『追放者食堂へようこそ!』連載インタビュー第5回:志村錠児監督|食堂という空間が良い雰囲気になるように──「そこにいる全員を魅力的に描ければと思っていました」
2025年7月3日から放送スタートとなった、TVアニメ『追放者食堂へようこそ!』。超一流の冒険者パーティーを追放された料理人デニス(CV:武内駿輔)が、憧れだった食堂を開店し、看板娘のアトリエ(CV:橘茉莉花)とともに、お客さんに至高の料理を提供するという“新異世界グルメ人情ファンタジー”です。
重厚なストーリー展開に加え、作中に登場する美味しそうな料理も本作の魅力のひとつ。アニメーション制作を、食欲そそる料理作画にも定評があるOLM Team Yoshiokaが担当するなど、深夜の飯テロアニメになること間違いなしです!
アニメイトタイムズでは、アニメ放送後に掲載されるインタビュー連載を実施。第5回となる本稿では、娘の行動にヤキモキする父親のようなデニスが描かれた第5話「プロポーズなんて 早すぎるだろ!」と、これまでのTVアニメ『追放者食堂へようこそ!』について、志村錠児監督に語っていただきました。
【写真】『追放者食堂へようこそ!』監督・志村錠児インタビュー【連載第5回】
アトリエの存在感を増してくれた橘さんの声
──原作を読んだ際の印象をお聞かせください。
志村錠児監督(以下、志村):最初に思ったのは、キャラクターが魅力的だということです。食堂という場所に、1人、2人と仲間が増えていく。その空間がとてもいいなと思いました。
どうしても「どうやってアニメを作っていこうか」という思考から入ってしまうのですが、「キャラクター」と「食堂」という場を魅力的に描ければ良い作品になるのではないか、と考えていました。
──「食堂」を魅力的に描くとなると、やはり食事も美味しそうに見せたい。
志村:そうですね。料理を作る音とか湯気とか……画では、そういった描写しか表現できませんが、その画から温かみや匂いが伝わればいいなと思って、意識していました。その意識が、結果的に食堂という空間の雰囲気に繋がるのではないかと思っています。
──「美味しそう」を画で表現するのは、とてもハードルが高そうだなと思ったのですが、実際はいかがでしたか?
志村:料理の作画のところは、作画監督が絶対いいものにしてくれると信じていたので(作画には)そこまで不安はなかったのですが、演出的な部分に関してどこまでこだわれるのだろう、と思っていました。
なので料理を作るときのイメージを、原作の君川(優樹)先生に書面で質問したんです。先生から「炒飯を作るときは、こんなイメージです」という回答をいただいたのですが、想定していたよりも派手なイメージだったんですね(笑)。元々持っていた「丁寧に描きたい」という自分の考えを活かしつつ、先の展開で派手に作っているシーンを描くようにしました。
──台本に落とし込む過程でのこだわりについて教えてください。
志村:大きな部分だと、ヴィゴーですね。アニメで重要になってくるキャラクターなので、より彼の人となりが見えたらいいなと思いました。ですので、基本的にはデニスを描いていくのですが、その裏で「ヴィゴーが何をしているのか」が垣間見られるようにしています。
小説とコミックスにプラスアルファして「ヴィゴーにこんな過去があったんだ!」と、アニメで伝えられたらいいなと思ったんです。
本作においては、食堂の話と「銀翼の大隊」の話が2本柱ではないので、大きく入れ込むつもりはないのですが、後々のために、少し意識して「銀翼」の話を入れていますし、ヴィゴーがどんな人物なのかがわかる過去話も入れています。
──制作は君川先生とも相談しながら?
志村:そうですね。君川先生に立ち会っていただきつつ、やり取りをしながら作っていきました。
基本的に、原作を勝手に変えたくないと思っているので、原作の空気を壊さないようにアニメにしているんです。先生ともしっかりと話をしながら、原作とズレがないように進めていきました。
──君川先生とつむみ先生にもお話しを伺ったのですが、アニメの制作に好意的に参加していたとのことでした。
志村:脚本会議に毎回出席していただいたわけではないのですが、完成物をチェックしていただき、違うところは訂正してくださいました。
──ちなみに君川先生は、第1話の脚本を見て「熱くなってしまう部分もあった」とお話しされていましたが……。
志村:自分も記事を読みました(笑)。ぶつかったわけではなく、こちらとしては「違っていたら言ってくださいね」という意識だったんです。
確かに第1話に関しては「こちらでやらせていただけませんか」と、ある程度進めましたが、先程話した通り、自分は原作の持っているものを変えてアニメにするより、原作の魅力的なところを大事にしたい。元々原作が持っている魅力をどう映像にすればいいのかを考えて作っています。なので最初はまず「信用してください」という感じでした。
──先生もお話しされていた「アニメと小説の文法(作り方)の違い」もあって、アニメの完成形を台本から想像するのは……。
志村:確かに、難しいかもしれないですね。
──第1話で印象的なシーンのひとつに冒頭のアクションシーンが挙げられるかと思います。やはり“引き”を意識されたのでしょうか?
志村:それだけではなく「ケイティがどのくらい強いのか?」が、言葉だけでは伝わらないと思ったんです。アニメで彼女が戦うシーンはないので、序盤でケイティの強さを見せたかった。ケイティがどれだけスゴイ人なのかは、冒頭で見せられたのではないかなと思います。
──次に、アニメにおけるアトリエの描き方について教えてください。
志村:アトリエって難しいんですよ。それこそ第1話ではほとんどしゃべらないですから。アフレコも、一度声や息の芝居を入れてもらったのですが、ダビングのときに外したりしているんです。君川先生からも「ぽつりぽつり〜しゃべる子」だと聞いていたので、流れるようにセリフを言うのではなく、途中で間を挟むようにしていました。一方で彼女は看板娘なので印象的にしたい。
自分は橘茉莉花さんの声がとても気に入っているんです。アトリエにハマっているし、声だけでアトリエらしさが出ていたのではないかと思っています。
だから、橘さんの声に助けられているところはあったと思います。ヘンリエッタ(第2話)やビビア(第3話)のエピソードにおいて「居るだけ」になってもおかしくないところでしたが、あの声のおかげで存在感が出ていたかなと思います。
──デニスは、演技の幅も必要なキャラクターでしたね。
志村:デニスに関しては話数を重ねていくにつれて、武内駿輔さんの声がデニスにしか聞こえなくなってしまったんですよね(笑)。そのくらいデニスそのものでした。
デニスもかなり難しいキャラクターでした。でも(武内さんは)その難しいニュアンスをアフレコで出してくれていて、見ている方には伝わらないかもしれませんが、“デニスらしさ”が出ていたのかなと思います。
──デニスが実はナイーブだ、というお話を君川先生から伺いました。
志村:そうですね。見た目と違って結構若者な感じなんですよ。見た目はガッチリしていて頼りがいがあるけれど、実はそれなりに若い感性も持っていて、いろいろ悩むこともある。なかなか表には出にくいのですが、そこがデニスの魅力でもあるんです。
ただ、自分の中で「なんだかんだデニスって、自分がどうこうより、結局は人を助けちゃう人だよね」と思っていて……。本人も気づいていない人間性なのかもしれませんが、そのあたりもアニメで演出できたらと思っていました。
──第1話で「何でもかんでも救えるわけじゃない」と言っていたのに、結局アトリエを救っていますからね。
志村:若者っぽい考え方だけど、根っこにデニスの本質があると思っているんです。頭ではそう考えているけど、結局身体が動いてしまうのがデニスなんですよね。
──ナイーブさと力強さの表現に加えて、武内さんはツッコミも上手いですからね。
志村:第1話で、アトリエが泣いてしまうシーンのデニスのお芝居も、良いなぁと思いながら見ていました。ギャグシーンも、さすが武内さんですよね。
アトリエ全押しのEDアニメは「自分と自分以外の人」をテーマに
──君川先生も「大事にしていた」と話す第3話について教えてください。
志村:良い感じになって良かったです。作っているうちに、シンシアってすごく良い子だなぁと気持ちが入ってしまったといいますか。第3話でのビビアとシンシアのやり取りが、とても良いんですよね。2人の掛け合いが自然に聞こえると良いな、その自然さが最後のシーンにつながればいいなと考えていました。
──「自然さ」ですか。
志村:あの場にシンシアがいたら、勘のいい人は「もしかしたら……」と思うかもしれませんが、基本的にビビアと同じように「たまたまあそこで居合わせただけ」で、死んでいると思わせたくなかったんです。ここは本当にお二人がとても良いお芝居をしてくれました。
──最後にビビアを止めようとする手がすり抜けるあたりで真相がわかる、と。
志村:そうですね。なので、あそこでビビアが飛び出したあと、シンシアは出てきてないんです。そこもいろいろと考えながら作っていました。
──最後にお墓でビビアが泣くシーンも感動的でした。そしてそこでまたシンシアを描く演出も良かったです。
志村:これは原作コミックスにもあったんですけど、なるべく丁寧に描きたいと思っていました。イヤリングに関しては、アニメで勝手にやったことなのですが……。
──あのイヤリングの演出は、どのような意図で?
志村:ゴブリンに襲われそうになるビビアを助けるきっかけになればいいなと思ったんです。そしてそれが最後、お墓のシーンでビビアが振り向くきっかけにもなる。音ともリンクして、一瞬、何かに気づいたのかな?となりますが、それはシンシアのイヤリングの音だった……と、なればいいなと思って演出しました。
──それが魔法であり奇跡なのですね。また個人的に、デニスとアトリエのグータッチが、ハーモニー処理になっているのもお気に入りでした。
志村:自分もあのグータッチが印象深いなと、コミックスを読んだときに思ったんです。なのですごく印象的な良いものにしたいと思いました。優しく、良い空気が出せていたら良いなと思います。
──続く第4話はバチェルのお話でしたが、アトリエとのやり取りが印象的でした。
志村:第4話で気をつけていたのは、バチェルが本当は能力があるのに「夜の霧団」に否定されているということです。できない子が「ちゃんとやれ!」と言われているのではなく、能力があるのに認められないニュアンスにしたいと思い、注意して描いていきました。
アトリエとバチェルのやり取りは、アトリエらしさが出る重要なシーンだったので、アフレコでも演技に関してお願いをした記憶があります。
──演技に関するお願い?
志村:アトリエには奴隷という背景があるので、厳しい気持ちもわかっている。なので、バチェルに寄り添うのではなく、かと言って突き放すのでもない……少し客観的ではあるものの、距離を保ちながら「こうしたほうがいいよ」と伝えたほうが、あのシーンの雰囲気に合っているのかなと思いました。あまり言い過ぎないというか。
──アトリエと会話したあとのバチェルは、少しすっきりした表情をしていましたね。
志村:あのとき、バチェル自身がどこまですっきりしたのかはわからないですが、ひとつの区切りになっていたのかもしれませんね。あのアトリエの言葉で楽になって、ご飯も食べられた。彼女はこれから少しずつ回復していくと思いますから、ほんの少しでも希望が見えたことを表現できたらいいなと思っていました。
──ちょっとした目の動きなど、キャラクターの心情に合わせた細かい絵の芝居が印象的です。作画による芝居について意識したことを教えてください。
志村:なるべくコンテの段階でニュアンスは入れていったつもりです。コミックスもあるので、そのあたりを理解して原画を描いてもらったので、その演出の意図を汲んでくれた作画スタッフさん、作画監督さんの力が大きかったと思います。上がってきたものに、それほど修正した記憶がないので、皆さんが良い感じに描いてくれました。
──放送されたばかりの第5話についてはいかがでしょうか。
志村:キャラクターの心が少し動くようなシーンもありますよね。アトリエに対するデニスの感情が見えたり、逆にアトリエがデニスに対して考えていることがわかったり。これまでより一歩進んだ雰囲気のあるエピソードだったと思います。このあとには大きな展開もあるので、その前のギャグ回という意味もありますね。
──そして第5話ではヘンリエッタも活躍しました。
志村:ヘンリエッタの二面性が見えましたね。食堂では天真爛漫な一面が見えますが、バトルになると人格が変わるところも魅力なんです。そのシーンでは技名を言いますが、たしか君川先生から「もっとカッコよく」のようなご指摘をいただいた記憶があります(笑)。ヘンリエッタは、ああいうときにスイッチが入る子なんですね。
──そんな本編を彩るOP・EDテーマの楽曲とアニメーションについて、監督から出した要望などを教えてください。
志村:どちらも「どういうふうに作ればいいですか?」と方向性を聞いてくれました。OPテーマ「ユニーク」を作ってくれたDannie Mayさんからも「入れたいセリフはありますか?」と、とても前向きに向き合ってくださったので、イメージをお伝えしました。
EDテーマも雰囲気を聞かれたので、当初考えていた「女の子4人で街に買い物に行くようなイメージ」を伝えました。超ときめき♡宣伝部さんが「お弁当」などの言葉を歌詞に入れてくださって、前向きな楽曲を作ってくださいました。すごく良い曲です。
OPのアニメーションは別の方が、EDアニメーションを自分が作ったのですが、制作中に自分の気持ちが変わってしまいまして……(笑)。アトリエがとてもかわいいと思いながら作りましたので、アトリエ全押しになってしまったんですよね(笑)。
──確かにアトリエ中心ですね(笑)。最初にアトリエがデニスのズボンなど、何かを掴む手を描いているのが印象的でした。
志村:本編でもデニスのズボンを掴んだり、自分のスカートを掴んだりするところがありますが、その仕草がとてもアトリエっぽいと思ったんです。
EDアニメーションには「自分と自分以外の人」というテーマもありました。特にデニスを掴むというのは彼への信頼の表れだから、大事な絵です。言葉数が少ないアトリエですが、あのようなシーンで気持ちが出たりするんですよね。
──ペイントしていくような演出については、いかがですか?
志村:背景がないほうがいいなと思っていたのと、もともとライブペイントの動画を見るのが好きなので……ただそのような雰囲気を作れたらと。でも最終的にアトリエの気持ちとリンクするような感じになってしまいました。自分の思惑とは違いましたが、意味合いも付いて、良い雰囲気になったなと思っています(笑)。
──実際「まごころ My Heart」の楽曲からは、切なさも感じました。
志村:そうですね。それでいてちょっと懐かしい感じもありました。
──OPアニメーションに関してはいかがですか?
志村:テンポも良くて楽しい雰囲気になっていたので、とても良かったなと思います。
先日、Dannie Mayさんのライブに招待いただいて行ったんですが、めっちゃ良くてファンになりました(笑)。ライブ後、控え室でご挨拶もさせていただいたんですが、マサさんが原作を読んでファンだったらしく、最後はどの辺りまでやるんですか?って聞かれて(笑)。こっそり話しちゃいました。
──(笑)。ちなみに、監督はアトリエ推しなのですか?
志村:全然そんなことはなくて、最初はヘンリエッタが好きだったのですが、作っているうちに、誰というのもなくなってしまったんです。なので視聴者の皆さんが、みんなを好きになってくれたら嬉しいなと思っています。
最初に話した通り、食堂という空間が良い雰囲気になるようにできたらいいなと思っていたので、ツッコミ役がいてボケ役がいて、そこにいる全員を魅力的に描ければいいなと。
──第5話までで、すでに繁盛して愛されているお店であることが描かれていたので、このあとの食堂を守るという展開の説得力にも繋がっていますよね。
志村:そうですね。実際、そこがしっかり描かれていないといけないと思ったんです。ここまでで、冒険者食堂に感情移入してもらえるような作りにしたいと考えていたので、そうなっていれば嬉しいです。
──ちなみに、監督がこの食堂で食べてみたい料理はなんですか?
志村:ヴリトラカツ丼もいいですけど、今食べたいのは炒飯ですね。僕の中でイメージしている炒飯が食べたいです。
──では最後に、今後、楽しみにしてほしいところを教えてください。
志村:食堂の人たちだけでなく、デニスとヴィゴーの関係も今後見えてきます。ぜひ楽しみにしていてほしいです!
また、音楽の甲田さんの楽曲にも注目してほしいです。とてもいい曲を作っていただきました。第1話のアトリエの泣くシーンも甲田さんの曲があったからこそアトリエに寄り添うようなシーンになれたのでは無いかと思います。
【インタビュー・文:塚越淳一 編集:西澤駿太郎】