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我が子を抱く「こころが男性どうし」のふうふ 2人が切り開いてきた、家族の選択肢【忘れないよ、ありがとう⑤】

Sitakke

Sitakke

「こころが男性どうし」のふうふ、ちかさんときみちゃん。
2人が歩んできた、家族の道のりです。

連載「忘れないよ、ありがとう」
(最新話公開を前に、家族のこれまでを改めてお伝えします)

涼しい風に、時折秋の訪れを感じるようになった、9月の札幌。
公園を散歩する、家族のひとときです。

赤ちゃんを抱き上げているのは、きみちゃん。
からだは女性、こころは男性のトランスジェンダーです。

その隣で赤ちゃんを見つめるのは、きみちゃんのパートナー・ちかさん。
からだは男性、こころは男性ですが、日によって女性寄りの日もあって、好きになるのは男性だけ。
きみちゃんについて、「ひとりの人間として優しいし、頼りになる」と話します。

2人は、「こころが男性どうし」のふうふです。

左がちかさん、右がきみちゃん

2年前、2人の間には、新しい命が宿っていました。
しかし、2021年12月28日。2人は赤ちゃんと、思いがけない形で対面することになりました。

これまで連載「忘れないよ、ありがとう」でお伝えしてきましたが、去年の初め、2人からある知らせが届きました。

“こころが男性どうし”のふうふに宿った命

去年9月17日に行われた「さっぽろレインボープライド」。

性の多様性について多くの人に知ってもらい、差別の解消などにつなげようと、当事者や支援者らがパレードをしました。
前年より100人ほど多い、900人以上がパレードに参加しました。

会場に向かうのは、ちかさんです。虹色のカチューシャを頭につけて、ベビーカーを押しながらやって来ました。

2021年・病院のエコーでおなかの中の赤ちゃんを見つめるきみちゃん

2021年、きみちゃんのおなかには、ちかさんとの間に、新しい命が宿っていました。

「やっぱり自分が妊娠するというのを考えていなかった部分が強い」というきみちゃん。
性同一性障害と診断を受け、一度は、性別適合手術を受けることを決めていました。

乳腺は切除。戸籍の性別を男性に変えるため、子宮と卵巣もとる予定でしたが、ちかさんとの出会いが考えを変えます。

「子宮と卵巣をとってしまったら(自分たちの子どもを持つことは)可能性としてゼロになる」

戸籍は「女性」のまま、自分たちの子どもを産む道を選びました。

2021年・マタニティフォトの撮影

子どもの名前は、「羅希」と決めました。
「希望にあふれた子に育ち、人を希望に導けるようになってほしい」という想いを込めました。

でも、2021年12月27日。ちかさんから連絡がありました。
「こんにちは。今日の健診で赤ちゃんの心臓が止まってました。急遽ですが、今日から入院します」

翌日、きみちゃんはちかさんが立ち会う中で、羅希ちゃんを死産しました。

担当の医師によると、「原因は不明」だといいます。「死産は1パーセントほどの確率で起こり、決して珍しいことではない」「原因がわからないことも多い」と話していました。

きみちゃんは、羅希ちゃんに手紙を書きました。

「羅希へ
ぼくたちの間にきてくれてありがとう。うまれてくるのをたくさんの人たちとともにまってたんだよ。また天国で会おうね。
大切で大好きな羅希ちゃん!!
忘れないよ!!ありがとう!!」

そんな2人は、インターネット上で、心無い言葉も浴びました。
「ただの変態カップルじゃん」
「申し訳ないけど気持ち悪いなぁ」

きみちゃんは、抱えてきた想いをひとつひとつ明かしてくれました。
「世間から、父親と母親っていう概念がどうとか、子どもがいじめられるとか、子どもがかわいそうって言われていた。そんなことない、そんなことさせない、そうじゃないっていうところを、ちかさんと見せていきたいと思っていた」

2021年の大みそか。自宅で羅希ちゃんを抱くきみちゃんとちかさん

男性どうしの両親として

去年の初め、ちかさんからこんな連絡がありました。
「ご連絡遅くなりましたが、1月3日に長男の〇〇(本名)が産まれました」

実はきみちゃんが2度目の妊娠していることについて、わたしは前年の秋にちかさんから告げられていました。しかしきみちゃんの希望もあり、今回は取材を控え、静かに見守ることにしたのです。

1か月検診が終わった頃の2月末、わたしは赤ちゃんを含めた3人に会いに、2人の自宅に久しぶりにお邪魔しました。


約1年ぶりに訪れた2人のリビングは、テーブルや棚、ソファの配置が変わり、真ん中には赤ちゃん用の布団がひかれ、「子育てモード」に変わっていました。

そしてきみちゃんの腕の中には、目が大きい色白の赤ちゃんの姿が。

きみちゃんは赤ちゃんを腕の中に抱きながら、「(番組を見た人から)受けた言葉からは、いろいろと感じるものもあってすごく悩んだ」と正直に話してくれました。

「でもその中でも応援してくれる言葉もあって、そこに目をむけたときに『こういう家族がいるんだ』というところをしっかり見せて、しっかり育てていきたいと羅希が生まれたときにも、言っていたから」と、これからもまた取材を受けることについて、承諾してくれました。

2人と話し合い、取材中の赤ちゃんの呼び名は頭文字をとって、「みぃくん」と呼ぶことにしました。

きみちゃんは表情を緩ませながら、これまでスマートフォンや一眼レフカメラで撮りためた
みぃくんとの写真をたくさん見せてくれました。

ひときわ目を引いたのは、助産師が写したという、きみちゃんが初めてみぃくんを抱っこしたときの写真です。

写真の中のきみちゃんは、わたしがこれまで見てきた中で、いちばん優しい笑顔をしていました。
「めっちゃいい顔してますね!」と、思わず言葉が漏れ出しました。

新型コロナの感染拡大防止のため、きみちゃんが出産した病院では見舞いの制限があり、ちかさんがみぃくんを初めて抱っこしたのは、退院のときだったといいます。
ちかさんは、「幸せな生活を送っています、と報告したい。元気に育てていきたい」と正座しながら、改めての決意を伝えてくれました。

きみちゃんは手術で乳腺をとっているため、母乳は出ません。

ちかさんは、みぃくんのミルク作りを始めました。
「ミルクは交代交代で、でも自分はつくる方が多くて、飲ませるのはきみちゃんがやるっていう感じ」

これまでの取材では、料理は専らきみちゃんが担当していたので、ちかさんがキッチンに立って作業をしているところを初めて見ました。

「ミルクあげてみますか?」
きみちゃんはわたしに、みぃくんを抱っこさせてくれました。

みぃくんを抱っこするわたし

哺乳瓶をうまくくわえさせることができずにいると、きみちゃんが手を添えてサポートしてくれます。
みぃくんは大きな目で私を見つめながら、一生懸命ミルクに吸いつきます。

同時にみぃくんの右手は、まだ座っていない首を必死に支えるわたしの小指を、ぎゅっと握りしめていました。
みぃくんの力は、わたしの想像をはるかに超えた強さでした。

ちかさんは私に代わって、デジタルカメラをまわしてくれていました。
「どうですか?」
ちかさんに質問された私は、思わず「生命力を感じます…」としみじみと答えました。

きみちゃんもちかさんも、慣れない赤ちゃんの世話に戸惑う様子を見て笑ってくれました。

『羅希もどんな姿になっていたかな』

みぃくんが産まれてからも、きみちゃんとちかさんにとって、羅希ちゃんは大切な第一子であることに変わりはありません。
2人の寝室にある羅希ちゃんの仏壇は、1年前よりもお菓子やおもちゃでいっぱいでした。

「みぃくんが産まれて、羅希ちゃんへの思いに変わったものはありますか?」
わたしの問いにきみちゃんは、少しうつむきながらもしっかりと答えてくれました。

「最初はやっぱり比較とか、みぃくんを見て『羅希もどんな姿になっていたかな』と考えることはあった。今も考えているけど、次は羅希にできなったかったことを、みぃくんにしてあげたいという思い」

それから半年。わたしは、札幌市内のカフェで3人と待ち合わせをしました。

久しぶりに会ったみぃくんはハイハイをして動き回り、見慣れないおもちゃに興味津々。
元気に成長していました。
こちらを見つめるみぃくんのクリクリとした瞳の可愛さに、思わずわたしも親戚のおばさんのようにシャッターを切ります。

2人は共働きのため、みぃくんは保育園に通っています。
そこでは、保護者を必ず「お父さん」「お母さん」などと呼ぶのではなく、どう呼ぶのがいいか聞かれたといいます。
きみちゃんは、「『私たちは名前で』とお願いしている」といいます。

「父親」「母親」という枠にとらわれず、男性どうしの両親として、自分たちらしい子育てをしていくつもりです。
ちかさんも、「そういう選択肢もあるんだと、考えが変わったりする人とかもいるだろう」と話します。

好きな人と一緒にいたい、家族をつくりたい。
その想いに「性別」という枠による制限はあってはならないし、願いを叶えようとする誰かの勇気を応援したい。

2人がずっと、抱いてきた思いです。

去年9月17日に行われた、レインボープライド。

きみちゃんは急な体調不良で参加できませんでしたが、ちかさんとみぃくんが参加していました。

参加したみぃくんの周りには、知り合いが集まります。
ちかさんは、「みんなにあたたかく迎えてもらえて、みぃくんは幸せだと思います」と話していました。

みぃくんは、レインボーカラーのよだれかけをしていました。

蛍光イエローのパーカーは、きみちゃんとちかさんと色違いで買っていた、羅希ちゃんのおさがり。
みぃくん、そして羅希ちゃんも一緒に参加したいという、2人の思いがありました。

フィナーレは、会場に集まった全員でシャボン玉をとばす「バブルリリース」。
曇り空へ舞う虹色のシャボン玉は、自分らしく生きていきたいという多くの人たちの思いを映し出しているようでした。

連載「忘れないよ、ありがとう」

文:HBC報道部・泉優紀子
札幌生まれの札幌育ち。記者歴5年。道政・市政を担当しながら、教育・福祉・医療に関心を持ち、取材。大学院時代の研究テーマは「長期入院児に付き添う家族の生活」。自分の足で出向き、出会った人たちの声を聞き、考えたことをまとめる仕事に魅力を感じ、記者を志す。居合道5段。

編集:Sitakke編集部IKU

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