「俺を花束にしてください」奇妙な依頼に困惑。身体が不自由な友人のため…青年の策が起こした“奇跡”
【笑う花には福来たる】
昼下がりの突然の依頼に困惑
「ダメもとで電話しました」
秋の兆しを感じるのんびりとしたある昼下がり、猫店長「さぶ」率いる我がお花屋に、「初めまして」の若い男性から一本の電話がございました。
「俺自身を花束にすることってできますかね?」
はて? なんだかよくわからないけれど、ウケ狙いならばちょっと面倒な感じだぞ。
受話器の向こうで一生懸命話すこの方に、ワタクシ警戒感マシマシで、どうやってお断りしようか考えつつ、お話を伺っておりました。
「目的は撮影か何かですか?」
ワタクシの問いかけに返ってきたのは、想像もしていなかった悲しいお話でした。
「事故で身体が不自由になってしまった友達を、俺の体で励ましたいんです」
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思ってもいない事故
仮に電話をかけてきた男性をAさんとします。
Aさんは海水浴をするため、男友達数名で楽しく夏の海へ。その海は砂浜だけでなく飛び込むには絶好な岩場もあり、彼らのテンションは爆上がり。
ここで悲劇が起こります。
岩場に着くや否や、いち早く頭からダイブした友人の一人が、一向に海から上がってきてこないのです。
その友人が飛び込んだ海は思いの外浅く、彼は頭と首を強打。海底で気をうしなっていたのです。これはまずい! と全員で急いで救いあげ、そのまま病院へ。
意識を取り戻した彼を待っていたのは、頚椎損傷により首から下が不自由になった、というつらい現実でございました。
「お見舞い」といえば「花」
同行したAさんたちにはなんの罪もありません。ですが、その場に一緒にいた者としてはなんとも複雑なお話でございます。
まだ二十歳そこそこの、これからという青年が今どんな思いで病院にいるのか…。
事故後、初めてお見舞いに行くAさんたちは知恵を絞りました。
「お見舞い」といえば「花」。
ならば全身花で飾って「花束」になったAさんを見たら、ベットの上で動けなくなった友人は、そのあまりに馬鹿馬鹿しい姿を見て笑ってくれるんじゃないか? そうしたら一瞬でもつらい現実を忘れられるんじゃないか?
「その一瞬のために協力してくれるお花屋さんを探しているんです」
受話器の向こうでAさんはそう語りました。
こんな話を聞いて、断る花屋がどこにいる! とワタクシは鼻息荒くお受けする、といった展開になったのでございます。
全身花束男の誕生
「これから30分後に到着します」というあまりに急なご注文(せめて昨日のうちに電話くれや)、かつ、激しく面倒くさい注文をしておきながらAさんったら、お金も大して持ってないとのことで…。
考える余裕もなきゃ、予算もない!
ツッコミどころ満載ですが、まずはラッピングペーパーで作ったペーパーフラワーをAさんの頭のてっぺんに装着。
体に小さな花束をいくつか紐でくくりつけ、最後にラッピングペーパーで身体をグルグル巻きにしてからお腹をリボンで結べば、なんということでしょう! 全身花束男の誕生です。
腕ごとペーパーとリボンで拘束されたAさん。困り顔でワタクシに、問うてきます。
「お花屋さん、俺どうやって車に乗ったらいい?」
どうか、病院の友人が一瞬でも良いからどうか笑ってくれますようにと、祈りつつ「シート倒してそのまま寝て行け!」と、送り出しました。
素直な青年に素敵な奇跡を
「笑ってくれました! スゲー笑ってくれた!」
程なくして、Aさんたち御一行は、わざわざ店に立ち寄ってくれました。
「病院に入った途端、看護婦さんたちも大爆笑してくれて、病院中みんな笑ってくれました!」
クチャクチャに崩れた全身花束の男は、笑いながらそう報告してくれました。そして、その眼には涙が。
友を思う心優しく素直なこの青年に、どうか幸せな奇跡が訪れてくれるよう、ワタクシは祈ってやまないのでございます。
「花」は「励まし」
今、多くの病院が、生花の持ち込みを禁止しております。
生花を持ち込めない理由は様々ですが、花という色のない病室はひどく殺風景で無機質に感じます
「花」は「励まし」。かつて病院にお見舞いに花を持って訪れた人たちが花に込めた思いは、おそらくそんな気持ちだったのではないでしょうか。
身体の自由を奪われてしまったAさんの友人が、無機質な病室に突然現れた花束に変身したAさんを、時々思い出してくれたらいいな。
突然の不幸に見舞われた友を励ますため、Aさんたちが心で泣きながらも、明るくおどけたことを、美しい花と色で思い出して元気に笑ってくれたらいいな。
そしてAさんたちがちゃんとしっかり前を向けますように。
お花屋のオバちゃんは遠いお空の向こうでお祈りしておりますよ。
(斑目茂美/開運花師)