込)、ねぎ串(280円/税込)。
気になっていた揚げ物は、石川さんに教えていただいた通りに、さっと焼いてしょうが醤油でいただきました。「あじごぼう天」は、ささがきされたごぼうが練り込まれていて風味たっぷり。「ねぎ串」は食べたそばからねぎが飛び出してくるほど繊維たっぷりで味も楽しさも満点でした。
お店は始まったばかりですが、移動販売の再開や店舗の奥でのお惣菜づくりなど、まだまだやりたいことがあると話す石川さんでした。
「美味しいお魚を届けたい」という思いでいっぱいの「片瀬魚店 平安丸」が、これからどんなお店になっていくのか、ますます楽しみです。
片瀬魚店 平安丸
営業時間
11:00〜18:00(水曜日は14:00〜18:00)
定休日
日曜日、祝日(詳しくは公式Instagramをご覧ください)
支払い方法
現金、PayPay
アクセス
江ノ島電鉄「江ノ島駅」より徒歩4分
〒251-0032 神奈川県藤沢市片瀬3丁目9−8 メゾン湘南片瀬 1F
駐車場:なし