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勝川春章とは?似顔の役者絵を描いた人気絵師を知ろう

イロハニアート

勝川春章《三芝居役者絵本》

勝川春章(かつかわしゅんしょう)は、江戸時代中期に活躍し、浮世絵界に大きな革新をもたらした絵師です。 それまでの役者絵が持っていた形式的な描写を打破し、「似顔絵」というリアリズムを導入することで、役者の個性や魅力を描き出し、瞬く間に人気を獲得しました。 また、彼は巨大な流派である勝川派の祖であり、後の浮世絵界の巨匠・葛飾北斎の師匠でもあったという点で、浮世絵史において重要な存在です。本記事では、勝川春章の作品や葛飾北斎との関係性などを深掘りします。

勝川春章《三芝居役者絵本》

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江戸時代中期の浮世絵師、勝川春章とは


勝川春章《三芝居役者絵本》

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勝川春章は江戸時代中期に活動した浮世絵師で、その生涯を通して、役者絵や美人画といった分野で人気を博しました。

本名は藤原周貞といい、絵師としてはまず「勝川」の姓を名乗って一家を興し、のちに「春章」と号しました。彼は単なる人気絵師に留まらず、浮世絵師を志す多くの若者を育てた教育者でもあり、勝川派という一大流派を築き上げた人物です。

2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』では、主人公である版元・蔦屋重三郎の周辺人物として登場しています。

似顔表現を導入した役者絵で人気を獲得


勝川春章の功績は、役者絵の表現を一変させた点にあります。それまでの役者絵は、個々の役者というよりも、その役柄を形式的に表現するものであり、顔の造形も類型化されていました。しかし、春章は役者一人ひとりの表情の癖や身体的な特徴を細かく捉え、「似顔絵」として描き出したのです。

これにより役者個人の魅力までもが錦絵に表されるようになり、特に人気役者であった中村仲蔵などをリアルに描いた作品は、芝居好きの人々から絶大な支持を得ました。

優美な美人画から相撲絵まで


勝川春章《江口の君図》

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勝川春章の活躍の場は、役者絵に留まりません。美人画の分野では、独自の優美な画風を確立し、多岐にわたるテーマの作品を残しています。春章の描く美人画は、丸みを帯びた優雅な顔立ちと、繊細な衣装の描写が特徴です。

その他に、相撲絵や肉筆画の分野でも高い評価を得ています。肉筆画は紙や絹に直接描かれた一点物の絵画であり、春章の洗練された画力が発揮されています。また、春画も幅広い表現力の一つとして、美術史の中で位置づけられています。

勝川春章の代表作


勝川春章の代表作といわれるものは美人画が多く、高い画力が発揮されています。以下では主要な作品を3つご紹介します。

「雪月花図」


勝川春章《雪月花図》

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「雪月花図」はその名の通り雪月花という、日本画の伝統的なテーマを描いた三幅対の作品です。

それぞれ異なる季節の情景の中で、着物姿の女性たちが優雅に佇む様子が描かれています。春章の美人画の特徴である、ふっくらとした顔立ちと、着物の柄や質感の丁寧な描写が見どころです。

「婦女風俗十二ケ月図」


「婦女風俗十二ケ月図」は、1月から12月までに対応する女性の風俗や行事を描いたシリーズ作品です。

月ごとの細やかな生活の様子を通して、当時の女性たちの暮らしや流行をいきいきと伝えています。春章の美人画における卓越した構成力と、風俗描写の正確さを示す貴重な資料です。

参照:《婦女風俗十二ケ月図》MOA美術館蔵
https://www.moaart.or.jp/collections/078/

「美人鑑賞図」


「美人鑑賞図」は屏風の前でくつろぐ女性たちを描いた作品で、春章の肉筆美人画を代表する一つです。

繊細な色彩と、しなやかな線で描かれた女性たちの姿は上品で優美です。発注者と思われる当時の上流階級の間でも、春章の肉筆画が珍重されていたことを示しています。

参照:《美人鑑賞図》出光美術館
https://idemitsu-museum.or.jp/collection/painting/ukiyoe/03.php

勝川春章の弟子、葛飾北斎と勝川派の系譜


Katsushika Hokusai: English: Young Woman and Little Girl Playing Musashi

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勝川春章は弟子の中から、後の巨匠である葛飾北斎を輩出しました。北斎は若かりし頃に勝川春章に入門し、勝川春朗(しゅんろう)の号を名乗っていました。春章の指導が、北斎の初期の役者絵や美人画に影響を与えたことは間違いありません。

他にも、春章が築いた勝川派からは、勝川春好や勝川春英など、春章の作風を引き継いで活躍する弟子が多数育ちました。特に春好は、役者の顔をクローズアップして描いた「大首絵(おおくびえ)」の創始者でもあります。この表現は、後の東洲斎写楽にも影響を与えたと考えられます。

江戸のメディア王・蔦屋重三郎との協業


北尾重政・勝川春章《青楼美人合姿鏡》

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勝川春章の活躍は、当時の出版業界の天才プロデューサー、蔦屋重三郎との連携なくして語れません。

春章の成功には、版元である蔦屋重三郎の存在が不可欠でした。蔦重は春章の革新的な役者絵や美人画の魅力をいち早く見抜き、積極的に出版することで、春章の人気を江戸中に広めたことで知られています。

勝川春章の錦絵や肉筆画を楽しもう


勝川春章は役者絵にリアリティと個性を吹き込み、浮世絵を大きく進化させました。優美な美人画や似顔の役者絵は、現代の私たちにも、江戸の賑やかな文化と市井の人々の熱狂を伝えてくれます。浮世絵の展覧会でも出会える春章の絵を通じて、江戸時代の肖像表現に触れてみてはいかがでしょうか。

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