台湾シンフォ・メタラーCRESCENT LAMENT初来日、ギターのワットにインタビュー!
台湾のシンフォニック・メタラー:CRESCENT LAMENTが初来日! 11月中旬に東京&大阪で3公演を行なった。
そのうち2公演は日本のイリュージョン・フォースとのツーマン(&スペシャル・ゲストにコンチェルト・ムーン)で、10月には同じカップリングで台湾でもツーマン(&現地バンドがスペシャル・ゲストを務めた)を実施。その際は、高雄と台北でプレイしたそうだ。
日本ではまだ知る人ぞ知る…といった存在のCRESCENT LAMENT(華語表記は“恆月三途”)だが、そのキャリアは長く、結成は’07年で、これまでにアルバム3枚をリリース。3作すべてがオリジナル・ストーリーを下敷きにしたコンセプト・アルバムというのも注目ポイントだ。今回の来日(&渡台)は、以前より交流のあったイリュージョン・フォースが尽力して実現したそうで、CRESCENT LAMENTとしても日本でライヴを行なうのは宿願だったようだ。
そのサウンドは劇的にして壮麗。紅一点シンガーに時おりグロウルが絡み、どのアルバムでも悲劇や悲恋が綴られていることから、また、ヨーロッパのゴシック・メタル・バンドから多大な影響を受けているのもあり、情感豊かな哀愁をまとう。ただ、初期は欧州志向が強かったものの、セカンド『花殤』(’15年)より近代台湾史に基づいたテーマを採り上げ始め、続くサード『噤夢』(’20年)もその続編ということで、歌詞も英語から(北京語や台湾華語ではなく)台湾語にし、当地の伝統音楽の要素が一気に強まった。その点では、今やオリエンタルなフォーク・メタル一派と見なすことも可能かもしれない。エキゾティックでありながら随所に日本統治時代の影響も滲ませ、それが日本の演歌や唱歌を思わせるため、我々日本人にはどこか懐かしさを感じさせる瞬間が多々あることも特筆しておきたい。
CRESCENT LAMENT
現バンド・ラインナップは、ムーア(vo)、ワット(g)、ジェウ(b)、コメット(dr)、セバスチャン(key)、ジェダイ(二胡)の6人。ただ、現在ジェダイは言わば育休中で、今回の来日には帯同せず。サポート・メンバーとしてコビーが起用され、さらに三味線奏者として廣原武豪も客演していた(東京初日公演には不参加)。ちなみに、その廣原──見た目も日本人っぽいが、れっきとした台湾人。何でも三味線の名取になった際、日本人の師匠から日本風の名取名(芸名)をもらったのだとか。
Muer(vo)
Wat(g)
Jew(b)
Komet(dr)
Sebastian(key)
Coby(erhu:support)
Takehide Hirohara(shamisen:guest)
ライヴを観て驚いたのが、ギター、二胡、三味線のコンビネーションの素晴らしさ。エキゾティックなリード・メロディーは壮絶なる哀愁の源泉である二胡に任される場面が多いものの、当然ギター・ソロも多くの曲にあり、ワットのエモさ満点のメロディアスなプレイが何とも絶品。しかも彼は典型的な“顔で弾く”タイプで、殊に泣きのフレーズなどは、表情の豊かさがエモさを何倍も増幅させていた。
恐らく、すべてのオーディエンスがド肝を抜かれたのが、二胡による速弾き。超高速の琴弓捌きは、「二胡ってこんな使い方も出来るのか!?」「二胡の超絶シュレッドや〜!」と、ただただ驚愕するしかない。いやはや、実際コビーのテクは想像を絶しており、サポート・メンバーとはいえ、その存在感は時にワットや、フロントマンのムーアをも凌駕していた。
他にも、コメットがイカついマスク着用でドカドカ叩いていて、そういえばソニックのドラマーもそうだったな…と思わされたり、セバスチャンがショルキーを多用していて、鍵盤奏者なのにやたらアクティヴだったり、コメットと廣原はかなり日本語が達者で、ムーアもカタコトながら頑張って日本でMCしてくれたり…と、付言すべき点はまだ沢山あるが──最も強調しておきたいのは、CRESCENT LAMENTというバンド自体の並外れたポテンシャル。こんな極上のバンドが、これまで日本のHR/HMファンに広く知られていなかったなんて…本当に勿体なさ過ぎる。これを機に、少しでも知名度アップすることを期待したい。
そして──最後に、共演したイリュージョン・フォースが来年、イタリアのフロンティアーズ・ミュージックよりワールドワイドにアルバム・デビューを飾ることも付け加えておこう。両バンドには是非、また近いうちにカップリングでライヴを行なってもらいたい…!!
ILLUSION FORCE
Yuya Shiroumaru
George Shiroumaru
では──次ページにて、YG初登場となるワットのインタビューをお届けしよう!!
インターネットで色んなバンドを発見して、ロックやメタルにハマっていった
YG:初めて日本でプレイしていかがでしたか?
ワット(以下W):東京と大阪でプレイしたけど、それぞれ雰囲気も違っていて楽しめたよ。東京の初日はイベント出演だったけど、大阪ではイリュージョン・フォースとの対バンで、普段の台湾での公演と同じような感覚で臨めたな。ただ台湾では今、メタルコアが人気で、ライヴをやるとその手のお客さんが多く来場するんだけど、大阪ではパワー・メタルのファンが沢山いて、それも良かったね。
YG:CRESCENT LAMENTのライヴを観たのは初めてだったんですけど、あなたの“顔で弾く”プレイに圧倒されました。
W:それぞれの楽曲の背景などを思い描きながら弾いていると、自然とああいった表情になるんだ。
YG:実にエモくて最高です!
W:ありがとう(笑)。
YG:では、初インタビューということで、まずは基本的なことから。ギターを始めた年齢とキッカケは?
W:15歳の時、何か楽器がやりたいな…と思ってね。それで、最初はアコースティック・ギターから始めたよ。当時はあまり音楽に入れ込んでいなくてさ。ゲーム・ミュージックは好きだったけど、ロックに限らずポップスを聴くことすらあまりなかった。それで、音楽教室でクラシック・ギターのレッスンを受けることにしたんだ。
YG:では、好きなバンドがいて…ということもなく?
W:そうだね。どんなバンドがいるのかもよく知らなかったよ。
YG:何か楽器を…と思い立った時、ギターを選んだ理由は?
W:そうだな…持ち運びに便利だからかな?(笑)
YG:ピアノだったら持ち運べないし?
W:そうそう(笑)。
YG:その後、ロック/メタル方面に進んだのはどんな経緯で?
W:クラシックのレッスンを始めて2年ぐらい経った頃、インターネットで色んなバンドを発見して、「これは面白いな!」と思い、ロックやメタルにハマっていったんだ。でも、まだYouTubeもサブスクもなくて、掲示板などの文字情報しかなかったんだけどね。
YG:初めてのバンドは?
W:レッスンは3年ほど続けたけど、ギター教室ではバンド仲間が見つけられなくてさ。老人ホームで演奏するなどのボランティア活動ぐらいしかやっていなかった。でも、すっかりロックにハマっていたから、エレクトリック・ギターを手に入れて教則本を買い、友人を誘ってバンドを組むことにしたんだ。当時は色々なバンドをコピーしたよ。みんなそれぞれ好きな音楽が違っていたから。それこそ、パワー・メタルからインダストリアル・メタルまで、各メンバーのやりたい曲を選んで、何でもやっていたな。
YG:具体的にはどんなバンドでしょう?
W:ハロウィン、ストラトヴァリウス、それからマリリン・マンソンとか。あと、パンクのコピーもやってたよ。高校に入ってからも、また違うコピバンで活動し始めたんだけど、そこではオリジナル曲もプレイしていた。メタルコアっぽいヤツをね。ライヴは学園祭でやったりとか。
YG:メタルコア系で好きなバンドは?
W:メタルコアではないけど、そっち系だとイン・フレイムスが好きだよ。
YG:CRESCENT LAMENTのメンバーとはどのようにして知り合ったのですか?
W:大学院生の頃、共通の友人を通じてヴォーカルのムーアと知り合い、当時のギタリストが海外留学のため脱退するとのことで俺に声が掛かったんだ。CRESCENTのことはそれ以前から知っていて、大学祭などでライヴも観たことがあったよ。
YG:CRESCENT LAMENTの楽曲はドラムのコメットが書いているそうですが、ギター・パートも彼が考えるんですか?
W:いや、彼から最初にもらうのは、ドラムとキーボードしか入っていない音源なんで、他のパートに関してはそれぞれのメンバーが加えていくんだ。コメットからギター・パートをどうしたいのか言われることもあるけどね。
YG:ワットが加入した時、CRESCENT LAMENTにはもうひとりギタリストがいましたよね?
W:うん、タウアーがいたよ。でも彼には他にやりたい音楽があったし、日々の生活のこともあって5年ぐらいで脱退したんだ。
YG:タウアー脱退後はシングル・ギターのまま活動し続けていますが、CRESCENT LAMENTは、あなたとタウアーが加わる前もツイン・ギター編成でしたよね? 結局、タウアーの後任を迎えなかったのはどうしてですか?
W:今はギター2本のパートそれぞれから欠かせない方を俺がプレイし、もう1本のパートは他の楽器で補うようにしていて、それでも遜色ない…ということになったんだ。だから、もうツイン・ギターにする必要はないのさ。
YG:そういえば、以前はヴァイオリン奏者もいましたが…?
W:ヘヴンだね。彼女はファースト・アルバム(’11年『BEHIND THE LETHAL DECEIT』)のレコーディングには参加したけど、一緒にライヴをやったことはないんだ。
YG:今回、ここ2枚のアルバム(『花殤』&『噤夢』)でプレイした二胡奏者:ジェダイは来日していませんね?
W:彼は子供が生まれて父親になったんで、今はライヴ活動から離れているんだ。脱退したワケではないよ。特に今回は、台湾を離れて日本に来るのは難しかった。それで、若いサポート・メンバーを起用している。コビーだよ。
YG:日本公演のためにリクルートしたのですか?
W:いや、その前の9月のライヴからだ。10月にイリュージョン・フォースを台湾に呼んで、一緒にプレイした時もサポートを務めてくれた。
YG:ということは、まだ2ヵ月しか経っていないんですね! もう全曲すっかり自分のモノにしていましたが…?
W:そうだよ、凄いヤツだろ?(笑) まだ25歳なのにね!
YG:では、日本へ持ってきたギターを教えてください。
W:PRSギターズの“SE TORERO”だ。台北の楽器店で色々と試奏している時、「メタルをやるのに最適なピックアップが載っているな」と思い、音が気に入って購入したんだよ。PRSの中では値段が手頃なのも魅力だ。フロイドローズのトレモロを搭載しているよ。
YG:地元でライヴをやる時は、他にも弾くギターがありますか?
W:大学生の時に手に入れたジャクソン・ギターがあるよ。“MADE IN JAPAN”というのを見て、「それなら買おう」と思ったんだ(笑)。
YG:日本製だから安心…と?
W:その通り!
ワットの足元。Line 6のギター・プロセッサー“HX Stomp”、ジム・ダンロップのミニ・ワウ“Cry Baby”、ゼンハイザーのワイアレス・システム“XSW Digital”を使用していた。
YG:ちなみに、初めて買ったエレクトリック・ギターは?
W:名もなきメーカーの安物だった(笑)。
YG:ライヴではグロウルも兼任していましたが、アルバムではゲストを起用していましたね?
W:うん、ケニーだ。プロデュースを手掛けてくれたジェシー(リュー:ソニックのギタリスト)のバンド(INFERNAL CHAOS)のシンガーさ。実は、台湾での9月のライヴではゲストで出てくれたんだよ。
YG:あなたはアルバムでは歌っていませんか?
W:うん。レコーディング当時は、自分が歌えるなんて思ってもみなかったよ。でもライヴで誰かがケニーのパートをやらなくちゃいけない…となった時、自分から立候補したんだ。以前は、前任キーボーディストのワロースがグロウル担当だったんだけどね。
YG:レコーディングの際、ジェシーからギター・パートやプレイに関して何かアドヴァイスされたことは?
W:幾つかのパートについて、「ここはアレンジを変えた方がイイ」と言われたな。あと、彼が使っている弦をオススメされた。アーニーボールの“Paradigm”シリーズだよ。凄く弾き易いし、切れ難いから気に入っている。
YG:ギターのチューニングは?
W:全曲レギュラー・チューニングだ。
YG:ところで、サード『噤夢』からもう3年経ちますが、次のアルバムの予定は?
W:まだ取り掛かってはいないけど、コメットには色々とアイデアがあるみたいで、ちょっとした話はしているよ。
YG:あなたは作曲には関わらないのでしょうか?
W:これまでの3枚はどれもコンセプト・アルバムだったから、一貫した方向性があって、1曲だけ誰か他のメンバーが書くということは考えられなかった。まぁ、次のアルバムの方向性などが決まったら、その時に考えるよ。他のメンバーと一緒に書くとか、自分にも何か出来ることはあると思うからね。
YG:楽しみにしています!!
W:ありがとう! 期待していてくれ!!
[from L.]Jew、Takehide Hirohara、Sebastian、Muer、Coby、Komet、Wat
公式インフォメーション
Crescent Lament
(インタビュー&撮影●奥村裕司 Yuzi Okumura 通訳&翻訳●Mindy Chan)