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いちファンとして、いちばんこだわったのは「当時のファンに楽しんでもらうこと」ーー『アイカツ!×プリパラ THE MOVIE -出会いのキセキ!-』大川貴大監督に聞いたメイキングドラマ【インタビュー】

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

『アイカツ!』のあかりGenerationと、プリティーシリーズの『プリパラ』が10周年を記念してタッグを組んだ完全オリジナル映画『アイカツ!×プリパラ THE MOVIE -出会いのキセキ!-』が、10月10日(金)、ついに全国で劇場公開となった。

『アイカツ!』と『プリパラ』、二つの世界の時空が歪み、“融合空間”が生まれたことで交流することになったスターライト学園とパラ宿のアイドルたち。合同ライブフェスで夢のコラボレーションステージを楽しんでいたものの、次々と異変が発生。それを解決するには、もとの時間軸に戻ること。そして、その時間軸に戻るための鍵は「アイドルの輝き」。それを結集させるために、あかり、らぁらをはじめとしたアイドルたちが「ライブをしまくって、好きなメンバーで好きな曲をじゃんじゃん歌う」ことに……?

今作で監督を担っているのは『アイカツ!シリーズ』に作画・演出などに携わっていた大川貴大さん。スクリーンいっぱいに広がる“アイドルたちのキセキ”の軌跡を大川監督に伺いました。

 
※物語の一部に触れている箇所があります。気になる方はご注意ください。

 

【写真】『アイカツ!×プリパラ』スペシャルな邂逅の裏側を大川監督に聞く【インタビュー】

“信頼”が生み出すコラボレーション

──この企画が立ち上がる経緯からお伺いできればと思います。まず大川さんが監督として今作に参加されることになったきっかけを教えていただけますか。

大川貴大監督(以下、大川):「こういう企画が提案されているらしい」という話自体は、オファーをいただく前から耳にしていたんです。だから正式にコラボレーションが決まったと聞いたときは「えっ、本当にやるんですか?」というか(笑)。驚きのほうが先に来ました。でも絶対に面白くなるだろうし、もともと自分も両作品が好きなので「ぜひ参加したい、何かやらせてください」とずっと周囲に話していたんです。それで冗談半分で「監督をやれたら最高なんですけど」と言っていたら、本当にそうなったというか、選んでいただいたというか……。まさか本当に監督というポジションでお声がけいただけるとは思っていなかったので、決まったときは嬉しさと同時にプレッシャーも感じましたね。両作品のファンの気持ちを背負うことを考えるとその責任の重さに身が引き締まる思いでした。

──今回のコラボレーションが発表になったときも大反響でしたね。両作品とも熱いファンが多い印象があります。

大川:そうなんです。当時観てくださった方はもちろん、その後10年間ずっと追いかけているファンの方もたくさんいらっしゃるので……。だからこそ絶対に期待に応えなければ、という気持ちで臨みました。

 

 

──スタッフの皆さんも豪華なメンバーがそろっていますが、チームを組むうえでどのようなことを意識されたのでしょうか。

大川:バランスでしょうか。僕自身はどちらかというと『アイカツ!』側からの参加です。脚本には『プリパラ』側から土屋(理敬)さんに入っていただき、そこで両陣営のバランスをとるようにしました。総作画監督の秋津達哉さんは、以前から『アイカツ!』を手掛けられていて、『アイドルランドプリパラ』にも作監として入っていて。両作品で作監を担当された、貴重なクリエイターということで今回お願いしました。

──さらに、3DCGディレクターには乙部善弘さんのお名前が。完成直前のものを拝見させていただいたのですが、ライブシーンがすごいことになっていますね。

大川:乙部さんは『プリパラ』のステージ演出も素晴らしかったですし、当時から「すごい方だ」ということは耳にしていました。今回CG部分に関してはほぼ乙部さんにお任せしています。ステージのカメラワークや細かい見せ方に関しても全幅の信頼を寄せていました。僕は大きな方向性を出すくらいでしたね。

──大川監督からはどのような方向性を示されていたのでしょう?

大川:既存の曲に関しては当時を懐かしむという意味でも、なるべく当時のカメラワークをベースにという話をしていたので、そこに関してはあまり大きく変えず、当時の雰囲気を残すようにしています。だから何かを言うことはそこまでなくて。新曲のステージでは、頭の部分のセリフや構成、オーラの出し方など、要所要所で「ここはこうしたい」という意見を出す形でした。

──プリティーシリーズの大庭晋一郎氏(タカラトミーアーツ)ともお話し合いなどあったのでしょうか?

大川:はい、シナリオチームとして参加していただいているので、いろいろとお話させていただきました。大庭さん自身、当時から「こういうのができたらよかったな」という思いをお持ちだったとうかがっています。だからこそ、積極的にアイデアを出していただきました。

 

 

──また、スーパーバイザーとして、それぞれの監督である木村隆一さん、森脇真琴さんがクレジットされています。おふたりとはどのようなやりとりをされていたのでしょうか?

大川:実は直接の話し合いはしていないんです。もちろん企画の段階でプロデューサー陣から説明があったと思うんですが、僕自身としては、シナリオができたタイミングやコンテができたタイミングで「今こういう状況です」と見ていただいて、見守っていただいた形でした。

──作品を生み出したおふたりから「うちの子たちをよろしく」と言ってくださっているような。

大川:まさにそんな感じでしたね。お二方がいてくださる安心感があったからこそ、自分も自由に取り組むことができました。

 

 

楽曲づくりもお互いの“らしさ”を大切に

──『アイカツ!』と『プリパラ』がコラボしたら「絶対に面白くなるだろう」という予感があったというお話がありましたが、両作品はアイドルとしての方向性は異なっていると感じます。その辺りはどう考えられていたのでしょう?

大川:正直、最初は誰も想像できていなかったと思います(笑)。シナリオが動き出すまでは「本当にどうしよう……」という手探りの状態でした。ただ、お互いの“らしさ”を潰さないことは最初から意識していました。下手に譲り合って寄り添うという形を取ると印象が変わってしまうと思ったので、「遠慮せず自分たちのらしさを出していこう」という話になりましたね。

──あえて譲り合わない形というか。

大川:そうですね、本当に。特に『プリパラ』はギャグや破天荒な展開が多いですが、そこはもう存分にやっていただいてと。

 

 

──大川監督はそれぞれの“らしさ”はどんなところだと分析されていますか?

大川:『アイカツ!』らしさは、やっぱり「前向きさ」だと思います。『アイカツ!』はお仕事ものとしてのアイドルを描いているので、結構リアルな問題にぶつかるんですよね。でもどんな困難にぶつかっても、諦めず、みんなで努力して乗り越えていく。その姿勢が『アイカツ!』らしさだと思います。

一方の『プリパラ』は、それぞれのアイドルの個性がとても際立っている。みんなそれぞれが「なりたい自分」を目指して、自由に活動しているんです。だから『プリパラ』では、キャラクター同士がぶつかることや意見の食い違いもあるけれど、根っこの部分の気持ちは同じで、最終的には自然とまとまっていく。もしかしたらたどり着く場所は同じでも、そこに行くまでの過程がまったく違うのが面白いと感じています。

──ある意味「前向きさ」は両方に共通する部分でもありますよね。

大川:確かに、それは共通しているかもしれません。やっぱりみんなの明るさが大きな力になっていますね。

──では監督が映画を作られる上でいちばんこだわられたところというと?

大川:やはり第一に「当時のファンに楽しんでもらうこと」です。“第一”というか、それが全ての大前提。少しでもファンが喜べる要素があればどんどん入れていく、という気持ちで作っていました。というのも、僕自身もいちファンなんですよ。実は“あかりGeneration”と呼ばれる当時の『アイカツ!』(3rdシーズン)、そして『プリパラ』にはスタッフとしては関わっていないんですよね。いちごが主人公の『アイカツ!』がはじまった年に、自分が業界入りしているんです。

──ということは、2012年以前は別のお仕事をされていたということでしょうか?

大川:そうです。それまでは他社で働いていたので、全然関わっておらず。ただ、当時から普通に視聴者として『アイカツ!』や『プリパラ』を観ていたんです。その後『アイカツスターズ!』から制作側として参加するようになったので、ファンの視点からしか描けないものがあるんじゃないか、という思いはありました。

──今回のテーマになっている「出会いのキセキ」という言葉は、大川監督の提案だったのですか。

大川:誰かひとりが出したというよりは、最初のシナリオ会議で自然と決まってきました。そもそもこの企画自体がキセキみたいなもので、「出会いのキセキ」というフレーズがすっと出てきた、という感じでしたね。

 

 

──両アイドルのステージ演出や音楽面でのこだわりについても教えてください。

大川:実はステージの采配や、どの楽曲を誰が歌うかといった基本的な部分は、僕が監督に決まる前にすでに決まっていたんです。そのベースをもとに物語を作っていく、という流れでした。ですので、僕の立場から詳しくはお話しできない部分もあるのですが、とにかく「全アイドルを満遍なく活躍させたい」と思っていて。おそらく既存曲もすべて何かしらの新録があったんじゃないかなと。

──かつ、ステージでは新曲の「ハッピーチューニング」も披露されていて。そして、エンディングテーマ「プリティー×アクティビティ」があり、両作のコラボならではの楽曲になっていますね。

大川:そうですね。「ハッピーチューニング」と「プリティー×アクティビティ」も、初期の発注の段階から関わり、少しずつ出来上がっていく過程を見させていただいていました。

今回の楽曲制作は、両作品に関わる作家さんが交互に関わるような形になっていて。たとえば「ハッピーチューニング」は、作曲が『プリパラ』楽曲を手掛ける本多友紀(Arte Refact)さんだったので、最初に上がってきたデモはどちらかというと『プリパラ』っぽい印象があったんです。でもこだまさおりさんの詞がついて、中野領太さんが編曲をして……と、作詞と編曲は『アイカツ!』側の方々だったので、どんどん『アイカツ!』要素が入ってくるというか。

──お互いの個性を持ち寄るような形に。

大川:そうですね。楽曲づくりに関しても、本当にさっきの話のように各々のクリエイターさんたちが“らしさ”を出し合って、それまでやってきたことを出した結果、良い感じで融合していて、どちらの曲にも聞こえる。それも本当に、コラボレーションとしてとてもいい着地点になったという印象です。

 

 

なにも変わっていない。それを楽しんで欲しい

──当時楽しまれていたファンの方に楽しんで欲しいというお話がありました。一方で、まだ両作品を知らないお子さんも楽しめそうですよね。

大川:そうですね。特に今、プリティーシリーズだと『ひみつのアイプリ』がお子さんたちの間で人気が高いので、そういうきっかけで今回の作品を見るお子さんもいらっしゃると思います。ステージが満載なので、それを見ているだけでも楽しめるんじゃないかなと。

──衣装もすごくきらびやかですし。

大川:すっごくキラキラしていますよね。それに今でしたら配信で過去の放送も見られますから。エピソードは大量にあるので(笑)、楽しんでいただけるかなと。

 

 

──年齢層はどのあたりを意識していたんですか。

大川:当時子どもだったファンの方たちに向けた作品、というのが第一ではあったのですが……ただ、当時から両作品、ファン層はかなり広かったんですよね。そういう意味でも、今作が当時と違うのは、完全に子どもだけに向けたものじゃないというところではあるかもしれません。ただし「大人向けに作った」というわけではなく、当時の雰囲気や空気感をそのまま持ち込んで、懐かしさを感じてもらうことを大切にしているので、なにも変わっていないところを楽しんでもらいたいなと。そこは、あえてそういう作り方にしています。

──劇中、「キセキ」という言葉をあかり、らぁらが使う場面がありますが、監督自身がキセキを感じた瞬間というのはありましたか。

大川:もう何度も感じましたね。特に大きかったのは、人が集まってくれたことです。今回、作品のボリュームに対して制作期間は限られていましたし、今のご時世的にアニメ映画もたくさん公開されていて人材確保が難しいんじゃないかと最初は危惧していました。でも、業界の中にも当時から『アイカツ!』や『プリパラ』が好きだった方がたくさんいらして、当時のスタッフさんも含めて快く「ぜひ参加したい」と引き受けてくださった。結果的にスタッフがすぐ集まってくれて、「作品のパワーってすごいな」と感じました。

──大川監督のように、当時作品が好きだった方が業界に入ってきているというのもあるんでしょうか。

大川:それも大きいと思います。今回、タツノコプロさんCG班に、放送当時はまだ学生で、『アイカツ!』も『プリパラ』も両方好きで見ていたという女性スタッフの方がいて。その方がステージの衣装を決めるときなど、積極的に「このキャラならこれが似合うんじゃないですか」とどんどんアイデアを出してくださったんです。そういう熱意もうれしかったですね。

 

 

──SNSなどで情報が出るたびに大きな反響がありますが、ファンのリアクションを、監督はどのように受け止めていますか。

大川:純粋にうれしいですし、本当に皆さんが楽しんでくださっている様子や、当時を懐かしむ空気がすごく伝わってきます。情報が公開されるたびに、その反応を見るのが自分も楽しみです。

──先ほど「いちファンだったから」というお話もありましたが、だからこその喜びというのもありますか。

大川:やっぱりファンだったからこそ、「この情報はきっと驚いてくれるだろうな」とか「ここは喜んでくれるだろうな」というのが何となくわかるので、だから実際にそういう反応をいただけるとすごくうれしいですね。こんな言い方をしてしまうとあれなのですが、こういう作品なので「既存のステージを使い回しているのかな」と思われるかもしれませんが、全部新規のコラボステージなんです。

──しかも「この曲をこのメンバーで!?」という驚きがありました。

大川:本当にそうですね。やはり一番の見どころはステージです。あれだけ新ステージだらけだと、1回見ただけでは気づけないポイントもきっと多いんじゃないかなと。背景にも細かい演出がたくさん仕込まれているので、何度も楽しんでいただけたら嬉しいです。

──2026年3月21日(土)&22日(日)にはリアルでの 合同ライブも発表されました。映画の中でのコラボ曲が聴けるのかな……?と期待を寄せております。

大川:そうですね。先日リアルライブも発表されていて、そちらも楽しみにしていただけたらと思います。

 

「こういう前例ができたのは大きいかもしれない」

──今回のコラボレーションがアイドルアニメのシーンにおいて、どのような一歩になったと考えられていますか?

大川:アイドルアニメという大きなジャンル全体で考えると、一概には言えない部分もあるのですが……。実際に、映像にしてみるまでは自分たちもどうなるか想像できませんでした。でも実際にやってみたら、全然タイプが違うアニメでも、ステージに立てばアイドルとしての輝きは同じだと実感できたんです。これから先、もしかしたら他の作品ともこうしたコラボがあってもいいのかなと思いますけどね。ひとつこういう前例ができたのは大きいかもしれません。

──確かに、今後への期待が広がりますね。

大川:自分自身も他のアイドルアニメが好きなので、また別の場所でこうした企画が生まれたら楽しいだろうし、自分も見たいなって思います。

 

 

──最後に、大川監督から読者の方へ一言いただけたらと思います。

大川:今回は“融合空間”という特別な場所でステージが展開されます。『プリパラ』は観客も含めてみんながアイドルという世界観ですが、今回の客席にはそれに合わせて『アイカツ!』のスターライト学園の子たちが集まっていて、客席全体がまさにアイドルの空間になっているんです。当時、筐体などでアイドルとして楽しんでいた皆さんもたくさんいらっしゃると思うので、ぜひ自分を重ねるような気持ちで、「自分もアイドルなんだ」と感じながら、一体となってライブを盛り上げていただけたら嬉しいなと。

──『プリパラ』10周年のときに森脇監督たちにお話をうかがった時に、自分が入り込める作品という話をされていて。その時に、まさに参加型であること、そしていわゆるモブである女の子たち全員に名前があるというこだわりを伺いました。それで栄子(A子)が序盤に登場するっていう。

大川:ああ、なるほど! 「み~んなトモダチ!み~んなアイドル!」を掲げる『プリパラ』ならではのお話といいますか。でもまさにそれは今回の作品でも大切にしていることのひとつで。ひとりひとりのアイドルの力が集まって、キセキが生まれていくんです。

 
[インタビュー/逆井マリ]

 

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