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「大地の芸術祭」の舞台・新潟県十日町。大地潤う豊穣の地で短い秋を追いかけて

さんたつ

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秋が来る。東は魚沼丘陵、西は東頸城(ひがしくびき)丘陵に囲まれた雪国に、短い秋がやってくる。「大地の芸術祭」の舞台でもあり、米どころでもあり、山々の紅葉が美しい盆地の山里で、実りのフルコースを満喫!

雪で白く染まる前、大地から届く実りのお裾分け

建築家集団、マ・ヤンソン/MADアーキテクツの作品。「Tunnel of Light」として改修された清津峡渓谷トンネル。

「東京にいるときはクリスマスなどのイベントで四季を感じていました。でも、こっちに戻ってからは木々や花、虫の声で四季の変化を楽しむようになりました」とは故郷にUターンし、カフェの『ever.doichi(エバー・ドイチ)』を開いた中島あす香さん。

例年10月上旬からは、紅葉の美しい季節。十日町市観光協会の曾根栞さんによると「広くて標高差もある十日町市は、大厳寺(だいごんじ)高原や美人林などいろんな場所に紅葉スポットがあるんです」。

色づく山里や丘陵を舞台に行われているのが「大地の芸術祭」。日本三大峡谷の一つ、清津峡の観賞用として造られたトンネルは2018年に「Tunnel of Light(トンネル オブ ライト)」という作品に。峡谷の風景を水鏡で反転させた“映える”アートが人気で、この日は広島から赤ちゃんと写真を撮りに来たママも!

松之山の丘陵にあるブナ林は、通称・美人林。11月上~中旬が黄葉の見頃(写真=十日町市観光協会)。
十日町駅西口の『Tocco(トッコ)』では、市で出土した火焔型(かえんがた)土器をモチーフとしたグッズや地産果実・さるなしの加工品などを販売。
「栄養豊富な地元のさるなしで作るジュースやジェラートもぜひ」と、十日町市観光協会の曾根栞さん。

廃校や古民家を活用した作品が多いのも同芸術祭の魅力。旧真田小学校を生かした『鉢& 田島征三絵本と木の実の美術館』のスタッフ・尾身和弘さんは同校の卒業生。

「かつていた生徒たちを登場人物とした物語仕立ての展示になっています。その世界観に入って冒険するように鑑賞してほしいです」

見るだけでなく“作る”も楽しみたいなら、「HOME HOME NIIGATA」主催のちんころ作り体験へ。庶民が作った小さな工芸品・ちんころ(子犬)を、米粉を練るむかしながらの方法で制作できる。くねくねとした米粉の食感や、つまんだり切ったりして形になっていく工程に、つい没頭。

「仮に変な形になっても、それは愛嬌。ちんころに失敗作はないんです」とスタッフの駒形舞子さん。

「まつだい駅前の『越後まつだい里山食堂』では、12月1日まで新米フェアも!」と越後妻有(えちごつまり)里山協働機構の大津歩未さん。背後は『鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館』。
『鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館』の展示の一つ「くさむらの部屋」。
小さなかわいい工芸品・ちんころ作りを体験しよう。

里山の秋は、食材の実りの季節。「9月からは新米、11月からは新そばが味わえますよ」とは、『そばの郷 Abuzaka』の広田裕さん。ビュッフェでは車麸や身欠きニシンの煮しめ、潰して乾燥させた打ち豆の料理など高級ホテルでは味わえない田舎のごっつぉに喉が鳴る。

地元「松乃井」など、新潟の地酒を30種以上楽しめる湯宿が『PonshuHotel 睡夢(すいむ)』。代表の山岸裕一さんは「新潟の日本酒は端麗辛口の印象があるけれど、フルーティや甘酸系まで実は幅があります」と笑う。

今冬には、野草などを副原料に使う“クラフトサケ”を醸す酒蔵が市内に開業予定。お酒好きなら夢のような夜が過ごせるはず。

『そばの郷 Abuzaka』のビュッフェランチ。
『十日町ふれあいの宿交流館』は、軒を伸ばし豪雪から建物を守るせがい造りの民家を改装。カフェ営業も。
『十日町ふれあいの宿交流館&みはらしcafé』の大橋世史子(よしこ)さん。「『十日町市博物館』で火焔型土器を見て縄文時代のパワーを感じてください」。

『鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館』物語に入り込めばあちこちに生徒の気配

「体育館や教室で作品を展示。このピアノは開校時のものです」とスタッフの尾身さん。
田島征三さんの本やグッズを販売するほか、カフェも併設。

廃校となった小学校が空間絵本に。実際の最後の在校生だったユカ・ユウキ・ケンタと学校オバケが立体作品として登場し、その物語が1階から2階へと展開されていく。ピアノや机など、あえて残した当時のモノが懐かしい。

☎025-752-0066(冬期閉館中は025-761-7767〈大地の芸術祭の里 総合案内所〉)
2025年は~11月24日の10:00~16:00
火・水休(祝日の場合は開館)
新潟県十日町市真田甲2310-1
JR飯山線十日町駅からバス45分(土・日・祝、特定期間は運休)の絵本と木の実の美術館前下車、徒歩1分

「ちんころ作り体験」くねくねとこねて形成する作業に夢中

彩色に使う赤は健康、黄は財力、緑は人徳の意味がある。最初に米粉を練る。
むかしは飾ったあとに囲炉裏で焼いて食べたそう。

冬の農閑期に米粉で作られてきたちんころ。むかしからの定番である子犬1体と、自分の好きなもの2体を自由に制作できる。米粉に水を入れて練り、形を整えたら食紅で彩色。最後に蒸してツヤを出したら完成!

3日前までにホームページから要予約
https://homehome.jp/tours/chinkoro/
所要約1時間30分
1名4400円(申し込みは2名~)
新潟県十日町市安養寺乙170
JR飯山線十日町駅から車15分(会場は「雪の家 古澤邸」。日程により変更の場合もあり)

『JR宮中(みやなか)取水ダム』3つの魚道で魚をやさしくエスコート

周辺の流域にはウグイなど20種以上の魚が生息。多様な魚が移動できるよう、流速や水深の違う3つの魚道を設置。
魚道の脇には、魚道の断面を見られる魚道観察室も。
観察室ではダムカードも配布。

竣工は昭和14年(1939)。このダムから信濃川の水を取り入れ、近隣3つの発電所に送水。発電した電気は上越線や首都圏の山手線などに使われている。魚が遡上・降下しやすいよう右岸に造られた、それぞれ長さ200m以上の3つの魚道にも注目!

☎0258-82-2702(JR東日本信濃川発電所)
4月20日〜11月20日の10:00~16:00(期間は前後する場合あり)
新潟県十日町市宮中
JR飯山線越後田沢駅から車5分

『Ponshu Hotel 睡夢(すいむ)』厳選地酒が自由に飲める左党の天国

塩分が濃く浮遊感のある湯をかけ流し。
サウナは魚沼杉の香りが心地いい。
ピンクが美しい日本酒カクテルのぽん茶スパークリングもカウンターで提供。簡単な酒肴もある。

酒匠・唎酒師(ききさけし) の山岸裕一さんやスタッフが選んだ、新潟の地酒約30種を自由に飲み比べできる。廊下脇にある冷蔵庫から自由に注げる20種に加え、カウンターでお酒の背景にある物語をスタッフが説明してくれる10種を用意。

https://suimu.tamakiya.com/
1泊2食2万2500円~
泉質/ナトリウム・カルシウム-塩化物泉
新潟県十日町市松之山湯本60-1
北越急行ほくほく線まつだい駅から車15分(送迎あり。15時30分発、要予約)

「客室にはシモンズのベッドとテンピュールの枕を使用しています」と山岸さん(右)、スタッフの南雲聖広さん。

『そばの郷 Abuzaka』農家直営だからこそずらりと並ぶ郷土の味

「ビュッフェのメインは自社栽培で香り高いそば・とよむすめで打つへぎそばか、うどんから選べます」と料理長の広田裕さん。
ビュッフェの定番、おにぎりで新米のうまさを堪能。
田園風景の中に立つ。

自社栽培のコシヒカリや野菜をはじめ、地元食材の彩るビュッフェランチ1980円が人気。日によって変わるが、車麸を使った煮しめや山菜にキノコの天ぷら、そばの実入りみそ豆、ワラビの酢の物など郷土の味覚が十数種も。

☎025-755-5234
11:00~15:00
木休
新潟県十日町市南鐙坂2132
JR飯山線十日町駅からバス30分の鐙島保育園前下車、徒歩3分

『坂の途中のカフェとジム〜ever.doichi(エバー・ドイチ)〜』秋の旬を重ねた麗しスイーツ

秋は塩味のあるブルーチーズのアイスとシャインマスカットなど3種のブドウの甘さが抜群に合う、ぶどうのパフェ1900円が登場(パフェは+飲み物の注文が必要)。
姉妹は土市(どいち)出身。中島あす香さん(左)・美里さん。
1階がカフェ、2階がヨガスタジオ。

中島あす香さんがカフェを、美里さんがヨガスタジオを営む。十日町のコシヒカリの米粉を使った焼き菓子と、地元焙煎所に依頼した浅煎りのオリジナルブレンドS480円で、まったりと過ごす常連も。

☎025-755-6611
9:00~16:00LO(月・火・金は10:00~17:00LO)
水・木休
新潟県十日町市馬場丁1396-1
JR飯山線土市駅から徒歩6分

取材・文・撮影=鈴木健太
『旅の手帖』2025年11月号より

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