なぜ「はやみねかおる」は人気? 進学校の生徒もハマる名作ミステリーの秘密
進学校の生徒や、謎解きクリエイターも熱中する『都会のトム&ソーヤ』をはじめ、子どもも大人もひきつける、はやみねかおる作品の魅力を出版ジャーナリスト・飯田一史が解説。(全1回)
【画像を見る➡】作家・はやみねかおるが何回も読み返すほど好きな本とは?出版ジャーナリスト・飯田一史さんが学校図書館の司書の方や、謎解きクリエイターさんとの交流を通して気づいたのが、「はやみねかおる」作品の圧倒的な人気だったと言います。本記事では、「はやみね作品をまだ読んだことがない」または、「まだ子どもに読ませたことがない」親子へ向けて、はやみね作品にハマる魅力と仕掛けを飯田さんに解説してもらいました。
中学受験後の新中1の読書欲を満たす!
私は、わりと属性が違ういろいろな人たちから、はやみねかおるさんのお名前をよく聞きます。例えば、学校図書館の司書の方向けに、「最近の中高生によく読まれている本」について講演した後の懇親会のときのこと。
その学校は、全国トップクラスの進学実績で知られる超有名私立中高一貫校で、司書の方が「我が校では、講談社の「ブルーバックス」シリーズがよく借りられていて、一般的に“人気がある”と言われているような本ってあまり動かないんですよね」と。
「でも春に入学したての新1年生には、はやみねかおる作品がゴソッと借りられていきますね」と話されました。中学受験から解放された反動で爆発した読書欲が爆発している時期に、「進学校の男子が読むのは、はやみね作品なのか」と興味深く思ったことがありました。
はやみね作品の代表作「怪盗クイーン」のクイーンにしても、「都会(まち)のトム&ソーヤ」の竜王創也にしても、主人公は天才的な頭脳の持ち主。ですが、同時に相当変わった人間でもあり、間の抜けたところもある。そんなキャラクターに、進学校の生徒たちは自分を重ね合わせて読んでいるのかもしれません。
『怪盗クイーンはサーカスがお好き』作:はやみねかおる/絵:K2商会(講談社)
ゲーム、謎解きの作り手を触発する
そして、今から10年くらい前。リアル脱出ゲームのような、現実世界を舞台にした謎解きゲーム(いわゆる「ARG」)のクリエイターと一緒に本の制作をしていたことがありました。
クリエイターさんに、「小説で参考にしている作品はありますか?」と聞いたら、「『サーティーナイン・クルーズ』とか『マチトム』ですかね」という返事でした。(※「マチトム」は、「都会のトム&ソーヤ」の略称です)それを聞いて、「ARGを作っている本職の人も『マチトム』から影響を受けているのか!」と、こちらもかなり驚いたことを覚えています。
脱出ゲーム、謎解きを作る人からすると、「物語といえども、『現実で実際にできそうか』『リアルでこれをやったら面白いだろうか』に注目して読む」ことで、刺激を受けて、アイデアが湧いてくると話していました。はやみねかおるさんは、「モノを作る人」に愛されていて、また読者に「何か作ってみたい」気持ちにさせる作家だなぁと改めて思ったのでした。
ちなみに「都会のトム&ソーヤ」の主人公の竜王創也は、超巨大企業グループの御曹司である中学生で、グループの後継者となることを家族からは望まれているのに、本人はリアル空間を使った世界最高のゲーム、「R・RPG」(リアル・ロールプレイングゲーム)を作ることが将来の夢。
創也の相棒で、サバイバルの達人にしてシナリオも書く、もう一人の主人公・内藤内人と一緒に、マンホールのフタを開けて下水道にもぐり込んで冒険したり、集落を丸ごと使ったゲームをプレイしたりして物語が進んでいきます。
2026年4月刊行の「マチトム」最新22巻は、まさに脱出ゲームがネタになっていますね。
『都会のトム&ソーヤ 22 ナイト列車で行こう!』作:はやみねかおる/絵:にしけいこ(講談社)
はやみね作品は各時代の読者に愛され続けている
『いつも心に好奇心! 名探偵夢水清志郎VSパソコン通信探偵団』著:はやみね かおる/著:松原 秀行/絵:村田 四郎/絵:梶山 直美
最近では、2025年に宇都宮市立図書館で講演したとき、市内の小学5・6年生が選定委員となって「友だちにすすめたい本」を選ぶ「うつのみやこども賞」のことを教えてもらいました。
約40年間の受賞作品のリストを見ていたら、はやみね作品が通算4回と最多受賞ではありませんか! さらに驚いたのが、最初の受賞年は平成12年「いつも心に好奇心」。4回目の受賞年は、平成30年「奇譚ルーム」。
なんと初回と4回目の間が約20年もあるのです。その時代、その時代の小学生にずっと推され続けてきて、しかも4回とも全て違う作品を受賞するとは、本当にすごいことです。
他にも、出版社に勤める文芸の編集者から読書遍歴について聞いてみると「小学生のころは、はやみねかおるさんの『夢水清志郎』と松原秀行さんの『パスワード』直撃世代のミステリーばかり読んでいた」という人もいれば、その下の世代からは「怪盗クイーン」や「マチトム」の名前が出てきたりもします。
『そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノート』作:はやみねかおる/絵:村田四郎(講談社)
年代は幅広く、さらには性別にも関係なく読まれている。ゲームやミステリーの仕掛けに特に注目して読んでいる人もいれば、クセの強いキャラクターたちの掛け合いが好きだという人もいる。はやみね作品には、間口の広さ、読者の関心を惹くフックの多さを感じます。
また、児童文学作家として史上初だという公式ファンクラブ「赤い夢学園」が2024年9月に発足しました。こちらもやはり年齢や性別問わず参加者がいると聞いています。
子どものころに読んで卒業していく人もいますが、長年にわたってずっと読み続け、語り続けられる沼の深さもある。
こうして改めてまとめていると、「はやみねかおるとは……。いったい何者なんだ、この作家は?」という気がしてきました。
「都会のトム&ソーヤ」には創也と内人をねらう「頭脳集団(プランナ)」という謎の組織が登場しますが、シリーズもののミステリー作品に出てくる黒幕のように、不可解かつ非現実的な存在に思えてきます。
将棋の藤井聡太棋士や野球の大谷翔平選手は、戦績がすごすぎて「フィクションだったら『リアリティがない』と言われる」と小説家や脚本家から冗談まじりに言われていますが、私ははやみねかおるさんもそれに近い気がします。
そんな魅惑的なはやみね世界、足を踏み入れたくてもシリーズが長いので1巻に手を付けづらいと思った人も大丈夫。「マチトム」は何巻からでも読めるように書かれています。
いきなり22巻の最新刊からでもよし! 最近だとオーディオブック版もあるので音声で1巻から聴くもよし! 興味をもったら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね(とはいえ、やっぱりおすすめは1巻からですが……)。
文/飯田一史
『都会のトム&ソーヤ 22 ナイト列車で行こう!』作:はやみねかおる/絵:にしけいこ(講談社)