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“まちが歴史を語る” 足利学校・鑁阿寺エリアの歴史と暮らしが調和したまちづくり

LIFULL

歴史と暮らしをつなぐ「足利学校・鑁阿寺周辺まちづくりプロジェクト」

国宝・鑁阿寺の山門から石畳が通りに向かって敷かれていて近隣の風情を醸し出す

「ここは、歴史を感じるね」
足利学校と鑁阿寺(ばんなじ)をつなぐ参道を歩いていたとき、すれ違った観光客がそうつぶやいた。石畳にレトロな街灯、そして漆喰壁の古い建物。街にはゆるやかな空気が流れ、不思議と懐かしさが漂っていた。

この風景を形づくってきたのが、「足利学校・鑁阿寺周辺まちづくりプロジェクト」である。足利市が1998年に策定した「中心市街地活性化基本計画」を土台とし、歴史資源を核に持続可能な都市づくりをめざす総合的な再生政策だ。かつては、どこにでもあるような商店街だったところ、すっかり風情のある通りに生まれ変わったそうだ。

足利市観光まちづくり課の横田秀行さんによれば、「歴史を守るだけでなく、暮らしと調和させながら未来へとつなげていくこと」がこの取り組みの主眼だという。「歴史から未来へ、ときめきの都市・足利」という将来像を掲げ、文化財・観光・商業・居住が融合する都市構造を目指してきた。

鑁阿寺から石畳を徒歩数分で足利学校に着く。現在の姿は落雷により消失してしまった江戸時代の姿を復元したもの

歴史を守りながら、便利な暮らしへ。補助制度も活用したインフラ整備

足利市が示した重点景観地区を地図で表している(出典:足利市公式サイト)

足利市が目指す「歴史的地区の景観と利便性の両立」は、単なる景観整備にとどまらない。歴史的な風情を保ちながら、住民の暮らしや観光の利便性にも配慮したインフラ整備が進められてきた。

まず行われているのが、石畳の参道や無電柱化、歴史的建築にふさわしい街灯設置などだ。この景観整備には、足利市に合わせた都市デザインの導入のために、「まちなみ修景補助事業」が適用されている。この補助制度で、歴史的景観に調和した外観修整を支援しており、住民やオーナーの協力体制の強化にもつながっている。

また、古い町並みで課題となる「狭い道」の改善については、都市計画道路の整備や土地区画整理事業が大規模に進行中だ。安全性と歩行空間の快適性を確保することを目的に、中央土地区画整理事業や大日西土地区画整理事業では、道路幅の拡幅や上下水道整備が計画されている。

石畳の通りにしたことで、路地が特別な空間に感じるようになった

さらに、空き店舗や空き家のリノベーションを進めるために「中央商店街等遊休資産活用支援事業費補助金」も導入された。この制度では、空き家や空き店舗をカフェ・ギャラリー・店舗などに転用する際の新規出店経費(改修・機器設置・販促費など)について、中心市街地エリア内で補助される。

こうして、補助による支援も活用しながら、足利市は歴史的な景観整備を「鑑賞する対象」だけでなく「安心して歩ける空間」としてまちづくりを進めている。

石畳通りを舞台に、文化を通じたまちあるき体験を

石畳通りにある店舗では、足利市の特産品をいかした商品開発を目指している

石畳通りはこのプロジェクトの象徴的空間だ。無電柱化やレトロ街灯の導入で格式ある町並みに進化させた上で、文化的取り組みを展開している。

観光案内整備も進化している。石畳通りや歴史施設を巡る「まち歩きMAP」、レンタサイクル、休憩ベンチの整備により、観光客が地域を心地よく探索できる環境が整備された。

その代表例が商店街「いしだたみの会」による「相田みつをマップ」だ。書家・詩人の相田みつをさんの生誕100年に合わせて制作されたマップでは、店舗や見どころを紹介し、文学を通して街を体験できる工夫がなされている。

加えて、夜の散策を彩る「足利灯り物語」は毎年11月、文化財を活かした夜景イベントとして定着し、銘仙灯りや花手水等の演出により幻想的な夜景空間が演出されている。

このように史跡の保存とまちづくりの創意工夫が融合し、単なる観光経路ではなく「文化体験ができる通り」として進化してきているのだ。

足利学校での夜景イベントとして定着してきた「銘仙灯り」の作品(画像提供:足利市)

歴史地区を超えて広がる、地域資源の連携

足利市立美術館で開催された「山姥切国広展」では、多くの刀剣ファンが来場。刀剣乱舞の影響で女性ファンが多い(画像提供:足利市)

石畳通りや鑁阿寺周辺の整備によって生まれた観光の流れは、中心市街地外にも波及している。

たとえば、刀剣展が開催された「足利市立美術館」では、全国から刀剣ファンが来場し、その帰路に歴史エリアを訪れるケースが多く見られたそうだ。美術館と門前町が“知的回遊ルート”として連動することで、新たな交流の形が芽生えている。街歩きの音声ガイドも開発された。

さらに、「あしかがフラワーパーク」との連携も見逃せない。市内有数の観光地である同施設の来場者が、花の鑑賞後に市街地へと足を延ばす動線が確立しつつある。市としても観光情報の発信を強化し、JR足利駅やターミナル施設に案内板を整備するなどの導線づくりを進めている。

そのほか、国道293号線の外側エリアにも変化が表れている。景観整備によって市街地の印象が向上したことを契機に、観光客の流れが外縁部へも広がり、空き店舗の活用や新規出店の動きが生まれているのだ。中心部の整備が周辺地域の活性化へとつながる、持続可能な都市形成の好例と言える。

このように、足利市のまちづくりは、歴史資源を“核”としながらも、その効果をエリア全体に波及させる構造を描いている。

今後は織姫神社への回遊性向上へ。歴史資源をつないで「面」にしていく

織姫神社の本殿までは7色の鳥居をくぐって登っていく

今後の展望として、市は鑁阿寺・足利学校エリアから織姫神社方面への回遊性向上を図っていく方針だ。歴史資源を「点」で終わらせず、「線」へ、そして「面」にしていくことにより、街全体の体験価値を高める。また、神社から市街地へ下る動線にも魅力を加えて、上り下りどちらのルートも楽しめる構想も組み込まれている。

さらにこのプロジェクトは、将来的な世界文化遺産の登録も視野に入れている。かつては点在していた歴史資源が、「歩いてつながる魅力の回廊」へと姿を変え、市民と観光客が自然に交差する“開かれた歴史地区”が生まれようとしている。

織姫神社の本殿前からは、眼下に古い町並みや渡良瀬川と渡良瀬橋が望める
鑁阿寺の裏側も整備が進み、石畳となり風情ある住宅地となっている

このような歩行者の導線づくりと並行して、現在も中央土地区画整理事業をはじめとする大規模な都市整備工事が進行中だ。インフラ面の改善は、安全性と快適性を両立させる重要な基盤として着実に進められ、街並みの美観とともに、日常の暮らしの質を高めるための取り組みは今なお続いているのだ。

歴史景観の維持と新たな経済活動の両立、観光客の増加による生活環境への影響、空き家の継続的な利活用といった課題に直面しながらも、足利市は「歴史を守るだけの場所」ではなく、暮らしとともにある歴史資源をいかしたまちづくりを進めている。

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