画像生成AIの進化、本業の人はどうみる? 現実味を帯びる「デザイナー終了説」の真実
「AIの作る画像って、本業だと使い物にならないんだよな」なんて思っていた本職のデザイナーやイラストレーターも、顔色を変えざるを得ないほど、画像生成AIはここ数日で驚異的な進化を見せている。
要因は、OpenAIが2025年3月25日にChatGPTに加えた画像生成機能だ。
GPTに画像をアップロードし、「ジブリ風にして」「ドラゴンボール風にして」と指示すると、あっという間に、オーダー通りの画像が生成されてしまう。従来は「クオリティー低っ!」となって終わりだったところから格段に精度が増し、本職の人も驚きを隠せない。
米国と東京でデザイン会社・btraxを経営するブランドンさんは、この進化に「一部のデザイナーは本当に仕事を失うでしょうね」と話す。
本職の人には、このアップデートがどのように見えているのか。職を失う可能性が高いデザイナーとはどんな人物なのか。ブランドンさんが語った内容は、エンジニアにとっても対岸の火事ではないので必見だ。
*著作権問題を加味してか、29日現在は「このリクエストは当社のコンテンツポリシーに違反しているため、ジブリ風のイラストを生成することができませんでした」と生成の制限をかける回答がされるケースも一部観測されている。
Founder & CEO
btrax
Brandon K. Hillさん(@BrandonKHill)
北海道生まれの日米ハーフ。サンフランシスコと東京のデザイン会社btrax代表。サンフランシスコ州立大学デザイン科卒。 サンフランシスコ市長アドバイザー、経済産業省 始動プログラム公式メンター。ポッドキャストも運営
目次
「デザイナーTOP20にAI」くらいの衝撃今回のアップデートで「職を失う」未来が見え隠れAIに主体性を奪われると致命傷に
「デザイナーTOP20にAI」くらいの衝撃
――ここ数日、画像生成AIの話題一色です。エンジニアの間でも、早速試して「すごい」「面白い」とSNSでシェアされていますが、デザインを本業とする立場からすると、今回のアップデートをどうみていますか?
正直、これまでの画像生成とはレベルが段違いです。この精度があれば、活用先もかなり広くなるな、と思いました。
一番の違いは、単に「画像を生成する」レベルから「グラフィックデザインする」レベルに上がった点です。
ほんの一週間前までは、生成するのはあくまでも「素材」でした。ポスターでも、雑誌の表紙でも、YouTubeのサムネイルでも、何かしらをデザインする上で必要になる素材をAIに生成してもらう。それが一般的な使い方でした。
それが今回のアップデートで、「文字と構図」まで生成してくれるようになりました。これはかなりの進化で、いよいよ職を失うかもと脅威を感じたデザイナーはたくさんいるんじゃないかと思います。
――それほど影響範囲が大きいのですね。
例えば、商品ポスターを作るとしましょう。掲載する商品の魅力や広告主の要望を汲み取り、コンテキスト(文脈)に合ったキャッチコピーや画像、それらを美しく、読みやすくレイアウトする技術が必要になってきます。従来このフェーズは人間のデザイナーじゃないと対応できない作業でした。
ただ、今回のアップデートでChatGPTでも「素材同士を組み合わせる」ことができるようになった。もちろん、もう一段階、精度をあげる余地はありそうですが、それも「時間の問題」だと思わざるを得ないほどの進化ぶりです。
さらに感心したのが、「指示した部分だけを描き直す」ようになった点です。
実例を示しましょう。下記は昨日僕がChatGPTで生成した画像のビフォーアフターです。
元の絵(左)に対し、「スマホを見ているように修正して」と指示を出すだけで、すぐに手元や姿勢を修正してくれました。
――これも従来はできなかった?
はい。「首の角度を変えて」「口元を開いて」などと、絵の一部を修正することはなかなか難しかったんです。
部分修正を指示すると、また一から新しく画像を生成しだして、修正しなくてもよかった箇所まで変わってしまったりして。何度も修正を指示するうちに「もう自分で描いた方が早い!」となるのがオチでした(笑)
部分の仕組みを使えば、手書きスケッチをGPTにアップして「この構造に変えて」と指示できたり、3面図やパーツを分けてPhotoshopファイルにまとめることもできるので、下手に人間デザイナーに依頼するより早いし、依頼もしやすいなんてことが起きそうです。
ーーとはいえ、クリエーティブ領域は創造力やセンスも必要ですし、まだまだ「人間でないと無理」という場面は多そうですが……。
うーん、どうでしょうか。今回のアップデート具合をみると、世の中のグラフィックデザイナーが100人いたら、TOP20にAIが入り込むレベルの印象です。
ーーTOP20!?
グラフィックデザイナーは、人によって得意なスタイルや分野があるのが普通なのですが、AIは関係なしに、多種多様なバリエーションの絵を生成できますからね。コンテキストの理解もできて、どんな引き出しも持っているとなれば、かなり強い存在です。
ーーそれは脅威です。
怖いですよね。1年前くらいから、イラストを描くだけの人はそろそろ危ないかなと話していましたが、いよいよ現実味が出てきた感じがします。
もちろん、僕が話している内容は、あくまで現時点での事実に基づいた印象です。著作権などの権利関係は一旦横に置いてお話しているので、今後の規制によっては状況が変わる可能性があります。
今回のアップデートで「職を失う」未来が見え隠れ
ーーそうなると、「デザイナー終了」説は現実になるのでしょうか。
一口にデザイナーといっても業務範囲は広く、その業務内容に応じて人材をピラミッド型に分類できます。
もちろん、この階層は優劣ではなくて、それぞれの役割を示しているだけなので、誤解しないでくださいね。
デザイナー陣の職種例は一部です
最下層は素材作成を担当する職人群です。例えばイラストレーターやフォトレタッチャーなどが該当します。IT業界でいうとコーダーの役割に相当します。
その上のグラフィックデザイナーは、作った素材を組み合わせてグラフィックにする、コンポジションと呼ばれる作業を担当します。今回のアップデートで、この作業もAIで大幅に代替できるようになりました。
ここ数日、エンジニアのみなさんも積極的に生成画像をXでシェアして面白がっていますよね。4コマ漫画も多々目にしますが、AIがプロンプトや素材の文脈をちゃんと理解した上で生成している様子に驚きます。デザイナーの仕事の一つである、プレゼン資料や動画を作るときのストーリーボード、いわゆるコマ割りも作れるようになってきているということです。
これらは、ピラミッドの一番上にいるクリエーティブディレクターからの指示を受けて、人間のデザイナーが頑張って作っていたものです。
それが、AIでできるようになってきた。グラフィックデザイナーやWebデザイナーは、AIを活用することで、これまでかかっていた作業時間を10分の1程度に短縮できるのではないでしょうか。
――10分の1!? かなり業務効率化が進みますね。
決して、大げさな数字ではありません。そう考えると、アートディレクターより下の層は、もしかしたら要らなくなる未来がくるかも……ということは、普通に考えられますよね。
アートディレクターがAIに指示して、欲しい素材が手に入れられるようになれば、人間のグラフィックデザイナーにお願いするより、ずっとやりやすいと思いますしね。
ーーAI時代に突入しても、とび抜けた才能や独自性があれば強い、なんてことはないのでしょうか?
独自性があっても、今回のようにAIに学習されてしまえば、無尽蔵にその人の作風を生み出せてしまうので、厳しいでしょうね。
ただ、作品に作者の名前が載ることで価値が生まれるような人は、影響を受けにくいかもしれません。例えば、岡本太郎さんのように『このアートは岡本太郎が手がけた』というだけで作品の価値が飛躍的に高まる人です。しかし、世の中のイラストレーターの99%は名前自体に価値があるわけではありません。
ーーちなみに、「ジブリ風」の生成を面白がっている人がいる一方で、アニメーターへの冒涜だとする見方もあります。この点は、米国ではどう解釈される傾向がありますか?
サム・アルトマン自身が自分のプロフィール画像をジブリ風にしちゃっていることから分かる通り、米国人は至って無邪気です(笑)。ジブリに対する冒涜だ、なんて声もあまり聞こえてきません。
サム・アルトマンも自身のXアイコンをジブリ風の自分に変えた
これは米国のテクノロジーあるあるですが、新サービスや機能がリリースされると、それはもうみんな悪びれることなく、シンプルに楽しむんですよね。
いろいろな国の文化や宗教が混ざり合っている影響だと思いますが「法律で罰せられなければOK」みたいな感覚があって、公序良俗とか倫理に対する意識が日本と比べて低い傾向にあります。宗教によって善悪の基準が異なるので、法律や判例による明確な規制がない限り、行動を抑制する力が働きにくいんでしょうね。
YouTubeも、日本のアニメを配信するクランチロールも、リリース当初は海賊版ビデオばかりでしたし、ジョージ・ルーカスが黒澤 明の映像表現や構図に影響を受けたことも知られています。
そういえば、イーロン・マスクもXで他者のコンテンツを転載した時に、コミュニティノートで「これダメですよ」って指摘されて、削除を求められる事態がありましたね。
それと比べると、日本は倫理観が高い。米国のクリエーティブ業界には、他者の作品を参考にする“パクリ文化”が少なからず存在します。倫理的な観点から批判されることもありますが、この「やっちゃえ」精神が革新的なアイデアやサービス、イノベーションを生む原動力となっていることは否定できません。
AIに主体性を奪われると致命傷に
ーーAI活用は避けては通れないとして、人間にはどんな姿勢やスキルが必要になるとお考えですか?
エンジニアの世界と同様に、デザイン領域でもAIによって効率化が進められています。
一つ言えるのは「AIに作らされる」状況を回避するのが重要だということです。
デザイナーの間でよく言われるのは、制作するものが明確に決まっていて、イメージも固まっている状態であれば、AIを強力なツールとして活用できるということ。
一方、明確な目的意識を持たずにランダムな生成結果を楽しんで(振り回されて)いると、主体性を失い、AIに「作らされている」状態に陥ってしまいます。
クリエーターとして生き残るためには、何を制作するかを自分の頭で判断し、AIをあくまでツールとして使うことが重要です。AIに主体性を委ねてしまうと、本当に欲しいものが分からなくなり、AIの生成物を鵜呑みにする恐れがあります。
極端な例を挙げれば、手描きのスケッチなどで完成イメージを具体的に示し、「このイメージの正式版を作成してほしい」というレベルまでAIに明確な指示ができる能力が求められます。
デザイナーであれエンジニアであれ、AIに代替されやすい職種には共通点があります。それは、仕事上、人と直接会ったり、コミュニケーションを取ったりする機会が少ないという点です。
自分が働いてる時間を計算し、人と会ってる時間や話す時間の割合が極端に低い場合は注意が必要です。私の感覚だと20%以下の人は危険水域の印象です。
ーー人と接することでしか、新しいアイデアやサービスは生まれないからということでしょうか?
いえ、人と接することが少ない職種だからといって、何も生み出していないわけではないと思うんです。ただ、その「生み出し方」がAIにもできてしまうんです。
現在のAIは、人間と綿密なコミュニケーションを取り、相手の要望を深く理解し、それに基づいた提案や戦略立案を行うレベルには至っていません。結局のところ、AIはインプットされた情報に基づいて処理を行うのみであり、能動的な情報収集や交渉は人間の領域です。
そういう意味では、クライアントのビジネスニーズをデザインという形に翻訳するクリエイティブディレクターやアートディレクターの役割は、当面の間、AIに代替されることはないでしょう。
この層は、クライアントと深く関わり、その要望を的確に理解し、AIに指示を出すことで、効果的なアウトプットを生成します。AIは、あくまで彼らの指示に基づき制作作業を行う「プレーヤー」に過ぎません。ただし、AIが生成するアウトプットが、商業利用に耐えうるレベルに達しているかどうかについては、慎重な見極めが必要です。
実際、私の会社ではよく「直接的なコミュニケーションやディスカッションを必要としない業務は、将来的には不要になる」という認識が共有されています。
人と人とのコミュニケーションを通じて理解を深めたり、ユーザーニーズに、直接向き合う業務こそ、人間の強みが発揮される領域であり、それ以外の業務はAIによって代替される可能性が高いと考えているからです。
また、別の観点だと、NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアンは、「コーディングは人間の仕事ではなくなる」と発言していて、AIにコーディングさせる方法を学ぶべきだと言っているんですよね。
デザインの分野でも、AIが生成したアウトプットをそのまま使うのではなく、取捨選択や構造の修正といった「目利き」の能力が不可欠です。生成された素材の中から、クライアントの要望や課題解決に最も適したものを選び出す能力こそ、今後のデザイナーに求められる重要なスキルです。
そしてこれはエンジニアやシステム開発においても同じではないでしょうか。AIが生成したコードやシステムアーキテクチャをそのまま使うのではなく、技術的な妥当性や性能要件を満たしているかといった「目利き」の能力が不可欠です。
生成されたコードやシステムアーキテクチャの中から、顧客の要望や課題解決に最も適したものを選び出す能力こそ、今後のエンジニアに求められる重要なスキルといえるでしょう。
取材・文・編集/玉城智子(編集部)