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NYの超有名ランドマークも導入 AIで建物の水の流れを「見える化」 WINT

TECHBLITZ

AIなどを駆使した建物の水管理に特化し、建物の水の流れを「見える化」するソリューションを開発・提供するWINT(本社:イスラエル)。データ分析、パターン認識、AIを統合し、異常な水使用パターンを検出することで、水漏れやパイプの破裂、システムの故障による被害を事前に防ぐ。共同創業者でCPSO(最高製品・戦略責任者)のYaron Dycian氏に、ソリューション概要やビジネスの展望について聞いた。

<font size=5>目次
建物内の水の流れデータ化、AIを駆使してモニタリング
環境面や保険支出の抑制にも寄与
NYのエンパイアステートビルも導入
創業のきっかけは自宅の水漏れ被害
日本での新たなパートナー獲得に意欲

建物内の水の流れデータ化、AIを駆使してモニタリング

 WINTは、建物内の水の流れを捉えてデータ化し、パターン認識やAIを駆使してデータを分析する。こうした分析に基づく水管理ソリューションは、商業施設や建設現場、オフィス、住宅などでの水漏れを検出し、パイプの破裂やシステム故障などによる水害を未然に防ぐほか、水の無駄遣いを発見することもでき、水の使用量を抑制できるという。

 同社のソリューションを導入する場合、まず建物の配管構造を調査する。その配管構造に基づいて、バルブ、流量計、制御ユニットを配置していく。バルブや流量計は一般的なものを使用。制御ユニットはに独自技術が盛り込まれており、水の流れの制御に加え、データをクラウドに送信する役割も担う。

Yaron DycianWINTCo-Founder/Chief Product and Strategy Officerテルアビブ大学卒業後、ネットワーク技術やEコマースシステム、Wi-Fi関連企業に勤務。2003年には金融認証ソリューション企業Cyotaで副社長に就任し、2006年にはCyotaの買収に伴いRSA Securityへ移籍。2010年からセキュリティサービス企業Trusteerで副社長を務め、2015年にはConsumer Physicsの副社長として農業分野の飼料分析ソリューションを提供。2018年にはAlon Geva氏(CEO)と共にWINTを共同創業した。 設備の導入後は、正常な水の使用パターンをAIが学習していく。AIは、マンションなら世帯ごと、オフィスビルではフロアごとなど、建物の利用者などに分けた領域でそれぞれ機能し、制御できる。クラウドベースの管理ポータルで、設置デバイスから得られたデータを可視化した上で制御し、そこから作成されるレポートや、判明した使用傾向などにより、水システムの状況を把握できる。

 導入初期はAIの学習に数週間かかるが、AIの学習が進み、普段とは異なる異常な水使用のパターンを検出した際には、建物のメンテナンススタッフなどにアラートメッセージを発信。必要に応じて水の供給を自動的に停止し、被害を未然に防ぐこともできる。アラートの発信手段も、SMS、電子メール、モバイルアプリの通知など、複数の選択肢から選べる。また、アラートを発する閾値の設定や、平日、非営業時間、週末などさまざまなシナリオに応じた運用も可能だ。このソリューションで削減できる水の使用量は20~25%に上るという。

 WINTのビジネスモデルは、導入時のコストに加え、管理ポータルの利用、通信費、ソフトウェアのアップグレード、カスタマーサポートなどの年間サービス料で成り立っている。

環境面や保険支出の抑制にも寄与

 同社は、節水による温室効果ガスの削減にも意欲的だ。Dycian氏は水資源を巡る課題として、「日本ではあまり問題にされていないと思いますが、地球温暖化の影響で、北米、欧州、アフリカ、オーストラリアなどでは深刻な水不足が問題になっています。世界は干上がりつつあると言えます」と話す。

 また、建物の水漏れ被害などは保険会社にとっても大きな課題となっている。「ある大手保険会社との共同研究では、WINTのソリューションが導入された27棟の建物と、導入されていない66棟の建物を比較し、どれだけの被害を防ぐことができたかを調査しました。結果として、導入された建物では予想される保険請求件数の約25%に留まり、金銭的な支出は90%減少しています。保険会社にとって、これは大きな違いです」

image: WINT

NYのエンパイアステートビルも導入

 具体的な導入事例として、ニューヨークのエンパイアステートビルの事例がある。同ビルではソリューション導入後、年間750万ガロン以上の水消費が減少。これは年間300トン以上の炭素排出量削減につながるという。金銭的には年間10万ドル以上の節約と50万ドル以上相当の被害防止効果があり、ROI(投資利益率)は1500%、回収期間は3カ月であった。

 他にも、MicrosoftやGoogleなどのテック企業や建設会社をはじめ、何百もの企業に導入されており、過去5年間、毎年業績は成長を続けてきた。

 こうした需要の背景について、Dycian氏は「水の管理はとても重要ですが、この複雑な問題に対処できるソリューションは世の中にあまり登場していません。物理的な古い技術と、先進的なAI・クラウド技術を結びつけるのは難しいからです」と考えを示した。

創業のきっかけは自宅の水漏れ被害

 Dycian氏は30年以上、テクノロジー分野でキャリアを積んできた。携わった業界は、電気光学システム、ネットワークシステム、農業用システム、サイバーセキュリティなど多岐にわたる。

 創業の経緯について、「テクノロジーが大きな変化をもたらすような場所で、それを活用するのが好きなんです。WINTを立ち上げた当初、建物の水管理にテクノロジーを適用している事例はほとんどなかったと思います。そこで私たちは、水道管にインテリジェンスを導入し、管理する方法を考えました。このアイデアは、自宅の改装中に水道管からの水漏れによる被害を経験し、隣人も同様の問題を抱えていることから生まれました」と語る。

日本での新たなパートナー獲得に意欲

 WINTは今後、さらに成長をするため、さまざまな地域でのビジネスパートナーを獲得していく方針だ。現在、日本市場でのパートナーには保険会社がいるが、これからは各地域でWINTのシステムの据え付けを行えるパートナーを獲得していく方針だという。

「長年放置されてきた建物の水管理に変革が訪れています。建物の管理者や関係者は、水のトラブルを避け、持続可能であること、水の無駄遣いや二酸化炭素の排出を防ぐことを望んでいます。私たちは、数年後には、全ての建物にこのような技術が必要になると考えています。持続可能性が今日の大きな課題であり、水の節約、炭素排出の抑制が必要です。このような課題解消に関心を持つ方々と協力していきたいです」

従業員数なし

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