コロンボも、古畑任三郎も、コレで難事件を解決!? ――数学的思考法とは【3か月でマスターする】
『3か月でマスターする 数学』は、多くの人に数学の楽しさ、学びがいを実感してもらうことを目標に構成したテキスト。「新幹線の座席が2人席と3人席である利点は?」「ホールケーキを3等分する方法は?」などのユニークな話題から、日常生活に生きる「数学的思考法」までていねいに解説しています。
ここでは、「刑事ドラマ」を題材に、数学的思考法について紹介します。
数学的思考法で事件を解決⁉
数学の問題を解くと聞くと、たいていの人は何だか難しそうだと感じて身構えてしまうかもしれません。しかし、問題解法のために用いる考え方(数学的思考法)は、生活の中でもしばしば使われています。例えば、皆さんがふだんテレビや映画で楽しんでいる刑事もののドラマ。こうしたドラマの中でも、実は数学的な思考法が使われています。いくつか例を挙げてみましょう。
1)指紋や歯形、DNAなどを調べて、人物を特定する
犯人を特定するために、指紋や歯形、DNA などを調べるのは、これらと人が「1対1対応」しているからです。
数学では、意外なもの同士が1対1対応することを見抜いてうまくものの個数を数えたり、難しい問題を異なる分野の問題と1対1対応させ、首尾よく解決できることがあります。
2)聞き込みなどで情報を収集して、犯人像を探る
刑事は犯行現場の近所で聞き込みを行い、目撃情報などを収集します。「中年男性、小太り、東北なまり」という情報が得られたなら、これらの条件を満たす人物をターゲットとして絞り込みます。
これは数学の考え方でいえば、「必要条件で解の候補を絞り込む」ということ。数学では、「その数は3で割ったとき1 余ることが必要」、「その多角形のどの内角も120°未満であることが必要」などといった条件を考えて、解の候補を絞り込んでいくことがよくあります。
3)犯人固有の特徴に注目して足取りを追う
容疑者を防犯カメラなどで追跡するとき、あざ、ほくろ、歩き方、目つきなど変装しても変わらない犯人固有の特徴に注目するはずです。
数学の考え方でいえば、これは「不変要素に注目して、それを満たす解を探している」ということにほかなりません。この手法を用いると、混沌とした状況から的を絞っていくことができるのです。
4)情報を視覚化して、共犯者やアリバイを調べる
捜査を進めていくうち、事件の推移や人間関係などに関する膨大な量の情報が捜査本部に集まってきます。人間関係なら相関図を作ってみることで、共犯者が浮かび上がってくることもあるでしょう。事件の推移を時系列で図式化すれば、容疑者の行動が不明な「空白の時間」が見えてくるかもしれません。さらに、複数現場の位置関係を地図で確認すれば、別件だと考えられていた事件が、ひと続きの事件だとわかることもあります。
これは数学の考え方でいう「複雑な情報を視覚化する」ことに当たります。
5)張り込みや尾行で、容疑者の行動パターンを調べる
容疑者を調べていくと、行動パターンが見えてきます。例えば、その人物が「パチンコ屋に行った後はいつも、横丁の呑み屋に立ち寄る」という習慣を持っていることがわかれば、先回りして待ち伏せすることもできます。
数学の考え方でいえば、これは「規則性を把握し、先を読む」ということにほかなりません。
6)犯人がまったく別の人物である可能性を考える
捜査が行き詰まってしまったら、これまでの想定が見当違いだった可能性についても考えるべきでしょう。そもそも、犯行動機をはじめとした事件の構図が間違っていたのかもしれませんし、そうなれば方針を一から考え直して捜査の出直しを図ることも必要になってきます。
数学の考え方でいえば、「視点を変えて考える」ということにほかなりません。
7)容疑者、動機、手口に関して分類して考察する
容疑者が複数人いる場合は、「もしAが犯人だったら……」「もしBが犯人だったら……」「もしCが犯人だったら……」という具合に分けて考えるのが有効です。また、単なる物取りか怨恨かといった犯行動機や、手口によって事件を分類・整理することも必要でしょう。
数学の考え方でいえば、「場合分け」ということにほかなりません。
8)極端な要素を引き合いに出して、議論を進める
遺体の状況を調べて「最も屈強な男でも遺体を1人で動かすのは不可能」だとわかったら、犯行は複数犯の可能性が高いと推測できます。また、容疑者の行動を調べていて、「大阪の通天閣で15時に目撃されていた容疑者が、犯行時刻の16時に渋谷に到着するのは最速の移動手段を用いても不可能」となれば、この容疑者にはアリバイがあります。
数学でいえば、「最大・最小のものに注目して議論を進める」といったことを行います。すなわち、数学の考え方でいうと、「極端な事柄を引き合いに出して議論を進める」ということにほかなりません。
「数学的思考法」を使いこなそう
刑事ドラマを例にして捜査手法を説明しましたが、こうした「数学的思考法」は捜査に限らず、あらゆる場面で用いることができます。例えば、料理や掃除などの家事をスピーディーにこなす。裁判官が証拠を根拠に判決を下す。医師が患者の症状から病名を診断する……。
知識量がそれほど多くなくても、物事を把握したり、本質を見抜く力に優れた人がいます。数学においても、初めて見るタイプの問題を自力で解ける問題解きの達人がいます。
こうした人たちが初見の問題に出会ったとき、無意識に使っているのが「数学的思考法」です。
もちろん数学の学び方としては、学校の授業のように、知識を段階的に学んでいくやり方も重要です。しかし、数学的思考法も同時に身につけなければ達人にはなれません。考え方を身につければ、一見糸口が見つからない難問でも「ああ、こんなところに着目すれば解けるのか!」と、問題を解くのが楽しくなってくるでしょう。
では、数学的思考を使って実際に問題を解いてみましょう。
問題
1+3+5+7+9+…… +99 はいくつ?
ここでは、【よく使う数学的思考法】の
4)視覚化 5)規則性 10)試行
を使って問題を解きます。
答え
単純に足し算していくのではなく、図を描いて実験をしながら規則性を見つけていきましょう。
〇をカギ型に並べていくと、図のような規則性が見えてきます。
すなわち、nを整数とすると、次の式が成り立ちます。
よって、答えは
講師:秋山仁(あきやま・じん)
数学者・理学博士。東京生まれ。東京理科大学栄誉教授。離散数学に関する数多くの学術論文を発表。また、長年、NHKラジオ・テレビの講師を務め、世界各地で講演活動を行うなど、幅広い数学啓発に力を注いでいる。著書に『離散幾何学フロンティア―タイル・メーカー定理と分解回転合同』(近代科学社)ほか多数。
講師:横山明日希(よこやま。あすき)
数学のお兄さん。株式会社math channel代表。早稲田大学大学院数学応用数理専攻修了。老若男女問わず幅広く数学・算数の楽しさを伝える「数学のお兄さん」として活動。2017年、科学技術振興機構主催のサイエンスアゴラ賞を受賞。著書に『文系もハマる数学』(青春出版)、『10歳からのおもしろ!フェルミ推定』(くもん出版)など。
講師:ヨビノリたくみ
教育系YouTuber。東京大学大学院修士課程修了。6年間、塾や予備校で講師を勤めたあと、YouTube チャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』を開設(2024年5月現在、登録者数112万人)。2023年、文部科学大臣表彰科学技術賞(理解増進部門)受賞。著書に『予備校のノリで学ぶ大学数学~ツマるポイントを徹底解説』(東京図書)など。
◆『NHKシリーズ 3か月でマスターする 数学』
◆文 秋山仁、横山明日希、ヨビノリたくみ
◆イラスト 雉〇/ Kiji-Maru Works
◆写真 岡田ナツ子