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野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その7①」

まるごと青森

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その7①」

2024年12月9日(月曜)――①青森で朝ラーを

今回は真冬の下北半島を巡る。寒さ厳しい土地柄ではあるけれど、そこには昔から多くの人々が住み暮らしている。人の営みがあるのならば、しあわせな風景も必ずみつかるはずだ。

その前に青森市内でやることがある。東京を発つ日が近づいていたころ青森ネイティブのMさんから声がかかった。

「せっかく冬の青森に来るのなら、朝ラー(朝ラーメン)を体験してください」

「朝ラーですか? 静岡県の藤枝市や福島県の喜多方市の朝ラーは有名ですが、青森でも?」

私はかつて藤枝市で朝ラーに挑戦したことがある。お茶の栽培が盛んな藤枝界隈では茶葉の取引が早朝に行われるため、仕事が終わった後の朝食代わりにラーメンを食べるようになったのだと現地で聞いた。

訪れたのは朝ラー発祥の店で、午前7時過ぎに行ってみると長蛇の列ができていた。しかもこの店の場合、温冷両方のラーメンを1度に食べるというのが定番になっていて、私もそれに倣ったのだが、朝からラーメン2杯は無理だった。温は完食したものの、冷は箸を少しつけただけで撃退された。

「朝からラーメンはきついですね。食べきれないと思います」

「いやいや、野瀬さんに打ってつけの店がありますから、安心して行ってください」

そんなやり取りがあって、私は新町にあるラーメン店「くどう」の客となった。

8時半過ぎの店内には4、5人の先客があった。スーツ姿のサラリーマン、若い男性、ひとりラーメンをすする女性の姿も見えた。

券売機の上に説明書きがある。

「特大 麺玉2個 ボリュームたっぷり」
「大  普通のサイズ おすすめ」
「中  麺玉1個 ちょっぴり少な目」
「小  ミニサイズ お子さま向き」

そうか、「お子さま向き」があるから、この店を紹介してくれたのか。食券を買って店の人に手渡すと、ほどなく丼が運ばれてきた。正確には小丼。手のひらで包めるほどの大きさだ。焼き干しで出しを取った醤油味のスープは淡い褐色で、飲めばあっさりしているのに奥深い。朝の胃袋にも優しい。

ラーメンを食べ終えて店主の工藤公(こう)さんに話を聞いた。

「いつごろから朝ラーを出しているんですか?」

「ここに引っ越して来る前の店は市場のそばにあったので、先代が市場に買い出しに来た人や、運送関係の人を相手に朝からラーメンを提供していました。ですから朝ラーは相当前からですね。今の店でも市場関係者や出勤前のサラリーマンが来ますが、最近は観光客も多いですよ」

ネットで「青森市 朝ラー」を検索すると10軒ほどの店がヒットする。私は知らなかったが、ラーメンファンの間で青森の朝ラーは半ば常識なのだろうか。市内のホテルに素泊まりして、朝食はラーメン。そんな観光客が増えているらしい。

工藤さんからいただいたパンフレットで「あおもりラーメン協会」の存在を知った。発足は2005年。2024年7月時点で正会員20店、賛助会員16社、個人会員7人で、青森のラーメンの普及と地域貢献を目標に掲げて活動している。事務局は工藤さんが引き受けている。

パンフの「ごあいさつ」を要約すると、青森のラーメンは進化を続け「朝ラー」習慣が生まれるほどになった。全国放送のテレビで何度か紹介されたこともあって海外からの注目度も上がり、観光客の来訪も格段に増えた。

つまり県外の観光客だけでなく、インバウンド(訪日外国人)の注目も集めているという。

このシリーズで何度も触れたが、津軽地方は分厚い麺文化に覆われている。このところ全国区になってきた煮干しラーメンの本拠地であり、やきそばの密集地でもある。スーパーのカップ麺売り場の巨大さにも、そのことが表れている。

新横浜ラーメン博物館が認定しているご当地ラーメンは市や町単位だが、津軽では市町村の境界を軽々と越えて共通の麺文化が広がっている。その重厚さには目を見張るものがある。

津軽の麺文化。もう一段の観光資源に成長する可能性を秘めている。

野瀬泰申(のせ・やすのぶ)
<略歴>
1951年、福岡県生まれ。食文化研究家。元日本経済新聞特任編集委員。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。

あわせて読みたい記事
野瀬泰申の「青森しあわせ紀行」シリーズ(①〜⑤)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その2」シリーズ(①〜③)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その3」シリーズ(①〜③)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その4」シリーズ(①〜④)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その5」シリーズ(①〜②)

野瀬泰申の「青森しあわせ紀行 その6」シリーズ(①〜④)

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