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これからの美食都市 vol.5 金沢市 25年4月号

料理王国

これからの美食都市 vol.5 金沢市 25年4月号

今、「その土地に根付いた食」「その土地でしか体験できない食」への関心が高まっている。この連載では料理人、生産者、自治体などが連携し、新しい「地域の食」が生まれる現場をローカルツーリズムに通じた柏原光太郎氏がレポート。訪れるのは、美食都市アワード受賞都市。今回は金沢市を訪ねた。

金沢市は前田家の加賀藩の中心地として栄え、「加賀百万石」として知られたことは御存知の通り。経済的にも文化的にも北陸の重要拠点で、伝統工芸や芸術が盛んな地域である。特に加賀友禅、金沢箔、九谷焼、金沢漆器などの伝統工芸品と加賀料理が発達した。

この連載は2024年度「美食都市アワード」受賞の5都市をまわりながら、その都市がなぜ美食都市として評価されたのかを解くものだが、金沢は既に美食都市として屹立している。だがこの10数年で、金沢に新たな風が吹いていることも事実なのである。

現在、金沢にある日本料理店の中で一番評判なのはどこかと聞けば、多くのフーディーは「片折」と答えるだろう。

浅野川沿いの天神橋のたもとに片折が開店したのは、18年5月。開業1年経たない間に噂になり、21年に発表された『ミシュランガイド北陸21 特別版』では二ツ星を獲得、今や金沢の予約困難店の筆頭に位置する。

片折
北陸素材を研ぎ澄まし、国内外の食通を魅了
2018年に片折卓矢さんが開業した「片折」。地元素材に向き合い、片折さんが「何気ない」と呼ぶ菜っ葉やアジに丁寧な伝統仕事を施したり、脂の乗るブリなど力のある素材は徹底してシンプルかつ魅力が最大に伝わるポイントに着地させるなど、研ぎ澄まされた料理で知られる。素材同様、内装も地元の数寄屋職人に依頼し、妥協なく作り上げた。今回は「ドンボイワシ」と菜の花の辛し和え、「金沢おでんを少し意識」と笑う、お稲荷さんの料理を紹介。後者は軽く炊いた油揚げに豆腐、香茸、餅を包む。それぞれ撮影時の2月、節分と初午にちなむ品。歳事の表現も片折さんの大切なテーマ。

石川県金沢市並木町3-36 Tel 076-255-1446

店主の片折卓矢さんと女将の裕美さんはともに金沢の料亭「懐石つる幸」出身。その後「玉泉邸」料理長を経て、独立を果たした。

片折さんは、毎日数時間かけて能登や氷見を回り、魚、野菜、水などを調達する。食材の持つ旨みを引き出すことに徹した料理は「究極の地産地消」といわれるほどだ。

「アジやカイワリといった、地元で獲れるなにげない魚をどう美味しくするかに心を砕いています。昔のレシピを現代に解釈しなおすことで、コースに緩急ができ、お客様にほっとしていただきたいと思っています。私が出来ることは、いい食材を美味しいと言っていただけるように料理することだけです」

この日にいただいた料理の一つは、ドンボイワシと菜の花の辛し和え。ウルメイワシと呼ばれることが多い魚だが、浜で揚がったものをすぐに血抜きし、三枚に卸したものに粗塩をあたって、酢でしめることで、イワシくささをみじんも感じさせない旨さとなった。揚がってすぐに手当し、その日のうちに調理されたからこそ出せる味なのだろう。よく片折さんの料理を食べた人々が「透明感のある料理」と評する理由が私もよくわかった。

しかし、片折さんが最初から現在のスタイルだったわけではない。

「開業当時は修業店のように日本中からうまい食材をひいて、その季節の一番美味しいと思える料理を作っていたのです。特にカニの季節は金沢でも一番いいものをカニ尽くしコースでお出しすることがもてなしだと思っていました。ところが材料がどんどん高くなり、コースの値段も上がってしまい、どうしたものか悩んでいた。開業して1年ほどのころです。そんな時に女将から『地元にはもっといいものがあるんじゃないの』と言われたんです。それで自分が間違った方向に行こうとしていることに気づき、地元の食材を一番いい状態でお客様に召し上がっていただく、地産地消の料理に変えたんです。私にとってカニは一番愛着のある食材ですが、思い切ってカニ尽くしコースもやめました」

この決意で片折の料理にはさらに磨きがかかり、金沢でも随一の人気料理店になったのだが、片折さんのようにもう一度原点に戻ることで、新しいムーブメントを起こしている食関係者が金沢にはいま、数多くいる。そして、彼らがいまの金沢の美食都市を形作っていると私は思っている。

加賀れんこんの原点に立ち返った味

その一人に加賀れんこんの生産者である川端崇文さんがいる。加賀れんこんは「加賀野菜」の一種。加賀野菜は、長い歴史と独自の栽培方法を持つ在来品種で、通常よりも太く、甘みが強い加賀太きゅうりや、紫色の葉で独特の風味がある金時草などが有名。全部で15品種。なかでも加賀れんこんは肉厚で粘り気のある食感が特徴である。

蓮だより
料理人も支持する力強い風味
金沢平野北部の河北潟で、2006年にレンコンの栽培を始めた「蓮だより」の川端崇文さん。干拓地の肥沃な土壌を生かしつつ環境を整え、農薬を使わず植物の力を引き出す方法でレンコンを作る。収穫は水に浸かっての重労働。川端さんのレンコンは肉厚でもっちりとした食感と粘りが強く、加賀れんこん特有の「糸引き」も立派。もちろん風味もひときわ濃厚と評判だ。味に遜色ないものの傷で評価が下がるレンコンはチップスやカレーなどに加工。無駄なくレンコンの力を生かす。

石川県金沢市才田町乙214
https://hasudayori.jp

川端さんは金沢生まれ。兼業農家の家に生まれ、サラリーマンとして働いていたが、行き詰まりを感じ、子どもの頃からなじみのある農家になろうとひらめいた。レンコン農家に教えを請い、29歳で専業のレンコン農家として独立。当初はJA生産組合に属していたが、既存のやりかたに疑問を持ち、自分の信じた方法を貫きたいと思って退会した。

「川端レンコン」を名乗って販路を開拓しなくてはならなかった時にフリーアナウンサーの宮川俊二さんに出会ったのが転機となった。彼のレンコンの旨さにうなった宮川さんは、常連のレストランのリストを彼に提供。そこに片っ端からレンコンを送りつけたところ、8割ほどが採用してくれたことで、川端れんこんは有名になったのだ。

いま川端さんのレンコンを使っているのは、レフェルヴェソンスやカンテサンス、ナベノ-イズム、スリオラ、ながほりなど、日本中の一流店ばかり。昨年はJALの国際線のファーストクラス機内食で使われたほどである。

「変わったことをしているわけではないのですが、アル・ケッチァーノの奥田シェフに『お前がレンコンの気持ちになればいい』といわれて納得しました。レンコン自身がこやしを食べたいときに食べられるよう、今はこやしを少しずつゆっくりやるなど、土作りに力を入れています。ある時先輩で高齢のレンコン農家の方に『おまえのれんこんは小さい時に食べたなつかしい味』といわれたのは、すごくうれしかったですね」

彼のレンコンもやはり、加賀れんこんの原点に立ち返った味だったのである。

今回の取材中に奥様に川端れんこんを使ったすりながしの味噌汁とお焼きを作っていただいたが、たしかに粘りが強く、れんこんの味がしっかり感じられる。キズなどでそのまま出荷が難しいれんこんを使ったチップスもとても美味しい。

祖父母の代からやっていた農園を引継ぎ、金沢ゆずや加賀野菜のヘタ紫なす、白ネギを作っているのは、きよし農園の多田礼奈さんだ。もともと飲食店に勤務していたが、祖父が病気になったときに請われて、16年、23歳で後を継いだ。

同時に農業大学校にも入学。基礎から学び直し、いまは祖父の時代から数えると栽培面積が白ネギは4.5倍、ナスは3倍に増えた。

きよし農園
Siii シー
祖父からの畑を発展、農の可能性を広げる
多田礼奈さんが20代で祖父から畑を継いで約9年。ヘタ紫なす、金沢ゆず、白ネギで多くのファンを惹きつける。「天候や野菜の様子に応じ、肥料のやり方などを丁寧に調整。張りと香りがあり、甘みや酸味のバランスよく、食べてホッとする野菜を目指しています」。野菜、地元食材のお弁当、自家製金沢ゆず製品などを売る「Siii」を22年に開業。活動の幅を広げる。

きよし農園
石川県金沢市東荒屋町イ125
https://kiyoshinouen.jp
Siii シー
石川県金沢市東荒屋町ヌ63-2 
Tel 076-209-2763 
10:00〜16:00 日月休 
https://siii-seasonalfood.com

「おいしいといってもらえるよう、当たり前のことをしています。今は味むらがでないように土作りを工夫する毎日です」と多田さんは謙遜するが、彼女の野菜は富山「レヴォ」、大阪「スガラボ」、金沢「銭屋」「片折」など錚々たる店に支持されている。22年5月には自身や周辺の野菜、加工品を販売する惣菜店「Siii」を開店した。

「店名はケイ素の元素記号から取りました。ケイ素は微量でも、あると植物の生育が格段によくなる。この店も小さいけれど、あることで周囲の人たちの生活が豊かになるような存在になりたいと思います」

金沢に今吹いている風を使って新しいもの作りをしたいと思っているのは生産者だけではない。「secca」は金沢美術工芸大学を出た上町達也さんと柳井友一さんが13年に作った、クリエイター集団の会社である。

「卒業後はメーカーで工業デザイナーとして働きましたが、時代とともに変化するプロダクトではなく、世代を超えて受け継がれるものを生み出したいという思いが強まり、岐阜の多治見で2年間陶芸修業をしました。でも焼物以外にも興味が湧いて、金沢市の運営による伝統工芸を学べる施設『金沢卯辰山工芸工房』で3年間研究、大学の先輩だった上町と一緒にseccaの設立に合流したのです」と語るのは、器製作を担当する柳井友一さん。大量生産・大量消費しないものづくりをしたいというふたりの思いが、飲食店向けの器づくりに結実した。

secca セッカ
伝統を未来に繋ぐクリエイティブ集団
伝統工芸と3DCADの技術をかけ合わせ、スピード感ある製作、大胆な造形の陶器、漆器などを展開するsecca。柳井友一さんが、金沢美術工芸大学で一年違いの上町達也さんと創業したのは2013年。他県出身の二人は進学を機に住んだこの地の伝統工芸の蓄積と、今も醸成する気風に惹かれ、企業で工業デザイナーとして働いた後戻った。金沢駅近くの社屋では製作を行い、ショールームも。「料理人とのセッションは飛躍の源泉。大事にしています」と柳井さんは話す。

石川県金沢市昭和町12-6 
Tel 076-223-1601
https://secca.co.jp

柳井さんが飲食店から受注するのは、たとえばカウンター7席の店で使う皿。多くても10枚ほどの注文だが、従来の方法では対応が難しかった。しかし柳井さんは3Dプリンターやコンピュータを駆使してデザインをすることで、それを実現した。

「陶芸で手で作る面白さは知りましたが、デジタルを使ったデザインのスピード、再現性は工業デザインの経験からわかっていた。料理人と何度もやりとりし、デザインを変えながら満足いただけるものに結実させるにはデジタル技術を使うのが一番でした」

seccaのデザインで有名な器はいくつもあるが、例えば古典的な脚付き折敷をテーブルでも使えるように再構築したものを見ると、彼らの哲学が垣間見られる。

一方「ARAS」シリーズは、一般向けに開発されたものだが、その高い耐久性とデザイン性が評価され、レストランなどの業務用にも採用されている。このシリーズは、万が一割れた場合でも原料に戻せば100%リサイクル可能な樹脂を使用しながら、高級感のある仕上がりを実現している。今やこのシリーズは国内だけでなく、フランスのアラン・デュカスの店でも使われている。

民間と行政がタッグを組んで支援

金沢には、こうした若手の活発な動きを後押しする重鎮たちがいることも心強い。そのひとりに「日本料理 銭屋」の主人、髙木慎一朗さんがいる。1970年に父親が創業した店だが、大学時代に父が急逝したことで継ぐことを決意し「京都吉兆」で修業。2008年のニューヨーク日本総領事公邸での晩餐会をはじめ世界各地から招聘され、現在は日本料理を世界に普及させるべく飛び回るだけでなく、食育にも携わる。その一方で若手料理人の育成にも力を注いでいる。

代表的な例が「金沢未来のまち創造館」の食藝研究所。小学校跡地を活用した「金沢未来のまち創造館」を舞台にしたプロジェクトで、先述のseccaのアドバイザー、創業メンバーの宮田人司さんが代表理事の一般社団法人CLL(CULTIVATE LIBERTY LEAGUE)が運営し、髙木さんや上町さんも理事としてかかわっている。本格的な料理やデザート、ドリンクの調理機器、スペインから輸入したチャコールオーブンや減圧加熱調理機、遠心分離機などあらゆるジャンルのプロ仕様の調理機器が揃った本格的キッチンラボだ。

金沢食藝研究所
食の起業・事業を後押しする市の施設
犀川の西側エリアにある「金沢未来のまち創造館」は、小学校の校舎を改修し2021年にオープンした市の価値創造拠点。4階の調理室には広々とした調理スペースや最新式の厨房機器を装備。ここでは料亭「日本料理 銭屋」の主人の高木慎一朗さんが代表である「金沢食藝研究所」が活動している。料理人や一般向けの講習や、金沢市主催の「全日本高校生WASHOKUグランプリ」の会場としても活用されている。

石川県金沢市野町3-11-1 金沢未来のまち創造館4F
Tel 076-280-3115
(金沢未来のまち創造館)

「私のこれまで培ってきたネットワークを生かし、世界に通用する人材を金沢から育てたいという思いで21年にスタートしました。世界の一流シェフを招いた講習会をしたり、開業前の準備ができるようになっています」

ここを使ったキーイベントが「全日本高校生WASHOKUグランプリ」。次代を担う料理人を発掘・育成するため、高校生が情熱で創り出す新しい和食で競い合う全国大会を19年から金沢で開催しており、髙木さんが審査員長を務める。
「料理人にも甲子園のような存在が必要だと思って金沢市と協議。金沢に限らず全国から集まった高校生たちが腕を競っています。世界の食を知るために、優勝チームはニューヨーク研修に行きます」

髙木さんがこう話すように、このイベントは金沢市の主催。さらに、飲食ブースやワークショップが楽しめる「金沢食文化フェスタ」のほか、最近では老舗料亭体験や酒蔵見学などを通じ金沢の多彩な食文化を学べる「金沢食文化セミナー」など、多数のイベントを積極的に打ち出している。いわば行政と民間がタッグを組んで、美食を振興しているのだ。金沢市産業政策課長の髙尾昇平氏はこう語る。

「13年に『金沢食文化条例』が定められ、それをきっかけにして市は、市民への食文化の啓発、次世代料理人の育成、国内外へのアピール、料理技術の保存・継承などに、より積極的に取り組んでいます。金沢には古くから歴史的な食文化が根付いていますが、新しい価値をそれに融合させ、これからの金沢の食文化を作り上げたいと思っています」

金沢人は保守的と見えて、新しもの好き

さらに金沢市では、これまで保守的と思われてきた伝統的食文化の担い手たち自身も、美食を広めようと積極的に動いている。

料亭「つば甚」は、前田家のお抱え鍔師だった鍔家三代目が1752年に始めた金沢で一番古い料亭。結納やお食い初めなどの慶事は「つば甚じゃなくては」といわれるほどの格式を誇るが、現在の17代目女将・鍔裕加里さんと料理長・川村浩司さんのコンビは時代に沿う新しい作法も加えている。

女将の鍔 裕加里さん

料理長の川村浩司さん

つば甚
若い力が盛り立て、料亭が生き続ける
つば甚は1752年創業の金沢で最も古い料亭。藩主や重臣、多くの文人墨客を迎えてきた。犀川西岸の高台に位置し、川を見下ろす見晴らしのよい部屋も多い。伊藤博文が筆を執った「月の間」はその一つ。料理長の川村浩司さんは、治部煮や蓮蒸し、かぶら寿しなどの加賀料理を味付けなどをアップデートさせながら守り、「加賀料理を現代の皆様にお伝えし、次世代にもしっかり伝える。それがつば甚の役割」と話す。女将の鍔 裕加里さんは若いお客様や海外客と、時に通訳アプリも使いながら交流。料亭という総合芸術を意欲的に発信する。

石川県金沢市寺町5-1-8 Tel 076-241-2181
11:00〜13:00 (最終入店)、17:00〜19:00 (最終入店) 水休
https://tsubajin.co.jp

「以前は『ちゃべちゃべといくな(ずけずけと前へ出るな)』といわれ、一歩下がった接客が求められていましたが、いまは一緒に学ぼうよという思いで、節度と品位を守りながらも積極的に声をかけています。『この九谷焼いいでしょう』と話せば九谷焼に興味を持ってくださるかもしれませんし、酒も福井や富山のものもお出しして北陸全体で盛り上がろうと思っています」と鍔さんは話す。とはいえ、金沢最古の料亭として料理は加賀料理の伝統に則る。

「新しい料理を試した時期もありましたが、いまは食を通して加賀料理の伝統を知っていただきたいと思います。名物の治部煮は治部椀と呼ばれる専用の平たいお椀を使い、この時期は川端さんのハスを使ったハス蒸しもお出ししています」(川村料理長)

そうした思いは1625年に創業、今年で400年を迎える酒造会社「福光屋」も同じである。福光松太郎さんは1985年に社長になって以来、女性に飲まれる酒の開発、蔵人の社員化、マルチブランド化、酒以外の商品の開発など、矢継ぎ早な改革を行ってきた。

「加賀藩は外様でしたから、武器を捨てたことで工芸や食文化が発達しました。私達は日常の食を豊かにするためこれからも旨い酒を開発していきます。伝統は革新の連続、400年は通過点に過ぎないと思っています」

13代目の福光松太郎さん

福光屋
「多様な酒蔵」の先駆け
福光屋は今年で創業400年。金沢で最も古い、かつ最も革新を重ねてきた酒蔵だ。13代目の福光松太郎さんは40年前の社長就任後、全国に先駆け純米酒のみを造る蔵へ転換し、女性向けに“食事をおいしくするお酒”含め複数ブランドを展開。発酵技術を活用し化粧品や健康食品もいち早く開発した。蔵は市の中心部近くにあり、白山麓の雨雪が約100年かけ地下150mに達し、蔵の地下から湧く「百年水」が支える。

石川県金沢市石引2-8-3
Tel 076-223-1161
https://www.fukumitsuya.co.jp

SAKE SHOP 福光屋 金沢店
Tel 076-223-1117
10:00〜18:00 無休

82年から金沢市郊外でぶどう直売、洋菓子製造からはじめ、いまやウェディングやレストラン施設「ぶどうの森」も運営するのは「株式会社ぶどうの森※」の本昌康会長。最初はぶどう農家だったが、好奇心が旺盛でフットワーク軽く事業を展開。休耕地増加という社会課題の解決とリンクし、ファームトゥテーブルやバラ園などを広げている。
※4月1日、株式会社ぶどうの木より社名変更

「建築家の坂茂さん設計のレストラン『レ・トネル』を、メキシコ出身のマルコ・サントスコイシェフに任せました。私のモットーは、おいしいこと、美しいこと、物語のあることです。施設内での野菜や果物を使い、かつ石川の伝統料理とメキシコ料理が融合した新しい味を知ってほしいと思います」

マルコ・サントスコイさん

本昌康会長

レストランぶどうの森 レ・トネル
メキシコ人シェフによる金沢の野菜料理
レ・トネル は、金沢市郊外のブドウ園内にあるレストラン。坂茂氏設計の紙管を用いたドーム型建築 と、自社農園産野菜の料理が特徴。メキシコ出身のシェフ、マルコ・サントスコイさんは「伝統と革新が融合する金沢に魅せられました。メキシコの要素も取り入れたい」と語る。お客様自らが石臼で作る赤トウモロコシのディップと野菜チップの前菜や、アジの糠漬けをグアバの枝で焼いた品は意欲的。本昌康会長はブドウ農家から菓子・レストラン経営へと事業を拡大し、昨年から食用バラ園も開始。蒸留技術を生かした飲料の展開も期待される。

石川県金沢市岩出町ハ50-1 Tel 076-258-0204
12:00〜13:00(最終入店)、18:00〜19:00(最終入店) 不定休
https://lestonnelles.budoo.co.jp

本さんの話を聞きながら、私は銭屋の髙木さんが以前「金沢人は保守的と見えて、新しもの好き。すぐに飛びつき、よければ取り入れる」と話していたことを思い出した。これは福光屋やつば甚、seccaにも通底する考え方だ。金沢というと加賀料理や伝統的工芸品といった古い歴史を味わうイメージがあるが、一歩掘り下げるとまったく違った世界が見えることが今回の取材でわかった。北陸の拠点でありながらも、若い経営者だけでなく、伝統的な店も常に進歩している姿がここにはあった。堂々たる美食都市の金沢の更なる進歩がとても楽しみである。

金沢市の食文化への取り組み
イベント開催から人材育成まで多面的に食を振興
金沢では藩政時代から培われてきた食文化を大切にする意識が根付いており、市も1990年代から菓子や料理等の名工を表彰する施策などを推進。そして改めて「金沢の食文化を明確化しよう」と、2013年に「金沢の食文化の継承及び振興に関する条例」を施行、金沢の食文化の持続的な発展に向け市民・事業者・市の役割を明示した。市は①国内外への魅力発信、②市民啓発、③後継者の育成、④技能・技術の向上に取り組み、市内中心部でのイベントのほか、国内外でのワークショップ等を開催。なお上の画像は昨秋開催の、武家の饗応料理作りがテーマの市民向けイベントのチラシと、昨年イタリアのローマ・ミラノで行った食文化プロモーションの様子。直源醤油の直江潤一郎社長による醤油搾りの実演と味見体験が大好評だった。

金沢市 経済局 産業政策課 Tel 076-220-2204金沢の食

金沢の食文化は、加賀百万石の歴史と豊かな自然に育まれ、多彩な魅力を持つ。加賀藩の時代には京文化の影響を受け、繊細な加賀料理が発展。代表的な料理に「治部煮」や「蓮蒸し」があり、今も料亭の文化として受け継がれている。茶陶の大樋焼、加賀蒔絵、金沢漆器など食の伝統工芸品も根付いている。

日本海に面する金沢は、ブリ、甘エビ、ズワイガニなどの新鮮な海産物が豊富で、近江町市場や寿司店で楽しめる。回転寿司も質が高く、全国的な人気。農産物では加賀野菜(金時草、加賀れんこんなど)が有名で、畜産では能登牛が注目される。

また、金沢は発酵文化が発達し、味噌・醤油・日本酒の蔵元が今も盛ん。特に発酵食品は国内外での発信も進む。茶の湯文化も根付き、和菓子の名店が多いのも特徴だ。

金沢市中心部は「金沢市民の台所」として親しまれる近江町市場、高級から庶民的まで多彩な飲食店が並ぶ片町・香林坊エリアが王道だが、最近は海沿いの金石・大野地区の注目度もアップ。醤油の蔵、北前船の寄港地として栄えた往時を偲ばせる街並み、金沢港水揚げの魚介類が直販される「金沢港いきいき魚市」も人気を集めている。

近年は新しい食の潮流も生まれている。伝統的な料亭に加え、若手の和食・洋食シェフが活躍し、フレンチやガストロノミーの店も増加。カジュアルな食文化では、地元食材を生かしたおでん屋など人気。伝統と革新、高級と庶民的が融合・混在しながら進化を続けている。

美食都市アワードとは

美食都市アワードは「美食都市研究会」と『料理王国』が共同で2024年3月に設立。「地域の食と、観光の好循環」——地域の食の担い手と自治体などの連携により、地域固有の食を盛り立て、新しい文化や産業を生み出し、地域の人々の食に対する意識と誇りを高めるとともに観光客を惹きつける——という事例を表彰する。第1回目の受賞都市は、帯広市、鶴岡市、金沢市、京丹後市、雲仙市の5都市。

2025年受賞5都市発表!

2025年3月に第2回目の美食都市アワード受賞都市が発表。函館市(北海道)、坂井市(福井県)、多気町(三重県)、淡路島エリア(兵庫県淡路市、洲本市、南あわじ市)、廿日市市(広島県)が選定された。

取材・文 柏原光太郎(写真左)
1963年、東京都生まれ。株式会社文藝春秋にて「週刊文春」「文藝春秋」編集部、「文春オンライン」立ち上げなどに従事。2018年、美食倶楽部「日本ガストロノミー協会」を設立、会長就任。『ニッポン美食立国論——時代はガストロノミーツーリズム』著者。近著『東京いい店はやる店 バブル前夜からコロナ後まで』。

photo: Naoki Mizuno coordinate: Takako Tsuguma

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