【文芸誌「漣」11号】虚実皮膜のあわいに漂う
静岡新聞教育文化部が200字でお届けする「県内アートさんぽ」。今回は、奥付記載が2024年4月1日発行の文芸誌「漣」11号。山本恵一郎さん、井石誠一さん、田中芳子さんら、静岡市在住の書き手が中心。表紙、カットは画家松井正之さん(静岡市)。
河原治夫さん「五月憂し」が秀逸。痴漢逮捕を報じる新聞事件記事の「訂正」を糸口に、被疑者とされた男性、被害者とされた女性の「それまで」と「その後」を創造。虚実皮膜のあわいに漂う「理屈」「感情」「葛藤」を見事に物語化している。だじゃれと軽口が飛び交う先輩後輩の会話劇を導入に、少しホラー味も感じられるラストまで、手を替え品を替えの話法転換も魅力的。報道機関の権力性への言及には居住まいを正すしかなかった。(は)