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富士に咆哮、再び ハースF1 TPC公開イベント

PARCFERME

先日、2025年シーズンの最終戦を終えたF1は、日本人ドライバーがレギュラーシートを失うという厳しい現実を突きつけられた一方、日本人の小松礼雄がチーム代表を務めるハースF1は、コンストラクターズランキング8位でシーズンを終えた。同チームは今夏、富士スピードウェイでの国内初の旧車テストを開催。それは一般公開となり平日にも関わらず多くのファンが訪れる結果となった。その模様を本誌フォトグラファーのJ.ハイドがレポートする。

photo:J.ハイド 全てのコーナーで安定した走りを見せた平川。もちろんタイムも速い。

富士スピードウェイでF1チーム主導による本格的なテスト走行が行われるのは、2008年以来と言っていい。さまざまなイベントでヴィンテージと言われるマシンが走る事は少なくないが、VF-23は旧車とはいえ2年前のマシンである。

F1チームが主導し、現代F1マシンを持ち込んだ公式テストという意味では、17年ぶりの出来事となった。

ドライバーは、日本を代表する平川亮選手と坪井翔選手が務めた。残念ながら現役のF1ドライバーの来日こそ叶わなかったが、日本のトップドライバーが駆るマシンがどの程度のパフォーマンスを見せるのか、が注目された事は言うまでもない。

photo: J.ハイド 立ち上がりが上りであっても、VF-23は尋常ではない力強さを見せた。

経験がもたらすもの

初日の走行を担当したのは平川亮選手。2024年にマクラーレンのリザーブドライバーを務め、すでに現行F1マシンを幾度も経験しているだけに、その走りは終始安定したものだった。

平川選手がピットアウトして最初の数周は、まるでマシンと路面の“会話”を確かめるような慎重なペースと思われた。だが、タイヤとブレーキが適温に入ったあたりから一気にリズムが変わったようだ。

通常のレース車両とは比較にならない、F1ならではの加速感。一方でコーナーの安定感も尋常ではなく、単独テストという事もあり、マシンは迷いなくクリッピングポイントに吸い込まれていく。

各コーナーを射抜くように通過し、そのまま最終コーナーではアクセルをためらいなく踏み切る。富士スピードウェイの名物でもある長いホームストレートへ飛び込んだ瞬間から、まさに“F1が戻ってきた”という実感がサーキット全体を包んだように思えた。
平日開催のために決して人は多くはないが観客席からも、ある種のざわめきが起きる。フェラーリエンジンの独特の音、そして時速300kmに達する最高速度は迫力以外の何者でもない。

走行後の平川は、「ブレーキポイントは想像よりずっと奥です」とシンプルにコメントした。ただ速いだけでなく、減速から旋回、そして加速へ至るまでの“流れ”の中でマシンが全てを要求してくるという訳だ。
特に低速区間の切り返しは、独特な癖があるらしく、富士のテクニカルセクションでは相当繊細なステアリング操作が必要だと語った。

photo: J.ハイド 平川は初日を担当した事もあり、ドライビングもコメントも慎重だった。今まで経験した他のチームと大きな違いはないとのコメントだった。

日本一早い男、初体験す

一方、2日目を任された坪井翔は、まるで別のアプローチで初体験のF1を攻めた。初日は完全に観察者だったため、F1特有の出力の立ち上がり、ブレーキバランスの癖、DRSの使い方などをじっくり確認していたという。

そして迎えた2日目、それはまさに前シーズン、スーパーフォーミュラのトップとなった「勝負師」の走りだった。

photo: J.ハイド 2日目、坪井は攻めた走りを見せたが、その裏で実際には驚きの連続だったようだ

マシンもセッテイングが整っているせいか、ピットアウト直後にも関わらず明らかに攻めていると感じられた。最終コーナーの進入角度はやや深く、そこからストレートへ向けて鋭く立ち上がるラインを試している周回が多かったようだ。

徐々にコーナーでのわずかな舵角修正が減り、アクセルオープンのタイミングも前日より早いと感じられる事が増えていった。最高速が乗るホームストレートは、マシンにとって“本領発揮”の場所だが、そこへ至るまでペースを最終コーナーでいかに稼ぐか、坪井はその一点に集中しているかのようだった。

テスト走行後のインタビューも印象的だった。特にハースといったF1チームを初体験した坪井は日本との様々なシステムとの違いに驚いたと語った。

中でもレーシングディレクターといって、ドライバーの走りへ詳細なアドバイスを送るスタッフの存在が新鮮だったようだ。ドライビング中にも無線で細かく指示を送ってきて、それを1つ1つ試して行くことで走りが変わっていく事は、今までの国内レースでは体験し得なかったと言う。

マシンはもちろんだが、それを支えるスタッフの厚み、そしてそれはチームを運営する予算にも直結する。モータースポーツカテゴリーの頂点を、そういった意味でも感じさせるというコメントだった。

結果的に坪井選手は前日の平川選手のタイムを上回り、1分17秒795というタイムを記録した。これはスーパーフォーミュラのコースレコードに2秒以上の差をつけるものである。

photo: J.ハイド 良いタイムを出した事でスタッフとの馴れない英語のやり取りも、全てが肯定的な印象に変わったようだ。小松代表と笑顔の一枚

歴史はリブートされる

2日目のピットには、もう1つの“大きな出来事”があった。トヨタ自動車の 豊田章男会長が視察に訪れたのだ。豊田会長は坪井選手の走りを真剣な眼差しで見つめ、ハースのチームスタッフとも熱心に言葉を交わしていた。

photo: J.ハイド ハースチームのTシャツを着て記念撮影におさまり、その後チームメンバーとにこやかに握手をする豊田章男会長。互いのリスペクトが感じられ、後日のチームタイトルスポンサー発表への布石だったのは間違いないだろう

この富士での出来事は、後にハースとトヨタ・ガズー・レーシングの関係性がより明確になるうえで、象徴的なシーンとして記憶されることになる。。

2007年と2008年に開催された富士スピードウェイでのF1日本グランプリは、2009年から再び鈴鹿サーキットへ舞台を戻す形で終了。以降、富士でF1が走る機会は長く途絶えることとなった。

しかし、17年を経過した今、再び開催へ向けての1歩を踏み出したのは間違いないのでは、と思わせる出来事だった。
平日開催にも関わらず、2日間で延べ6200名が来場した事も初回としては成功と言えるだろう。タイトルスポンサーとなった来シーズンはより本格的なイベントとして開催される事は想像に難くない。

今シーズンのF1はドライ若手ドライバーの躍進が凄まじい1年であり、新たなチャンピオンが誕生した。そのランド・ノリスを擁する名門マクラーレンがコストラクターズを2年連続で制したものの、来シーズンはレギュレーション、チーム数など大きな変化がある。
映画「F1」も世界中で大ヒットとなり、2026年からは映画を制作したAppleが米国でF1の放映権を獲得。日本でも地上波でのダイジェスト番組復活が発表されるなど、最高峰のモータースポーツを取り巻く環境は再び大きく動き始めている。

photo: J.ハイド 2日目、富士を背景にした撮影を試みた。厚い雲に阻まれた時間が長かったが終了間際に少しだけ富士山が顔を出した

富士で行われたハースF1のTPCは、単なるテスト走行にとどまらず、日本におけるF1の現在地と未来を同時に映し出す場だった。日本で初のF1が開催されたサーキットに、再び現代F1マシンの咆哮が響いた意味は小さくない。
歴史の歯車は再び回り出したようだ。

J.ハイド
写真家、ライター、ドローンパイロット。広告会社で大手企業の担当をする傍ら、ドローンなど最新の撮影技術を学ぶ。
現在は、フリーランスとしてFORMULA EでFIA公認フォトグラファーとして撮影を重ねる一方、
イタリアPHOTO VOGUE、スウェーデン1x.com に認定され、ポートレート作品が掲載されている。
新車の発表があるとディーラーで試乗も楽しむ一般目線の車好き。ランチア、アウディ、BMW、ボルボなど9台を乗り継ぎ、
2022年初代レクサスNX 200tに乗り換える。ニコンとライカのミラーレス機を駆使してココロが動く写真を追求している。

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