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子どもの「自立」と「進路」に葛藤…正解の見えない不安に向き合うヒント【小児科医・山口有紗先生×発達ナビ編集長対談】

LITALICO発達ナビ

子どもの「自立」と「進路」に葛藤…正解の見えない不安に向き合うヒント【山口有紗先生×発達ナビ編集長対談】

監修:山口有紗

小児科医/児童精神科医

「今日も手伝いすぎてしまった…」という悩み。子どもの自立を促す「観察」と「プロセス」重視の関わり方は?

子どもの自立を促す「手伝う」と「見守る」のバランスで悩むときのヒント「できた・できない」結果より、子どもとのやり取りや試行錯誤の「プロセス」を大切にする視点特別支援学級か通常学級か。子どもの「進路選択」で迷ったときに大切にしたいこと「手伝いすぎてしまった」と悩む保護者自身の不安な気持ちとの向き合い方

発達ナビ編集部 牟田(以下ーー)発達に特性があるお子さんの親御さんたちは特に、お子さんに対して「手出しをしすぎて自立心を阻んでしまわないか」「どこまでやってあげたらいいのだろう」と悩まれることも多いと感じています。お子さんの知的発達の成長度合いによっても変わるとは思うのですが、どのように子どもの気持ちを尊重しながら育てていくか、どこで手を引けばいいか。自分で自己決定の力を育むためにできることを教えていただきたいです。

山口先生(以下、山口):「手伝うか見守るかの葛藤」ということですよね。そのときに役立つのは、「ここまでだとギリギリできるけどここからは手伝いが必要」っていう微妙な領域を探すというプロセスです。そこは手伝うか手伝わないかの2択ではなくて、少しグラデーションがあるものなので、子どもを観察していくと、ここまではできるっていうのが分かると思うんですよね。

例えば、子どもが「ひとりで身体を洗う」っていうところにはすごいたくさんのプロセスがありますよね。まず泡立てて、泡を順につけていって身体の各部位を洗うとか、流すとか。そのプロセスの中の本人の発展みたいなものを観察していくというスタンスも大切なのかなと思います。そのすべてを急に全部一人でやるとなると結構しんどいですよね。しんどそうだからサポートをしてあげた後に「今日も手伝ってしまった」という気持ちになることも多いと思います。だから、細かなステップに分けて観察してみる。今日はここまで一人でできた、今日はここまで手伝ったな、なんていう風に、ちょっと俯瞰して観察してみる。

あとは、子どもたちって、段階を踏んでステップアップしていくだけじゃなくて、脱線したり、思いもかけないプロセスを見せてくれることがあったりもします。でもそれこそが試行錯誤だし、豊かな発達に必要なことだと思うんですね。

私たちは誰でも、発達障害あるなしにかかわらず、周囲に助けてもらいながら生きているわけじゃないですか。そういうとき、どうしたら心地よくいろいろな人と協力したり支えてもらったりできるかということも経験し学んでいく。 私は何かが「できた」「できない」ことよりも、ある過程において「手伝って」とか「できない」とか「ここ手伝うね」とか「ここはできたね」というやりとり、プロセスそのものを一緒に育んでいくことを大切にしたいなと思います。

ーー大人になっても、ひとりで生きていける訳ではないですからね。助けてもらったから負けたみたいな考えにならないように、日々そんな風に育てていくことが大切なのですよね。

山口:私の話になりますが、私は本当に地図が読めなくて、電車は反対方向に乗ってしまったり、講演会が小学校とか公民館の場合は、駅から距離がある住宅地のことが多いので、迷いに迷って駅の反対側から電話をかけて「すいません、5分遅れます」と言ってタクシーを探すみたいなこともよくあります。でもタクシーが全く捕まらないこともよくあるので、最近は講演を受けるときに「本当に救いようのない方向音痴なので駅までお迎えに来ていただけないか」ってお伝えするようにしているんです。

子どもたちも「ひとりでここまではできるけど、ここは一緒にやってもらってもいいんだ」と感じることもまた大切かもしれません。そしてもちろん、その「できる」「できない」もゆらぐことがあっていい。「本当はできるけどやりたくない」っていうときもあるし、頑張りたいなってときもある。親御さん自身だって同じ。そこにゆらぎがあってもいいよ、っていうのを伝えていけるといいのかなって。

ーーそうですよね。お子さんだけじゃなく、親御さん自身だってゆらいでいいし、助けを求めていい。

山口:そこには大切な願いがあるわけです。なんらかの特性や障害があると言われた方は、きっと自立に対しての不安も、大きいのかなぁと想像します。「わが子が、大きくなっても、これをひとりでできなかったら、あれもひとりでできなかったら……」と思うからこそ、ここで自分が手伝ってしまっていいのか?と葛藤する。そういうときには、「この子にひとりでやってもらうと、私自身が安心するんだ」っていう願いがあるんだなと気づいて、まずは自分の願いをケアする。

わが子がやるかやらないかとかじゃなくて、「いろんなことができるようになってくれたほうが将来が楽なんじゃないかな」って私自身の願いがそこにある。それ自体、私の大事な気持ちだよね、という風にとらえる。相手(子ども)のことに全部してしまわないで、自分のこととして捉えてみるのは大事だと思いますね。「その願いがあるから、そう言っちゃったんだ」とネガティブに捉えるのではなく、「それは私の大切な"嘆き"である」という気持ちを、そうだね、そうだよねって大切にしてほしいですね。

ーーうちは下の娘は重度障害があるのですが、逆にあまり悩んだりしないんですね。この子が幸せに生きていける見通しが自分の中にあるというか。ただ、きょうだい児である息子に対しては、いろいろな選択肢がある分悩むことも多くて、高校生くらいまではどこまで手出ししていいかも試行錯誤していたと思います。中学生くらいまでは、最重度障害がある娘以上に息子に手をかけていました。

山口:親御さんや周囲の不安が強くなるときって「ちょっとできるようになったとき」ですよね。例えば不登校でちょっと学校に行けるようになったら「ここまではやってごらん」とか「ここまではできるはず」と、子どもを信じているからこそ言ってしまうんですよね。

発達は螺旋階段なので、横から見ると進んでいるんだけど上から見ると同じところでぐるぐる回っていているように見えて「またこれか……」となりがちなのですけど、時には横から見て、少しずつ進んでいるのかな、登っているのかなって見られたらいいのかなと思います。

お子さんの進路選択、どの道を選んでもきっと不安は残る。それでも「選んだ道を正解に」

ーーお子さんの進路で悩む方も多いと思います。例えば、小学校は特別支援学級に通っていて、中学校はどこに進学するのか。地域の学校の特別支援学級なのか、通常学級なのか、特別支援学校がいいのか。今この決定がわが子の将来に大きな影響を与えてしまうのではないかと思うと、迷うし不安に感じることもある。それこそ、わが子を信じているからこそ、願うからこそ、悩んでしまう。わが子の意思も尊重したいけれど、子ども自身がまだ経験していないことについてどれだけ解像度高く理解して選べるだろう?と。そういうとき、どういう風に決めたらいいのかについて、アドバイスはありますか?

山口:そうですね、お子さんの発する言葉だけでなく言葉以外の部分も含めてよく見ながら、対話をすることが大切だと思います。でも、どこに進学してもしなくても、正解というのはないのかもしれません。

ーー進学先を選ぶとき、例えばお子さんが小学校高学年くらいだったなら、進路候補の学校はどちらも見学に行かせたほうがいいでしょうか。

山口:お子さんの感覚をまず大事にというのはとても大切だと思います。その上で、どのくらい、どこまで実際の見学に行くかは、その子の様子にもよるかもしれないですよね。何ヶ所も見学に行くこと自体がものすごく負荷になる場合もあるかもしれないし、心身の安全の保障のために事前の説明がかなり必要な場合もあると思います。

ただ、私たちは言葉の情報よりも、より五感が、身体がそこの場所にあるとか、目で見るとか音を聞くとか、そういうのがより役に立つとも思うんですね。言語の世界だけで生きてらっしゃらない方にとっては、より「感覚で体験する」ということは役に立つと感じます。トイレとか、給食を食べる部屋とか、音楽室とか、保健室とか、一見メジャーではないところも重要になってくるので、もし見学に行くのであれば見ておいたほうがいいのではないかと思います。

ーーなるほど、トイレとか食事とか、生活するうえで欠かせない場所の居心地がよいかは重要ですよね。

山口:でもなにより、進路選びのプロセスの中で「自分の大切な人が、自分の進路についてものすごく悩んでくれた。たくさん悩んで悩みながら自分の声を聞こうとしてくれたし、知りたいことを一生懸命伝えようとしてくれた」っていうことが大切だと思うんです。心から寄り添ってもらえているということは、赤ちゃんであっても、言葉を発しない方であっても伝わっています。私は、そこが一番いるからこそ、願うからこそ、悩んでしまう。わが子の意思も尊重したいけれど、子ども自身がまだ経験していないことについてどれだけ解像度高く理解して選べるだろう?と。そういうとき、どういう風に決めたらいいのかについて、アドバイスはありますか?

山口:そうですね、お子さんの発する言葉だけでなく言葉以外の部分も含めてよく見ながら、対話をすることが大切だと思います。でも、どこに進学してもしなくても、正解というのはないのかもしれません。

ーー進学先を選ぶとき、例えばお子さんが小学校高学年くらいだったなら、進路候補の学校はどちらも見学に行かせたほうがいいでしょうか。

山口:お子さんの感覚をまず大事にというのはとても大切だと思います。その上で、どのくらい、どこまで実際の見学に行くかは、その子の様子にもよるかもしれないですよね。何ヶ所も見学に行くこと自体がものすごく負荷になる場合もあるかもしれないし、心身の安全の保障のために事前の説明がかなり必要な場合もあると思います。

ただ、私たちは言葉の情報よりも、より五感が、身体がそこの場所にあるとか、目で見るとか音を聞くとか、そういうのがより役に立つとも思うんですね。言語の世界だけで生きてらっしゃらない方にとっては、より「感覚で体験する」ということは役に立つと感じます。トイレとか、給食を食べる部屋とか、音楽室とか、保健室とか、一見メジャーではないところも重要になってくるので、もし見学に行くのであれば見ておいたほうがいいのではないかと思います。

ーーなるほど、トイレとか食事とか、生活するうえで欠かせない場所の居心地がよいかは重要ですよね。

山口:でもなにより、進路選びのプロセスの中で「自分の大切な人が、自分の進路についてものすごく悩んでくれた。たくさん悩んで悩みながら自分の声を聞こうとしてくれたし、知りたいことを一生懸命伝えようとしてくれた」っていうことが大切だと思うんです。心から寄り添ってもらえているということは、赤ちゃんであっても、言葉を発しない方であっても伝わっています。私は、そこが一番大事だと思います。

その上で、たくさんの情報を吟味したうえでですが……私は、どうしようもなく悩んだら最後は「魔法の杖」っていう本を開くんです。「こうしなさい」みたいな言葉が書いてあるんですけど、「あれ、違うかも」っていう言葉が書いてあると違和感が湧くんですよ。その答えがしっくりくると「そうだよね」ってなる。つまり、ちょっと違うと思ったら、本当はそう願っていない、そうではないと思っているということだと理解して考え直すようにしています。

ーーそこで自分の思いを客観視できるんですね。こう言われたけど、なんか違うと気づける。

山口:誰かに相談して、すごいアドバイスをもらっちゃうとかえって負担になるときってあるじゃないですか。でもそういう本とかカードみたいなものであれば「やっぱり違うな」って思いやすいというか。

キャリア相談を受けることもあるのですが、人って自分で決めていると思っていることのうち、本当に自分で決めてることは実はそんなにないと思うんですよ。私もいろいろありながら医者になりましたけど、なるようにしかならなかったというか。結局はタイミングやそのときの縁なのかもしれません。ただ、そこでたくさんもがくことはできるし、その目の前の声を聞こうと努力することはできるし、自分の内なる声を聞こうと努力したり、一緒に育てている家族がいれば、家族と努力をすることはできるし、思考のプロセスをより自分の"内なる声"も含めて対話することはできる。でも何が最終的に起こるかはもうゆだねるしかないというか。

ーーそうですね。私自身は、後悔したくないから最大限、200%ぐらいは努力はするんです。でも最終的には、その結果得られたものが一番良かったのかなって思うようにしています。息子も就活では第一希望は落ちてしまいましたが、最終的にご縁をいただいた会社は、第一志望以上によいと思えるとこで。そのために第一志望を落としてくれたんじゃないかって話したりしました。

山口:お子さんの進路で悩まれていて、結局どちらを選んでも後悔するときはするのだろうと思います。特別支援学校でも特別支援学級でも。でも、選んだことを正解にするしか私たちにはむしろ選択肢が残されていないと思うんですよね。

山口先生から、発達ナビ読者へのメッセージ

ーーさまざまなアドバイスをいただき、ありがとうございました。最後に改めて、LITALICO発達ナビの読者の皆さんにメッセージをいただけますか?

山口:本当に悩みながら、いろいろなことがありながらも発達ナビにたどり着いたということは、その時点で、必ずしも言語化されていなくてもそのもやもやに対して気づいていて、それをなんとか楽にしたいと願っていて、ここにたどり着く力も持っている。そこで発達ナビでは同じように見ている仲間というか、心をこめて「どうしたら伝わるだろう」って考えている仲間もいる。画面の前って一人のようだけれども、画面の中で自分はスクロールしていく力があるし、画面の向こうにはたくさんの仲間の人がいるってことを、一緒に感じられたら私もうれしいなって思います。

ーーありがとうございました。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

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