うちの子「スマホ認知症」の予備軍かも 日本初「スマホ認知症外来」の医師が教える“手遅れ”になる前の対処法と予防法
令和の新たな問題である「スマホ認知症」は、スマホの過剰な利用によって起こり、考えることを停止するという怖い症状をもたらします。日本で初めて「スマホ認知症外来」を開設した脳神経内科医の内野勝行先生が、スマホ認知症の基礎知識や症状がもたらす問題、予防法などを紹介します。
【▶︎画像】こんなことも忘れちゃうの? 7割のママが経験する「マミーブレイン」スマホの過剰な利用によって起こる「スマホ認知症」は、頭の中がたくさんの情報で入り乱れ、いわばゴミ屋敷になっている状態。この状態になると、脳は適切なアウトプットができなくなるだけでなく、考えることを停止するスリープモードにも陥ります。では、「過剰な利用」とは、一体どの程度のことをいうのでしょうか。
2025年6月、日本で初めて「スマホ認知症外来」を開設した脳神経内科医の内野勝行(うちのかつゆき)先生に、実際のケースや治療法、予防法などをうかがいます(全2回の2回目)。
起きている間はずっとスマホ! 利用時間1日13時間という子どもも
「僕のもとには、子どもがスマホやゲームばかりをやっているとか、居眠りが多いとか、勉強についていけないとか、風邪を引きやすくなったとか……、いろいろな心配を抱えた親御さんがお子さんを連れてやってきます。
そういった子どものうち、スマホ認知症の傾向が強い子は、診察中も片手にずっとスマホを握っている状態ですし、加えて感情が乏しく、反応も薄いと感じます。
1日のスマホ利用時間を調べてみると、1日13時間など、長時間の利用も見受けられます」(内野先生)
前述のケースはスマホが離せない男の子の例ですが、女の子も例外ではありません。女の子の場合、利用は友だち関係に左右されることが多く、SNS上でのやりとりが依存の原因ということも少なくありません。
いずれにしても、生活がスマホに左右されているので、スマホを手放すことが基本の対処法です。
何から始める? スマホ断ちまでどのくらいかかる? スマホの手放し方
スマホ認知症を防ぐためには、情報を整理する時間を脳に与えるために、ある一定時間、スマホから離れることが基本です。とはいえ、スマホへの依存度が高い場合は、生活の些細なところから少しずつ手放していく訓練が必要です。
「たとえば、トイレに行くときはスマホを持っていかないとか、食事中はスマホを触らないとか、そういった小さなところから離れる訓練をし、手放す機会を増やしていきます。
あるいは、スマホの画面を白黒(グレースケール)に設定するのもひとつの手です。色彩豊かな動画などを切れ間なく見続けると、快感を生み出すドーパミンが分泌されてさらに見たくなってしまいます。
ですが、画面を白黒にするとドーパミンが出にくくなって、スマホが味気なくなります」(内野先生)
子どもがスマホを手放す訓練をするときは、親のスマホ利用も見直すことが大切です。子どもと同じように、親御さんもスマホと一定の距離を保ち、子どもと会話をする時間を持ったり、読書をしたり、スマホ以外のことをするべきです。
「訓練を始めたからといって、1日や2日でスマホと距離がとれるわけではありません。スマホへの依存度にもよりますが、手放せるようになるまでには最低半年はかかると思って、根気強く生活を変えていってください」(内野先生)
子どもがスマホに戻らないために大事なこと
手放す訓練を始めても、それだけでは子どもはスマホに逆戻りしてしまいます。それを防ぐには、子どもにはほかに没頭できることが必要です。
「スマホを触らない時間が多くなり、暇ができると手持ち無沙汰になります。そうすると子どもは、スマホが恋しくなってしまいます。
生活を逆戻りさせないためにも、絵を描いたり、ジグソーパズルをしたり、楽器やスポーツ、読書をするなど、どんなことでもいいので、子どもが興味を持てることを親子で一緒に探してみてください」(内野先生)
勉強や仕事でデジタルデバイスを使っても「スマホ認知症」にはならないワケ
スマホを含め、デジタルデバイスは勉強や仕事でも使用します。とすると、私たちはすでに「スマホ認知症」ではないの? 写真:milatas/イメージマート
スマホ認知症は、スマホなどを含めたデジタルデバイスへの依存症のことをいいます。それでは、勉強や仕事で毎日、何時間もそれらを使っている場合、すでにスマホ認知症になっているといえるのでしょうか。
「勉強や仕事でデジタルデバイスを長時間利用した場合、別のリスクはあるものの、スマホ認知症にはなりません。なぜなら、それらを目的を持って使っているからです。
スマホ認知症は、デジタルデバイスを何の目的もなく、長時間ダラダラと使うことで陥っていきます」(内野先生)
現在は学校でも、調べ物をするときなどにタブレットを使いますが、たとえば虫について2~3時間タブレットで調べても、スマホ認知症の原因にはなりません。これはタブレットを、図鑑や事典、辞書として使っているためです。
つまり、スマホ認知症を招くダラダラ使いと、そうではない使い方の違いは、目にした情報のすべてを無防備に受動しているか、情報を主体的に取り扱い、取捨選択しているかの差だといえるでしょう。
親子で実践! スマホ認知症を防ぐコツ
「スマホ認知症を防ぐには、料理をオススメしますね。これは親御さんだけでなく、お子さんにもオススメの防止法です。たとえばカレーを作るとなったら、その間はスマホから必然的に手が離せます。
レシピを、スマホやタブレットを見ながら作る方もいますが、この場合は目的を持ってそれらを使っているので、スマホ認知症の原因にはなりません。
また、料理は脳にもいい刺激を与えます。脳には記憶を司る海馬という部分がありますが、そこから完成形を引っ張り出して、それに向かって段取りを考えるのです。段取りを考えることは、理性、社会性、計画性などを司る前頭葉を使うことにつながります。
さらに、料理は食材を切ったり、洗い物をしたり、火加減を見るなど、同時にいろいろな作業が発生するので、マルチタスクの脳の使い方をします。嗅覚や味覚、視覚、触覚の情報も入ってきて、スマホとは違った刺激を脳に与えるのです」(内野先生)
子どもは「スマホは○時~○時まで禁止!」と親から制限されると、余計にスマホをやりたくなってしまいます。頭ごなしに禁止にするよりも、料理などを手伝ってもらい、スマホを手放す時間にするだけでなく、親子のコミュニケーションタイムとして活用していくといいでしょう。
子どものスマホ時間はどのくらいが正解?
勉強や仕事以外でスマホを含めたデジタルデバイスを使う場合、内野先生はいったい何時間を推奨しているのでしょうか。
「全年齢、1時間半以内をオススメしています。人間の集中力が続く時間がその程度なので、それ以上は脳が疲れてしまうと考えるからです」(内野先生)
現代は各種手続きをはじめ、勉強や仕事も、なにかしらの端末利用が前提になっていることが多く、スマホを含めたデジタルデバイスが必須の社会になっています。
しかし、それらをなんの目的もなくダラダラ使うことは、脳に不要な情報を与え続けて正確なアウトプットを阻害し、思考を停止させてしまう懸念があります。
勉強だけでなく、生活全般にも影響を与える「スマホ認知症」に子どものころから陥らないように、我が子の生活を正していくことが、令和の親の務めといえるのではないでしょうか。
取材・文/梶原知恵
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◆内野 勝行(うちの かつゆき)
脳神経内科医、金町駅前脳神経内科院長
帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院副院長を経て、2015年に金町脳神経内科・耳鼻咽喉科(現・金町駅前脳神経内科)を開設。2025年6月には、オンライン診療による日本初「スマホ認知症」専門外来を開設し、子どもから大人にいたるまで、スマホ依存に悩む人たちの治療にあたっている。日本医師会認定産業医、学校医、厚生労働省認定認知症サポート医などでもある。