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これ、私の人生で出会った一番美味しいトウモロコシです。『クボツシェフの食讃巡礼 vol.1』

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[リストランテKubotsu]料理長・窪津朋生

日本のレストラン文化と伝統を牽引してきた『ひらまつ』。その中で、異例の若さで自身の名前を冠したレストランを任されたシェフがいます。

福岡市天神の中心に位置するレソラ天神4階の高級イタリア料理店[リストランテKubotsu]料理長・窪津朋生氏。

窪津シェフはフランス料理店と並び、ひらまつのイタリア料理店の代名詞といえる東京・代官山[リストランテASO]で技術を磨き、2011年に[リストランテASO 天神]のオープンと同時に福岡へ、その後、現在まで[リストランテKubotsu]の料理長を務めています。

窪津朋生(クボツトモキ)1983年、大阪府出身。父親の転勤に伴い多くを福岡で過ごす。2003年[株式会社ひらまつ]入社。東京・代官山の[リストランテASO]に配属。2009年副料理長に昇格。2011年[リストランテASO 天神]がオープンすると共に福岡へ。2014年料理長に就任。2018年自身の名を冠する[リストランテKubotsu]オープン、現在に至る。

「九州の食材が奏でる唯一無二の“クボツのイタリアン“」と賞賛される窪津シェフの料理。その探究心は、食材選びはもちろん、店内の内装、器選び、レストラン内外での様々な企画すべてに通じます。そんな窪津シェフの料理人としてのテーマは、九州の食材地域創生

今回は、シェフいわく「私の人生で出会った最高のトウモロコシ。」と言わしめる、福岡県みやま市の愛菜華田中ファームを訪ねました。

代表の田中稔久さんのユニークな活動とともにお伝えします。

愛菜華田中ファームの奇跡のとうもろこし「博多うまきび」

福岡市内から高速道路に乗って車で約40分。目指すは、福岡県みやま市の「愛菜華田中ファーム」が作るトウモロコシ博多うまきび

「田中さんの畑のトウモロコシを食べたら驚きますよ!」窪津シェフは道中、「愛菜華田中ファーム」のトウモロコシの美味しさの秘密を語ってくれました。

「普通、畑から出荷された野菜は、市場に並ぶ時が一番良いコンディションです。なぜなら小売店などのバイヤーは、市場でモノを見て買い付けるわけですから。でも、われわれ料理人からすると食材の一番良い状態は、食卓のお皿の上であってほしいわけです。それを計算して栽培しているのが愛菜華田中ファームのトウモロコシなんです。」

現地に着くと、一面に収穫を待つトウモロコシ畑。愛菜華田中ファーム代表の田中さんが元気に出迎えてくれました。

田中さんの家は、みやま市で江戸時代から続く農家です。ダリアの花の栽培を中心に営んでこられました。トウモロコシの栽培を始めたのは5年前。

なぜトウモロコシを?

「最初は軽い気持ちだったんです。うちの社員は、ダリア栽培をメインに雇用していたのですが、それだと6月、7月に仕事がない。社員の雇用を継続させるためにトウモロコシの栽培を始めました。」

田中稔久(たなかとしひさ)江戸時代から続く農家の長男に産まれ現在農業を継いで16年。4年前株式会社愛菜華田中ファームを設立。企業理念『恵みを活かし、ひとを活かす。』を掲げ、現在障がい者雇用で地域の農業の持続をすべく奮闘中。

しかし、実際トウモロコシ作りを始めると、長年培ったダリア栽培の技術が生かされます。

「ダリアは、減農薬、減化学肥料栽培、非除草剤栽培でやってきました。ダリアは難しい花です。一つ一つの花のコンディションが異なるのを見極めながら手を入れていかなければなりません。その経験がトウモロコシづくりで活かせました。」

窪津シェフは、畑に分け入り早速今年の出来栄えをご賞味。
「うん、相変わらずのジューシー感。このみずみずしさと甘さが田中さんのトウモロコシの魅力です。」

「うちのトウモロコシの糖度21度あります。スーパーで売っているスイカより高い糖度ですよ」と田中さん。

「農作物は、どのタイミングで水を切るかが重要です。水を切った時点でぎゅっと糖度(甘さ)を上げます。田中さんのトウモロコシは、出荷時にほとんど水を切りません。水分を残したトウモロコシが、市場や小売りの店、食卓に並ぶ頃、水分が程よく抜け、甘さと香ばしさが最高度の状態になるのです。」と窪津シェフ。

採りたてのトウモロコシをいただく。なるほど、これは凄い。粒のシャキシャキとした食感の後に甘い汁がふわっと口中に広がる。

しかし、なぜ田中さんのトウモロコシは、これほどの出来栄えなのか?
「私はダリアの栽培も失敗ばかりしてきました。でも、その後に少しずつ手直しを繰り返しました。トウモロコシも同じです。何が違うかといえば大きくは何も違わないけど、小さいところの全てが違うのかな。」

経営理念は『恵みを活かし、ひとを活かす』

田中さんの経営方針のユニークな取り組みの一つに、障がい者直接雇用があります。

「ある日、地元の就労移行施設から40代のAさんが、職業体験にやってきました。彼は統合失調症と知的障害を持ち、両親も他界し一人暮らしをしているとのこと。長い間仕事の経験もない方でした。正直、直接雇用は難しいと感じましたが、彼の一生懸命でひた向きな姿勢に一人くらいならなんとかなるだろうと採用しました。はじめは、出勤日は間違えるし、指示は伝わらない。でも、ひた向きさは変わりません。彼を10年で戦力にしたいとスタッフと一緒に向き合いました。やがて、間違わずに出勤できるようになり、少しずつ収穫スピードも上がっていきました。

ある時期から、Aさんにトウモロコシの種まきを任せたところ、なんと99%の発芽率に到達したという。
「生育の揃い方が神レベルでした。」と田中さん。

「うちのトウモロコシを作っているのは、精神・知的障がい者です。作業を細分化することで、彼たちではなければ出来ない奇跡のトウモロコシが誕生しました。社会貢献やボランティア精神で行っているわけではありません。農業経験のない、就労経験のない、就労のチャンスに恵まれないスタッフでもひとつひとつ向き合い挑戦することで奇跡の味になります。」

しかし、Aさんは、昨年の5月、突然亡くなりました。

田中さんは、深く悲しまれました。Aさんが長い間まともな食事をとっていなかったこと。お昼はいつも菓子パンばかり。もし彼が自分で料理を作れたら、一緒に食事する仲間がいたなら、若くして亡くならずに済んだのではないかと・・・。人間にとって正しく食べるということがいかに大切かを痛感させられました。

[リストランテKubotsu]のコーンスープを子どもたちと

そこで田中さんが考えたのは、人間は、子どもの時から美味しい食事とはなにかを知っているべきだということ。

「”美味しい”を知っていれば、自分で作り、料理し、仲間と共に食べるという人生の喜びに出会えます。」

田中さんは、自身の畑のトウモロコシや野菜を使った子どもたちとの料理イベントを計画しクラウドファンディングを実施しました。さらに、どうせやるなら超一流の料理人に来ていただきたい。田中さんの妄想が膨らみます。

そこで相談したのが[リストランテKubotsu]の窪津シェフ。
奇跡のトウモロコシに惚れ込んだ窪津シェフが一肌脱ぎ、レストランの季節限定メニュー、奇跡のトウモロコシを使ったコーンスープを子どもたちと作って、みんなで食べようと企画。

「窪津シェフのちびっこ料理教室inみやま市」のスタートです。

窪津シェフが教えるプロのお料理あるある

会場に集まったのは、地元をはじめ県外からも訪れた20人ほどの子どもたちとその親御さんたち。

キッチンスペースには、獲れたてのトウモロコシ「博多うまきび」や野菜が並びます。レストランの厨房と同じ出立ちに着替えた窪津シェフが紹介されると、子どもたちから大きな拍手と熱い視線。

慣れた手つきでトウモロコシの実を包丁でとっていく窪津シェフ。

「包丁はね、こうやって手で握りしめても切れません!」と包丁の刃先をぎゅっと握りしめるシェフ。

おーーっ!と湧く子どもたち。

「包丁は、動かしたら切れるんだよ。動かさなかったら絶対切れない。だから包丁で怪我をする時は、無理に力を入れて動かした時です。怪我をしないためには、よく切れる包丁を使うこと。」

手際よく動きながら話す窪津シェフのお料理あるあるに参加者一同、なるほど〜と納得。いい雰囲気がキッチンスペースを満たします。

今日は、採れたての生のトウモロコシと、火を通して味をつけたトウモロコシ、そして最後に濃厚なスープを食べ比べてもらいたいと窪津シェフ。調理が進むたびに、「じゃ、ここで今の状態を味わってみよう!」と子どもたちに試食を託します。

「おーー!甘い!!」
「おいしい!!」
「一人でそんないっぱいとるなよ!」
と元気な声が飛び交います。

「せっかくだから採れたてのトマトとキュウリを使った鶏の照り焼きサンドウィッチも作りましょう!」と窪津シェフ。

「プロの料理と家庭料理の一番の違いは、手間のかけ方だと思うんです。レストランではいつも、”1に手間、2に手間、3にも4にも手間をかけて、5に工夫”とスタッフに話しています。」

「普段、家で野菜を茹でる時どれくらい塩を入れます?われわれは、これぐらい、」と窪津シェフが塩を入れると、親御さんたちから「えーーー!」という驚きの声。

「海水並みです。1ℓの水に塩30gぐらい入れます。」

「えーーーー!」

「しょっぱくするためではなく、塩を入れることで野菜の甘みが立ち、旨味が増します。ドレッシングなんていらないですよ。」

いつの間にか、子どもたちより親御さんたちが熱心に聞き入る。

涙のコーンスープ

「このトウモロコシはね、僕が出会ったどのトウモロコシよりも美味しいです。[リストランテKubotsu]では、7月に期間限定でこのコーンスープを出します。」

実は昨年、田中さんご夫妻は自身で栽培したトウモロコシのスープを味わうため、福岡・天神の[リストランテKubotsu]を訪れました。
そこに運ばれてきたスープを一口食べた奥様が急に号泣してしまったという逸話があリます。

会場でお手伝いをされていた田中さんの奥様にその話しを伺うと、

「私は普段、感動してすぐ涙が出るようなキャラではないのですが、あの時は本当に美味しくて、びっくりして・・・。」

生産者と料理人の出会いが作ったこのイベント。
二人の共通点は、自身の仕事をどこまでも極めようとする熱い想い。イベントが終わり、帰る間際まで話しが尽きない窪津シェフと田中さん。二人の好奇心は途絶えることはないようです。
二人の姿をみながら、日本の豊かな食文化とは、このような人たちがつくってきたのだと確信した1日でした。

このトウモロコシ「博多うまきび」で作った夏期限定のコーンスープ(「田中さんの”博多うまびき”の冷製スープ ポップコーンの香り」)は、7月の「リストランテKubotsu」のコースメニューに加わります。

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