明石家さんま&大竹しのぶ初共演の人気ドラマ「男女7人夏物語」の主題歌「CHA-CHA-CHA」は軽快なノリでまさかの大ヒット、彗星のごとくあらわれた石井明美のデビュー曲だった!
シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤
1986年(昭和61)に放送されたTBSドラマ「男女7人夏物語」が最近BSで再放送されていることを知った。鎌田敏夫の脚本で、合コンで出会った結婚適齢期の男女7人、明石家さんま、片岡鶴太郎、奥田瑛二と、大竹しのぶ、池上季実子、賀来千香子、小川みどり(女優初体験の芸能リポーター)らの恋模様と彼らの揺れる心が描かれる。男性陣は大学のサークルの仲間、女性陣は自動車のイメージガールを務めてからの付き合いという設定だ。個性豊かなキャラクターもそれぞれがはまり役で視聴率もうなぎ上りとなって、最終回は31%を超えた。ドラマ史のなかでは、トレンディドラマの走りの作品と言われている。
特に明石家さんまと大竹しのぶの丁々発止の掛け合いは絶妙だったし、片岡鶴太郎も回を重ねるごとにいい味を出していた。ショートヘアが似合って都会的でカッコいいのに、寂しさを抱え不器用な女性を演じた池上季実子も見逃せなかった。
直近放送の第9話「笑うな!」では、明石家さんま演じる良介と大竹演じる桃子が、デートの別れ際キスをしようとするのだが、照れながらの二人の応酬が面白い。
良介 「目を閉じろよ…」
桃子 「……歯が刺さったら困りますーぅ」
セリフだったのか、アドリブなのか、漫才のような二人の掛け合いに大いに笑った。
そして片岡鶴太郎と池上季実子である。為替ディーラーという職を持つ池上季実子演じる千明は、先に良介と付き合うのだが、屈託なく生きている明るい桃子に良介を獲られてしまう。他の男の前では突っ張ってしまう千明だが、貞九郎(片岡)の前では、強がったりせずに素直に泣いたりできるから、気持ちが揺れるほど貞九郎に寄りかかってしまう。居酒屋で泣いた千明を慰めた帰り際、ビルの壁に千明を押し付け、叫ぶように、「あなたにとって、おれは男じゃないかもしれないけれど、おれにとって、あなたは女なんだ」と言い放ち、貞九郎は背を向けて歩き出す。簡単に言ってしまえば、「僕は君のことが好きだけれど、君は僕のこと好きじゃないだろう」というものだが、言葉の力は大きい。千明の心は揺さぶられ切なく立ちすくんでしまう。
そして次回の最終話「Yes or No」では、桃子がノンフィクションライターになる夢に近づくためアメリカに旅立ち、翌年の「男女7人秋物語」に続く。
このドラマで彗星のごとく登場したのが主題歌「CHA-CHA-CHA」を歌った石井明美だ。「CHA-CHA-CHA」はもともと、イタリアのダンスグループのフィンツィ・コンティーニのシングルで、イタリアやフランスでは1985年にシングル発売された。日本語訳を今野雄二、編曲を戸塚修が担当し、86年8月14日リリースされた。約50秒も続く長いイントロには、車のブレーキとクラクション、そしてホイッスルの音が入る。さらに、〝BabyGet on my Cadillac〟〝Oh No I Wanna Dance My CHA CHA〟と男性と女性のセリフがささやくように入るのが印象的だ。この男性のセリフとサビのコーラスはロングセラーヒット曲「メリージェーン」で知られるつのだ☆ひろが担当している。訳すと「ベイビー、おれのキャディラックに乗りなよ~ あぁだめよ、わたし、CHA CHA 踊りたいから」というものだ。
当時21歳の石井明美は歌手志望ではなかった。美容師になりたくて、高校在学中に通信教育で資格をとり、卒業後銀座の美容室で働き始めた。美容師の数も多くシャンプーばかりの毎日に飽き足らず、すべての業務に携われる小規模な美容院に移ろうと転職活動をしている間、友人から紹介された六本木のスナックでアルバイトを始める。そこは芸能関係者も出入りする店で、接客が苦手だった石井は歌うことで逃げていたのだが、それがスカウトされるきっかけになった。声をかけた芸能事務所が「研音」だった。今や「研音」は、唐沢寿明、山口智子、反町隆史、独立した竹野内豊ら人気俳優を抱える芸能事務所。創業者の野崎俊夫は競艇専門紙の「研究出版」に1973年(昭和48)音楽事業部を設立。研ナオコがデビューし浅野ゆう子をアイドル歌手としてデビューさせ、「メモリーグラス」の堀江淳や中森明菜を大スターに育てたのも野崎だった。
事務所に「男女7人夏物語」のテーマ曲の話が入った。事務所にいた中森明菜は85年には「ミ・アモーレ」、翌年は「DESIRE─情熱」で日本レコード大賞「大賞」を受賞するという、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いがあった頃である。
いくら明石家さんまが人気者だったとはいえ、お笑い芸人が主役のドラマは未知数だ。主題歌を中森明菜に歌わせることを事務所も躊躇し、石井に白羽の矢が立ったという。けれども新人の曲など売れるはずがないというレコード会社の意向でリリースを断られ、やっと決まったのがCBSソニーだった。残念ながらレコードの発売はドラマの開始に間に合わなかった。
ふたを開ければ、「CHA-CHA-CHA」は80万枚を売り上げ、オリコン年間シングルチャート1位に輝き、日本ゴールドディスク大賞、日本レコード大賞新人賞などを受賞。翌年には春の選抜高等学校野球大会の入場行進にも採用されたのである。結婚を機に芸能界を引退したが、97年火曜サスペンス劇場のテーマ曲「バラード」で歌手活動を再開した。現在も地方都市などでコンサートを行っている。
「男女7人夏物語」をはじめ、鎌田敏夫脚本のドラマをよく観ていたことが懐かしい。「飛び出せ!青春」(72~73)、「俺たちの旅」(75~76)などの「俺たちシリーズ」、「太陽にほえろ!」(73~76)、「傷だらけの天使」(74)、「金曜日の妻たちへ」(83)、「ニューヨーク恋物語1-2」(88~90)、「過ぎし日のセレナーデ」(89)、「29歳のクリスマス」(94)……、数えきれない。それぞれのドラマには心に残る名セリフがあった。
あとでわかったが、先述した「男女7人夏物語」の良介と桃子の会話なども、脚本家が書いたセリフのままだった。鎌田はテニオハまで違わず、まるでアドリブのように喋った大竹に脱帽したと語っている。はまり役だったと思うキャスティングも脚本家が考え抜いたもので、一人ひとりの登場人物から無意識に出てくるセリフがダイレクトに視聴者に伝わるのだろう。主題歌「CHA-CHA-CHA」の一緒に踊り出したくなるような軽快なノリが、ドラマの一部になって視聴率のアップに繋がったことは間違いない。30年以上前に観たドラマの再放送も、懐かしさのなかに新しい発見があって楽しめるものである。
文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫