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予約が取れない人気店をいくつも手掛けるシェフの経営哲学とは?

料理王国

予約が取れない人気店をいくつも手掛けるシェフの経営哲学とは?

飲食業でも働きやすい職場を実現できるはず。


社員が安定した環境で楽しく働き、お客に幸せを届ける。 そのパイを少しずつ広げていきたい。

「リ・カーリカ」 他3店舗 堤 亮輔さん

スタッフ25名は全員正社員雇用。働きやすい飲食店を作りたい

 「ビジネスにおいて“人”が一番大事」。これは、学芸大学・都立大学エリアに、人気イタリア料理店「リ・カーリカ」など4店舗を構える、堤亮輔シェフのモットーである。

 2018年の総務省調査によると、日本の飲食業界で働く労働者の80%以上は非正規雇用者。もちろん自ら望む人も多くいるのだが、自転車操業的な経営になりがちな飲食業界では、仕事量に見合った数の正社員を抱えることが難しい。そのため、数少ない正社員に負担がかかり、心身を壊したり、女性は妊娠出産を機に仕事を辞める人が多かったり、働き方において課題が多い業界だ。

 堤シェフのもとで働く従業員は、現在25名。実はスタッフ全員が正社員雇用だ。さらに「社員一人ひとりが能力を発揮できる」「結婚出産子育て中の女性社員も働きやすい」、そんな飲食店を作ろうと本気で取り組む。コロナ禍でもいち早く社員に向けて「雇用を守る」と約束し、業態をアレンジしたり、テイクアウトを駆使したり、人一倍動いてそのスタンスを貫いた。何をするにもまずは“人”が一番、その考えのルーツは一体どこにあるのだろうか?

 堤シェフは熊本生まれ、東京育ち。実は生粋のサッカー少年だった。「1人だけ目立つような個人プレーより、皆でパスを繋いで得点に繋げるようなチームプレーが好きなんです。仕事においても考え方は同じ。仲間は全力で守るスタイルです」と堤シェフ。

 2020年11月、学芸大学エリアにオープンした「リ・カーリカ ランド」は、ラボ、オフィス、グローサリー、イートインといった複数の要素を併せ持つ新拠点だ。朝は日本各地の食材を使った10種の副菜付きの体に優しい玄米粥、昼は発酵スパイスカレーを提供。夜は「カカオトーストといちじくバター」や「ブルスケッタ」などイタリア料理の枠にはまらないおつまみが楽しめるバーになる。時には各店舗のシェフが集まり、ここでメニュー開発も行なう。「女性社員が働きやすい店にしたかったんです。僕の会社で約7年働いてくれている女性社員はいま子育て中。夜は働けないけれど、朝営業や事務所勤務だったら比較的無理なく働けます。他にも妊娠中の社員や体調を崩した社員がいますが、レストランではなくバーなので、力仕事が少ないオペレーションで回すことができます。結婚妊娠出産を経ても、長年かけて培った能力をここで生かしてもらいたくて」と堤シェフ。またサッカーで例えると、「ディフェンスが攻め上がったときに、ミッドフィルダーなど誰かがフォローして守りに入り、チーム全体のバランスを保つ。やっぱり僕はチームプレーが好きなんです」。

約7~8年で4店舗展開。秘訣は社員の自主性にあり

 サッカー少年は、大学時代のアルバイトをきっかけに、イタリア料理に興味を持った。この道を極めたいと考え、大学を辞めて21歳でイタリア・トスカーナへ。現地で武者修行をして、帰国後は都内のイタリア料理やフランス料理、和食店などで経験を詰み、弱冠34歳で独立。それから約7~8年間かけて4店舗を展開した。高スピードで成長し続ける秘訣を聞くと、「自分が凄いのではなくて、社員の成長が速いんです。皆の自主性を引き出すことは意識していますね」と堤シェフは話す。

 例えば新店舗を出すとき、最初は堤シェフが店長としてお店に立つが、スタッフの成長を確認したら役割をスライド。また新人が入社したときは、少し慣れたら、指導担当の先輩を休ませる日を作って自立を促す。常に上がいる環境だと、その下に甘んじてしまうからだ。

 最近は社内に「料理研究開発部」「衛生管理部」「ワイン事業部」「イベント企画運営部」「販売促進部」「成長プログラミング部」「物販・テイクアウト部」の7部署を設立した。これには「トップダウンではなく、下からのアイデアを大切にしたい」という堤シェフの狙いがある。実際に、コロナ禍でのテイクアウト実施で培ったノウハウを生かして初のおせちに挑戦しようと「料理研究開発部」が提案。そのおせちを大ヒット映画「鬼滅の刃」に習った方法で売り出そうと、「販売促進部」が戦略を練った。おせちが日々成長していく様子をSNSにアップして、応援する気持ちを誘い、購入を促す作戦だ。「自分1人の力では限界があるけれど、スタッフが横並びになれば、可能性が広がっていく。若い人がすぐにやめてしまうと愚痴をこぼす飲食店経営者は多いですが、独立は『自分の城を持つ』というより『会社を持つ』『経営を始める』という視点でスタートすべきなのかもしれない」と堤シェフ。

 コロナ禍、飲食業界にとって苦しい状況が続くが、「何かやってやろう」と、堤シェフは今も駆り立てられている。直近の目標は、ECサイトを通じて全国にオリジナル商品を届けること。さらにはパスタ専門店の全国展開も想定している。夢は大きく、視野は広くだ。

堤シェフが「料理人3.0」である理由
スタッフは全員正社員雇用。女性が働きやすい職場な環境を。独立は「会社を持つ」という支店で。スタッフ自主性を大切にする。

堤 亮輔(つつみ・りょうすけ)。1978年、熊本生まれ、神奈川・東京育ち。大学時代のアルバイトがきっかけで、21才のとき料理の道へ。イタリア・トスカーナで修業し、帰国後は都内のイタリア料理店やフランス料理店、和食店を経験。学芸大学・都立大学エリアに出店し、2020年11月には4店舗目となる「リ・カーリカ ランド」をオープン。


本記事は雑誌料理王国2021年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。

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