従業員70人の会社をあっさり売却「娘の母親は私しかいない」テレビで話題の“戦国プリンセス博士ちゃん”を育てた母の常識破りの決断
小4から戦国時代や城の探究を続ける“戦国プリンセス博士ちゃん”こと諸星天音さん(高1)。第2回は母・奈穂さんにインタビュー。子どもが好きなことを見つけ、学ぶ力を養う子育てのヒントとは。全3回。
【▶画像】【働くママの労働問題】「103万円の壁 結局どうなったの?」[社労士が回答]戦国時代の歴史好きが高じて、小5のころからバラエティ番組『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)にたびたび登場している高校1年生の諸星天音(あまね)さん(15歳/2025年10月現在)。歴史イベントでトークショーを行うなど、歴史やお城の魅力を発信し続けています。探究のテーマは「防災」にも広がり、防災士の資格や防災検定1級も取得し、防災教育推進アドバイザーとしても活動中です。
学校教育の場でも、子ども自らが気になる疑問や課題を見つけ主体的に学んでいく「探究学習」が注目されていますが、彼女のように、いきいきと探究を楽しみ続ける姿勢は、どうすれば育まれるのでしょうか。
今回は、天音さんの母・奈穂さんに天音さんとの歩みを振り返ってもらいながら、子育てのヒントを探ります。
会社を経営しながら迎えた我が子
今では学業と並行して全国各地で歴史や防災イベントでの講演を行うなど、大忙しな諸星天音さん(以下:天音さん)ですが、「幼少期はとにかくマイペース。何をやるのもお友だちの中で一番最後でした」と母・奈穂さん。
「しゃべりだすのも立ち上がるのも遅かったのですが、気にせず彼女のペースでやってきました」
そう語る奈穂さんは当時、自身が設立した訪問介護事業所の代表取締役をしていました。会社経営の真っ只中で、とても多忙な日々だったのです。
瞬発力で起業! 従業員は徐々に増えて…
奈穂さんは起業前の20代中ごろまでは不動産会社の社員として営業にまわり、バリバリ仕事をこなしていました。しかしあるとき、無理がたたって倒れ、病院に搬送されることに。このときの入院がきっかけとなり、自身のキャリアを見直したといいます。
「私は何のために働いているのだろう、と。それでもっと直接的に人のためになる仕事がしたいと思い、ヘルパーの資格を取ったんです」
新たな勤め先でのヘルパーの仕事は、人生の先輩である高齢世代から学ぶことも多く、実りの多い日々でしたが、次第に「もっとこうしたいのに」という利用者への思いと、業務上の規則との狭間で上司と衝突することが増えていきました。
「毎日ケンカばかりで。それで短絡的ですが自分で会社を作ればいいんだと思ったんです。そうすれば規則や方針も自分で決められるので。何のコネもお金もなく一人で準備を始めました」と笑います。
「当時は怒りの瞬発力で起業できましたが、その勢いだけで長続きさせるのは難しいことで。修行の12年でしたが、人とのつながりの大切さを学びました」
起業後は自身もヘルパーとして活動していた奈穂さんでしたが、徐々に従業員が増え、会社の規模も大きくなり、業務も経営や管理を中心にシフトしていきました。
そして、天音さんを授かり、創業5年目の2009年に出産。
「私は未婚の母なのですが、仕事柄、職場には先輩の母親たちも多いので不安を感じることもなく、ただただ生まれてきてくれたことが嬉しかったです。会社でも皆さんが子どもを見てくれました」
母・奈穂さん(左)と幼少期の天音さん。 写真提供:諸星奈穂
「未婚の母」=「大変」 これって本当?
産後ほどなく職場復帰し、仕事と育児をこなす奈穂さんでしたが、周囲からは「シングルマザー」「未婚の母」と伝えるとそれだけで「大変だね」と言われることが多々ありました。
「でも私自身は当時、会社も経営していたので経済的な不安はあまりなかったんです。両親や保育園のママ友、パパ友など、周囲のたくさんの人に子育てを手伝ってもらっていたのでシングルマザーだから特に大変という感覚はありませんでした」と振り返ります。
「世の中にはシングルマザーというと、『大変』『(子どもが)かわいそう』と決めつける面が根強くあります。でも、大変さは個々の家庭の状況やタイミングによりますよね。
『かわいそう』という言葉も、子どもが誰かに言われたら『私はかわいそうな子なんだ』って思い込んでしまうかもしれません。だけど本当にかわいそうかどうかは、その子自身が決めることじゃないかなと思っています」と奈穂さん。
「私たち親子は楽しんでやってます。シングルマザー親子も当たり前のように楽しい家族の形だと受けとめてくれる世の中になっていけばいいなと思っています」
経営者でも子どもとの時間は失いたくない その決断は
周囲の手助けを得ながら子育てする奈穂さんでしたが、それでも「経営」と「子育て」の両立は多忙の極みで、子どもと過ごす時間を生み出すことはどうしても難しい、という葛藤もありました。
産後すぐの1ヵ月間は自宅で仕事し、その後は赤ちゃん連れで出勤。職場で授乳しながら働く生活を送ると、4ヵ月目から保育園に。会社の従業員は、多いときでパートタイマーを含め70人になっていました。
「必死になって働いていました。でもどうしても娘との時間が少なくなってしまうんです」
小学校に上がるとさらに一緒にいる時間は少なくなってしまうと感じた奈穂さんは、その前に大きな行動に出ます。
「12年弱、経営してきた会社をM&Aで売却しました。それで保育園最後の1年間に、娘と国内外を旅したんです」
「娘と凝縮した時間を過ごそう」と、フィリピンで親子留学したり、アメリカやベトナムへ。写真は、ハワイ島のキラウエア火山の前で。 写真提供:諸星奈穂
「会社に愛着はありましたが、代表の代わりはいても娘の母親は私しかいないので、娘との時間が一番大切でした」と、迷いはあまりなかったそうです。自身の体調も良くなかったことから、天音さんのためにも身体を大事にしようとの思いもありました。
その後は、小学校入学を機に仕事を再開しつつも、子どもとの時間や自分の健康を第一に、仕事量を調整してやりくりするライフスタイルを送っています。
「仕事ばっかりの人生から娘優先の生活に変わりましたが、意外と仕事はまわり、生活できるんだなと気づきました。
娘が楽しみを見つけて学ぶ姿も糧(かて)になり、それまでとはまた違う私自身の楽しみにもなって。得られたものは大きかったですね」
また、12年弱の経営で学んだ“人とのご縁やつながりを大切にする姿勢”は、子育てでも生かされ、天音さんにも受け継がれています。
自分の“好き”を楽しみながら 娘の“好き”に伴走
歴史や城が大好きな天音さんに対し、「私は趣味嗜好が9割は彼女と違います」と笑う奈穂さん。それでも、違うからこそ行動を共にすることでお互いの世界が広がっていると感じています。
歴史の探究や活動で全国を飛び回る天音さんをサポートしつつも「私は温泉が好きなので、娘に温泉がないと車は出さないよと言ったりして(笑)。
すると、彼女が旅先の温泉をリサーチしてくれたり、お酒好きな私に、こんなのもあるよ、と教えてくれたり。自然とお互いの好きなことにも詳しくなっていますね」
旅先で母・奈穂さん(左)と天音さん(右)。 写真提供:諸星天音
「娘が小さいときには、私が落語好きなので洗脳しようと、寝る前に落語を聞かせていた時期もありましたが、子守歌と化してしまっただけでした(笑)」
そんなこともあり、子育てのポリシーとして『変な期待はしない』と意識し、こらえたそうです。それでも「とにかくいろいろ経験はさせる、可能な限りやりたいことをやらせる」と心がけたといいます。
託して託して 人と関わり成長していく
「子育ては一人でやるなんて絶対無理。私は本当に周囲の方ありきで回っています。病気になったときも周りに頼って何とかなっています」
実際、奈穂さんは天音さんの幼少期から、両親や友人など、彼女を見守ってくれるさまざまな人に、子育てを“託して”きたといいます。今もそのスタイルは変わらず、天音さんの探究や活動を通じて知り合った人とのネットワークから、随所に天音さんを見守ってくれる大人が存在します。
「今週末もお城の大師匠に天音の面倒を見ていただいてました。『今、こうしているので●時には帰ります』と連絡をくれたり、ありがたいです。
これまで天音を見てくれるいろんな方々に託して成長させてもらっています。いろんな人と関わり、いろんな人のいいところを教えてもらって学ばせてもらう。そうして、私から天音は巣立っていく。それが理想です」
こう話す奈穂さんは、「知識も考え方も私と1対1だとつい押し付けちゃうし、いろんな方にかわいがってもらえるレールに乗せてみようかな、と思ったんです。つながってくださる全ての方に、本当に感謝を伝えたいです」と笑顔で語りました。
最後に、奈穂さんと天音さんにこれから親子で一緒にやってみたいことをたずねると、
奈穂さん:「20歳になったら一緒にお酒が飲みたい」
天音さん:「車の運転をしてママをどこかへ連れていきたい」
と答えてくれた二人。今後も二人の旅は続きます。
諸星天音さん(右)と母・奈穂さん(左)。取材中も親子の仲の良さが伝わってきた。 写真:原田美咲
第3回では、天音さんから「親子で行きたい城3選」を紹介してもらいます。
取材・文/原田美咲
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