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磐越西線がつないだ命の燃料 元運転士が伝える震災15年【福島県喜多方市】

ローカリティ!

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東日本大震災から15年。現在、福島県喜多方市高郷(たかさと)町の化石を中心にした体験型交流施設「カイギュウランドたかさと」で企画展「会津地方・復興への軌跡」が開催されている。これは震災の記憶を“鉄道”の視点からたどる展示だ。

当時の磐越西線による石油迂回輸送を証言するのは森川卓さん。JR東日本の運転士だった森川さんが制作したHOゲージ(鉄道模型)から、私は“見えにくかった現場”の熱意と鉄道の力を改めて感じた。

森川卓さん:現・喜多方市カイギュウランドたかさとの職員。鉄道の運転士として25年のキャリアがあり、寝台特別急行列車「北斗星」や特急列車「スーパーひたち」を運転していた経験も持つ。

震災15年、鉄道からたどる「復興への軌跡」

 東日本大震災を語るとき、多くの人が思い浮かべるのは、地震による津波や原子力発電所に伴う事故、あるいは沿岸部の被害かもしれない。だが、あのとき人々の暮らしを支えるために、止めるわけにはいかなかった現場が内陸にもあった。その一つが、燃料を運ぶ鉄道だ。

福島県喜多方市高郷町の「カイギュウランドたかさと」で開かれている企画展「会津地方・復興への軌跡」は、そんな震災時の鉄道の役割に光を当てている。会場には資料や写真のほか、磐越西線による石油迂回輸送を再現した*HOゲージが展示されている。震災を伝える展示でありながら、同時に鉄道そのものの魅力にも引き込まれる。そんな空間に、私は思わず足を止めた。

*HOゲージ・・・線路幅16.5mm、縮尺1/87〜1/80の鉄道模型規格。Nゲージ(9mm)より大きく、圧倒的な迫力と精巧なディテールが特徴で、日本や海外で人気がある。

磐越西線が運んだのは、暮らしを支える「命の燃料」

展示の背景にあるのは、2011年3月の緊迫した状況だ。東北本線や常磐線は不通となり、高速道路も分断されるなか、唯一被災が軽微だったのが磐越西線だった。

森川さんは、当時をこう振り返る。

「当時は現役の運転士で、只見線を担当していました。ちょうど午後4時ごろから勤務に入る予定で、そのときの約1時間前にアラームが鳴りました」

震災後、燃料不足は深刻だった。被災地ではガソリンの入手が困難になり、ガソリンスタンドに並ぶ車の列が2〜3キロと続いていたと語る。そうした中で、燃料輸送は単なる物流ではなく、生活と復旧を支えるための重要な仕事だった。

「結果的に、磐越西線の復旧が優先されました。横浜の根岸駅から前日(2011年3月25日)に20両編成で新潟まで石油を運び、新潟で機関車2両に付け替えて、さらに分割して引っ張ってきたのです。やはりディーゼル機関車の力にも限界がありますから、そのような運用になりました」

 石油輸送が行われたのは、震災から2週間後の2011年3月26日。一本の鉄路が、被災地と地域の暮らしをつないでいたことが分かる。

現場を支えた経験と技術を持つ運転士たち

ただ、列車を走らせるには、単に線路がつながっていればよいわけではなかった。磐越西線では貨物輸送が途絶えてから数年が経過し、現場では経験者の確保が課題となっていた。

「磐越西線で貨物輸送をやめてから数年たっていたため、乗り慣れている会津若松運輸区の運転士でさえ*重連運転の経験者が少なく、貨物会社の機関士に操縦指導できる人も限られていたのです」

そんな中で、特筆に値するのは迂回輸送初日の*DE10の*補機の準備であろう。地震から2週間経ち、レールもさびてきていることから「補機を準備しておいた方がいい」とベテラン運転士からそれとなく声が上がったのである。これが奏功し、鉄道車両の車輪がレール上で滑ってしまう空転による輸送障害が最小限で済み、約3時間遅れで郡山駅にある石油基地に無事石油が届けられたという。

*重連運転・・・1つの列車を2両の機関車で牽引または推進する方法。経験者が限られる中で、その知識が求められた。
*DE10・・・日本国有鉄道(国鉄)が1966年より導入した中型ディーゼル機関車。
*補機・・・後押しする機関車

こうした話を聞いていると、震災時に人々の暮らしを支えたのは、大きなニュースになる現場だけではなかったのだと実感する。見えにくい場所で、専門技術を持つ人たちが鉄道を動かしていた。その事実に、私は強く心を引かれた。

2カ月で制作したHOゲージ 

会場でひときわ目を引いたのが、石油輸送の場面を再現したHOゲージだ。これを制作したのが、森川さん本人だ。

「去年の12月に上司にやりたいと提案して、2カ月で作りました」

模型は、15年前の輸送をただ縮小して並べたものではない。「15年前、こうして運んだのだろうという姿を表しています。実際、貨物が坂を登れずに後退することもありました」

この言葉を聞いてから模型を見ると、目の前の列車の走り方が少し違って見えてくる。単なる展示物ではなく、現場を知る人の記憶が形になったものだからだ。

「走ってこそ」伝わるHOゲージの魅力

実際にHOゲージが走り始めると、まず音に引き込まれた。

 「これはNゲージより重みがあるので、『カタッ、カタッ』とか『ガタンガタン』という音も出ますし、電気も拾いやすいのです。レールから電気を取っています」。森川さんは、その魅力をこう語る。

脇にある青と白のコードからレールに通電して動かしている仕組みの説明を聞くのも面白いものだった。模型だと逆走もできるそうだが、「実際の運転ではもちろんバックはだめです」と苦笑い。森川さんの言葉には、鉄道を知り尽くした人ならではの視点がにじむ。

私は鉄道模型に詳しいわけではない。それでも、目の前を走る列車を見ているうちに、その魅力が少し分かった気がした。完成品を並べるだけではなく、仕組みを考え、部品を集め、手を動かして作り、最後に走らせる。そこに人を夢中にさせる力がある。

直しながら楽しむ、森川さんの鉄道模型の世界

HOゲージは高価な世界でもある。森川さんによると、機関車1両で2~3万円することもあるそうだ。それでも、工夫しながら楽しんでいるという。

「私はアウトレット品を買ってきて直しながら使っているので、新品より安く済むこともあります」

趣味として始めたのは60歳を過ぎてから。車両を少しずつ集め、時にはタンスの裏に隠していたこともあったことも。そんなエピソードからも、森川さんの鉄道模型への愛情が伝わってくる。

「やはり鉄道模型も走ってこそなんぼ、ですね。もちろん作るのも面白いですし、組み立てることも含めて、全般的に好きです」

この「走ってこそ」という一言に、森川さんの鉄道観がよく表れていると思った。列車はただ飾るものではなく、動いてこそ生きる。その感覚があるからこそ、今回の展示にも躍動感が宿っているのだろう。

模型だからこそ届く、震災の記憶がある

震災の記録を伝える方法には、写真や証言、映像などがある。その中で、模型が果たす役割は決して小さくないと感じた。列車が動く姿そのものが、文字や静止画では伝わりにくい実感を呼び起こしてくれるからだ。

磐越西線が運んだのは燃料だけではない。人々の生活を支える安心や、復旧に向かう希望も運んでいたのだと、走るHOゲージを見ながら思った。森川さんの模型には、元運転士としての経験、鉄道への愛情、そして震災の記憶を伝えたいという熱意が重なっている。

列車の音に、15年前の現場がよみがえる

森川さんは「土日は、たまに鉄道ファンの方が来られます」と話してくれた。確かに鉄道好きにはたまらない展示だ。けれども、鉄道ファンでなくても、十分に引き込まれる力がある。

最後に森川さんは、こう呼びかけた。

「HOゲージを持っている方には、ぜひ高郷に来ていただきたいですね」

模型列車がレールの上を進む音は、15年という時間を越えて、今もなお何かを伝えていた。私は会場を後にしながら、鉄道が運ぶのは人や物だけではなく、記憶でもあるのだと、静かに感じた。

情報

企画展「会津地方・復興への軌跡」

費用:観覧料(小学生~高校生100円、一般250円)
日時:前期 令和8年3月1日~4月30日・後期 令和8年5月1日~6月28日
所在地:カイギュウランドたかさと 福島県喜多方市高郷町西羽賀字和尚堂3163番地
開館時間:9:00~16:30
休館日:月曜日
電話番号:0241-44-2024
※スタッフの人数に限りがあるため、鉄道模型車両を持ち込む際は事前に上記まで連絡ください。

昆愛

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