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佐野元春インタビュー ② 僕は物語を書きたかった。ストーリーテリングという手法でね

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1982年05月21日 佐野元春のサードアルバム「SOMEDAY」がリリースされた日

『佐野元春インタビュー ① アンチ・シティポップ「SOMEDAY」は僕の反抗だった』からのつづき

ロックンロールのマジックを今でも信じている


― 佐野さんがロックンロールの初期衝動にコネクトした瞬間はいつだったのですか?

佐野:テレビで観た弘田三枝子かな。すごくパンチのあるシンガーで、僕の周りにはいないタイプの女の子だった。歌は上手いし、両親が聴いていたロネッツの「Be My Baby」をカバーしていた。「これだ!」と思った。聴いてビビッときた。居ても立っても居られない感じ。ロックンロールのマジックだと思う。今でも信じているよ。

― ロックンロール自体が持つパワーはご自身がデビューされた1980年と現在と比べて弱ってきていると思いますか?

佐野:聴きようによると思う。古い人たちは古い音楽を物差しにして今の音楽を聴く。新しい人たちは今楽しんでいる音楽が彼らの物差しだ。どちらが長くて短いと言う話ではない。ただ僕が好きな音楽には、パワーの有無ではなくて、どこか翳りのようなものがある。

― 物事にはそういう影の部分があるのではないかということを気づかせてくれたのが佐野さんの音楽でした。

佐野:キッズは自分で探すしかない。だから多感な頃にどんな文学や音楽に触れるかは大事だ。

― 僕も佐野さんの音楽からサリンジャーを読んだり、リチャード・バックを読んだりとかしました。

佐野:少し本の売り上げに貢献したかな(笑)。

― 佐野さんの紹介してくれた音楽とか文学は生涯の限りない財産になりました。

10代に響く音楽、特に少年に唄いかけたくなる時がある


佐野:当時僕は、音楽番組をやっていた。NHK-FMの『元春レイディオ・ショー』。ジャーナルな音楽番組だ。全国で流れていた。今でも『元春レディオ・ショー』を聴いてDJになったとか、番組の制作に携わるようになったという話を聞く。嬉しいですね。あの番組が皆さんの中で、良きノスタルジーとして心の中にあるとしたら光栄です。

― ラジオから偶然流れた曲に反応して、無意識のうちにヴォリュームを上げている瞬間が僕らにとっては財産になっています。
先ほど、佐野さんからアンチ・シティポップという言葉が出て、10代に響く音楽を作ろうという意識が強かったことがこれまでの話を聞いて伝わってきましたが、今もそのお気持ちがありますか?

佐野:あるよ。特に少年に唄いかけたくなる時がある。僕自身もそうだったからわかるんだけれど少年は脆い。危ない力に飢えている。そんな彼らが逃げ込む場所はかつてはロック音楽だった。僕の曲だと、「純恋(すみれ)」とか「少年は知っている」がそうだ。

― それが佐野さんの言うストリートからの視点という部分に繋がってくるのですね。

佐野:ただ残念だけど、そんな彼らが逃げ込む場所は、今はゲームだろう。負けないようにいい曲を書くしかない。聴いてもらって “自由” っていう感覚を知ってほしい。

― 自由ってなんだろう? と考える時に、佐野さんの楽曲には色々なヒントがあって、それは、佐野さんがリリースしたアルバム全てに潜んでいるのではないかと。そこを今も模索しています。

佐野:僕は悩んでる人をスケッチするだけで、考え込んで曲は書かない。ただいつの時代も、曲を書くときに “自由” というのは、重要なテーマだ。

― 今、佐野さんから “悩み” という言葉が出て、ザ・フーのピート・タウンゼントが、「ロックンロールは悩みを何も解決してくれない、悩んだまま踊らせるんだ」と言っていて、佐野さんの音楽はそこに帰結していく部分もあると思います。

佐野:ピート・タウンゼントは、賢いミュージシャン。彼の言葉は納得出来る。

― ただ、そこを超えている部分もあると思います。なぜなら答えが見つかることもあるからです。

佐野:それはいいね。

― それがロックミュージックの本質なのかなとも思います。

佐野:それはロックミュージックだけじゃない。例えば文学や映画、ゲームの中にも本質を気づかせる力がある。ただ人を楽しませるだけじゃなくて人々に何かを触発させる力があると思う。

色々な解釈があっていい。こう聴いて欲しいという答えはない


― その中で、伊藤銀次さんとの出会いはご自身にどのような影響を及ぼしましたか?

佐野:彼は友達だった。同じ音楽を聴いていた。特に60年代の音楽、ブリティッシュのビートバンドの話で盛り上がった。彼は僕よりずっと年上だけど、すごく気が合った。僕の音楽の価値を認めてくれた。だから側にいてくれたことが、すごく心強かった。

― 佐野さんはメロディが先にできますか、それともリリックですか?

佐野:曲による。ビートの効いた曲は、言葉が先に出てくる。

― 言葉にビートが乗っているから、説得力があるんですよね。

佐野:言葉とビートがマッチすると思いがけない意味が生まれる時がある。その感覚を知ってる人とはすぐに友達になれる。

― 佐野さんの書かれるリリックは自分が主人公だと思わせてくれました。「ダウンタウン・ボーイ」にしても「君をさがしている」もそうなんです。

佐野:そうやって聴いてくれている人がいると思っていた。それはストーリーテリングというスタイルだ。個人的に自分は私小説的な唄があまり好きじゃない。どちらかというと物語風な歌詞に惹かれる。だから初期の曲はほとんど三人称の視点で書いていた。「僕が~」、「私は~」ではなく、「彼が~」「彼女が~」だ。そうして出来た曲は聴き手が自分の曲のように聴いてくれる。物語は大事だ。年齢や性別を超えて聴いてもらえるから。

― 僕も「ハッピーマン」の、カシミアのマフラーにイタリアンシャツの男は佐野さん自身ではないな、と思っていました。でも、ものすごいリアリティなんですよね。ご自身のことではなくても当事者として歌の中の登場人物を描いているように思えました。

佐野:いいね。

― 「Rock & Roll Night」の中で、たどり着いたはずの場所にたどり着きたいと表現していますよね。この部分の真意についてどのようにお考えでしたか?

佐野:僕自身はどうも思っていない。僕は街をスケッチして、その風景を書いただけ。あの曲に何かを見出してくれるのは聴いてくれた人だ。大人になって聴いたら違って聴こえることもある。そこに色々な解釈があっていいと思う。僕から、こう聴いて欲しいという答えはない。

― 僕は、大人になっても、それをずっと考えていたので。

佐野:あぁ。僕が書いた曲に価値を見出してくれるのは聴き手。そこにいつも謙虚でいないといけない。

(取材・構成 / 本田隆)

第3回では、5月にリリースされたBlu-ray 名盤ライブ『SOMEDAY』について。なぜアルバム完全再現ライブを行ったか? この真相についても語っていただきました。
『佐野元春インタビュー ③「SOMEDAY」完全再現ライブの主人公は僕じゃないよ』につづく

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