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自分と日常がちょっと好きになる 『いい人すぎるよ美術館+切ないすぎるよ博物館』レポート

SPICE

『いい人すぎるよ美術館+切ないすぎるよ博物館』

池袋PARCO本館7F・PARCO FACTORYにて、ちょっとヘンな展覧会が開催されているのをご存知だろうか。その名も『いい人すぎるよ美術館+切ないすぎるよ博物館』である。結論から言ってしまうと、とても面白い展覧会だ。2023年12月4日(月)までと会期がそこまで長くないので、前置きは手短にしてさっそく本展の魅力に触れていこう。できれば早く読み終えて、早く遊びに行ってみてほしい。

「いい人」に出会う美術館。

会場エントランス

本展は『いい人すぎるよ美術館』と『切ないすぎるよ博物館』の二本立て。まずは『いい人すぎるよ美術館』からスタートだ。ずっしりしたカーテンを抜けると……

『いい人すぎるよ美術館』展示風景

格調高いクラシック音楽の中、いかにも美術館風の渋いグリーンの壁に、金の額縁がずらりと並んでいる。ここに集められているのは《電話なのにお辞儀している人》《みんなが楽しむ中、次のお店を探している人》などなど、日常の中に潜む様々な「いい人」たちだ。絶妙にゆるいイラストも相まって、さっそく共感のニヤニヤが止まらない。

『いい人すぎるよ美術館』展示風景

イラストのほかにも、「いい人」な一瞬を再現した写真の展示もある。写真はすべて本展のクリエイティブディレクター・明円卓氏が自ら撮影したもので、俳優との綿密な打ち合わせの元で制作されたという。やっぱり人物が再現してくれると、より自分の中の「いい人」が鮮明に蘇ってくる気がする。個人的には写真中央の《「ポイントカード持ってる?」と自分は支払いだけしてポイントをくれる先輩》に記憶を揺さぶられ、ちょっと胸が熱くなってしまった。先輩、あの時はありがとうございました……。お元気ですか……。

これは確かに美術館だ

『いい人すぎるよ美術館』展示風景

奥へ進むと、なんと「いい人」の彫刻作品もある。本展の前身である『いい人すぎるよ展』はこれまで神宮前のギャラリーで2度開催され大反響を呼んだそうだが、この彫刻作品は今回が初お披露目。展覧会のパワーアップを象徴する、見どころのひとつである。黄金のガイドポールが、なんとも美術館らしい。

『いい人すぎるよ美術館』展示風景

《「縦でも撮りますねー」と言ってくれる人》の献身的な笑顔と、腰を入れた体勢に「いい人」ぶりが滲み出ているのが感じられないだろうか。このあたりで、本展が『いい人すぎるよ美術館』と名付けられていることにしみじみと納得がいく。「いい人」って確かに、美しい。展示して皆で吟味し、語らい、尊さを確認しあうべきものである。

『いい人すぎるよ美術館』展示風景

「いい人」を想起させるアイテムを使った展示も。例えば手前のお玉は《シメのことを考えて、鍋のスープをなるべく入れないよう心がけている人》のアトリビュートだ。

奥の壁には「いい人」になれるフォトスポットが用意されており、額縁に入れば誰もが《「行けたら行く」って言って本当に来る人》になれる。一緒に訪れた人と撮影し合うのものいいし、通りがかった誰か「いい人」に撮影をお願いするのもいいだろう。きっと「縦でも撮りますねー」と言ってくれるに違いない。

きっと日本で一番、切ないことが集まる博物館。

『切ないすぎるよ博物館』展示風景

続いて『切ないすぎるよ博物館』のエリアへ。こちらには日常のあらゆる「切ない」瞬間たちが切り取られ、展示されている。

『切ないすぎるよ博物館』展示風景

《リフトから手袋を落とした時》の切なさには思わず笑ってしまった。きっと見つからないし、周囲からは「あ〜あ」と思われるだろうし、手元に残ったもう片方の手袋も結局使えなくなってしまうし……。自分のせいなんだけど……これは切ないすぎる。

ちなみにクリエイティブディレクターの明円氏に『切なすぎるよ博物館』ではなく 『切ないすぎるよ博物館』と命名した理由を尋ねてみたところ、『いい人すぎるよ美術館』と文字数を合わせる意味のほかに、なんだろう? と引っかかってほしくてこの言葉を選んだのだそうだ。

共感し合っていきましょう

『切ないすぎるよ博物館』展示風景

報われないこと、どうしようもないこと、善意でしたことが思ったような結末にならないこと。悲しみや怒りは宛先があるけれど、「切ない」はとても個人的で、やり場のないものだ。だからこそ、それを「こんなことあるよね」と笑いに変換することで、ちょっとだけ心が軽くなるのかもしれない。

『切ないすぎるよ博物館』展示風景

『切ないすぎるよ博物館』展示風景

《生レモンサワーのマドラーを絶妙に避けながら飲んでいる時間》の、(何やってるんだろう俺)の表情が絶妙で、またニヤニヤしてしまう。ニッチな切なさほど、共有できた時の喜びは大きい。この展覧会は、ひとりで訪れれば自分の心の柔らかいところを深く見つめることになるだろうし、誰かと一緒に訪れれば、その人との距離がぐっと縮まるイベントだと思う。

会場限定オリジナルグッズも

物販コーナー

最後の物販コーナーでは、本展の会場限定グッズを販売している。ステッカーやカードのほか、注目はこちら。

「隣人をいい人にしてしまうファイル」(税込500円)

「隣人をいい人にしてしまうファイル」(税込500円)。授業中、打ち合わせ中、何気なく持ち上げることで、隣の人を「いい人」と示すことができる面白グッズだ。こんなものを用意しているあなたのことを、周囲は「いい人」と感じずにはいられないだろう。

「いい人」たろうとする美しさには承認を。
なかなか成仏できない「切ない」には共感を。

内覧会を終えて帰宅する途中の電車で、目の前の二人連れのために自然と座席をズレた時、はっと自覚した。日々の疲れから来るやさぐれ、ささくれがちょっと治って、いい人になってるかも……! 元気いっぱいならもちろんのこと、むしろ、疲れている人ほど足を運んでみてほしい展覧会だ。各会場での会期は長くないので、どうぞお早めに。

『いい人すぎるよ美術館+切ないすぎるよ博物館』は2023年12月4日(月)まで池袋PARCO本館7F・PARCO FACTORYにて開催中。その後、全国のPARCOへと巡回予定。

文・写真=小杉 美香

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