カラオケボックスには「歌う」「仲間コミュニケーション」以外にもジョブがある!?
『ジョブ理論』は、「顧客による商品の購入は、片付けたい仕事(ジョブ)のために商品を雇用(ハイア)することである」という理論だ。『イノベーションのジレンマ』で有名な経営学者の故・クレイトン・クリステンセン氏が提唱した。カラオケボックスは従来、「歌う」「仲間とコミュニケーションを取る」といったジョブの解決のために利用されるケースが多かったが、近年は異なるアプローチによる新たな潜在層の獲得に取り組んでいる。
令和の小学生が行きたい場所はレジャー施設にあらず
都心に住む令和の小学生がお友達と行きたいのは、どういうスポットなのだろうか?
東京ドームシティ アトラクションズや東京ジョイポリス、最近できたところでいうと東京タワーのRED°といえば、ある程度親でも予測がつく、いかにも遊べるレジャー施設だ。
しかし、子供からのリクエストは、その予想をはるかに超える場所で、例えばピンポイントで原宿の「@cosme TOKYO」や「プリクラランドNOA」、ハリネズミカフェ、はたまた新大久保の食べ歩きなど、「どこでその情報得たの?」みたいなスポットに親は連れていかれる。
まだ小学生の子供同士だけで電車を乗り継ぎ、目的の場所に入場し、たむろするのはいかがなものかと考えると、親同伴は必須だ。
人気スポットのヒントはSNS
そういった場所には小学生だけでなく中高生がたくさんいるのだが、他にもよく遭遇するのが訪日外国人の方々だ。
池袋のアニメイトなら昨今の推し活ブームと日本を代表するアニメ、キャラクターの聖地という共通の目的地として理解は早い。かたや最新のプリクラ機やハリネズミ、新大久保といった小中高生と外国人がごった返す場所の熱量はいったいどこで発信されているのか?
いうまでもなく、答えはスマホにあるTikTokやインスタだ。日々指先フリックを繰り返す中で、日本の東京であろう場所が映る一瞬の動画内のプレゼン力で画面が止まり、「面白い」や「かわいい」といった感情移入の結果、わざわざ行きたいと行動し必然と会した同士とも言える。
小中高生と外国人のシンクロニシティが東京のそこかしこで発生していると考えると、まだまだインバウンドに対するアプローチや観光資源は尽きないのではと楽観的にさえ思える。
小学生が「カラオケボックス」に行きたい理由
さて、筆者の娘(小6)から「カラオケボックス」に行きたいと頻繁にリクエストがあった。
娘にそのカラオケボックスに行きたい理由を聞くと、好きな推しアイドルの限定グッズや限定ルームがあり、そこで限定コースターとセットになったドリンクを飲みたいという。
調べてみるとそのようなコラボ企画は期間限定で、当該のカラオケボックスチェーン店舗でも実施している店と非実施の店があり、実施店に当日行っても予約ですでにいっぱいでそもそも入れないという。
カラオケボックス各社ではアニメや声優とのコラボ企画が切れ目なしに、かつ重複して実施されており、必ずしも10代だけでなく大人も「推し活」きっかけでカラオケボックスという「推しに会いにいく場所」に行く機会があるらしい。
そこでしか買えない「推しの限定デザイン柄コースター」を集めたい、場合によってはコラボコースターを全部集めたいというニーズを満たすことで、その場で提供されるスペシャルドリンクの売り上げが収益を底支えしている構造だ。
「他のエンターテインメント×カラオケ」で潜在層へアプローチ
大手カラオケメーカーの株式会社エクシングは、 昨年冬に導入した新機種「JOYSOUND X1」の発売とともに、遠隔地のカラオケボックスを繋ぐ機能を実装した「X PARK」の展開をスタートした。
カラオケルームをつなげて歌いあったり、会話するなど、モニター画面を使ったビデオ通信がリアルタイムで可能となる。
離れた友人や家族とのコミュニケーションにとどまらない、この仕組みの活用として
1.歌手やタレントなどがオンラインで登場し、カラオケボックスにいるファンの皆さんと繋ぎ、リアルタイムでしゃべれるといったファンミーティングを実施
2.講師が登場し、カラオケルームにいる生徒と繋げてリアルタイムでボーカルレッスンを受講
3.クイズ番組のように出題してくれるアバター司会者が登場し、回答者の皆さんと繋げてクイズ大会を実施
などが提案され、その活用を促進している。うたい文句は「カラオケを『歌える』部屋から、あたらしさに溢れる『遊べる』パークへ」。
このような「歌う」だけに限らない試みが新しい価値として積極的に訴求される背景は、現在のカラオケボックスが他のエンターテインメントと共存し、その価値を高める場所としてSNSに大きく影響を受ける10代を中心とした新しい潜在層のユーザーをとりこむ必要があるからだ。
期待が高まる、カラオケボックスの独自性
コロナ禍において未曽有の大ダメージを受けたカラオケボックス業界はアフターコロナ以降の直近における業績回復は堅調というものの、コロナ前の水準を上回るまでにはいたっていないようにうかがえる。
そもそも店舗数がコロナ前と比べて減少している点や、終電が早まったといった要因も関連しているだろう。ただ、カラオケボックスという、簡易ではあるが外界から隔離された空間、防音、大きなモニター画面とマイク機能を独占できる点を生かした新たなジョブの解決を担い、新時代に適応した未来図を描くことができると楽しみになってくる。
執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 木村 真琴