『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』連載インタビュー第22回:監督・池添隆博さん×音響監督・山口貴之さん×音響効果・小山恭正さん前編|EDMが表現する「熱量」。『東島ライダー』に合う“ドンピシャな音”ができるまで
2025年10月より連続2クール放送中の『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』。
「仮面ライダーになりたかったから」 40歳になっても本気で「仮面ライダー」になろうとしていた男・東島丹三郎。その夢を諦めかけた時、世間を騒がす「偽ショッカー」強盗事件に巻き込まれてしまい……。『エアマスター』『ハチワンダイバー』の柴田ヨクサル先生の漫画を原作とする「仮面ライダー」を愛しすぎるオトナたちによる“本気の仮面ライダーごっこ”がここに開幕します!
アニメイトタイムズでは、各話放送後にインタビューをお届け! 第22回は、監督・池添隆博さん、音響監督・山口貴之さん、音響効果・小山恭正さんに本作の音楽やアフレコについてのお話を伺いました。
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【写真】『東島ライダー』池添隆博×山口貴之×小山恭正インタビュー前編【連載第22回】
原作を読んで「これはやらねば!」と思わされた
ーーまずは、 御三方が本作に参加するまでの経緯をお聞かせください。
監督・池添隆博さん(以下、池添):僕はライデンフィルムの横田幸介プロデューサーがきっかけです。前の会社の時からお付き合いがあった中で、10年ぶりくらいに連絡をくれました。その時に相談された仕事が『東島ライダー』の監督だったんです。
当時の僕はアニメ業界を辞めるつもりで、いろいろと執筆作業を進めていました。ただ、紹介された原作を読んでみると「これはやらねば!」と何故か思ってしまって。
ーーこれまで池添監督が手掛けられた作品とは全く違うタイプの原作だったと思います。「やらねば」と思った理由は、どういった点にあったのでしょうか?
池添:全てが好みというか、良さを引き出せそうなタイトルだなと。こういう熱い作品や突き進んでいくような作風がすごく好きなんです。
音響監督・山口貴之さん(以下、山口):自分も横田さんにお声掛けいただきました。
音響効果・小山恭正さん(以下、小山):僕は山口さんからですね。
山口:池添さんに「効果さん、どなたかいないですか」と聞かれた時、「おかしい音をつける効果さんがいますよ」と(笑)。
池添:言われました(笑)。最初に各所へのプレゼン的な本作のイメージPVを作ったんですけど、そこに音をつけてもらったじゃないですか。バッキンバッキンのやつ。
小山:はいはい。
池添:「そこまでする!?」と思うくらい、音が分厚いんですよ。他作品も見させていただく中で「いい音を付けるな」と感じていたので、小山さんにやっていただけて、本当にラッキーでした。
小山:イメージPVには、EDM強めのK-POP系が仮で当てられてて。監督の思い描く曲のイメージがそっちなんだなと。個人的にも好きなので、「これはいけるかも」と思ったりしました。
山口:僕自身は「そっちかぁ!」と思って、頭の中を切り替えた感じでした。
池添:国内のトラックもいろいろ聴いてみたのですが、やっぱり重厚感が違うんですよね。たまたま聴いていたジャンルがそっち系だったこともあり、ガチガチのEDMとトラックに重量感があるものをチョイスして、ざっとはめてみました。
ーーイメージPVがそういった方向性だったからこそ、小山さんにお願いしたという側面もあるのでしょうか?
山口:EDMには、四つ打ちのキック(バスドラムの音)がずっと入りますから。「バリバリのEDMでいく」という方向性になった以上、キックに勝てる音じゃないと、お話にならないんですよ。
更に言えば「クラブ的な盛り上がり方が欲しいんだな」と思ったので、音楽のボリュームは下げられない。 それを踏まえると、「音楽を大きく出していても勝てる音」が必要になります。そういう意味で小山さんにお願いした感じです。
小山:実はイメージPVに音を付けた後から、かなり時間が空いたんですよ。
しばらく経って、第1話に持っていった音は、『仮面ライダー』っぽい音に寄せていました。アタックの音も、初期の『仮面ライダー』の独特なの低い音と言いますか。絵を見て、一度そっち系で準備して行ったんです。ただ「PVの方がいい」と言われて、そこから修正した結果、「おかしい効果音」になったという流れだったと思います(笑)。
ーー人間が出しているとは思えない音が(笑)。
小山:そうですね。アクションシーンはそっち寄りなんですけど、ギャグシーンでは昔風を狙ったり、バラエティを狙ったりという名残はあります。
池添:そのバランスが丁度良かったです。
ーーそもそも池添監督がイメージPVを作った時に、スタイリッシュな方向性に持っていこうと思った理由は何だったのでしょうか?
池添:何て言うんでしょう……原作モノの経験は少ないですが、もちろん本来は原作に沿うべきなんですよね。前提として、原作を読んでいる方の期待に応えるのがアニメ化だと思います。
ただ、この作品に関しては「原作とは差別化したい」と思ったんですよ。なので、今回のようなイメージPVを作るのも初めてでした。原作サイドに見ていただく意味でもPVを作って、「僕が思うのはこういう形なんですけど、いかがでしょう?」と提案したかったんです。ことのほか、それが気に入っていただけました。 何よりも柴田先生に「こういうの観たいよ!」と言っていただけて。もし「嫌だ」と言われたら、今の形にはならなかったと思います。
ーーそのイメージPVがTeddyLoid(テディロイド)さんの起用にも繋がるわけですね。
池添:そうなんです。改めて作って良かったと思いました。
「機械が奏でる感情」アニメとEDMの今昔
ーー完成した本編も、音楽の力でノリノリで観られる映像になっているなと。
池添:たしかに、MVを見ているような感覚になりますよね。
山口:「クラブで踊っているうちに終わっていた」というイメージで音をつけていました。最近、TeddyLoidさんのようなトラックメイカー/音楽プロデューサーが劇伴をやるケースも増えてきています。特徴の一つとしてトラックメイカーの方は従来の作家さんよりも主張が強いんです。令和になって若いトラックメイカーの方がどんどん出てくる中で、TikTokで回るような音楽にはパワーがある訳です。「その辺りをどういう風にアニメに落とし込めばいいのか」と考えていたところに、この作品のお話が来ました。
山口:なので、テストケースじゃないですけど、「稀代のトラックメイカーが作った音楽をアニメに乗せるにはどうすればいいのか」を考えて作っています。意外とアニメっぽくない作りですが、ちょうど池添さんの狙いと合致していたらしいので、よかったなと思っています。
ーーそのお話は、キャラクターごとにボーカル曲があるという点にも繋がってくるのでしょうか?
山口:そうですね。深い話になるのですが、そもそもEDMやエレクトロ系の音楽って、機械が演奏しているものなので、基本的には演奏者の気持ちが乗らないという考え方もあります。だからこそ、20年前までは「感情的な表現をするのは難しい」と言われていました。
ーー20年前までは?
山口:今は技術が発展したことにより、その「熱さ」「熱量」というのは、実は人が演奏するよりも表現しやすくなっているんです。 この作品には熱量しかないので、TeddyLoidさんが理解してくださって、そういう風な作りになったという流れですね。
池添:僕は最近のEDMを聴くと「“感情”があるんじゃないか」と思うんです。「トランス状態で“感情”を込めて作っている人がいるんじゃないか」って。個人的にもよく聴いていたので、「絶対合うな」という確信がありました。
山口:EDMは平成後期から急激に存在感を増していき、今はメインストリームじゃないですか。
山口:そういう勢いがあるジャンルでもあるので、「機械が奏でる感情」というのもいいんじゃないかなと。その可能性を少しずつ、この10年かけて探っていった結果の集大成がこの作品なんです。 EDMを扱う上で、どうしたら人の心を動かせるかというのは、研究してきたところでもあります。やっぱり「熱量」という意味では、本当に表現しやすいんですよ。 『東島ライダー』に合っている、“ドンピシャな音”になったと思います。
池添:「山口さんじゃなきゃ無理だったかも」というくらい特化された方でしたから。本当にたまたま縁があったんです。
ーー素人目線でもただ流れているだけじゃないことが分かります。
山口:EDMの四つ打ちというのは、面白いことに音量で感情が変わるんですよ。その辺りを10年以上研究していたので、ちょうどよかったですね。
池添:ちょうど良すぎます(笑)。
山口:同じ曲でも小さく出すと寂しいし、大きく出すとノれるし。そういう意味では、ちょっと不思議なジャンルの音楽なんです。
挿入歌は「一撃必殺」!?
ーー「レッツゴー!! ライダーキック」「悪魔のショッカー」など、往年の挿入歌も作品を盛り上げました。これらの楽曲を本作で使用した目的や狙いをお聞かせください。
池添:挿入歌は、編集の時に音源を仮で持ってきて。ハメてもらっていたんです。もちろん権利的な課題もありますので、それが使えなかったら、山口さんに別の音楽をお願いするつもりでした。
山口:そのビデオ(コンテ撮)を見て、慌てて各所にメールを送りました。「この曲が選曲されているから取り寄せてください!」って。
池添:そうですよね……いや、ごめんなさい(笑)。
山口:(笑)。現場で一番議論を呼んだのは、「悪魔のショッカー』でしたね。ショッカー戦闘員が初めて出てきた第2話のラストで使用させて頂いたんですけど、「TeddyLoidさんが作ったショッカーの曲がいいのか、『悪魔のショッカー』がいいのか」というのは、現場で色々揉ませていただきました。それくらい音的にも、昔の『仮面ライダー』シリーズの曲は印象が強すぎる。 裏技ではないですけど、「音楽をかけりゃアガる」のは分かりきっているんですよ。
ただ、この作品を立ち上げた時に「仮面ライダーを知らない人も観られるアニメにしよう」という話もあった中で、ギャップが出てきてしまう。そのバランスをどうするかは考えつつ、結果的にほぼ監督の指してきたところに残った気がします。
池添:そうでした。
山口:なので、池添監督の使い方が上手だったということです。『仮面ライダー』の楽曲は、本当に「一撃必殺」みたいな音楽なんですよ。ある意味、全ての印象を持っていかれてしまうので、逆に言うと「強さを和らげる」ために全体のバランスは調整しました。『仮面ライダー』ファンの「おお!」と曲を知らない人の「なんだこれ!?」を、上手くならすようにはしたつもりです。
池添:「ショッカーが本物だ」という展開について、もちろん絵でも頑張りますけど、ただの“コスプレイヤー”に見える可能性の方が高いじゃないですか。なので、説得力を音楽で付ける希望を出させていただきました。
山口:更に言えば「中尾さんがそれを見て涙する」というところにも楽曲が繋がるので、結果的にはやっぱり「悪魔のショッカー」が正解だったのかなと思います。
[インタビュー/小川いなり]