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【事例】老老介護で介護者だった父が大怪我をして実家がゴミだらけに…。混乱したときは喫緊の問題を書き出して対策しよう

「みんなの介護」ニュース

橋中 今日子

誰もが介護と無縁ではいられない大介護時代です。介護は静かに始まっているものですが、主介護者自身にトラブルが起き、ある日突然介護に直面することもあります。

私が代表を務める介護者メンタルケア協会のもとにも「認知症の母親を介護している父親が入院した」「高齢の父親が倒れて、父親が世話をしていた叔父の介護までしなければならなくなった」といったお声がよく届きます。

今回は、老老介護をしている父親が怪我をし、複数人を同時にサポートしなければならなくなったDさんのケースをご紹介します。

【事例】Dさん(50代・男性)

Dさんは、都内で一人暮らしをしています。車で2時間ほどの距離にある他府県の実家では、物忘れ症状が出始めた母親と20年近く引きこもっている兄を、80代の父親が一人で支えています。

母親の物忘れ症状が始まってから、Dさんは父親に何度も医療機関への受診と介護保険の申請を促しました。しかし父親は「俺がいるから大丈夫だ」と聞き入れませんでした。

あるとき、父親が転倒して大腿骨を骨折し、手術をすることになりました。医師からは、いずれリハビリ病院へ転院して経過を診ることになると説明されましたが、いつ退院できるのか、これまで通りの生活ができるかどうかは不明です。

父親の手続きのためにDさんが実家を訪れると、玄関はゴミが山積みで、台所は食べ残しの食料品で溢れていました。母親は、物忘れどころか会話すら成り立たない状態になっていて、入浴や着替えをしていません。引きこもっていた兄は、カップラーメンなどのインスタント食品を母親に与えていたようですが、身の回りの世話やゴミ出し、掃除まではできなかったようです。

実家に残された母親と兄の状況を目の当たりにして、Dさんは何から手をつけていいかわからず、パニックに陥ってしまいました。

混乱したときは「今、何が問題か」を書き出す

突然の緊急事態でパニックになっているときは、将来起こるかもしれないトラブルに意識が向きすぎ、心配や不安ばかりが頭を巡って、目の前の事態を解決する行動が取れなくなることが多いです。

介護の問題に突然直面した場合は、まず「今、何が問題なのか」を書き出してみましょう。優先して対応するべき課題は何かがわかり、混乱状態から抜け出すきっかけになります。

Dさんのように、複数人のサポートが必要となった場合は「今、何が問題なのか」を1人ずつ分けて書き出すと整理しやすくなるでしょう。

書き出し例

父親:リハビリ病院でどの程度回復するかわからない

母親:食事や身支度が一人ではできない

兄:インスタント食品など簡単なものであれば食事の支度はできるが、母親の身の回りの世話や掃除はできない

Dさんは、最も優先するのが母親のサポートだと自覚しました。のちに「兄のことは確かに大きな課題だけれど、両親が落ち着いてからでも対応できると気づき、心の余裕を取り戻せました。兄は何もしない、できない人だと思い込んでいましたが、母親の食事の準備だけはやってくれるとわかって安心しました」と振り返っておられます。

「どこに相談するか」に意識を向ける

課題を書き出せたら、次に「どこに相談すればいいのか」を書き出します。Dさんの場合は母親のサポートが最優先事項ですから「地域包括支援センター」です。

介護を一人で抱え込む人が多いのは、この段階で「どこに相談すればいいのか」に意識が向かず、そのまますべてを一人で担おうとする習慣がついてしまうからです。

介護トラブルに直面したときには、介護のよろず相談所である「地域包括支援センター(※地域によっては高齢者あんしん相談センターなど名称が異なる場合があります)にまず相談しましょう。お住まいの「地域名」と「地域包括支援センター」で検索してください。電話での相談も可能です。

Dさんは地域包括支援センターに電話して状況を説明し、母親の介護保険の申請をすぐに進めることができました。最近の地域包括支援センターでは、高齢の親が50代の子供の生活を支える「8050問題」などの相談を、適切な窓口に繋げる活動に力を入れているところも増えています。兄についても「地域引きこもり支援センター」で相談できるとの情報を得られました。

その後、Dさんの母親は要介護3の認定を受け、まずは心身の安全を確保するために「緊急ショートステイ」の利用が決まりました。今後は、父親の回復状況を見ながら施設入居も検討していくことになりました。

Dさんは「両親と兄の問題を一気に解決しなければ、とパニックになっていましたが、今やるべきことを書き出して、優先順位をつけることで冷静になれました」と話してくれました。

予想外のトラブルで突然介護に直面したときは、誰でもパニックに陥ります。そのときには「今、何が問題か」「どこに相談すればいいか」を書き出し、緊急性が高いものから一つずつ解決していきましょう。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りごとやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。

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