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安藤玉恵が阿部定を演じる一人芝居「安藤玉恵による“とんかつ”と“語り”の夕べvol.1『切断』」(作・演出:大谷皿屋敷)~尾久の名店で話を聞いた

SPICE

安藤玉恵の一人芝居『切断』

荒川区尾久にあるとんかつの名店「どん平」で、「安藤玉恵による“とんかつ”と“語り”の夕べ」と冠した企画公演が不定期で開催されている。第一弾の上演作品は『切断』。阿部定をテーマにした、女優・安藤玉恵の一人芝居で、作・演出は、大谷皿屋敷(劇団「地蔵中毒」)が手掛ける。会場のどん平は、安藤の実家であり、1ブロック先には阿部定事件の現場となった場所がある。

本公演では、お座敷でお芝居を楽しみ、終演後に「ディスタンスを取った席で」どん平のとんかつをいただく構成だという。コロナ禍で宴会の予約がなくなったことから立ち上がった企画というが、その内容は、出演者、作・演出家、ロケーションなどに必然性を感じさせるものとなっている。安藤にとっての阿部定とは。大谷が書く阿部定とは。安藤と大谷が本公演への思いを、どん平で語った。『切断』の舞台写真とともにお届けする。

左から、大谷皿屋敷、安藤玉恵。荒川区尾久の地蔵寺にて。


■安藤玉恵「Save The どん平」の一人芝居

──公演開催の経緯をお聞かせください。

安藤玉恵(以下、安藤) 「どん平」の2階には、広いお座敷があります。緊急事態宣言の間、私はここで「そういえば(かつて所属していた劇団)ポツドールの稽古、ここでやってたなあ」なんて考えたりしていました。同じ頃、色々な団体が「SAVE THE 〇〇」と銘打って、クラウドファンディングを立ち上げているのをみて、片っ端から応援したりもしていました。そんな中、実家がコロナの影響を受けていることを知ったんです。

──どん平さんは、とんかつと麦とろが有名ですね。TVドラマ『孤独のグルメ』で紹介されたのを見ました。

安藤 はい。夜はお座敷で、酒鍋のしゃぶしゃぶの宴会をやっているんです。

──炎の酒鍋ですね。それも『孤独のグルメ』で見ました。

安藤 ありがとうございます(笑)。でもその宴会の予約が、500人分飛んだと聞かされ、これは大変だと思いました。逆転の発想で、今度はうちの実家をSAVEしてくださいって。はじめは、絵本や紙芝居を読もうか、とも思いました。私の父は昭和2年生まれで、紙芝居屋さんをしていたんです。終戦後の焼野原で、この辺りでは有名な紙芝居屋さんだったんです。だから私もって。でも、借りてきたものを読むことにはワクワクできなくて。そこで、大谷さんにお願いました。

「母は、父より17歳年下です。小さい頃に見ていた紙芝居屋さんと結婚したんです」と安藤。劇中でも紙芝居を披露する。

──大谷さんは小劇場界で注目の劇団「地蔵中毒」を率いる劇作家で、その作風はギャグとナンセンスを極めたものです。なぜ大谷さんに、と思われたのでしょうか。

安藤 「地蔵中毒」を観ていると数々の小劇場の劇作家の流れをしっかり汲んだ感じがあって、書けそうな雰囲気をひしひしと感じたんです。それに女の一人芝居を書いたことがないでしょうし、未知に満ち溢れている。(と、大谷をまじまじと見る)。

大谷皿屋敷(以下、大谷) ありがとうございます(笑)。

(数々の小劇場の劇作家の流れを)「汲めてますかね」と大谷。

──安藤さんからオファーを受けた時、どう思いましたか?

大谷 連絡は、安藤さんのマネージャーさんから「地蔵中毒」の窓口のアドレス宛にメールでいただきました。それが担当の東野良平(「地蔵中毒」)経由で俺に転送されてきたんです。「大丈夫なの?」って。俺も思いました。めちゃくちゃ嬉しかったんですけれど……俺という時点で、申し訳なかったです(笑)。それがちょうど「スナック松尾」(松尾スズキのオンライン配信企画)のゲストに呼んでいただいた日だったんです。めちゃくちゃドキドキしながら出演の準備をしてる最中に、別の角度から凄いのが来た!って。で、俺で申し訳ないなって思いました(笑)。

紙芝居屋さんによるイントロダクション(『切断』@どん平)

阿部定事件の顛末を語る(『切断』@どん平)

──安藤さんと大谷さんの出会いをお聞かせください。

安藤 最初に「地蔵中毒」を観たのは『純喫茶"味噌夢"~蜘蛛でもわかるアクリル 製色即是空~』(2019年5月 千本桜ホール)でした。

大谷 その次の公演の時(『ずんだ or not ずんだ』2019年9月高田馬場ラビネスト)に、アフタートークに出ていただきました。僕たちが、全然上手くしゃべれなくて……。

安藤 私がトークを回したんだよね。

大谷 はい(笑)。

安藤 今年(2020年)の2月にはユーロライブの『地蔵中毒寄席』も観にいって、大谷さんの落語に感激してしまったんです。その後3日間くらい「あれは何なんだったんだ」って考えて、ツイートもしたと思う。

大谷 「残像が」って呟かれていました。

安藤 なんか……恥ずかしいから言いますけれど、ここまで私が一方的に大谷さんのこと話しましたが、別に私から大谷さんへの片思いというわけではないんですよ? その間には色々あったんです。

大谷 ありました(笑)。

安藤は、紙芝居屋さんから一転、戸惑う阿部定へ。客席と地続きの畳に敷かれた布団が生々しい。 (『切断』@どん平)

定の目線の先に、愛人・吉蔵を感じさせる(『切断』@どん平)

──今回の一人芝居の題材は、阿部定です。事件現場の待合「満佐喜(まさき)」は、どん平から目と鼻の先にあったそうですが、安藤さんは、いつごろから阿部定の存在をご存じだったのでしょうか。

安藤 はい。アニメ『キャンディ・キャンディ』をまねて遊んでいた年の頃には、主人公キャンディと同じくらいの距離感で、阿部定を知っていました。祖母は明治36年生まれで、事件当時をよく覚えています。警察が来たときにはもう報道の人もたくさん集まっていて、カシャカシャ写真を撮ったり、スキャンダラスな光景を前に、興奮して追いかけたと言っていました。実際に見たのか写真でみたのか分かりませんが「きれいな人だった」とも。

新しい表情を見せるたびに、観る者を引き込んでいく(『切断』@どん平)

──安藤さんが子どもの頃、尾久の町に三業地(料理屋、芸者家、待合の営業が許された花街)の名残はありましたか?

安藤 「尾久三業」と書かれた看板がまだありました。建物も点々と残っていて、営業しているところもありました。小学生の頃は、通学路で着物の人を見かけたり、三味線の稽古の音が聞こえたり。検番(待合に芸子さんを派遣したり、お金を管理したりする)にはちょっと怖いおじさんがいて、お姉さんがいて、小さなステージがあって座布団が敷いてあって……。阿部定は身近なテーマでしたが、今回は、大谷さんに何も言わずにお願いした方がいいのか、題材を出した方がいいのかわかりませんでしたから、そこはまず相談したうえで、阿部定の一人芝居に決まりました。

切断!  (『切断』@どん平)

──創作の経緯をお聞かせください。

大谷 最初のオーダーが「朝ドラを書いてくれ」だったんです。

安藤 地域の子供たちや商店街のおじちゃんおばちゃんも呼びたかったので、「地蔵中毒」に寄りすぎない方が嬉しくて。ギャグは少なめで「阿部定で朝ドラをお願いします」とお願いしました。そう伝えれば、中くらいのものが上がってくるんじゃないかなって(笑)。

──大谷さんは、もともと学生時代に落語を創作していましたね。1人で演じる点は落語も一人芝居も共通しています。執筆はスムーズだったのではないでしょうか。

大谷 落語は1人で2役でも3役でもやりますが、一人芝居は1人で1役でちょっと違いました。それに、今までギャグしか書いてこなかったので、ギャグ無しと言われたら、もう何も書くものがないんじゃないかと。どうしたもんかなと思いました。でも、安藤さんが阿部定の伝記とジョエル・ポムラの戯曲『時の商人』を貸してくれて。それが、ものすごく面白かったです。読んだら、すぐ書けるようになりました。これを大喜利的に変えていけばいいんだなって。

思考の軸のズレが可笑しみを、真摯な訴えが説得力を生む(『切断』@どん平)

──ジョエル・ポムラは、フランスではとても著名な劇作家ですが、日本ではそれほど知られていませんよね。

安藤 去年、KUNIO15『グリークス』に出演した時、皆で面白い戯曲の話になったんです。その頃から一人芝居に関心があったので、色々教えてもらった中から、一人芝居の『時の商人』を読みました。ここは一体どう演じたんだろうというシーンも多く、戯曲としても面白くて。

──大谷さんから、最初に台本があがってきた時の印象は?

安藤 まず最初に、全体の真ん中の台本が送られてきたんです。そんなの初めてです。「これに前と後ろが足されます」と言われて、「さっぱりわかんないけどそうなんだ!」って(笑)。

大谷 (笑)

安藤 「私、分からなくなりました。いざ切り取ってはみたものの…」のところ。それがすごい面白かった。大谷さんは言葉のセンスがいいんですね。最初に読んだ時から音に正解があって、5・7・5みたいにリズムがはっきりしてる。音読をしていても楽しかったです。その段階でZoomで一度、読み合わせをしました。声を聞いてもらった方が、前後も書きやすいだろうと思いまして。

(『切断』@どん平)

大谷 読んでもらって、僕から2、3言、「ここはこうじゃないですかね」って言ったら、安藤さんから、数秒後に言ったとおりの全然違うやつが返ってきて。「すげえな!」って思いました。そうか、そういう深め方、掘り方をこれからしていくんだと思って、怖くなりました。

安藤 怖くなりました?

大谷 怖くなりました。

──大谷さんは、ご自身が普段劇団でやる演出と違うところはありましたか?

大谷 「地蔵中毒」では、みんなが思いついたことを言います。セッションして誰かが何かアイデアを出して「なにそれー!(笑)」って感じで創っていきます。感情面の演出は、「地蔵中毒」の時にはやりようがないんです。その意味では、今回初めて、気持ちの部分も演出したことになります。

(『切断』@どん平)

──過去の阿部定モノの創作物では、情念やエロスで描かれがちでしたがが、今回はどれとも切り口が違います。

安藤 阿部定って演劇にも映画にも色々ありますが、切断までの物語や性愛を描きますよね。エロを堂々とやることにはもう全然興味がなかったんです。大谷さんからは、落語っぽいものがあがってくるんじゃないかなと予想していたらそれも全然違いましたね。

大谷 情念やエロスで扱うとベタになりますよね。それをやってもなあ……って。それで唐十郎さんの『ジャガーの眼』のチンポ版にしようと決めたら、俺との共通点が見つかった感じです。

──唐十郎の『ジャガーの眼』にも角膜を追い続ける情念がありますが、『切断』からはそれすら感じられません。カミュの『異邦人』における「太陽が眩しいから人を殺した」に近い、感覚的な雰囲気は、従来にない阿部定解釈だと思いました。

大谷 そこが「地蔵中毒」的な部分なのかもしれません。

(『切断』@どん平)

──関係者向けにプレビュー公演をおこなったそうですが、その過程で気づくことはありましたか?

安藤 観てくれた『映画秘宝』編集長の岩田さんが、「『三面記事の女』って台詞がとても良いから、三面記事の女でシリーズ化したら?」とおっしゃたんです。私、畠山鈴香(秋田児童連続殺害事件)に顔がそっくりって当時言われて、それ以来思い入れがあるんです。PARCO劇場『獣道一直線!!!』の題材にもなった木嶋佳苗(首都圏連続不審死事件)もやりたいって、ずっと言ってるんですけれど。そういう方たちに昔から関心があるんです。俳優という仕事と、業の深さは同じなんじゃないかな、と思うんです。私は、「たまたま」人を殺していないだけ。一線を超えていないだけ。やっていることのベースはとても近い感じがします。

実際の事件の記録では、定は吉蔵の血液で吉蔵の太ももに「定吉二人」と書いたという。本作では……(『切断』@どん平)

──この先、コロナ禍が終わっても、阿部定事件が起きた5月18日には、毎年どん平で上演していただきたいです。尾久の町興しにもなるのではないでしょうか。

安藤 町興しになりますかね。三鷹市芸術文化センターが、毎年、太宰治をやるみたいにね。知り合いの俳優さんに、尾久だから「オグ・ブロードウェイにしなよ」って言われたんです。モニュメントとか創る?

大谷 除幕式の演出、僕やりたいです。

──楽しみにしています(笑)。

(『切断』@どん平)

『安藤玉恵による“とんかつ”と“語り”の夕べ vol.1切断』は、月4回程度、平日は19時、土曜日は18時より不定期開催。上演時間はアフタートーク込み60分程度で、観劇後は看板メニューのとんかつ定食をいただくことができる(とんかつ弁当とカツサンドの持ち帰りも可)。開催情報は、公式Twitterアカウント(@antama_tonkatsu)で随時公開される。来場の際は、絶品のとんかつとともに、尾久の町の魅力も味わってほしい。なお、SPICEでは安藤玉恵、大谷皿屋敷とともに歩いた、尾久の歴史散策レポートを近日公開するので、こちらもお楽しみに。

聞き手:安藤光夫(SPICE編集部)  取材・文・撮影:塚田史香

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