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浅草『辰巳庵』の冷やしラーメン/第12回「そば屋の中華」【前編】

さんたつ

数々の名店を取材してきた町中華探検隊が、中華にとどまらず和食や洋食も併せ飲む「町中華」の気になるメニューや文化を研究。 前編では、テーマとなるメニューを扱う町中華の名店を取材。 後編ではそのメニューについて隊員が大いに語り合います。 第12回は、きっと誰もが出会ったことがある「そば屋の中華」。

マグロ副長がすすめる! いつもちょっとした驚きがある“町中華”

マグロ

浅草の国際通りを歩いて、どこか飲食店に入ろうというコラムを書くため、僕は暑い夏の日に銀座線田原町駅をスタート。言問通りを越えたところで、見つけたそば屋に入ることにしました。冷やしたぬきにでもしようかと店のメニューを見ると、なんと中華メニューがかなり充実。見た目はまったくそば屋なのに中華が人気のお店って、けっこうありますよね。例の「冷やし中華始めました」という季節を感じる貼り紙も町中華だけではなく、おそば屋さんに貼ってあることもあります。で、この日、注文したのがメニューの最初にあった「冷やしラーメン」。冷やし中華じゃなくて、冷やしラーメンですよ。冷たいスープに麺、千切りのチャーシューとキュウリがたっぷりのっかっていて美味でありました。その後僕はこの店に通うことになるのです。ある時「五目そばください」とお願いすると、「日本そばですか、それとも中華?」と聞かれ、中華でお願いしました。町中華の典型的な五目そばとは違いましたが、これはこれでありですね。うかがうたびにちょっとした驚きがあるお店です。

浅草の老舗そば屋が放つ絶品町中華!

『辰巳庵』は3代目に当たる大澤良徳さんのおばあさんが創業したそば店だ。そば・うどんだけでもメニュー数は有に30を超える。丼ものやセットメニューも豊富で、おなかを空かせた常連客たちがミニ丼とそばを注文するのは、この店にでよく目にする光景。そばは良徳さんのお父さん、2代目・勇さんがとったかつおだしが味の決め手! 古き良きそば屋の味を踏襲しつつ、お客のニーズにしっかり応えている。そんな純然たるそば店なのにこの店は、中華メニューが驚くほど多い。どう見てもそば屋だが、中に入ってみると「町中華」の趣も楽しめる店なのだ。

栄養士だった3代目が新メニュー開発

2代目・勇さんの妻、みな子さん(左)がおかみとして店を切り盛りし、店はいつも明るい雰囲気。3代目・良徳さんは「基本はそば屋。そばメニューの魅力も伝えたいですね」と話す。中華もそばもどちらも食べたいから、何度も足を運ばねば!

その昔は大人がそばを頼み、その横で当時の子供がラーメンやカレーを注文していたそう。自然発生的に誕生した『辰巳庵』の中華は3代目・良徳さんが店に入るようになってから、急速にメニュー数を増やす。彼の前職は栄養士。栄養の知識を生かしながら、お客の声も取り入れて料理を増やした。冷やしラーメン700円は焼うどんを作ったときに、冷やしでもイケるのではという発想から誕生した一品だ。お客さんに試作品を食べてもらうなど試行錯誤を重ね、日本そば用のつゆをベースにした今の形に行き着いた。「一つ一つの料理にいろんなひらめき、いきさつがあります。ボツももいっぱいあるんですよ」と良徳さんは笑顔で教えてくれる。そば屋としてのプライドは持ちながらも、お客の声に応えるこの柔軟さが、ほかにはない独創的な中華を生み出すのだ。

五目中華800円(手前)と、おかめ800円。五目と注文すると、「中華ですか、日本そばですか?」と尋ねられたと、マグロ副長。一見優しそうな五目中華は、鶏油が溶け込みコク深い。おかめはかつおだしと具材の旨味が渾然一体となった豪華な一杯。
日本そばと中華に加えてカレーも『辰巳庵』の人気料理の一つだ。このカツカレー1000円を指名でやって来る客も多いという。サラダ油で揚げることで軽い仕上がりになるとんかつと、風味のよい味噌汁が濃厚なカレーのおいしさをさらに際立たせる。
そばと中華だけでメニューがこんなにたくさんあり、魅力的な料理名に胸躍る。あらゆる客層を虜にし、人気店であり続ける秘訣はこの料理の幅広さにある。これまでありそうでなかった、ノートに手書きというメニューもなかなか渋い!

浅草『辰巳庵』店舗紹介

辰巳庵(たつみあん)
住所:東京都台東区千束3-8-5/営業時間:11:00~19:00/定休日:土(不定休あり)/アクセス:つくばエクスプレス浅草駅から徒歩10分

取材・構成=半澤則吉 撮影=山出高士

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