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【静岡市美術館 のスペシャルトークショー「きこえる絵、みえてくる音楽」】 作家・いしいしんじさんが選んだ「パウル・クレーの絵の中に響いている音楽」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市美術館で7月12日に開かれた作家・いしいしんじさんの、スペシャルトークショー「きこえる絵、みえてくる音楽」を題材に。開催中の開館15周年記念展「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」の関連企画。

「麦ふみクーツェ」「ある一日」「悪声」などで知られるいしいしんじさんは、大のパウル・クレー好きという。蓄音機の愛好家という顔もある。一方、クレーも両親が音楽家で自分自身もバイオリンを弾いていた。作品に音楽的な要素を指摘する専門家の声もある。

音楽が好きな文学者が、音楽を意識した美術家について好き勝手に語る。そんなトークイベントが面白くならないわけがない。しかもいしいさん、自前の蓄音機とレコードを持ち込んだ。静岡市美術館も、いしいさんがセレクトした音楽が届きやすいように、会場の多目的室を通常の講演会とは異なる横長のレイアウトにしつらえた。

「ソニー・ロリンズに影響を受けてサックスを買った。京都でシャガール展を見て、『これだ』と絵画に目覚めた」。いしいさんがクレーを初めて見たのは、高校2年か3年の頃。「撃たれました」というから最上級の感触だったようだ。

古い蓄音機を使い、蓄音機専用のレコードで次々楽曲を聴かせる。「1879年生まれのクレーは1900年で21歳だった。この蓄音機が一番はやったのがその頃。彼は家に帰って蓄音機でいっぱい音楽を聴いていたはず。彼の体に響いたものが作品に影響を与えていただろう」

本当にそうだったかは定かではない。でも、いいじゃないか。土曜日の午後に、いしいさんがセレクトした曲をパウル・クレーの絵を思い描きながら聴く。しかも手回しの蓄音機で。こんなぜいたくな時間はない。そんなスタンスで身を委ねた。

「パウル・クレーの絵の中に響いている音楽はこういうものではないか」といういしいさんが選んだ9曲は次のとおり。

「セーム・ヴァリエ」アンドレ・セゴビア
「G線上のアリア」パブロ・カザルス
「清教徒たちの(アリア)」マリア・カラス
「ラブ・ミー・テンダー」エルビス・プレスリー
「ウェル・ユー・ニードント」セロニアス・モンク
「ボトル・イット・アップ・アンド・ゴー」トミー・マクレナン
「神様」アマリア・ロドリゲス
「マディ・ウォーターズ」ローリング・ストーンズ
「ラブ・ミー・テンダー」雪村いずみ

バッハあり、ジャズあり、ブルースあり、ロックンロールあり。一番驚いたのはポルトガルの歌謡曲「ファド」の女王、アマリア・ロドリゲスが流れたことだ。スイスで1879年に生まれ、スイスで1940年に亡くなったクレーは、1920年生まれのロドリゲスのことを知っていたとは思えないが、いしいさんは「クレーはファドがすごい好きだったと思う」と気持ちいいほどの〝強弁〟。確かに、と相づちを打ちたくなるから不思議だ。

いしいさんが選曲した「神様」は、「ここにいなくなってしまった人の歌。海の上、空に向かって歌っている」。少しビブラートがかかった歌声が、天から降ってくる。クレーの絵を総体的に語るのは難しいけれど、1910年代の色彩表現に目覚めた頃の作品に見られる「楽天性」を思い浮かべた。

(は)

<DATA>
■静岡市美術館「パウル・クレー展 創造をめぐる星座」
住所:静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階 
開館:午前10時~午後7時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料金(当日):一般1600円、大学・高校生と70歳以上1100円、中学生以下無料
会期:8月3日(日)まで

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