人気グループWEST.のメンバー小瀧望が稀代のピカレスク・ヒーローに挑戦する、井上ひさしの未上演戯曲を藤田俊太郎演出で上演
劇作家井上ひさしの没後12年にあたる2022年、テレビ東京系の番組「開運! なんでも鑑定団」を通して発見された戯曲『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』は、井上ひさしが、「井上ひさし」を名乗る前の1959年、24歳のときに執筆した作品。その未上演の〝新作〟が、東京・PARCO劇場にて上演中だ。未上演戯曲に挑むのは、井上作品の演出は『天保十二年のシェイクスピア』に続き二作目となる藤田俊太郎。
戯曲を読んだ藤田は「圧倒的な熱量、筆圧の強さ、若さ溢れるエネルギーに感動した」という。その感動は、見事に作品に投影されている。
戦国時代、権力や富がごく一部の男たちに集中する閉鎖的な寒村に病身の母と馬を一頭連れて主人公である小作人の太郎がやって来る。太郎は馬地主や村の男たちを巧みな弁舌で騙し、金をとことん巻き上げていき、出会う女たちを虜にしては捨てていく。信仰もなく自らの才覚だけを信じ、世界は自分を中心に動いていると言ってはばからない極悪ぶりは、いつか閉鎖的なムラ社会をも破壊へと導いていく。太郎は最後までしっぺ返しを受けることもなく、その点においてもまさに痛快なピカレスク劇といえるだろう。
太郎を演じるのは、2020年の舞台『エレファント・マン』で読売演劇大賞優秀男優賞と杉村春子賞を受賞し、グループWEST.での活動に加えて、俳優としても近年高い評価を得ている小瀧望。ちなみに2020年の読売演劇大賞といえば、今回の演出家である藤田俊太郎が『天保十二年のシェイクスピア』『NINE』『VIOLET』で最優秀演出家賞を受賞した年でもある。
太郎に翻弄される村人たちにも多彩な個性が集まった。峠の茶屋のおかみ・お京には、宝塚歌劇団雪組のトップスターで、退団後も『ナイツ・テイル-騎士物語-』『アメリカン・サイコ』などミュージカルからストレートプレイまで幅広い作品で凛とした佇まいで観客を魅了する音月桂。太郎を目の敵にする村の権力者・松左ヱ門には、映像でもおなじみだが、舞台でも『地下室の手記』『片鱗』で2014年読売演劇大賞優秀男優賞、『ずれる』『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』で2025年紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し多くの劇作家、演出家からの信頼も厚い劇団イキウメ所属の安井順平。そして太郎の盲目の母役は、井上ひさし脚本の舞台作品の常連といわれるほど、『太鼓たたいて笛ふいて』『藪原検校』『天保十二年のシェイクスピア』など井上作品に数多く出演し、1994年の『父と暮らせば』では読売演劇大賞優秀女優賞を、2005年の『箱根強羅ホテル』では紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞し、また2016年の『ピアフ』では菊田一夫演劇賞を受賞している、テレビ、舞台と活躍を続けている梅沢昌代が演じる。小瀧は「井上さんを知る存在としてぼくの心の支え」と言っている。
さらには、加藤梨里香、大鶴佐助、小松利昌、小林きな子、小柳心、尾倉ケント、森加織が可笑しくも哀しい人間模様を繰り広げて、観客を舞台にひきつける。
藤田俊太郎は、「さまざまな趣向と想像力を駆使して創り上げた作品」、さらに「作劇の大きな趣向としては、喜劇に見せかけた悲劇、悲劇に見せかけた喜劇」「井上作品の原石とも言える真っ黒な輝きを磨けるだけ磨いた」と開幕前会見で語ってくれた。
太郎が巧みな弁舌でとことん人をだまし続ける姿は、ある種愉快であり、爽快感をもって観客に受け入れられるだろう。太郎役の小瀧は声もよく、井上ひさしの言葉の力を観客の心に響かせる。舞台俳優としてのキャリアを本作でさらに積み上げることになるだろう。母親の死をも利用する極悪人と言われる太郎だが、人の心の奥底にある欲望をくすぐり表に引き出す技に長けているわけで、どこか憎めないのは、小瀧の俳優としての個性も手伝っているかもしれない。
開幕前会見には小瀧、音月、安井、梅沢も登壇した。音月は「小瀧さんにとって意外性のあるこの役を、ピカレスク俳優とでも呼べるようなすばらしい演技をみせている」と小瀧を評したのをはじめ、安井は「藤田さんを含めいろいろとディスカッションする中で、本が読める俳優だと感じた」と、梅沢は「ダイナミックですばらしく信頼できる俳優という感じ」と、それぞれに舞台俳優としての小瀧望を紹介してくれた。そして藤田は「小瀧さんは身体的にも思考的にもアイデアを持っていて、そこに音月さんが別のアイデアを出し、梅沢さんがすべてを包み込み、安井さんが、さらにアイデアを突っ込んでくる」とアンサンブルの良さを讃え、「演劇人・小瀧望を尊敬している」と最高の賛辞で締めてくれた。
井上作品のその後の仕事の原点とも言える、美しくも猥雑で、恐ろしい、力強い言葉が紡ぎ出される戯曲上演のひな型作りとも言える大役を託された藤田。「未上演作品の上演を託されたことはすばらしく光栄で、身が引き締まる思いながら、ぼくとしては、24歳の新しい作家の新しい作品を手がけるつもりで取り組みました」という藤田の言葉が印象的だった。
PARCO PRODUCE 2026
『うま-馬に乗ってこの世の外へ-』
作:井上ひさし
演出:藤田俊太郎
出演:小瀧望 音月桂 加藤梨里香 大鶴佐助 小松利昌
小林きな子 小柳心 尾倉ケント森加織
安井順平 梅沢昌代
<東京公演>
〔公演日程〕7月8日(水)~7月28日(火)
〔会場〕PARCO劇場(渋谷 PARCO 8F)
〔問〕サンライズプロモーション0570-00-3337(平日12:00~15:00)
<大阪公演>
〔公演日程〕8月6日(木)~8月12日(水)
〔会場〕SkyシアターMBS
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(12:00~17:00 ※土日・祝除く)
※未就学児童入場不可
取材・文=二見屋良樹