異動でスキルや経験が振り出しに?意図せぬ異動への向き合い方を専門家に聞いた
4月は新入社員の入社だけでなく、組織変更や異動など大幅な人事刷新が行われる季節。そして、会社員である以上「希望していたわけではないのに異動することになった」「これまでとはまったく違う領域の仕事を担当することになった」というケースもないわけではありません。
そのような場合、新しい職場の人間関係に馴染めるか、何より今までに担当していた業務との連続性、関連性が見いだせないと、せっかく身に付けた経験やスキルを生かせない、また「ゼロからのスタート」になってしまったと不安や焦りを覚える人もいることと思います。
しかし、職種や担当が変わることで、経験は「リセット」されてしまうものなのでしょうか。今回は、営業としてキャリアを歩んできた方が初めての異動で企画部門に配属されたケースを例に、「異動」がキャリアにもたらす影響を考えてみましょう。キャリア・コンサルタントの林碧先生の解説です。
キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生・保育園児の2児の母。
【相談】
新卒以来ずっと営業畑を歩んでいたのですが、異動することになりました。配属先は企画部門です。しかし、ずっとお客様と話すことばかりやってきたので、できることがあるのか不安です。異動先でどのようにやっていけばいいでしょうか。 向いている仕事に転職するというのも方法だと思うのですが。
営業で身に付いた力は「話すこと」以外にもいろいろある
突然の異動の内示に戸惑っていらっしゃるとは思いますが、この機会はご自身を振り返るチャンスでもあると感じます。相談者さんは「お客様と話すことばかりしてきた」とおっしゃっていましたが、おそらく自覚されている以上に、営業活動でたくさんの力を身に付けてこられています。ぜひ今一度、自分がやってきたこと、そしてその中で身につけた力を整理してみましょう。
営業で「対話力」が求められるのは確かですが、それだけで購買には至らないもの。4年の営業生活で、お客様に商品を購入いただくための試行錯誤もたくさんされてきたことかと思います。お客様とお話しする前の段階で、前提となる「商品知識」を身に付け、さらにその知識を深めたり、アップデートしたりされてきたことでしょう。
商品の魅力を伝えるための「説明力」も身に付けてきたと思いますし、対応の中で「お客様の傾向理解」を深め、「ニーズに合わせた対応や提案」もしながら、購買に繋がるよう貢献されてきているはずです。あるいはチームとして「同僚との連携」であったり、同じ営業内での「後輩育成」であったりと、組織のための貢献をなさっていたのかもしれません。
このように営業での取り組み内容と、それにより得た力を細かく確認してみると、営業以外でも生かせる力があることに、改めて気づけるかもしれません。
上司との対話機会を持ち活躍イメージを高めましょう
今回の異動の内示は、うけてから間もない状況でしょうか。可能であればぜひ、上司に個別に話せる時間をつくってもらえるよう働きかけてみてください。そこで確認したいことは2つ。異動における「会社の期待」と、上司が考える「ご自身の強み」です。
異動には、組織としての意図があるもの。そして上司は今回の異動の背景をある程度知っていることでしょう。「企画部門」への異動対象としてなぜ相談者さんが抜擢されたのか、営業出身の相談者さんには「企画部門」でどんなことが期待されているのか、など、上司の視点から分かることについて伺うと、異動先で自分ができる貢献が具体的にイメージしやすくなるでしょう。
また、営業出身で企画部門に異動した先輩の有無や、その方の実績など、実例をお聞きすることもおすすめです。この期待や背景の確認は、可能なら異動前後に、両方の組織で行えるといいですね。
あわせて、異動前の組織の上司には、ぜひ上司から見た「相談者さんの強み」もお伺いしてみてください。相談者さんをこれまで見てきた上司にとって、他者に比べて、優れている・得意としていると思えることを聞いておけば、自己理解の解像度を高めることに繋がります。今後、ご自身が異動した先で生かす力が明確になりますし、異動後の慣れない環境下において、ここで得た評価がご自身の心の支えとなるかもしれません。
異動は可能性を広げるチャンス。更なる「向いている」に出合えるかも。
異動の内示を含め、これまでと異なることをやるとき、不安になるのは当然の心理かと思います。ただ、思い出していただきたいのは、何事も最初はやったことがないところからスタートである、ということ。
営業においても、最初はお客様とお話しするのもやっとだったのではないかと思います。今は、営業なら「お客様とお話しすること」ならできる、と思えるだけの力を身に付けているご自身の成長にも目を向けてみてください。
相談者さんには、確実に新たな環境でも成長できる力があります。そして、組織もこれまでの経験を生かせるとの想定をもって対象者を選出していることが多いです。相談者さんだからできる貢献は必ずあるかと思いますし、これから取り組む仕事の中で、今まで気づいていなかった自分の適性や、やりがいに出合えるかもしれません。
ご相談を拝読して、もちろん転職は一つの選択肢ではありますが、まずは新しい環境に挑戦してからでも遅くないのではないかと感じました。今回の異動が、相談者さんが今一度ご自身を見つめ自身の強みに気づき、可能性を更に広げる、そんなチャンスになることを願っています。
編集後記:異動経験者の調査でも「意図せぬ異動」がキャリアの転機になるケースが見られる
以上、林先生の回答をご紹介しました。異動がキャリアに与える影響については、マイナビ転職の調査( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/08/ )でも興味深い結果が出ています。異動経験者の700名に会社意向の異動などによるジョブチェンジについてアンケートをしたところ「意外な自分の適性を見つけられるかもしれない(46.3%)」というポジティブな回答が、「向いていない仕事に就く可能性がある(24.3%)」という回答を大幅に上回っています。
また、「一つひとつのスキルが浅くなってしまう(15.6%)」というデメリットよりも、「さまざまなスキルが身に付けられる(55.5%)」というメリットを感じている人の方が多い結果にもなっています。
望まぬ異動は、環境への適応や人間関係の変化など心理的負担が生じることは否めませんが、新しい環境に身を置けば、考え方、仕事の進め方、人脈など、さまざまな面で一歩踏み出すことができ、長い目でキャリアを見ると、自身のキャリアの選択肢が広がるきっかけになるケースも少なくないようです。
どうしても自分に合わない場合は無理をする必要はなく、将来的には専門性に特化するジョブ型採用の企業で働くなどのキャリアを見据えることも一つの選択肢です。反面、一旦与えられた環境で吸収できるものを吸収してみるというのも、キャリアの一つの在り方と言えるでしょう。
制作:マイナビ転職編集部