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いつの日か、許し許される日がくることを願って~横山拓也作・演出、iaku『逢いにいくの、雨だけど』が開幕

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撮影:木村洋一

会って謝りたい人がいる。生きていると、何人かいるものだ。謝ってもらわないと気が済まない相手もいる。ただ生きているだけで、ずいぶんややこしくなってしまった。謝ったり謝られたり、目が回る。だとしても、ただ立場が変わるだけだ。偉いわけでも、愚かなわけでもない。iaku『逢いにいくの、雨だけど』を観たあとに、つい浸ってしまった感傷だ。けれども、感傷がやがて逆説的な勇気をもたらす。もう少し生きてみようと思えてくる。iakuの作品には、そんな力がある。

初日のマチネ、4月17日。劇場に向かう途中、曇天の空は雨模様に変わろうとしていた。2018年に三鷹市芸術文化センター 星のホールで上演された本作が、同じ場所で、同じ座組みで再演を実現したことは、コロナ禍においても極めて重要なことだと思う。iakuがここで積み重ねたものは計り知れないはずだ。『逢いにいくの、雨だけど』は第22回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされた。横山拓也の劇世界をさらに広く周知させる契機となった作品でもある。

撮影:木村洋一

絵本作家への道を歩き始めた金森君子(異儀田夏葉)は、子どもの頃、不意の事故で友人の大沢潤(尾方宣久)に怪我を負わせ、左目の視力を奪ってしまった過去がある。そのせいで、親しくしていた両親たちも疎遠になり、事故以来、君子と潤は再会できないままでいた。絵本作家の新人賞を得て、アルバイト生活から脱却しつつある君子。一方、潤は自動販売機の営業マンとして働いている。小学生の頃に義眼の生活となったことで、彼の人生も大きくカーブした。

心の奥で、君子はずっと謝りたいと思っていた。手がけた受賞作の絵本をきっかけに、ふたりは再会を果たすことになる。謝りたいと思っている君子とは反対に、潤は謝罪をもとめていなかった。ただし、許したということでもないようだ。

撮影:木村洋一

許す側と許される側。そこに何かを期待する人。幾層にも及ぶ心のささくれが確かに存在するのだけど、二元論ではなく、さまざまな思いが、丹念に描かれている。観ているうちに、エピソードの断片が符合し、パズルが完成するような仕掛けがある。それが横山作品の大きな魅力のひとつだ。

撮影:木村洋一

横山の作品に登場するのは、市井の人々だ。彼らの人生を左右する出来事が物語のなかに立ち込め、それが現実問題として浮上したとき、彼らはディスカッションを繰り広げる。議論をドラマとして展開する方法は、iakuの演劇的発見だと思う。

「何を書くかというより、書くために何をするかだと思うんです」

かつて横山にインタビューをしたとき、こんな答えが返ってきた。屠場や食肉、若年層の乳がんなどをテーマに書いてきたことも、きっと書くために何をするかを考えた結果、たどり着いた発想に違いない。

『逢いにいくの、雨だけど』に感じた、逆説的な勇気の正体はなんだろう。苦境に立たされたとき、それでも生きようともがく登場人物の姿に自分を重ねることで得るものだと思っている。劇場をあとにすると、雨はやんで、少し暖かくなっていた。

撮影:木村洋一

文=田中大介

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