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コロンビアが生んだ現代の巨匠による“やわらかくてかわいい”名作たち 『ボテロ展 ふくよかな魔法』を鑑賞

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『ボテロ展 ふくよかな魔法』

“豊満”な独特の画風で知られるコロンビア出身の巨匠、フェルナンド・ボテロに光をあてた大規模展『ボテロ展 ふくよかな魔法』が、4月29日(金)に東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開幕した。ボテロ本人が監修した本展には初期から近年までの油彩を中心に、水彩・素描など70点の作品が来日。近作の《モナ・リザの横顔》も世界初公開され、90歳を迎えた現在も精力的な活動を続ける彼の軌跡をたどることができる。ここでは開幕直前に行われた内覧会の様子とともに本展の見どころを紹介していこう。

唯一無二の魅力を放つ画家、フェルナンド・ボテロ

世界各地で人気を博しているボテロ展であるが、日本での大規模な開催は26年ぶり。本展では、70年以上にわたるボテロの画業を7つのテーマに分けて紹介している。そのうち第1章の「初期作品」はボテロの監修の中に当初なかったが、彼が独自の画風を築く以前の作品を見せたいという関係者の強い希望によって追加されたパートだという。

会場入り口

フェルナンド・ボテロは1932年にコロンビア第二の都市・メデジンで生まれた。4歳の時に父親を亡くし、決して裕福とはいえない環境で育ったが、既に幼少期の頃から「自分はいずれ芸術家になる」という揺るぎない自信を持っていたそうだ。その才能に偽りはなく、19歳の時には首都・ボゴタで初の個展を開く。さらに翌年に国主催のコンクールで2等賞を獲得し、その賞金でヨーロッパに渡る。

フェルナンド・ボテロ《泣く女》 1949年

ここには17歳の頃に描いた《泣く女》をはじめ、渡欧前後に制作された4つの作品が展示されている。ボテロが彼の特徴的な“ふくよかな表現”に開眼するのは20代前半のことだが、《泣く女》に描かれたアンバランスな腕の太さなどからは、それ以前から後の画風の片鱗があったことが伺える。

独特な世界のはじまりは「静物画」

第2章は静物画がテーマだ。本展のポスターなどにも女性の絵が多用されているので「ボテロ=人物画の人」と思われがちだが、日本側の学芸員として本展に携わった女子美術大学の三谷理華教授は「静物画こそ、じっくり見てほしいジャンル」と語る。

「2章 静物」の展示

その一番の理由は「ボテロ独特の表現方法は静物画を描く中から生まれたこと」にある。渡欧してスペイン、フランス、イタリアで中世の西洋美術に触れたボテロは、その後、メキシコに移り住んで2年近くを過ごしている。その頃に自宅でマンドリンを書いていた際、サウンドホール(ボディの穴)を小さく描いてみたら全体の輪郭が膨張したかのように見えた。彼はそれにヒントを得て、ボリュームの対比とデフォルメの中に自分が進むべき道を見出したという。本展の展示作品でも《楽器》の中にサウンドホールの小さな弦楽器を見ることができる。

フェルナンド・ボテロ《オレンジ》 2008年

その上で三谷氏は「物の形やボリューム、色彩を描くことに関心を置いたボテロにとって、意味から解放された静物画は最も取り組みやすいジャンルだったこと」と「ヨーロッパの伝統を意識する中で、それを反映しやすいのが静物画だったこと」もこの章を注目すべき理由に挙げる。

手前:フェルナンド・ボテロ《楽器》 1998年

これらの点は、縦2メートル以上のキャンバスに描かれた巨大な《洋梨》などを見るとわかりやすい。ボテロはデフォルメの手法を人物だけでなく静物画にも当てはめて描いた。その様式の一貫性が同じものを描いた静物画であっても、それがはっきり彼の作品と分かる個性を生んでいる。

左:フェルナンド・ボテロ《赤の花》 2006年 右:フェルナンド・ボテロ《洋梨》 1976年

一方で、洋梨の実からは小さな虫が飛び出し、右上にはかじられたような跡がある。これはヨーロッパの古い静物画における「ヴァニタス」を彷彿とさせる表現で、命あるものもいつかは朽ち果てるといった寓意としてヨーロッパの伝統とボテロのつながりを感じさせる点である。

ボテロの記憶の中にある祖国・コロンビアの風景

第3章「信仰の世界」から第4-1章「ラテンアメリカの世界」に続く次の空間に進むと、ボテロ独自の解釈で描かれた宗教画と人物画の大作が視界に入ってくる。きっと難しいことを考えなくても、すごい、かわいいというシンプルな感情が沸き上がってくるはず。

左:フェルナンド・ボテロ《カーニヴァル》 2016年 右:フェルナンド・ボテロ《バーレッスン中のバレリーナ》 2001年

民族アイデンティティへの意識が高まり、芸術においても“メキシコ・ルネサンス”と呼ばれる活動が盛んになった時代にメキシコへ移り住んだ20代半ばのボテロ。彼はここでの経験を経て、自身のルーツや子どもの頃の記憶を作品の中に投影しはじめる。それと同時に、メキシコ芸術のパッションあふれる色遣いにも大きな影響を受けている。この空間では16世紀以降のスペインによる植民地化によって中南米に普及したキリスト教にまつわる作品、そして彼が生まれ育ったコロンビアの市井の様子を描いた作品を見ることができる。

左:フェルナンド・ボテロ《コロンビアの聖母》 1992年

ふくよかな人物のインパクトとともに興味深いのは、これらの作品が現実の世界をモデルにしているのではなく、ボテロ本人の青年時代の記憶から描き出されている点だ。コロニアル時代の名残がある祖国で長きにわたって特権的な立場であり続けた聖職者たちも、《神学校》や《バチカンのショールーム》のようにアイロニーを含んで描かれている。また、手足が非常に小さい《キリスト》や大粒の涙を流す《コロンビアの聖母》のように、伝統的な宗教的題材もボテロが描くととても愛らしい表現になる。

「4-1章 ラテンアメリカの世界」の展示

一方で《通り》や《大統領と閣僚たち》など、コロンビアを題材にした作品の中にはさまざまなルーツを感じさせる人々が描かれている。そこからはボテロの中にある故郷の風景が感じられるとともに、多民族国家である同国の実像や文化が垣間見える。ただ、それでいて多くの人物は無表情で描かれ、その表情や動作の中に意味を読み解くことは難しい。そこはやはり意味よりも形、ボリューム、色彩を描くことに関心を持ち続けてきたボテロらしさといえるだろう。

フェルナンド・ボテロ《空中ブランコ乗り》 2007年

その後は近年精力的に取り組むドローイングと水彩画の展示を経て第5章の「サーカス」へ。さらに第6章の「変容する名画」へと続いていく。

“ボテロマジック”でふくよかに生まれ変わる世界的名画たち

ボテロにキャリアのターニングポイントが訪れたのは31歳を迎えた1963年のことだった。この年、ニューヨークのメトロポリタン美術館に《モナ・リザ》が展示されたのと同時期に、ニューヨーク近代美術館(MoMA)にボテロが描いた《12歳のモナ・リザ》が展示された。これが大きく話題を呼び、彼が世界的に知られるきっかけになった。

「6章変容する名画」の展示

この作品のように彼は尊敬する巨匠たちをオマージュを捧げた作品を「バージョンズ(翻案)」というシリーズに残している。《ゴヤにならって》や《フォルナリーナ(ラファエロにならって)》など、甘美さや官能的な魅力を持つ名作もボテロによる形と色彩の魔法、そしてユーモアによってやわらかな魅力が加わった作品に生まれ変わっている。その中でドミニク・アングルの肖像画をもとにした《アングルによるモワテシエ夫人にならって》については、モデルが麗しいご婦人から“おじさん”に変わっていることに驚く。なぜ、おじさんになってしまったのか。その理由は現地の作品解説で確認して欲しい。また、ここには2020年に制作された《モナ・リザの横顔》も世界初展示されているのでお見逃しなきよう。

フェルナンド・ボテロ《アンクルによるモワテシエ夫人にならって》 2010年

フェルナンド・ボテロ《モナ・リザの横顔》 2020年

かわいくもあり、どこか愛着を感じてしまう唯一無二の“ボテロワールド”は老若男女問わず幅広い人を魅了する。なお、本展入り口近くの中庭にはボテロ作の彫刻《小さな鳥》が特別展示されているので、行き帰りの際に忘れずチェックを。

フェルナンド・ボテロ《小さな鳥》 1988年 広島市現代美術館蔵

「ボテロ展 ふくよかな魔法」は、7月3日(日)まで東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで開催中。

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