秋アニメ『しゃばけ』山下大輝さん・沖野晃司さん・八代拓さんインタビュー|大声でふらり火を呼ぶシーンは「浅い呼吸のなかで出す一太郎の全力を想像しました」
シリーズ累計発行部数1000万部を突破した畠中恵氏の妖怪時代小説『しゃばけ』シリーズがTVアニメ化。全国フジテレビ系“ノイタミナ”にて2025年10月3日より放送がスタートしました。本作の舞台は江戸時代。生まれたときから身体が弱く、外出もままならない大店(おおだな)の若だんな・一太郎が、妖たちと協力しながら、猟奇的な殺人事件を解決していく姿が描かれていきます。
アニメイトタイムズでは、一太郎役の山下大輝さん、仁吉役の沖野晃司さん、佐助役の八代拓さんにインタビュー。第一話のアフレコを振り返ってもらいつつ、絵・セリフなどからキャラクターのバックボーンや時代背景も分かる本作の魅力について語ってもらいました。
【写真】秋アニメ『しゃばけ』山下大輝・沖野晃司・八代拓インタビュー|妖と若だんなの“奇妙でドキドキする関係”
大声を出すというシーンで腹から声を出したら「出過ぎです」って
──日常的な描写から、猟奇的殺人現場に立ち会うという衝撃的なラストで幕を閉じた第一話。物語・アフレコを振り返ってみての感想をお願いします。
一太郎役・山下大輝さん(以下、山下):アフレコのとき、絵がもうほとんどできていたんです。なので、あったかい絵柄で、あったかい色彩の使い方をするあたたかい作品だということがよく分かって。そのあったかさがベースにあることを踏まえて演じられたので、すごく世界観に入り込みやすかったです。一方で後半のミステリー部分では、夜の暗さがよく分かるような絵になっていて。そのコントラストが効いていて、すごく印象に残る第一話でした。
仁吉役・沖野晃司さん(以下、沖野):前半部分で若だんなの日常の一幕が描かれていたので、まさか最後で血を見ることになるとは……。原作をまだ読んだことがなくてアニメから見始めた方は、「ミステリー作品なんだ!」と驚かれたんじゃないかな。本当に衝撃的なラストでした。
佐助役・八代拓さん(以下、八代):どの作品でも第一話のアフレコは難しさがあります。特に本作は時代劇なので、この作品の世界にどれだけ全員が入れるのかという緊張感もありました。ただ、『しゃばけ』ならではの世界観を知れば知るほど、本当にドキドキワクワクして。難しさもありましたが、自分が演じていても、他の方のお芝居を聞いていても楽しいと感じながら第一話の収録を終えることができました。
── 一太郎と妖たちの信頼関係が見えてくる部分にありました。
山下:もう関係性ができているところから物語はスタートしますが、それを想像できる余地やキャラクターのバックボーンが分かる描写が第一話から散りばめられていて。一太郎がご飯をちょっとだけ食べたら「おや、まぁ、今日は食が進んだこと」と言われるシーンがありましたが、「どこがやねん!」っていう量なんですよ。あそこで、一太郎の食が普段はもっと細いんだということが分かりました。
沖野:あんなに礼儀正しい坊ちゃん(一太郎)でも、着替えさせるのは僕たちなんですよね。坊ちゃんが別に偉ぶって「着させてくれ」って言っているわけではないですし、妖たちもいつも通りという感じで。誰も嫌と思っておらず、日常の会話をしています。特別なことじゃないんですよ。現代との違いがあのシーンで分かりました。
山下:絵・表情・セリフからバックボーンや関係性が自然と見えてきて、スッと世界観に入りこめる作品ですね。
──個人的には、若だんなが「こい、ふらり火!」と大きな声で叫ぶシーンが印象的でした。あそこの大きな声を出しきれないところでも、若だんなの体の弱さやバックボーンが表れていたような気がして。
山下:あのシーン、テスト収録のときは大きな声を出すということで、腹から声を出したんです。そしたら、「出過ぎです」ってなって。
八代:そうでしたね。
山下:一太郎は大店の若だんな、つまりは人前で常に大声を出すような立場の人間じゃないんです。しかも、小さい頃から病気がちなので肺も人より弱いはずですし、なおかつあの状況なので、息もあがっている。そりゃ、腹から声を出すことなんてできないんですよ。ディレクションがあってから、ちょっと強すぎたなと反省して、浅い呼吸のなかで出す彼のなかの全力はどんなものかと想像しました。それで、浅く、浅く、胸より上で叫ぼうというくらいの感覚で芝居をしたんです。
八代:ただ「抑える」とはちょっと違いますもんね。
山下:そう。全力ではあるけれど、若だんなはそんなに肺のタンクはないはずなんです。どうすればそういう呼吸ができるのか、フルスロットルで考えて声を出しました。ギリギリのところでのお芝居でしたね。
「あんた、あのとき大声上げて止めたじゃない。でもお母さんには見えてなかったの」
──貴重なアフレコ時のお話、ありがとうございました! 改めて、みなさんが演じるキャラクターの紹介と演じるなかで感じた印象を教えてください。
山下:一太郎は大店の若だんなですが、その立場におごることなく、この店で自分の価値はあるのか、価値を見せていかなきゃいけないと思っている、責任感のある人間です。自分の力が至らないと心のなかに溜まっているものもありますが、興味のあることや貫き通したい思いに関しては本当にブレなくて。体はあまり強くはありませんが、それとは真逆のメンタルを持っているという印象があります。
──なるほど。
山下:ただ、その性格ゆえに若干無謀なところもありまして。そこまで足を踏み入れるんだという行動を取ったり、後先考えずにツッコんだりするところもあり、周りが不安になることもあるんです。その行動の裏付けとしては、このふたり(仁吉・佐助)がいるからという信頼感も大きくて。一太郎は過剰に誰かを信頼するところがあるかもしれません。守られつつも、自分のやりたいことに全力になれる人間ですね。
沖野:仁吉はダメなことはダメ、いいことはいい、体裁も気にしなさいと、ちょっと坊ちゃんに口うるさくする部分があります。また、芯は強いのですが、物語が進んでいくなかで坊ちゃんのことで悩むことも増えていって。彼自身がそう思って行動しているわけではないと思いますが、そういうのって母親のような気持ち、接し方なのかなと思いました。
八代:仁吉が知的で冷静で、若だんなになにかあったら叱る妖である一方で、佐助は快活で感情的に動くタイプ。その分、あたたかみもあるキャラクターだと感じています。沖野さんの言葉を借りるなら、仁吉が母性としたら、佐助は父性を持って若だんなと接しているのかなと。小言を言うのは仁吉かもしれませんが、若だんなの危機にいちばん怖くなるのは佐助です。「そこまでか」と驚くくらいに怖くなるんですよね。色々な母親・父親がいて人によって感覚も違うと思いますが、ここぞのときにいちばんのエネルギーを費やす部分は父親っぽいなと個人的には感じました。
──たくさんの妖が登場する本作。みなさんは妖を見た経験や、「これは妖がやったに違いない!」という体験をしたことありますか?
沖野:夏に入る前くらいに、ある舞台の公演に出演したんです。その舞台のステージ下手側に、一瞬だけ頭が痛くなるという場所があったんですよ。それも出演しているみんなが。で、僕は上手側にずっと座っていたのですが、急に頭が痛くなってきて。そしたら今度は、みんなが上手側に来ると頭が痛くなったんですよ。「なんかいやだね」「もしかして……?」みたいな話をしながらステージの片づけをしていたら、劇場のスタッフさんがへらへらしながら、「ここ、結構出るんですよね」っておっしゃって。
八代:怖い、怖いよ!
沖野:その舞台、お葬式の話で……。しかも僕はもう亡くなっている方の役だったんです。それで、初めてですよ。舞台の打ち上げが終わったあと、塩で清めてからお家に入りました。別に何かを見たとかそういう訳じゃないんですけどね。
山下:実体験だから、本当に怖いわ……。
八代:じゃあ、僕も実体験を……。僕は、とある先輩役者さんと一緒の現場になると、絶対にAパートの途中でVが落ちるんです。片方ずつが現場にいても、何ともないんですよ。でも、ふたりが集まるとなぜかそういう現象が起きて。最初は「いや、そっちのせいですよ(笑)」「いやいや、そっちだよ」と冗談交じりに言い合っていたのですが、あまりにも落ちる回数が多いから笑えなくなってきて。
山下:怖い。そのふたりで集まったら、今後も何かあるかもしれないね……。
八代:最終的には「僕たちは運命なのかな?」って、ちょっとポジティブなとらえ方をするようにしました(笑)。理由がぜんぜんわからないんです。今でも不思議に思っていますね。
山下:ちっちゃい頃の話なんですけど、テニスの習い事の帰り道に、お母さんの車で帰宅していたんです。結構遅い時間で、僕ももう眠くて。助手席に乗ってうとうとしながら外を見てたら、おばあさんが見えたんですよ。そのときは「あっ、おばあさんがいるな」くらいの気持ちだったのですが、そのおばあさんが車の進行方向にいるのに、お母さんが直進していくから「えっ、大丈夫かな」って思って。
あまりにも近づくから「えっ、おばあさん、おばあさんいる! おばあさんいるよ!」って僕が叫んだんですけど、実際は誰もいなくて。このときのこと、僕はうとうとしていたこともあってあまり記憶にないのですが、お母さんがよく覚えていて話してくれたんです。
八代:「あんた、こういうこと言っていたよ」みたいな?
山下:そう。「あんた、あのとき大声上げて止めたじゃない。でもお母さんには見えてなかったの」って。たぶん、運転しているお母さんがいちばん驚いたと思います。
沖野:見てはいけないものを見てしまったのか、ただ寝ぼけていただけなのか……。
山下:謎です。僕もはっきり覚えているわけじゃないので……。
沖野:……。いやいや、ここにきてちゃんと怖い話! ゾッとしました。
山下:そういう不思議な現状ってあるんですよね……。
他人が見たら何とも思わないけど、若干ぎくしゃくしているような3人の会話も
──ついに放送がスタートしましたが、今後の見どころを教えてください。
山下:一太郎は猟奇的殺人事件に首を突っ込んでいくわけですが、そうなると命の危険がある訳で。放送前のPVでは「3人で事件を解決するぞ!」というシーンがフィーチャーされていたと思いますが、危険から守ろうとする仁吉・佐助と、事件を解決したい一太郎のぶつかり合いもあるんです。お互いに、思いを伝えたいのに気が付いてくれないみたいな歯がゆい部分もちょっと描かれていくんですよ。そういう面も含めて、ハラハラドキドキする展開が常についてくるのも、本作の見どころかなと感じています。
八代:本筋からは少し外れるかもしれませんが、仁吉・佐助と坊ちゃんがどう出会ったのかが描かれる過去回は、ぜひ見ていただきたいですね。彼らも未熟で、色々なことを抱えながら生きてきたんだということがよく分かるようなストーリーになっています。個人的にもすごく好きな話ですね。
沖野:過去回を含めてなのですが、他人が見たら何とも思わないけど、若干ぎくしゃくしているような3人の会話に注目いただきたいです。一緒にいるなかでも、心がついたり離れたりするような感覚があると感じるような場面や描写もあるんですよね。そこから3人がまとまっていく過程をぜひ見ていただきたいです。本作は繊細な作品だとも感じました。
──最後に、改めて本作の推しポイント、アニメならではの見どころを語っていただければと思います!
山下:本作は夜の描写が多いのですが、江戸時代って、街頭がないなか、提灯のほんのりとした優しい明かりを頼りに、真っ暗のなかを歩いていたんですよ。そういう時代背景に向き合って作られているからこそ、タイムスリップしたかのような感覚になって没入してアニメを見られます。
物語に関しては、ミステリー要素もありますし、リアルな時代背景とは逆に妖というファンタジー要素があって、ワクワクを常にかき立てられます。今後も起きた事件に対して超常能力で一発解決とかは一切ありません。みんなが考えて、努力して、地道に頑張るので、ぜひ見守っていただければと思います。
沖野:映像の美しさはもちろん、キャラクターひとりひとりが本当に濃いのも本作の魅力だと思います。色々なキャラクターが出てくるので、全話終わったあとに「あのキャラクター、よかったよね!」みたいな会話をしたいですね。台本を読み進めているなかで、「えっ、これどうなるんだろう」と思う瞬間がたくさんありました。きっとみなさんも同じ感覚になると思います。
八代:障子の音、木製の橋を渡っているときの足音など、この時代ならではの音も本作の魅力です。妖のシーン、ミステリーの真相に向かっていくシーン、和気あいあいと妖と人間が触れ合っているシーンなど、その場面を音楽がさらに彩ってくれます。音もアニメならではの要素だと思うので、ぜひ楽しんでください。
[文・M.TOKU]