【夢語り対談】楠瀬俊一(フジドリームエアラインズ)×廣田幹人(新潟綜合警備保障)「地域間エアラインがもたらす地方創生とロマン」
初掲載:2024年7月11日(最終更新日:2024年7月21日)
今年、新潟発の地域間航空・トキエアによる「新潟―丘珠」「新潟―仙台」という2路線が就航にこぎつけ、あらためて「地方都市が直接結ばれる意味」に注目が集まる。
東京を中心とする首都圏への一極集中が顕著になる中、地方衰退に歯止めをかけるには、地方同士の直接的な交流・つながりが不可欠とされ、そこにローカルtoローカルの航空路線は大きな役割を果たす。
方やその担い手となる静岡発祥の航空会社の代表、方やかつて地域間路線の存続運動をけん引した新潟の民間企業の代表、それぞれに思いを語ってもらった。
楠瀬俊一(写真右) 1958年高知県生まれ。京都の大学を卒業後、日本郵船に入社し、鉄鉱石や石炭、液化石油ガスなどの輸送に携わる。ベルギーなどの海外赴任も経験。2019年にFDAが属する鈴与グループ(静岡県)に入社し、関連会社で副社長を務めたのち2020年6月にFDAの代表取締役社長に就任。
廣田幹人(写真左) 1961年新潟市生まれ。大学卒業後、1986年に新潟綜合警備保障入社、2001年に代表取締役に就任。現在は新潟商工会議所副会頭も務める。2009年には、いったん廃止が決まった新潟―福岡の地方路線(ANA)を、行政とタッグを組んだ民間運動で存続へと導いた。九州との縁が深く、新潟人ながら福岡県柳川市の観光大使にも就いている。
地方創生は自立自走してこそ
記者 お二人は、新潟空港における保安の関係で旧知の間柄とお聞きしました。今回は地域間航空路線が地方創生のために担う役割について語り合っていただきたいと思います。
まず楠瀬社長にお聞きしますが、フジドリームエアラインズ(FDA)の創業理念に「地方創生につながる地域間交流の促進」が挙げられていますね
「地域間に継続的な結びつきを生むエアラインになりたい」と楠瀬社長
楠瀬 FDAのファウンダーでもある鈴与グループは江戸時代から続き、今年で224年ですが、現在の鈴木与平(代々襲名されている)で8代目。ルーツは清水港の廻船問屋なのですが、そこから端を発し長い歴史の中で物流やエネルギー分野など様々に業容を拡大して、行きついた最新の業態が航空会社。非常に地域貢献の意識が高い家柄で、地域発展において他地域との交流を重要視してきました。グループの本業で静岡を中心に長野、愛知、山梨とビジネスの輪を広げてきましたが、航空会社を持つことにより、全国をフォローするに至る、そんな夢をもっています。
日本国内の航空網は羽田を中心に放射線状に広がっているのですが、いったん中央を経由しなければならないのは、やはり人の流れに制約ができる。地域の人と人が継続的に交流していける世の中になればよい、という希望があります
記者 廣田社長は実際に地方間航空路線の存続運動も経験され、柳川市の観光大使も務めるまでに至っています。「実践者」として地域間の交流が「直で」行われる大切さをどうお感じですか?
「地域間交流は自立自走の地方創生を産み出す力が」と廣田社長
廣田 新潟市東区で育った私にとって、新潟空港というのは特別な存在で、非常に身近に感じていた半面、ロマンを伴った憧れのようなものがありました。大人になって新潟に帰ってきて、施設は昔に比べて立派になっていましたが、就航路線は減ってるので残念に思っていました。そうした思いから、地方間路線の存続運動にかかわったわけですが、その時に知ったのは『地方にとって航空路線は宝そのものだ』ということです。それはローカルtoローカルの一番わかりやすい構図だからです。お会いしたこともない同士が、航空路線があることによってものすごく「繋がる」ことができる
地方創生というのはどちらかといえば中央と地方の関係性が大きいですが、そうではなく地方が自走することが必要。その意味で地方同士で人がつながることは、大きなシナジーを産み出すと思います。飛行機にはそういうロマンを感じますね
九州との交流でいえば楠瀬社長、(FDAの創業地である)静岡は九州との交流が盛んですね。博多山笠には毎年静岡の商工会議所から30人くらいが訪れています。どういうご縁なのですか?
楠瀬 もともと博多山笠は聖一国師という臨済宗の高僧が博多の街に疫病が流行ったときに町中に聖水をまいたことが始まりとされていますが、その聖一国師が静岡の出身でして、そうした縁で交流が盛んなのです。
そのように地方に行けば行くほど良質な伝統文化が残っている。そういうものが掘り起こされることは、「路線が太くなる」ことに繋がると思います
廣田ひとつひとつのバジェットは小さくても良いので、まずは結びつきが必要。それこそ地方が自立自走した地方創生と考えています
就航路線の決定、最後は「人の思い」
記者地域間路線は、就航にこぎつけるよりもそれを維持し、存続させることが困難と言われます。立ち上がった地域間路線が続くためには何が必要と思われますか?
「就航路線は、緻密なデータの積み重ねより、人の想いで決まる方が良い場合も」と楠瀬社長
楠瀬 FDAがスタートして15年になりますが、この間はまさに挑戦の連続。樹木でいえば、小さな細い幹から数多くの枝を張っていかなければならない作業。東京一極集中に、地域間の航空路線を引くことで竿さしてやろうという思いで創業したのですが、一定の搭乗率を維持するのは大変なことで、採算的にはとても厳しところもあり…
廣田宝物には違いないのですが、磨かれていかなければいけない。それには需要の掘り起こしこそ重要。そういう点では、エアラインにおいて就航路線がどのように決まっていくかというのはとても興味がありますね
楠瀬私は4年前にFDAの社長になりましたが、航空会社で育ったわけではないので、システムの面ではいわば素人なのですが、路線が就航するまでは、意外とアナログな作業が多いのがわかりました。方程式がないのです。精緻に積み上げた統計だけで路線を張ると痛い目に合う。社員の「思い」とか「感情」「熱量」の部分が大きい。
一方でやはり当てが外れる路線もありまして、例としては「新潟―神戸」の路線ですね。「これから神戸空港が発展するから」という理由で3年前に1日往復1便でしたのですが、特に冬場に搭乗率が伸びなくて。ふと横を見ると、大手の「新潟―伊丹」が1日10便ほど飛んでいましてね(笑)。やはり1便しかないと太刀打ちできない。天候などで飛ばなかった時などイレギュラーな事態に対処できないので敬遠されがちに…
廣田 神戸路線に関しては、地元の側として「守れなかった」という意識。同じ開港五港のお相手ですので親和性は高かったはず。「気づく間もなく」という感じで、盛り上げられなくて申し訳ない思いがあります
楠瀬 こればかりは開いてみて初めてわかることも多い。逆にポジティブな例もあって「神戸―青森」などは、搭乗率はいまだに苦戦していますが、地元同士の交流は盛んです。青森県弘前市の「ねぷた祭り」に出るねぷたが神戸で展示されるようになって今年で3度目。今年は神戸ハーバーランドを運行しました。また弘前のねぷた製作者の方がFDAの機体をかたどったミニねぷたを作り、実際に祭りで登場したこともあります
「FDAの空旅が好き」という廣田社長
廣田 エアラインにファンが生まれるなんて素晴らしい!私が交流を続けている博多山笠の元会長の奥様もFDAのファンで、オリジナルキーホルダーを集めていらっしゃる(笑)熱烈なファンがついていますよね
楠瀬 そういう熱烈なファンの方が、日本のどこかで新規就航のセレモニーがあると、わざわざFDAを乗り継いで来てくれたりするのです。本当にありがたい
廣田 私自身、福岡に行く際によく利用させていただきますが、機内で配られるお菓子がうれしい(笑)、新聞が読めるのが良い、機長のアナウンスが丁寧な語り口調で心地よい…
安心安全な空の旅を守る
記者 お二人にあらためてお聞きしたいのですが、地域間の航空路線が守られるために、どういった要素がカギを握る思われますか
楠瀬 私はインバウンドが鍵を握ると思います。彼らはもう、東京や京都を向かなくなってきた。彼らを通して地方の良いところがますます見直されれば、と期待したい
廣田 ちょっとテコ入れすれば50%の搭乗率がすぐに70~80%になる地方路線は、そのチャンスがありますね。潜在的に地方と地方は繋がりたいのだと思っています。「異なるもののかけ合わせ」は需要を産むかと。九州の人にとっては「雪」が珍しいし、逆に新潟の人は九州の「スポーツ大国」というイメージに憧れがある。1時間と少しの時間で、そういう異文化に触れることができるという点で、やはりエアラインは地域にとって宝です
楠瀬社長のお話を聞いただけで、私はもう「弘前にねぷたを見に行きたいな」と思っています。今度、静岡から行こうかな(笑)
楠瀬 新潟からでしたら名古屋(小牧)空港経由をお勧めしますよ。そういう「テーマのある旅」を提案することが必要。なにせ私たち小さな航空会社は、そこそこ人が集まればチャーター機を飛ばすことができますから。例えば、北は北海道利尻島から南は沖縄石垣島まで…
記者 最後になりますが、エアラインと警備会社は双方とも人々の安心安全が重要視されるという立場で共通しています。セキュリティ、安全確保の観点でおふたりのお考えを
楠瀬 「安心安全に対する予算は惜しんではいけない」というのは創業者である鈴木与平の考えでもあります。スタート時はFDAも飛行機が2機しかありませんでしたが、それでも自前でトレーニングができるフライトシミュレーターを購入しました。それまでは研修でシンガポールまで行かなければならなかったのです。安全運航は間違いなく最優先事項です
廣田 私どもは空港の保安を守る立場にありますが、空港はますます高度な警備体制が求められるようになると思いますので、いかにその付託に応えていくか。マニュアルだけでは及ばない部分が増えてくるので、現場でのコミュニケーションを特に大事に、柔軟に、丁寧に、と考えています
(聞き手 :編集部・伊藤直樹)
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