『クスノキの番人』直井玲斗役・高橋文哉さんインタビュー|この先の自分が見返して何を思うのか楽しみと思える作品になった
累計100万部を突破した、東野圭吾先生による小説『クスノキの番人』(実業之日本社文庫刊)が初のアニメーション映画化。1月30日(金)から全国公開中です。
アニメイトタイムズでは、公開を記念して直井玲斗役・高橋文哉さんにインタビューを実施。長編アニメーション初主演を務める高橋さんが感じた作品やキャラクターの魅力、俳優と声優の表現方法の違いについてなど盛りだくさんな内容となっています!
玲斗はとても根が優しく人間味のある人
ーー最初に台本を読んだ際の感想をお聞かせください。
直井玲斗役・高橋文哉さん(以下、高橋):先に原作を読ませていただいたのですが、「東野圭吾先生と言えばミステリー」というイメージがある中で、“人の温かみ”のような部分がすごく膨らんでいると感じましたし、その部分へのリスペクトを感じる台本になっていると思いました。
やはりどうしても、少しずつ削っていかないといけない部分はあると思うのですが、それでも本当に大事なところを守りながらの台本になっているという印象を受けたので、僕自身もすごく乗りやすかったです。
ーー先ほどミステリーという言葉がありましたが、本作もクスノキについての謎がどんどん解き明かされていくところが、ひとつのポイントだと思います。
高橋:やはり、それぞれのキャラクターもそうですし、観てくださっている方も含めて、クスノキに対する見え方みたいな部分がどんどん変わっていくと思います。それを玲斗が背負っているので、僕としては、本当に観てくださる皆さんと同じ目線で、玲斗として向き合いたいという気持ちがありました。
物語の始まりからだんだんとクスノキのことを知っていって、理解して、自分のものにしていく感覚というか。そこは大事にしようと思っていたので、観てくださる皆さんと同じ気持ちで、玲斗を演じられたらいいなと思っていました。
ーー家で読み込んだ玲斗と、実際に現場でしゃべった玲斗のギャップはあったのでしょうか?
高橋:普通のお芝居の作品だと家で台詞の練習をあまりしないんです。(役者さんたちと)いざ対面して、その方と会ったときにどういう音が出るのかも現場に行かないと分からない、という感覚があって。
だけど、声優のお芝居は家で練習しないとなと思って、ピッチじゃないですけど言い方の練習というよりも感覚の練習をしました。言葉として吐く練習というか。それに対して、「すごくナチュラルからリアルまでの声の幅だったら、これくらいのトーンだろうな。でも、普段自分が見ているアニメーションの画に乗せたら、(お芝居として)弱いだろうな」とか。やっぱり現場に行かないと分からない部分も多かったです。
加えて、今回は伊藤監督(伊藤智彦さん)に救っていただいたという気持ちが強いです。自分でも分からないながらやっている中で、伊藤さんにディレクションしていただいて、そこに頑張って食らいついていく、というイメージでした。
ーーすでにキャラクターのビジュアルが完成している中で、声のトーンをキャラクターに合わせにいく作業が必要だったのではないでしょうか。
高橋:そこに関しては(玲斗と)年齢が近いので、等身大でいいなと思いました。
ただ、ちょっと性格がぱやっとしているなと思っていて。なので、例えば僕が実写で直井玲斗を演じたとして、その実写の声よりもトーンが低くならないようにしようと思いました。
というのも、この台本でこの役をいただいたときに、だいぶローから入るだろうなと思っていたんです。アニメーションになる分、コミカルにもなりますし、表現の幅も広がるので、声のトーンはもう一個上なのかなと。
アニメに乗せる分、低すぎるとギャップが生まれてしまうので、テンションを高くするというよりは自分が実写でやるときよりも、ひとつ上のトーンを意識しています。
ーー直井玲斗というキャラクターに対しては、どのような印象を抱かれましたか。
高橋:「人間だなあ」と思いました。クスノキに対して「スピリチュアル的なやつでしょ?」と思いながらも、全然信じないけど、「任されたからやるか」みたいな。人間って何かを自分で決めて行動を起こすとき、何かしらの後押しがないと難しいと思うんです。それが自分の感情でコントロールできる人もいれば、一番近くにいる信頼している人の後押しだったりもする。でも、玲斗の場合はどっちでもない。
なので、運任せの人生の中で生きている気持ちもすごく分かりますし、そこをちゃんと「人」にしてあげたいというか、「こいつバカだな」と思われて、視聴者の方々が離れていかないようにしたいと思っていました。確かに抜けているところもありますし、何も考えてないように見えますが、すごく根が優しい子で人間味のある人だと思ったので、そこは考えながらやっていました。
ーー性格的な部分で特にお好きなポイントがあればぜひ教えてください。
高橋:緊張はするけれど、物怖じはしないところです。それこそ、千舟さんと初めて会ったときなど、どこか「舐められたくない」というような気持ちがあるんです。自分自身に強い劣等感を感じているからこそ、その劣等感を他人に悟られたくないというか。
自分に自信はないけれど、それを見透かされたくないから、必死に取り繕おうとする。それがあるからこそ、最初は物怖じしているけど、それを見せないように頑張っているその不器用さみたいな部分は、すごく感じました。
ーー「監督とお話しする中で、作品への熱い想いに触れ、自然と気持ちが前を向いた」という公式コメントもありましたが、監督とは具体的にどういったお話しをされたのでしょうか?
高橋:だいぶ前に、キャラクタービジュアルと設定資料が完成したタイミングで監督とお話しさせていただく機会がありました。
その中で、構想も含めて、「この作品で、今まで日本のアニメーション映画ではできていなかったことをやりたい」というお話をされていて。テクニカルな部分は僕には全く分からないけれど、これまであまり使われていない技術を使って、新しいものを作りたいという想いはすごく伝わってきました。
原作の東野先生にとっても初のアニメーション作品ですし、僕自身も長編アニメーションの初主演で、監督がいろいろ人の初めてを引き受けて、世の中に良いものを届けようとしている。その熱量に応えたいという気持ちが強くなりました。
ーー実際の完成したアニメーションをご覧になっていかがでしたか?
高橋:アニメーションすぎない感じというか、ちょっと実写っぽいというか、「なんだろう、この感覚は」という描写がすごく多かったです。
もしかしたら、それが伊藤さんがおっしゃっていた「新しいこと」の片鱗なのかなと感じて、観ていてすごく心地よかったですし、物語を見終えてクスノキにも気持ちがあるように見えるような画の表現力を感じました。
特に気持ちが乗ったのは宮世琉弥さん演じる大場壮貴との掛け合い
ーー高橋さんの中で印象に残っているシーンを教えてください。
高橋:最初の、トイレ掃除で顔にカマドウマが飛んでくるシーンです。あれはすごく大変で、お芝居をどういうふうにやったらいいのか分からなくて。
それこそ、最初に警察に見つかったシーンなど、慌てふためくときは声のトーンのキーを高めにしよう、という話を監督としていました。なので、(トイレ掃除のシーンで)そのまま階段を転げ落ちていく流れも含めて、「情けなさを見せられるのは、ここしかない」と思っていました。
あとは、コノハズクとのシーンも、最初は見つめて首を振るだけだったのですが、僕が独り言みたいに「ダメダメ」と呟いたら、「それ、活かしましょう」と言ってくださったんです。
僕は声優さんのようにノウハウがあるわけではないので、常に「これを実写でやったらどうなるか」を考えるしかなくて。階段から転げ落ちるワンシーンは本当に大変だったなという印象があります。何回も録りました。
ーー普段のお芝居と比べて、イメージを膨らませる時間も多かったのかなと。
高橋:そうですね。普段のお芝居だと身体が反射的に動くところを、感覚的にやっていくという意味で、すごくテクニカルな仕事だと思いました。
ーーそれこそ台詞の秒数が決まっているというのも、実写との違いですよね。
高橋:最初は難しさも感じましたが、中盤になると「どうやってそこにはめるか」という感覚になってきました。普段は自分の感情に合わせて動きを変えるのですが、今回は動きに対して感情を変えるという真逆の作業だったので、決まっている動きに対して自分の感情をはめていく作業がすごく楽しかったです。
ーーほかキャスト陣との掛け合いでより気持ちが乗ったと感じたシーンも教えてください。
高橋:壮貴と話すシーンがあるのですが、あのシーンは全体を通してすごく気持ちが乗りました。声を荒げるシーンで、同世代で自分よりも圧倒的に立場が上の壮貴に対して、小さいながらも噛みつこうとする玲斗の弱さみたいなものが出ていると思います。劇中のセリフにもありますが「地位があって、金があって、親がいて、まだ足りないんですか⁉」と言いたくなるような、自分にはないものを全部持っている人なので。一方の壮貴は壮貴で、自分にないものを持っているのが玲斗なんです。
そういうお互いのズレていたピースが、最後にパチッとはまってお互いを信頼して話せる関係になっていく。そこに至るまでの凸凹感というか交わらなさというのは、玲斗としては悔しくもありました。
ーー千舟役の天海祐希さんをはじめとするキャストの皆さんともアフレコはご一緒だったのでしょうか?
高橋:基本的には一緒でした。最初に僕だけが全部一通りアフレコして、そのあとそれぞれの方ともう一度同じシーンを録りました。
最初のアフレコの際にディレクションを受けて、「ここはもう少しこうしよう」という確認をして、2回目で皆さんと合わせるという流れで、千舟さんの日、優美の日、壮貴の日、といった感じで。
やっぱり初めて天海さんの千舟の声を聴いたときに、背筋が伸びました。それは高橋文哉として天海祐希さんを見ているのもあるだろうし、玲斗として千舟に初めて会えた瞬間だったというのもあると思います。
そこから、だんだん重ねていくうちに、天海さんもすごく優しくて気さくな方なので、「大変?」みたいな会話をしながら、いろいろ話しかけてくださって。
ーー普段は映像作品で俳優としてお芝居をされていますが、アニメーションの声優の表現方法を経験して、表現の違いをどう感じられましたか?
高橋:それこそ天海さんが「普段持っている武器を、すべて削ぎ落とされて、声だけになる」とおっしゃっていて、すごく腑に落ちました。
手があって、足があって、表情があって、身振り手振りがあって、それを全部取り除かれる。いつもだったら感情を伝える手段として表情や身振り手振りの後にくる最後の手段の声が一番前にくるというのが大きく違いました。普段と同じ向き合い方だと、感情量として足りないんです。
それを声で表現するという部分に難しさも感じましたが、今まで一番後ろにあった声でこんなにも感情が伝えられるんだと思うと、順位が詰まってきた感覚があります。まずは表情、気持ち、身振り手振り、最後に声という距離感がぎゅっと詰まった感じです。
ーー最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
高橋:長編アニメーションの初主演を務めさせていただくということで、いろんなプレッシャーや不安を抱えながら臨みましたが、天海さんをはじめキャストの皆さん、そして伊藤監督に本当にたくさん助けていただきました。
その瞬間に出せるものは、全てこの映画に出し切ったつもりです。この先の自分が観て何を思うのか楽しみだなと思える作品になったので、皆さんにもぜひ楽しんでいただけたらと思います。
[取材・文/笹本千尋 写真/小川いなり]