映画『宝島』妻夫木聡×広瀬すず×大友啓史監督が語る、戦後80年沖縄の歴史から伝えたいメッセージ
9月19日に公開される、戦後アメリカの統治下にあった沖縄の激動の時代を描いた映画「宝島」。直木賞を受賞した真藤順丈さんの小説が原作で、アメリカ軍の統治下にあった沖縄で基地から物資を奪って生活の糧にした「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちの姿を描いている。 「過去を描くことは未来への問いかけになると思う」 大友啓史監督と俳優の妻夫木聡さん、広瀬すずさんに作品に込めた想いを聞いた。
登場人物たちの選択に宿る生命力
Q映画の舞台となった戦後の混沌とした沖縄に、大友監督は人々の強さを感じたのか、 それとも不条理の歴史が印象に残ったのでしょうか。
―大友啓史監督 「僕はコザで生まれ育った人間ではないし、沖縄の人間ではない、東北の岩手の人間です。けれど、“復帰っ子”を主役に描いた連続テレビ小説「ちゅらさん」で演出を担当して以来、ずっと自分の心の中に沖縄の温度感というのかな、が住みついているような気がしていて。「ちゅらさん」をパート3までやった後に、復帰前の沖縄の物語を描かないと何か自分の中で収まりのつかないような気持ちが残っていたんですよね。そんな気持ちを20年間近く抱えていて、五年前に原作を読んだ時に、アメリカに統治されていた時代の沖縄は、日本国憲法が適用されていない、ある種、無法状態のようなことがあったというのを改めて知り、その後地元の方に聞いたり、残っている記録なども読みつくして、さらにそれを痛感したんですよね。そのような環境の中で、人は屈服して生きるのか、それとも立ち向かうとしたらどんな行動をとるのか」
「そんな状況下では、人間の尊厳や、個々の考え方が問われることは間違いないなあと。原作では、グスクたちは、消えてしまったオンちゃんという英雄の背中を追い求めながら、オンちゃんならどうしたんだろうという事も考えながら、自分はどう振舞うべきか、自分は今、目の前にあることにどう向き合うべきかということを直感、本能的に選び取りながら動いているんですよね。そこにすごく力強さや生命力を感じました。グスクは刑事になり、ヤマコは先生になり、レイはヤクザになり、それぞれがそれぞれの自分なりの道でオンちゃんを探し続け、時代に向き合っていた。必死で、本気で生きている姿がたくましい、かっこいいなと思ったんですよ。そのかっこよさやたくましさを、あの動乱の時代の中で描きたいという事を猛烈に思いましたね」
戦後の沖縄を伝えたい
Q映画を通して激動の時代を追体験できる意義は大きいと思いますが、「宝島」を戦後80年の年に公開できる意義についてはどう感じていますか?
―大友啓史監督 「戦後80年という時に、戦争そのものを見つめる作品は沢山あると思いますが、戦争が終わったあとに何が起きるか。この映画は戦争そのものを描くのではなくて、戦争が起きてしまったあとに、そこでの絶対的な勝者と敗者の間でどういう関係性が生まれるのかを描いています。 沖縄の人たちは、戦争によって決定づけられてしまったアメリカや本土との関係性を引きずりながら、そのままにあの時代を過ごしてきた。沖縄戦で4人に1人の方が亡くなったという戦争自体の悲劇性もあるけれど、アメリカでも日本でもない、ある意味宙ぶらりんな状態とその影響が長く続く、そんな見過ごされがちな戦後の沖縄を描きたいなと思いましたね。戦後80年、もし意義があるとしたら戦争そのものではなく、戦争の後にこういう事が続いていくんだなという事は、日本だけではなくて、他の国で起きている色々な事情を、遠く離れた我々が想像するときに想像しやすい要素であるなと思ったんです。 戦争そのものよりも、生活がそれによっていかに変わっていくのか。そこの影響をどれだけ受けざるを得ないのか。そこで人々はどういう想いで生きていっているのかという事をひとつひとつ、自分の生活の延長線上で体験できる映画になればいいなと」
当たり前じゃない…生きてきた人たちのお陰
Q妻夫木さんはチビチリガマやシムクガマなどの戦跡を巡られて歴史に触れてから役を演じられたと伺いました。実際にグスク役を演じ切って見て、戦後の沖縄についてどう感じましたか?
―妻夫木聡さん 「今が当たり前じゃないよというのは胸に感じています。当時の方々の想いや存在は、僕たちを支えてくれて未来につなげることができると思うし、撮影を通して、死は終わりを意味するものではないとどこか思えたんですよね。死という終わりがあるからこそ、僕たちは精一杯生きられるんじゃないか。その方々の想いはずっと僕たちの胸にあって、今も残っていて、ともに過ごしているんだなと。命って、どんどん繋がっていくんだなと、撮影を通してとても深く感じました」
Q戦後と今では、時代も環境も大きく変わりましたね
―妻夫木聡さん 「当然豊かな暮らしになった今のほうが幸せに感じる瞬間は多いとは思うんですけど、幸せの大小の問題ではないような気がするんですよね。昔の人たちは、小さな喜びにも幸せをいっぱい感じて、その分、より多くの生命力を養っていたようにも感じるし、今の人たちはいっぱい幸せを感じる瞬間があるからこそ、本当の喜びを知らないんじゃないかと思えたりもするし。色々な幸せの定義があると思うんですけれども、そうやって幸せを感じていけるのは当たり前じゃないんだよという事なんですよね。どう感じるかは自分達次第だし、この先どうあるべきかというのは、みんながどう過ごしていくかによって未来の形も変わっていくと思いますね」
役を通して感じた沖縄戦後の“空気感”
Q広瀬さんは作品の中で理性や冷静さを失うような演技もされていました。 沖縄の戦後の歴史に触れてみて、沖縄に対する見え方は変わりましたか?
―広瀬すずさん 「役を通すと、自分にとても近いような出来事に思える。錯覚なのか分からないですけど、そういった感覚があって、映画で作ってもらったものであるとはいえ、それを景色として、現場にいるみなさんと共有して感情を表現するというのは、すごく難しかったし、でも何か認識がみんなの中にある、なんともいえない空気感が流れていたように思えて、知れば知るほど、個人的な感情も生まれたり、とても考えさせられることが沢山あるように思いました」
キッカケになってほしい
Q「過去を描くことは未来への問いかけと妻夫木さんはおっしゃっていました。若い世代と交流して見て、改めてこの映画がどんな存在になってほしいですか?
―妻夫木聡さん 「自分自身を見つめるキッカケや、向き合うキッカケになってもらえればいいと思うし、未来を見据えるキッカケにもなってほしいなと思うし、この映画良かったね、面白かったねで終わらないでほしい。人生だとか、社会だとか、世界だとか、色々な事を考えられるキッカケになるような存在であれば良いかなと、この映画に対して思っていますね。最終的にはどんな人にとっても希望であってほしいかなと思っています」
Q試写会でも様々な世代の観客がいました。広瀬さんはこの映画がどう届いてほしいですか?
―広瀬すずさん 「私はこの作品と役を通して、こういった事があった、真実を知る事ができた。お芝居を通してそこに宿っているものが見えたり、感じられる瞬間があったことをこの作品、映画を通して、我々の世代にも、歴史は受け継がれていくものだし、そうあるべきだと、今回すごく感じて。まだまだ私ができることは少ないですけど、そういう風に広がっていくことは想像以上に大きい事なんだろうなと、みなさんのお話を聞いたりとか、映画を見て下さった皆さんの表情をみると感じますね」
Q大友監督は沖縄の人にはどのように届いてほしいと思いますか?
―大友啓史監督 「むしろどう届いたかを聞きたいくらいです。 それぞれの風土の中で、その時代にしか生まれないものはいっぱいある。そこに関して徹底的に目配りをしつつ、色々な方の声を聞きつつ、でも通奏低音として流れているのは同じ人間同士としての感情なので、そこについては妙に確信がありました。僕でもこうしただろうという。沖縄の人だからどうとかではないと。ここまでの事がわが身に降りかかったら、僕でも同じ行動をしたんじゃないかと。グスクのような行動をとったのか、ヤマコだったのかレイだったのかは僕は分からないけれど、それぞれにそれぞれの正当性と理由があるし、他の人たちひとりひとりの人生にも、それぞれの理由がある。そうせざるをえなかった、そうならざるをえなかった、そこのディテールを無視した瞬間に、戦争とか悲劇が生まれる気がするんですよね。ひとつひとつの人生を大切にしなかった瞬間に。そこを大切に描くというのが、宝島の底の底に秘められたメッセージなはずだと感じています」
映画「宝島」は9月19日に公開される。
『宝島』 原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫) 監督:大友啓史 出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太 東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給 9月19日(金)公開 ©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会